猫を拾おうと思ったら人魚を拾っていました。

先崎

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 (うおおおああ危ねぇええ!!)

 新井はリビング兼寝室に敷いてある布団の上で枕を抱えて寝転んでいた。実際は寝転ぶというほど静かなものではなくゴロゴロと落ち着きなく転がったり頭を枕にうちつけるように埋めたり、寝ながらジャンプを繰り出したりと寝暴れているといったほうが正しいが。

(なんか一瞬変な空気に飲まれてキスするところだった……会ったばっかな上に子どもだし人魚に……!! いや、キス自体はしちゃったけどアレはアイツがしてきたからセーフだよな!?まだ人として一線超えてないよな!?)

「ううぅ、ぐううぅ……!」

 低めの唸り声をあげながら枕を強く抱きしめると、右手でふにふにと自分の少し乾燥してカサついている唇を触る。

(キスってあんなやわらかいもんなんだな。アイツの唇が特別やわらかいのか?)

「てか、何でアイツはあんなに俺に心を許してるんだよ。逆にならわかるけどそもそも助けてもらったのは俺なのに……」
 
ブツブツと独り言を呟いたり、しばらく唇を触ってぼーっとしたりとして過ごしていたがふと視線をあげると壁掛け時計の針が十六時を示していた。

(うわ、俺3時間くらいこうしてたのかよ。夕飯の準備……冷凍餃子があったからそれでいいか……)



 その後、風呂場へ様子を見に行くと、ハウは浴槽の中に沈んで寝ていた。声をかけると水の中でも聞こえたらしく、目を開けて上半身を水面にだして欠伸をする。

「寝てたんだな」
「うん。他にすることないんだもん」
「そりゃそうか。悪かったな、退屈なの嫌いっぽいのに」
「いいよ。思ったより寝ちゃったし、僕も陸にきてちょっと疲れてたかも」
「まあ環境が違いすぎるからな。当然疲れるさ」

少し緊張していたがハウの様子に特に変わったところがないことに安堵して新井は脱衣所に敷いたバスマットの上にハウを乗せるとバスタオルで髪と身体の水を拭き取っていく。

「んー、僕こうやって髪拭かれるの気持ちよくて好きだな」
「そりゃ良かった……なんだその顔?」

タオルで髪を拭かれていたハウは振り返って目を瞑ってこちらを見上げている。

「まだシイカからキスして貰ってないから、待ってるんだよ」
「……しません」
「なんで?」
「何ででも。ていうかお前からキスするのも今後禁止だからな」
「なんで?」
「そういうのは好きな人同士がするものなんだよ」
「僕はシイカのこと好きだよ」
「そういうんじゃなくて、結婚する人同士がするものなの。お前は子供だからよくわかってないだけだ」
「そんなことないのに……」

不満を隠しもせず唇を尖らせて眉を寄せるハウを新井は抱えて脱衣所を出るとリビングの布団の上へ置く。

「ほら機嫌直せよ。テレビ見ていいから。本も読みたかったら持ってくるし」
「本もあるの? じゃあ読みたいな」
「ああ。俺が子どものとき買ったやつだから古いけど……あれ。お前文字読めるのか?」
「読めるよ。人間に教えて貰ったことがあるからね」
「へぇ、人魚ってお前以外見たことないから人間から身を隠してるのかと思ってたけどそうでもないのか」
「ううん、みんな隠れてるよ。僕が人間好きだからお話しに行ってるだけ」
「基本的に人魚は人間嫌いってことか?」
「嫌いっていうか、言い伝えがあるんだよ。昔は人魚も普通に人と暮らしてたんだけど、ある時に人魚狩りが流行って人魚の数がだいぶ減ったから、できるだけ人間に見つかってはいけませんって」
「そんな話あるのによく人間に絡みにいけるなぁ」
「僕はそんなに人間って悪者ばかりじゃないと思ってるからね……ねぇ、本読みたいな」
「ん。ああ、悪い悪い」

明らかにむくれていたがハウだったな本が読めるとなるとすぐに機嫌が直ったらしい。新井は安心して別の部屋からくたびれた文庫本と動物写真集を何冊かもってきた。ハウは表紙を一通り眺めると文庫本を手にとって開いて静かに読み始める。尾がバシバシと揺れているので興奮していることが手にとるようにわかった。瞬きも忘れて読みふけっているように見えたかと思うと笑顔になって、そこからすぐ目を見開いて驚いた顔になる。新井はそんなハウの様子が面白くてしばらく眺めていた。



 夕飯を食べてからハウを浴槽に戻そうとすると布団で寝たいと言われて考え込む。しかしそれも一瞬の話ですぐにハウを布団へ転がすと自分も電気を消して布団に入った。

「狭くて悪いな」
「大丈夫だよ。狭くてもフカフカで気持ち良いのは変わらないもん。それより人間の世界にも人魚の話ってあるんだね」
「人魚の話……ああ、童話か。王子様に恋した人魚が泡になっちゃうやつ」
「うん。人魚の仲間から聞いたことある話とすっごく似てた」
「人魚にも物語って文化があるんだな。どんな話なんだ?」
「失恋した人魚が泡になるとこまでは同じなんだけど、僕ら人魚の間ではその続きがあってね。それ以来、足のない人魚のままでも好いてくれる人間が見つかった時しか人間とは恋してはいけないって海の神様が決めましたっていう話だよ」
「あー、童話って教訓めいてるやつがあるよな。人魚の世界での無闇に人間に惚れるなっていう忠告か」
「……人間好きなのって悪いことなのかな?」

ハウはもぞもぞと布団に深くもぐり込むと不安そうに小さい声で聞いた。

「……悪いってことはないんじゃないか? ただ、中には危ない奴もいるから気を付けた方が良いって話で」
「そっか。じゃあ良い人間だったら好きになっても良いんだ。良かった」

布団の中からふふふ、と小さく笑い声が聞こえたと思うとすぐに静かになる。不思議に思って羽毛布団を捲ると、ハウはすやすやと寝息をたてていた。

「良い人間って俺のことじゃないだろうな……」

思わず声が出てしまったが起こさないようにとすぐに口を噤んで頭の中で考えるようにする。

 (正直、好かれてるのは悪い気しないんだよな。でも恋愛的に好きかって言われると、全くそういう風には見られないよなぁ……。顔が良すぎるからグイグイ来られるとビビるだけで、実際は猫に懐かれてる感じっていうか……それにコイツ子どもだし、男だし、人魚だし。陸じゃ危険な奴とか火事とかがあっても逃げられないし、ずっとここで暮らすわけにもいかないんだから……) 

そんなことをぐるぐると考えていると、いつの間にか微睡みの中へ落ちていっていた。
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