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「はぁ、28歳にもなってあんなに怒鳴られることがあるとは……」
新井はコーヒーを片手に防波堤から暗い海を見下ろす。無礼講だと言われた飲み会で部長の言っていた自分の兄弟のお嫁さんのお姉さんの旦那さんが織田信長と親戚だから自分は織田信長の親戚だという自慢に「でも部長と血が繋がってないじゃないですか」と笑って指摘すると周りが微妙な空気になって固まったのだ。なにか間違ったのかもしれないと思ったがもう遅く、後から虫の居所が悪かったらしく課長にものすごく、ものすごく怒られたのだ。
「そもそも課長は怒ると説教くさくなるとこがあるよなー」
自分が空気を読めないというか、思ったことをすぐに口にだしてしまうし、考える前に口も身体も動いてしまう性質なのは自分自身気づいてはいるのだがどうにも直すことが出来ず、海を見て口を尖らせていると、どこからか小さくみぃみぃと鳴き声が聞こえてくる。
「猫……?」
この辺りにいるにしてはやけに小さい鳴き声だと、スマホのライトをかざしてキョロキョロと辺りを見渡すと新井の立っている防波堤の真下、海の上に木箱が浮いていてその中に子猫が入っているようだ。
「うわ!」
10月はじめの冷えた空気が染みる夜、しかも向こうは片手に収まりそうなほど小さい猫だ。このまま流されていけばどうなるのかは想像に難くない。なんとか這いつくばって手を伸ばしてみるが流石に届く距離ではない。そんなことをしていると大きい波が子猫の乗っている木箱を更に遠くへと運んでいく。
「待っ!!」
焦って上着もそのまま靴すら脱がずに海へと飛び込み、猫の乗った箱に向かって泳ごうとするものの水を吸った服が重くて進まない。ばしゃばしゃと水しぶきをあげるも虚しく手足をバタつかせるがどんどん沈んでいく。
(やば、俺、泳げないんだったーーー)
一生懸命に顔海面に出すものの長くは続かず目の前が真っ暗になり、そこで記憶は途絶えた。
「あ……? げほっげほっ!! おぇっ、しょっぺぇ!」
目を覚まして咳き込みながら辺りを見渡すとどうやら浜辺に寝ていたようだ。
「砂浜? ……ここまで流されたのか??」
「ううん。僕が運んだんだよ」
「うお!?」
暗闇から声がして思わず叫んだがよーく見ると海から上半身を出した人がこっちを見ている。
「よく見えないけど、ダイバーさん……とか?ですか?」
「あー、まあそんなとこかな?」
溺れていた頭はぼーっとして少し呆けていたがハッとして「猫!」と叫ぶ。
「あの、海に猫がながされてたと思うんですけど!」
「あぁ。あの子も一応助けたけど、陸に上げたら普通に歩いてどっか行ったよ」
「そうなんですか……はぁ、飼いたかったなあ」
「飼いたかったの?」
「あ、いや。まぁ、俺動物とか好きで、でもしばらく飼ってなかったからそろそろ飼ったりしたいなって思ってて……ってすいません初対面でこんなに喋っちゃって」
「かまわないよ。それよりさ、代わりに僕のこと飼わない?」
「へ?」
そう言った人影が波に乗って浜辺へと乗り上げる。大きい波がひくと人間の足があるべき場所にはエメラルドグリーンの立派な鱗に覆われた美しい尾ヒレがついていた。
「人魚、飼ってみない?」
鼻の近くまで顔を近づけられて冷たい吐息がかかる。暗くても解る程の美しい深い緑色の瞳、細くサラサラとした金色の髪にきめ細かい白い肌はこの世のものとは思えないほど美しく妖艶であった。
「に、人魚……? え、でも男……じゃ……?」
目の前にいる人魚の胸板は薄く、よく見るとくびれもないように見える。人魚というのは貝殻の水着を着た髪の長い女性だけなのではないかと混乱していると、目の前の人魚はキョトンとした後にケラケラ笑い出した。
「アハハハ、最初に気にするのがそこなんだ。男の人魚もいるんだよ。確かに珍しいけどねアハハハハ」
「ははは……」
人魚といえば空想上の動物、ツチノコや宇宙人みたいなものと同列だ。実際自分がそんな得体のしれないものと遭遇したら間髪入れずに叫んで逃げ出す自信があったが実際はどうすればいいのかわからずに合わせて愛想笑いをしてしまっている。
「で、どう? 僕のこと飼ってくれない?」
「えっと、飼うっていうのは俺の家で?」
「うん」
「いやいや、えっと流石にそれは難しいっていうかそもそも何で飼われたいんだ……ですか?」
「陸の世界に憧れてるっていうのもあるけど一番は冬がきちゃうことかな。ほんとは僕ら人魚って暖かい海でしか生きられないんだけど群れを追い出された上に迷っちゃって。このまま寒くなったら死んじゃうからさ」
「え、死ぬの……?」
「うん、死ぬの」
あっけからんという人魚を前に新井は考えた。この人魚は自分も猫も助けてくれたし悪人(悪人魚?)ではなさそうだ。それにこのまま無理ですと引き下がって命の恩人が死んだとなれば自分も寝覚めが悪い。
「よし、わかった。ずっと飼うのは無理だと思うけど冬の間くらいならうちの風呂場でよければ使ってくれ」
「本当にいいのかい? ありがとう助かるよ」
「ああ、俺は新井……新井詩歌。アンタは?」
「僕はハウだよ。よろしくねシイカ」
新井はコーヒーを片手に防波堤から暗い海を見下ろす。無礼講だと言われた飲み会で部長の言っていた自分の兄弟のお嫁さんのお姉さんの旦那さんが織田信長と親戚だから自分は織田信長の親戚だという自慢に「でも部長と血が繋がってないじゃないですか」と笑って指摘すると周りが微妙な空気になって固まったのだ。なにか間違ったのかもしれないと思ったがもう遅く、後から虫の居所が悪かったらしく課長にものすごく、ものすごく怒られたのだ。
「そもそも課長は怒ると説教くさくなるとこがあるよなー」
自分が空気を読めないというか、思ったことをすぐに口にだしてしまうし、考える前に口も身体も動いてしまう性質なのは自分自身気づいてはいるのだがどうにも直すことが出来ず、海を見て口を尖らせていると、どこからか小さくみぃみぃと鳴き声が聞こえてくる。
「猫……?」
この辺りにいるにしてはやけに小さい鳴き声だと、スマホのライトをかざしてキョロキョロと辺りを見渡すと新井の立っている防波堤の真下、海の上に木箱が浮いていてその中に子猫が入っているようだ。
「うわ!」
10月はじめの冷えた空気が染みる夜、しかも向こうは片手に収まりそうなほど小さい猫だ。このまま流されていけばどうなるのかは想像に難くない。なんとか這いつくばって手を伸ばしてみるが流石に届く距離ではない。そんなことをしていると大きい波が子猫の乗っている木箱を更に遠くへと運んでいく。
「待っ!!」
焦って上着もそのまま靴すら脱がずに海へと飛び込み、猫の乗った箱に向かって泳ごうとするものの水を吸った服が重くて進まない。ばしゃばしゃと水しぶきをあげるも虚しく手足をバタつかせるがどんどん沈んでいく。
(やば、俺、泳げないんだったーーー)
一生懸命に顔海面に出すものの長くは続かず目の前が真っ暗になり、そこで記憶は途絶えた。
「あ……? げほっげほっ!! おぇっ、しょっぺぇ!」
目を覚まして咳き込みながら辺りを見渡すとどうやら浜辺に寝ていたようだ。
「砂浜? ……ここまで流されたのか??」
「ううん。僕が運んだんだよ」
「うお!?」
暗闇から声がして思わず叫んだがよーく見ると海から上半身を出した人がこっちを見ている。
「よく見えないけど、ダイバーさん……とか?ですか?」
「あー、まあそんなとこかな?」
溺れていた頭はぼーっとして少し呆けていたがハッとして「猫!」と叫ぶ。
「あの、海に猫がながされてたと思うんですけど!」
「あぁ。あの子も一応助けたけど、陸に上げたら普通に歩いてどっか行ったよ」
「そうなんですか……はぁ、飼いたかったなあ」
「飼いたかったの?」
「あ、いや。まぁ、俺動物とか好きで、でもしばらく飼ってなかったからそろそろ飼ったりしたいなって思ってて……ってすいません初対面でこんなに喋っちゃって」
「かまわないよ。それよりさ、代わりに僕のこと飼わない?」
「へ?」
そう言った人影が波に乗って浜辺へと乗り上げる。大きい波がひくと人間の足があるべき場所にはエメラルドグリーンの立派な鱗に覆われた美しい尾ヒレがついていた。
「人魚、飼ってみない?」
鼻の近くまで顔を近づけられて冷たい吐息がかかる。暗くても解る程の美しい深い緑色の瞳、細くサラサラとした金色の髪にきめ細かい白い肌はこの世のものとは思えないほど美しく妖艶であった。
「に、人魚……? え、でも男……じゃ……?」
目の前にいる人魚の胸板は薄く、よく見るとくびれもないように見える。人魚というのは貝殻の水着を着た髪の長い女性だけなのではないかと混乱していると、目の前の人魚はキョトンとした後にケラケラ笑い出した。
「アハハハ、最初に気にするのがそこなんだ。男の人魚もいるんだよ。確かに珍しいけどねアハハハハ」
「ははは……」
人魚といえば空想上の動物、ツチノコや宇宙人みたいなものと同列だ。実際自分がそんな得体のしれないものと遭遇したら間髪入れずに叫んで逃げ出す自信があったが実際はどうすればいいのかわからずに合わせて愛想笑いをしてしまっている。
「で、どう? 僕のこと飼ってくれない?」
「えっと、飼うっていうのは俺の家で?」
「うん」
「いやいや、えっと流石にそれは難しいっていうかそもそも何で飼われたいんだ……ですか?」
「陸の世界に憧れてるっていうのもあるけど一番は冬がきちゃうことかな。ほんとは僕ら人魚って暖かい海でしか生きられないんだけど群れを追い出された上に迷っちゃって。このまま寒くなったら死んじゃうからさ」
「え、死ぬの……?」
「うん、死ぬの」
あっけからんという人魚を前に新井は考えた。この人魚は自分も猫も助けてくれたし悪人(悪人魚?)ではなさそうだ。それにこのまま無理ですと引き下がって命の恩人が死んだとなれば自分も寝覚めが悪い。
「よし、わかった。ずっと飼うのは無理だと思うけど冬の間くらいならうちの風呂場でよければ使ってくれ」
「本当にいいのかい? ありがとう助かるよ」
「ああ、俺は新井……新井詩歌。アンタは?」
「僕はハウだよ。よろしくねシイカ」
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