猫を拾おうと思ったら人魚を拾っていました。

先崎

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「ねぇ、またユキちゃんが脱走しちゃったんだって。アンタも探しに行きな!」

 目の前に中学の制服を着た少女が立って自分へと命令してくる。それを聞いて慌てて家から出ようとすると隣の部屋からキコキコと車椅子に乗った老婆がでてきて「寒いからこれを履いていきな」と黒い巻きスカートを渡された。

「えぇ、俺男だよ」
「折角婆ちゃんが出してくれたんだから文句言わないの!」

 少女がしゃがみ込むと自分にスカートを巻いて、ボタンをぱちぱちと閉めて外へと送り出す。しばらく家の周りを散策し、近くの海岸へ出ると真っ白な猫が何かを咥えて走っていた。

「ユキちゃん!おいで!」

 白猫にそう話しかけると嬉しそうに自分の足元へ寄ってきて口にくわえていた何かをポトリと落とす。拾い上げてみればそれは見たこともない緑色の魚だった。

「わっ、ボロボロ。まだ小さいのに……」

 小さい魚を手のひらに乗せて冷たい海へと入れてみるものの動く気配がない。死んでしまったのだろうかと思うものの、もう少しだけ待ってみようとしゃがみこんで流されないようにとしばらく手で囲っていると、白猫が自分の足元に寄ってきて浜辺で寝始めた。

「ユキちゃん!!」

 どれだけそうしていたか解らないが、後ろから少女の叫びにも似た大声が聞こえたと思うと手の中の魚がびくんっと動いて泳いでいった。

「うわ、すげぇ! 姉ちゃんの声で魚が蘇生した!」
「蘇生したじゃないわよ! もうこんな時間でしょ!」
「いだっ!」

 ゴンッと頭にゲンコツを落とされて、悲鳴をあげる。少女は猫を抱き上げると自分を見てまた叫ぶ。

「アンタなにその手!!真っ赤じゃない! もう、早く帰るよ!」

 またゲンコツを落とされて半泣きになりながら海を振り返ると微かに美しい歌が聞こえてきた気がした。



「んぁ、あ……夢か……」

 やけに昔の夢を見たな、と目をこすっていると優しげな声でそう聞かれる。

「おはようシイカ、調子はどう?」
「ふぁ……んー、すこぶる良いけど今日は休もうかな」
「あれ、いいのかい?」
「普段まじめに働いてるんだからいいんだよ。そんで今日こそ誕生日パーティーしようぜ。お前のお母さんからもらったお高い腕輪もあるし、贅沢するか」
「え? その腕輪は母さんが趣味で海に流れてるゴミを集めて作ったやつだから価値なんかないと思うよ」
「……人魚って奴らは」

 新井がそうぼやくと座椅子に座っていたハウが歩いてきて新井の布団の横へと座った。

「人魚、嫌い?」
「……嫌いじゃないよ。愛してるさ」

 そう言って笑うとハウが唇にそっと唇を押し付けてきた、柔らかくて暖かくて気持ちの良いそれを受け入れながら(そうだ、新しく靴を買わないと)と新井は思ったのだった。
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