妹が聖女に選ばれたが、私は巻き込まれただけ

世川 結輝

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8,屋敷

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「さあ、着いた」
 促されるまま馬車をおりると、先程の神殿の倍ほどの大きさの建物が目の前に建っていた。建物の真ん中には両開きの豪華な扉があり、そこから私の足元までを薄い黄色のレンガが綺麗に並べられている。レンガの道の両端には溢れんばかりの緑が太陽光に反射して輝いていた。手入れの行き届いた庭には、ぽつりぽつりと愛らしい花が顔をのぞかせている。
 先程クロッセスは自分を公爵だと言っていたがそれも頷ける屋敷の大きさと美しさだった。数人の侍従が私の目の前で並んでいた。
「お帰りなさいませ」
 そう言ってクロッセスの荷物を馬車から下ろしいてる。1人の年寄りの侍従、というより執事のような身なりの男が私に気づき頭を下げる。
「そちらは」
「聖女の姉君、セイナだ。」
 クロッセスの言葉に執事はあわててもう一度頭を下げる。
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました。私、執事のアルバートでございます」
 向けられる柔らかな笑みに思わずこちらも微笑み返す。物腰の柔らかな優しそうな執事だ。
「彼女を部屋に案内してやってくれ、しばらくうちで暮らす」
クロッセスが言うとアルバートは畏まりましたと頭を下げ、私に向き直った。
「それではご案内致します」
 私はクロッセスと別れ、アルバートの後ろをついて行った。

 案内された部屋はいつぞやに仕事で上司に手配したホテルのスイートルームのような部屋で、私は目を丸くした。多少予想していたとはいえ、大きさもさることながら何気ない机やベッドの装飾があまりにも貧乏目には眩しかった。
 部屋で1人になっても借りてきた猫のように気の休まるところはなく、当たりをキョロキョロと見回すだけだった。
 アルバートさんは立ち去る際、いつでもお声がけ下さいと言い残したが、こちらが気を使って声をかけずらい。日本人の性なのだろうが。
 自分の背丈ほどの大きな窓の枠に手をかけ、外に目をやった。先程の庭が上から見下ろせた。先程は木に隠れて見えていなかった噴水が見える。そのまわりで何人かの女中らしき人達が談笑している。廊下へ出てみれば歩いている侍従たちは私を見るなりニコニコと笑って挨拶をしていく。あまりにも居心地のいい暖かな空間は、神殿での皇子たちの様子とのギャップを感じさせた。見た目と同じく、クロッセスの性格が優しく温和であることが伺えた。
 そうなれば気になるのは、彼が言っていた弟たちである。アルーセスと言う弟がこの屋敷にいると彼は言っていた。挨拶をしに行かずにはいられない。何より私は今お客なのだ。屋敷の人間に挨拶をしに行くのは日本人としての礼儀である。この世界ではどうかは知らないが。
 私が部屋を出ると、そばに控えていたのかアルバートさんがどこからともなく現れた。
「どうかされましたか」
 私は少し驚きつつも平静を取り繕う。
「アルーセスさんに挨拶に行こうかと」
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