妹が聖女に選ばれたが、私は巻き込まれただけ

世川 結輝

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9,アルーセス

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「ご案内します」
 そう言われてしまったので、またも私はアルバートさんの後ろをついて行く。まるでピク〇ンにでもなった気分だった。
 弟に挨拶をしに行くというのは口実で、本当は書斎でもあればこの世界のことを調べようとしていたのだが。アルバートさんの監視下では日本人の遠慮の意識が勝り大人しくしてしまう。
「書斎はこちらになります」
 アルバートさんにそう言われ肩がはねる。思考を読み取られたのかとドキマギしたが、アルバートさんの様子でそうでは無いと胸を撫で下ろす。
「こちらに、アルーセス様がいらっしゃいます」
 行きたかった場所に会いたかった人がいるとはどんな幸運だろう。アルーセスさんに挨拶するついでに、本を少し借りていこう。
 アルバートさんが扉を2回叩く。どうぞ、ととおる声が扉の向こうから聞こえてきた。
「失礼致します」
 アルバートさんが扉を開けると、部屋いっぱいの本棚が目に入る。その真ん中に置かれた机に男がひとり座っていた。
 クロッセスと同じプラチナブロンドの髪に、翠の瞳。クロッセスの凛とした優しさとは違う、綿のようなやわらかな雰囲気が部屋いっぱいに立ち込めている。
 翠の瞳はこちらを見るなり優しく和らいだ。
「兄からお話は聞いております。セイナさんですね。私は、バルシュミード家次男、アルーセス・バルシュミードです。」
 アルーセスは立ち上がり私を見て微笑む。柔らかな物腰、知的な雰囲気、礼儀正しい振る舞い。クロッセスの話の通りの人物で少し拍子抜けだった。
 皇子たちのように聖女の邪魔をする姉として多少偏見を含んだ目で見られることも覚悟していたのだが、アルーセスを含めこの屋敷の人たちは誰一人としてそのような素振りは見せなかった。
さすが、クロッセスの家族だと感心した。
「よろしくお願いします、アルーセスさん」
「兄さんが、あなたをしばらくうちの屋敷で面倒を見ると仰ってましたので、気軽にアルとお呼びください。家族はみなそう呼びます。敬語もいりませんよ」
「クロッセスと同じようなことを言うのね、お言葉に甘えてアルと呼ばせてもらうね」
 優しい微笑みに私は笑い返した。

「たしか、アルは22歳だったっけ?」
「そうです、兄さんから聞いたんですか?」
「ええ、私は今年で23なの。歳が近いから仲良くなれたらいいなと思っていたの。会えてよかった」
 私の言葉にアルは嬉しそうに微笑む。
「私もです。そうだ、さっき三男のペネセスから連絡があってあと数時間で帰ってくるそうです」
アルはそう言って机の上に置いてある手のひらほどの大きさの水晶に触れた。
「それは?」
 私が尋ねるとアルは水晶をこちらに渡す。両手で受け取ると見た目以上の重さに少しぐらついた。そんな様子にアルはくすくす笑いながら水晶に手をかざす。
「これは連絡用の水晶です。このように魔力を込めて、繋げたいところを思い浮かべると―」
 水晶が光りだし、真っ白な光の真ん中辺りに人影が見えた。
『アルか、なんだ』
 水晶の中から聞こえたその声はクロッセスのもので、人影に目を凝らしてみるとクロッセスの茶色の瞳と目が合った。
『セイナもいたのか、どうした』
 目の前の事実に驚きながら、私の視線はアルと水晶を行ったり来たりしている。
「兄さん、セイナさんの服を用意してあげないと。この服はこの世界では目立ってしまうよ」
『そうだな、セイナの部屋にメイドをやる。着替えたら、アル、お前が屋敷を案内してやれ』
 アルが、はーいと言って水晶から手を離すと水晶の光は消えクロッセスの姿も見えなくなった。
「ちょくちょく聞いていたけど、魔法ってホントなんだね、すごい」
 目を丸くする私をまたアルはくすくす笑う。
「セイナさんの世界には魔法はないんですよね、けど聖女の家族なら少なからず魔力はあると思いますから今度なにかの魔法を試してみましょう」
 アルの言葉に私は声を上げる。
「そう!そういうことについての本が欲しかったの。魔法のこととかこの世界のこととか、悪魔のこととか。そんな本はあるかな」
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