妹が聖女に選ばれたが、私は巻き込まれただけ

世川 結輝

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3,命懸け

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「子をなさなかったのではなく、なせなかったのでは」
 空気が凍りついた。1人能天気な妹だけはレモンティーを啜っている。
「なにを、仰りたいのでしょうか」
 優男の額に汗が見える。
「つまり、聖女にとってこの戦いは命懸けであるのではないでしょうか。勝っても負けても聖女の命の保証はないのでは」
 涼奈以外の全員が息を呑む。構わず私は続ける。
「この子はまだ14です。そんな子供に命懸けの戦いにいけなど、私はそれを許すことができません」
「そ、それでも、先代の聖女様は戦い後も生きていらっしゃいました。我々も軍を動かし聖女様の戦いをお手伝い致しますので、そのようなご心配は」
「『聖女様の戦い』?」
 私の怒りは限界だった。
「この戦いは、あなたたちの国のものでしょう。私には、ましてや妹には一切関係ないわ。それにさっき仰りましたよね、聖女召喚が命懸けの術だって。さっき召喚された時神官らしき人はみなピンピンしていた。その代わり、部屋の隅の方に、みすぼらしい格好の人達が10数人倒れていた。あなた方は神官の代わりにあの方々の命を使い召喚したのでしょう。そんな命の使い方をされる方が、妹を救うだなんて信用に値しません。」
「……っ」
 皇子の顔が歪んだ。睨むようにこちらを見ている。構うもんか。年下に睨まれたって怖くはない。私の責務は涼奈を守ること。自分の命を懸けて。
「何よりあなた方は、私たちを元の世界に返すつもりはないようです。問答無用で聖女を使った後は死んでしまうのだから、きっとそこまで考えていなかったのでしょうね。なんて、身勝手」
「お前に何がわかる」
 吐き捨てるような私の言葉に被せるように皇子が言った。ようやく口を開いたと思えばまたもや偉そうな口調。それに加え威圧するような空気がこちらにどんどん迫ってくる。
「この召喚の儀式に我が国がどれだけ金をはたいたか分かるか、毎度の悪魔襲来でどれだけの命が奪われるか分かるか、その度に我々王族がどれだけ身銭を切っているのか知っているのか 」
 机の上のティーカップが震える。部屋の中がひりつく。息が詰まりそうだった。手が汗ばんでいる、空気とともに私の腕も震えているのがわかる。私の腕につかまっている涼奈も震えている。しかし、ここで引く訳には行かない。相手にどんな事情があろうと、涼奈が犠牲になっていい道理なんかない。私が拳を握りしめた時、妹が声を発した。
「私、聖女やります」



 皇子も私もお互いに声が出ない。全員が固まる。空気のヒリつきが収まりかろうじて声の出せた私が、妹の目を見つめて問う。
「あなた、さっきの話聞いてた?死ぬかもしれないのよ」
「けど、死なないかもしれないんでしょ。ならきっと大丈夫よ」
「そんなわけないわ、きっと無事じゃ済まない」
「それよりお姉ちゃん気づいてる?これってよく漫画で見かける転生系成り上がりでしょ。つまりさ!私ここでは偉いのよ」
「え?」
 妹の発言に私は再度固まる。理解しようと頭をめぐらすが、妹の口は止まらない。
「ここでは私勉強もしなくていいし、家事もしなくていいんでしょ!それに何でもし放題。その上戦争も頑張ったら、みんなに偉いって崇められるんでしょ!そんな勝ちゲー乗るしかないでしょ」
 笑顔で言う妹に何も言えない。しかし皇子達はここぞとばかりに声を上げる。
「その通りです聖女様!ここでは聖女様は皇帝と同じくらい偉いのです!更に皇子と結婚すれば妃となり国を動かすこともできます!」
「涼奈よ、私は君にすごく惹かれている。聖女としてこの国にいてくれるのなら婚姻もやぶさかでは無い」
「ほんと!どうしようお姉ちゃん、私モテ期かも」
顔を赤らめる妹はそう言って皇子の元へ歩みよる。右手を差し出し笑顔で言う。
「協力させてください!私が世界を救うわ」
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