植物学者の僕は嫌われ者の獣人さんのことを好きになってしまいました

先崎

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植物学者の僕は嫌われ者の獣人さんのことを好きになってしまいました。

獣人さんと再会

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「もう3時間くらい歩いた気がするんだけど……」

 ホタルがそう独り言を呟いて辺りを見渡すが周囲は木々ばかりで家のようなものは一向に見えてこない。もしかして迷っているのではないかという一抹の不安が頭に浮かぶものの進む以外にどうしようもない。

「最悪野宿かなぁ……あ」

 歩き続けているホタルの目に爪痕のついている木が飛び込んできた。ホタルはその木に駆けよると一瞬だけ見た狼の獣人の姿を思い出しながら傷を触る。

「幅が……違うよね?」

 あのとき見た青黒く光る爪は木についている傷よりももっと幅が狭かった気がする。それに猫と違い犬は爪を研がないと聞く。獣人の生態には詳しくないがそれならば狼も爪を研ぐことはないのではないかとホタルは思っていた。獣人の姿を思い出してぼーっとしているとパキ、と木の枝を踏みつぶした音が背後から聞こえた。もしかしてあの獣人が歩いて来たのかとホタルが期待を込めて勢いよく振り返ると黒い巨体が目に入り、思わず声を上げそうになるがなんとか堪える。

 (く、熊……落ち着いて……目を離さずに、後ろに下がる……)

 ホタルがゆっくりと後退りをするものの熊はスンスンと鼻を鳴らして近づいてくる。

「っ……!」

 小さく悲鳴をあげるホタルの肩掛け鞄を熊が嗅いだかと思うと、そのまま鞄に噛みついてものすごい力で引っ張ってきた。

「うわっ!!!」

 そのまま転んだホタルは鞄ごと引きずられていく。

「ちょ、ちょっと待っ……」

 ホタルは焦りながらも肩掛け鞄の紐から身体を抜かすこことに成功し、咄嗟にそのまま走りだしてしまう。

 (あ……背中向けちゃだめなんだった)

 そう思っても既に遅く、後ろからはあの巨体が迫ってきている音がしていた。

「あっ!」

 土から飛び出ていた木の根に足を取られて、転倒したホタルは咄嗟に頭を抱えて目を瞑った。背後からドンと鈍い音がしたかと思うとゔおお!!と低い鳴き声が聞こえた。

「え……?」

 何が起こったのかと恐る恐る振り向くと、四つん這いに伸びている熊の上に見覚えのある姿が立っている。 

「あ……」

 青みがかった銀色の毛に、透き通った青色の眼光、青黒く光る爪、正に探していたその人だ。ホタルがその姿に見惚れていると、獣人が口を開く。

「おい」
「え、あ! あの! 助けて貰ってありがとうございます!」
「別にアンタを助けたつもりはねえ。こいつは俺の晩飯ってだけだ」
「でも、昼間も助けてくれましたよね」
「あん……? あぁ、アンタあの先生とか呼ばれてたやつか」
「はい。薬になる植物を育てるのに引っ越してきたんです。あ、今お礼とご挨拶に伺おうと思ってて、手土産にちょっとした食べ物も持ってきたんですけど……」

 ホタルがそう言うと獣人は側に落ちていたホタルの鞄を拾い上げホタルに投げ渡した。

「バカかアンタ」
「え?」
「その中の菓子、すげぇ匂いだ。そんなもん持って歩いてたら熊も寄ってくるに決まってんだろ」
「すごい、鼻が良いんですね」
「フン、礼も菓子も要らないからさっさと帰れ」
 シッシッと獣人がホタルを追い払うように手を振る。
「そんな、二度も助けてもらってお礼もできないなんて。今度はお菓子じゃなくてあなたの好きなものを持ってきますから教えてください! やっぱりお肉がいいですか?」

 矢継ぎ早にホタルがそう言うと、座ったままのホタルに獣人が近づいて来る。

「そうだな、じゃあ礼として人間の肉でも食わせてもらうか」

 獣人が近づいてきて口を開けると、口の中には鋭い牙が何本も並んでいる。牙を見たホタルはごくりとつばを飲み込むと叫んだ。

「好きです!!!」
「……ハァ?」

 獣人は明らかに困惑した声色だったがホタルの言葉は止まらない。

「どうせあなたに助けられなければ2度は死んでたんです。お礼になるなら僕のこと食べてください! でも最期に言わせて下さい! 倒れてきた木から助けてもらったときのあなたの姿に一目惚れしました。あなたのことが好きなんです!!」

 ホタルが一息でそう言うとふぅ、と息をつく。

「……今のは遺言です」
「気持ち悪ィ遺言だな。つーか、俺は人間の肉は趣味じゃねえ。早く帰れ」
「今食べようとしていたじゃないですか」
「アンタがうるさいからもうここに来ないように脅かしただけだ」

 そう言うと獣人は熊を背負って、木へジャンプして飛び乗ったかと思うとそのまま木から来へと飛び移り去って行ってしまった。

「あ……まだ名前……」

 ホタルがそう呼びかけたとき、既に姿はなかった。ため息をついて立ち上がろうとすると右足にビリビリとした痛みが走る。

「いっ!?」

 どうやら転んだ拍子に足を捻ったらしい。この足では進むことも戻ることもできないと途方に暮れたホタルはそのまま木の麓で寝てしまうことにした。鞄から薄いひざ掛けをだすと腹にかけて目を瞑る。

(明日になったら多分痛みも少しは引いてるはずだからそうしたら家に戻ろう……あぁ、それにしても獣人さん格好良かった。牙も鋭くて綺麗で……ていうか僕、いきなり告白しちゃった……だってもう食べられるのかなって思ったから……また会いたいな……)
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