猫を拾おうと思ったら人魚を拾っていました。

先崎

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 遠出、といっても水族館は自宅から30分ほどのところに建っている。スーパーマーケットへ行くときよりは外出時間が長いので念の為、水を入れた2リットルのペットボトルを5本ほど車に積んでいた。

「ほら、ここが水族館だ。田舎だけど水族館だけはデカいのあるんだよな。俺も初めて来た」
「へぇー……なんか暗いね」
「暗いほうが魚にとって良いってことなんじゃないか?」
「僕は明るいほうがいいけどなぁ」
「一応自認は魚なのか」

 入口に置いてあるパンフレットを取って順路を確認するとハウに見せながら説明をする。

「ウミガメにオットセイにペンギン、クラゲもいるのか。順路的にはイルカが最後みたいだ。先にイルカ見に行くか?」
「ううん。折角だから順番に行くよ。ペンギン見てみたいし」
「海にいるのに見たこと無いのか?」
「うん。僕日本近海の生まれの日本近海育ちだから」
「でも人魚ってあったかいとこでしか生きられないって言ってたよな。外国とかのあったかい海に渡るんじゃないのか?」
「ううん。冬は大体沖縄にいる」
「沖縄って……いや、まあこっちよりはあったかいけどイメージと違うなぁ……てか頑張れば冬前に沖縄つけたんじゃ?」
「僕方向音痴だから、何回も同じところに出ちゃって諦めたんだよね」
「それは野生としてはだいぶ致命的じゃないか……?」

 そんなことを話しながら水槽をひとつひとつ見ていく。海で育ったハウが水族館を見てもつまらないのではないかと思っていたが、実際は川の魚やカエルの展示を前に見たことのない生き物だと喜んでいたので要らぬ心配だったなと安堵して進んでいった。

「お、海の生きものに触れるコーナーだってよ。海水っぽい水に触れるんじゃないか?」
「海水っぽいていうか、海水だね。やっぱり少しでも海水に触れると気持ちいいや……ホタテとかヒトデがいっぱいいるけど、これは取って食べていいのかな?」
「絶対ダメ」

 平日の水族館は人がほぼおらず、たまにすれ違う人もスタッフばかりで2人はのんびりと順路を巡っていく。

「ほら、見たがってたペンギンだ」
「なんかテレビで見たやつと違うなぁ。もっとツルッとしてたよ」
「いろんな種類がいるから、違う種類なんじゃないか?」
「そっか。静かだなって思ったけど、これは喋らない種類なんだね。カマクラにも住まない種類のペンギンなんだ。釣りもしてないし」
「……帰ったらアニメっていうものについて説明してやる」

 大体の展示を見終わって、イルカが展示されている前の廊下まで来ると、ベンチと自販機が設置されていた。少し休憩していこうかと新井は自動販売機で炭酸水と野菜ジュースを買うとベンチに腰掛ける。

「ほら、野菜ジュース。たまには健康的な飲み物でも良いだろ」
「野菜ジュース?」

 キャップを緩めた野菜ジュースのペットボトルを渡されたハウはくんくんと嗅いで不思議な匂いだと首を傾げてから口をつける。そして次の瞬間にダバダバと口から零した。

「うわっ、あー、ハンカチハンカチ!」
「シイカ……これ、毒だと思う……」
「毒じゃないけど口に合わなかったか。ほら、こっち飲め。まだ口つけてないから」
「うん。ありがとう……」

 同じくキャップを緩めた炭酸水を受け取ったハウは鼻を近づけて無臭なのを確認すると、口をつけ、そして次の瞬間にダバダバと口から零した。

「シイカ……これも毒だよ」
「毒じゃないけど、なんか悪いな……」

 謝りながらハンカチでハウのシャツとブランケットを拭くと、野菜ジュースのペットボトルをショルダーバッグに仕舞って改めて自販機で天然水を購入すると
ハウに渡して、自分は炭酸水に口をつけた。

「僕が口つけたやつなのにいいの?」
「俺そういうのあんまり気にならないタイプだな。ていうかお前が気にするタイプだったことの方が意外だよ」
「だって人間の世界では間接キスっていうキスの一種なんでしょ? ドラマで見たことあるよ」
「あははっ、まあ中高生くらいだったら間接キスだって意識するかもなぁ。もうそんな年齢じゃないからさ」
「ふーん……」
「さ、イルカ見るか。」

 半分ほど炭酸水を飲んだ新井はペットボトルをバッグに仕舞うと、ハウのペットボトルにも手を伸ばすが、自分で持ったままで良いというのでそのまますぐ隣のイルカコーナーへと足を踏み入れた。イルカの展示は水槽ではなく大きいプールになっていて、上から覗くことができ、今は2頭のイルカがぐるぐるとプールの中を泳いでいる。ハウが喉からキューッと音を出すとイルカ達はピタリと泳ぐのを止めてハウの方へと寄ってきた。

「おお。すげぇ! なんか言ったのか?」
「うん。こんにちは。僕はハウって言ったんだよ。彼女達も自己紹介してくれてるね。マリンちゃんとマーレちゃんだって」

 イルカ達はハウの方を見てクルクル回ると1頭が高くジャンプして水飛沫をあげる。

「うおっ」
「僕が水に入ってないから可哀想に思ってかけてくれてる」
「俺もいるのに……」
「人間も水をかけられた方が喜ぶって認識みたいだよ。ここに見に来る人達は水をかけられたほうが嬉しそうな声を出すって言ってる」

 バシャンバシャンと連続して水飛沫が上がり、新井の腹から下がびしゃびしゃになっていく。ハウも頭から濡れているが気にしてないようだ。

「シイカさっきのところにいたら? 僕結構長くお話すると思うし」
「ん……そうさせて貰うよ。終わったら声かけろよ」
「うん」

 そうして新井が廊下に戻るとベンチに腰掛ける。しばらく座っているとイルカのプールからは水飛沫の音やハウの笑い声、キューっといった鳴き声が聞こえた。

(ハウの声なんだかイルカの声なんだか区別つかないな。近めの水族館だから普通に休日でもいいかと思ったけど、こんな風になるなら平日に来て良かった)

 そんなことを思いながら、ふぅ、とため息をついて残っていた炭酸水を一気に飲むと自販機の隣にあるゴミ箱へと入れた。

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