妹が聖女に選ばれたが、私は巻き込まれただけ

世川 結輝

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10,勉強

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「ええ、あるにはありますが……」
 歯切れの悪い返事をしながら、アルは本棚の本をひとつ開いてこちらに持ってくる。その本を私に見せながら申し訳なさそうな声を出した。
「この世界の文字はセイナさんのいた世界の文字とは違います。言葉はこの世界に召喚される際に魔法で自動的に翻訳されるようになっていますが、文字はそのままこちらの言葉ですので」
 並んだ文字、というよりもはや記号のようなそれは、アラビア文字やハングル文字に近いだろうか、ミミズの這ったような到底読めそうにないものであった。
 しかし私にとってそれは大した障害ではなかった。
「構わない、これから覚えていくから」
 私はそう言って本を受け取る。
「これはなんて書いてあるの?」
 本の表紙を指さすとアルは文字をひとつずつさしながら答えてくれた。
「『ヘンヴル王国の成り立ち』です。ヘンヴル王国とはこの国のことです。初代聖女様の時代よりも少し歴史の長い国ですので、成り立ちを知るとこの世界のことも深く知ることが出来ます」
「なるほど、日本語やハングルと同じように1文字1文字音が独立していて、それを組みあわせて言葉にするのね。その上魔法のおかげで音は全て日本語で覚えられるから、英語を学ぶより希望があるわ」
 私は直ぐに本を開いて目を通す。
「ヘンヴル王国、王様……、これは名前かしら。『ヘンリー』?」
「もう読めるのですか?」
 唖然とするアルに私は笑って言う。
「勉強は得意なの、訳あって学校に通うのは途中で辞めちゃったから学はないけどね」
 「素晴らしいです、今まであちらの世界からいらした聖女様方はこちらの世界のことに関心を持たれることが少なく、文字などはすぐに諦めていらっしゃったので」
 アルの表情が恍惚としていく。
「私の仕事を手伝って頂きたいほどです」
 キラキラとした目に少し圧倒されながらも、私はその申し出を受け入れる。
「タダでここに置かせて貰ってるんだからお仕事の手伝いくらいいくらでもするわ」
「ほんとですか!ペネは滅多に仕事を手伝ってくれないし、トアは剣術ばっかりだし、兄さんは書類仕事苦手みたいだし、私の負担が大きかったんです。すごくありがたい」
「あ、でも、ごめんなさい。私は妹の件もどうにかしたいからそればかりという訳には行かないけれど」
「構いません、十分です。セイナさんは本来働く必要もない身です。こちらこそ申し訳ない」
 謝りつつも一切引くつもりのないその様子に私は心のうちでくすくす笑う。今まで相当大変だったようだ。
 私の方も仕事をしているうちにこの世界の情勢や様子を見れるのだからウィンウィンというやつである。
「まずは文字を覚えてもらわないと、すぐに先生を呼びます。誰にしよう」
 アルがそう言った時後ろの扉が開いた。
「僕が教えるよ、どうせ暇だし」
 振り返るとクロッセスやアルと同じプラチナブロンドの髪の男が立っていた。
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