10 / 39
10,勉強
しおりを挟む
「ええ、あるにはありますが……」
歯切れの悪い返事をしながら、アルは本棚の本をひとつ開いてこちらに持ってくる。その本を私に見せながら申し訳なさそうな声を出した。
「この世界の文字はセイナさんのいた世界の文字とは違います。言葉はこの世界に召喚される際に魔法で自動的に翻訳されるようになっていますが、文字はそのままこちらの言葉ですので」
並んだ文字、というよりもはや記号のようなそれは、アラビア文字やハングル文字に近いだろうか、ミミズの這ったような到底読めそうにないものであった。
しかし私にとってそれは大した障害ではなかった。
「構わない、これから覚えていくから」
私はそう言って本を受け取る。
「これはなんて書いてあるの?」
本の表紙を指さすとアルは文字をひとつずつさしながら答えてくれた。
「『ヘンヴル王国の成り立ち』です。ヘンヴル王国とはこの国のことです。初代聖女様の時代よりも少し歴史の長い国ですので、成り立ちを知るとこの世界のことも深く知ることが出来ます」
「なるほど、日本語やハングルと同じように1文字1文字音が独立していて、それを組みあわせて言葉にするのね。その上魔法のおかげで音は全て日本語で覚えられるから、英語を学ぶより希望があるわ」
私は直ぐに本を開いて目を通す。
「ヘンヴル王国、王様……、これは名前かしら。『ヘンリー』?」
「もう読めるのですか?」
唖然とするアルに私は笑って言う。
「勉強は得意なの、訳あって学校に通うのは途中で辞めちゃったから学はないけどね」
「素晴らしいです、今まであちらの世界からいらした聖女様方はこちらの世界のことに関心を持たれることが少なく、文字などはすぐに諦めていらっしゃったので」
アルの表情が恍惚としていく。
「私の仕事を手伝って頂きたいほどです」
キラキラとした目に少し圧倒されながらも、私はその申し出を受け入れる。
「タダでここに置かせて貰ってるんだからお仕事の手伝いくらいいくらでもするわ」
「ほんとですか!ペネは滅多に仕事を手伝ってくれないし、トアは剣術ばっかりだし、兄さんは書類仕事苦手みたいだし、私の負担が大きかったんです。すごくありがたい」
「あ、でも、ごめんなさい。私は妹の件もどうにかしたいからそればかりという訳には行かないけれど」
「構いません、十分です。セイナさんは本来働く必要もない身です。こちらこそ申し訳ない」
謝りつつも一切引くつもりのないその様子に私は心のうちでくすくす笑う。今まで相当大変だったようだ。
私の方も仕事をしているうちにこの世界の情勢や様子を見れるのだからウィンウィンというやつである。
「まずは文字を覚えてもらわないと、すぐに先生を呼びます。誰にしよう」
アルがそう言った時後ろの扉が開いた。
「僕が教えるよ、どうせ暇だし」
振り返るとクロッセスやアルと同じプラチナブロンドの髪の男が立っていた。
歯切れの悪い返事をしながら、アルは本棚の本をひとつ開いてこちらに持ってくる。その本を私に見せながら申し訳なさそうな声を出した。
「この世界の文字はセイナさんのいた世界の文字とは違います。言葉はこの世界に召喚される際に魔法で自動的に翻訳されるようになっていますが、文字はそのままこちらの言葉ですので」
並んだ文字、というよりもはや記号のようなそれは、アラビア文字やハングル文字に近いだろうか、ミミズの這ったような到底読めそうにないものであった。
しかし私にとってそれは大した障害ではなかった。
「構わない、これから覚えていくから」
私はそう言って本を受け取る。
「これはなんて書いてあるの?」
本の表紙を指さすとアルは文字をひとつずつさしながら答えてくれた。
「『ヘンヴル王国の成り立ち』です。ヘンヴル王国とはこの国のことです。初代聖女様の時代よりも少し歴史の長い国ですので、成り立ちを知るとこの世界のことも深く知ることが出来ます」
「なるほど、日本語やハングルと同じように1文字1文字音が独立していて、それを組みあわせて言葉にするのね。その上魔法のおかげで音は全て日本語で覚えられるから、英語を学ぶより希望があるわ」
私は直ぐに本を開いて目を通す。
「ヘンヴル王国、王様……、これは名前かしら。『ヘンリー』?」
「もう読めるのですか?」
唖然とするアルに私は笑って言う。
「勉強は得意なの、訳あって学校に通うのは途中で辞めちゃったから学はないけどね」
「素晴らしいです、今まであちらの世界からいらした聖女様方はこちらの世界のことに関心を持たれることが少なく、文字などはすぐに諦めていらっしゃったので」
アルの表情が恍惚としていく。
「私の仕事を手伝って頂きたいほどです」
キラキラとした目に少し圧倒されながらも、私はその申し出を受け入れる。
「タダでここに置かせて貰ってるんだからお仕事の手伝いくらいいくらでもするわ」
「ほんとですか!ペネは滅多に仕事を手伝ってくれないし、トアは剣術ばっかりだし、兄さんは書類仕事苦手みたいだし、私の負担が大きかったんです。すごくありがたい」
「あ、でも、ごめんなさい。私は妹の件もどうにかしたいからそればかりという訳には行かないけれど」
「構いません、十分です。セイナさんは本来働く必要もない身です。こちらこそ申し訳ない」
謝りつつも一切引くつもりのないその様子に私は心のうちでくすくす笑う。今まで相当大変だったようだ。
私の方も仕事をしているうちにこの世界の情勢や様子を見れるのだからウィンウィンというやつである。
「まずは文字を覚えてもらわないと、すぐに先生を呼びます。誰にしよう」
アルがそう言った時後ろの扉が開いた。
「僕が教えるよ、どうせ暇だし」
振り返るとクロッセスやアルと同じプラチナブロンドの髪の男が立っていた。
20
あなたにおすすめの小説
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!
未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます!
会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。
一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、
ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。
このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…?
人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、
魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。
聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、
魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。
魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、
冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく…
聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です!
完結まで書き終わってます。
※他のサイトにも連載してます
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる