16 / 39
16,バルシュミード家
しおりを挟む
少し和んだころ、私はナイフとフォークを置き座り直し意を決して口を開いた。
「その、ずっと気になっていたんだけど、どうしてみんなは私のことをそんなに気遣ってくれるの?」
唐突な私の質問に3人の手がとまる。ずっと聞きたかったことだ。この国を助けてくれる聖女の邪魔をする女。普通なら皇子たちのように邪険に扱うはず。さっき宮殿から使いが来た時もとっとと渡してしまうのが普通。いつまでもこんな穀潰しを置いておくメリットはどこにもない。
「聖女を戦いから遠ざけようとする私に、もはやこの国では客としての価値すらない。逆賊や敵として殺されたって文句は言えないだろうし、ホルフマン家がやろうとしているように、操ったりして口を閉じさせるのが普通よ。バルシュミード家は公爵家なら皇子たちの言うことに大きく反発はできないはず。どうして私にここまでしてくれるの」
この世界に来て彼らの優しさに私はかなり心を許してしまった。しかし元の世界の経験から無償の愛などないと知っている。優しさなど幻でしかないと。
「話せば長くなる。初代聖女のことや100年前の前聖女の話もしなければいけなくなるから。だから、今端的に言うなら、そうだな」
クロッセスは私と同じようにフォークとナイフを置き、こちらに向き直った。
「私たちは聖女を利用した魔物討伐に反対している」
クロッセスの言葉に息が詰まった。アルもペネもクロッセスのように真剣な表情を向けている。この言葉が嘘では無いことをこの部屋の空気が教えてくれる。
「そのせいで国王からは公爵家だけど嫌われているし、兄さんは騎士団を辞めざるを得なかったんです」
「アル、余計なことは言わなくていい」
先程とは打って変わって真剣な空気に私は固唾を飲む。
「それは、クロッセスもアルもペネも、私と同じ考えだってこと?」
震えるようなその声にクロッセスは大きく頷く。
「あの時神殿でセイナの発言を聞いた時、私たちと同じ考えを持っている人が来てくれたと少し感動した。今までの聖女はホルフマン家が説得をして有無も言わせず戦いに参加させていたみたいだから、今回セイナが彼らに楯突いてくれたことは、私たちにとっても大きな一歩だった」
アルもペネも同じように頷いている。
「だから、という訳ではありませんが、私たちにとってもセイナさんにはここにいて頂きたいんです。私たちは今聖女に頼らずとも魔物を討伐できる方法を探っています。セイナさんもそのつもりなら、ぜひ私たちに協力して頂きたい」
「僕はそんな理由でセイナのそばにいたいわけじゃないよ。セイナのそばは心地いいから」
どこか張りつめていた糸が緩んだ気がした。どれだけ明るい彼らを見ても拭えなかった不安が、胸の内から消えていく気がした。
何ひとつとして解決方法が見つかった訳では無いのに、仲間がいるという実感がようやく私の緊張の糸を解いた。
「えっ、どうして泣いてるの。セイナ」
ペネはそっと手を伸ばし私の目尻を指で拭った。
「泣かないで、どうしよう。兄さん」
ペネが慌てたように声を上げると、それに呼応するようにアルも声を上げる。
「ペネの発言がダメだったんだよ、魔力を泥水なんて言って、その泥水が心地いいからそばにいたいなんて」
「違うよ、セイナが泣いているのはアルがセイナを利用するみたいに言うから」
「私はそんなつもりじゃ」
喧嘩をする2人の声の中、左隣から白いハンカチが差し出された。そちらを見ればクロッセスがそっぽを向いていた。
「ありがとう」
ハンカチを受け取る。
「さあ、とっとと飯を食べてしまえ」
クロッセスに言われて私たちも大人しく食事を進める。羊肉のステーキにキャロットやビーンズを煮たものが添えられ、別の皿にはオムレツが美しい楕円を描いている。私はあの時食べそびれた卵をようやく口にした。
食事はもうとっくに冷めてしまっていたのだが、やけに胸の奥はポカポカとしていた。
「その、ずっと気になっていたんだけど、どうしてみんなは私のことをそんなに気遣ってくれるの?」
唐突な私の質問に3人の手がとまる。ずっと聞きたかったことだ。この国を助けてくれる聖女の邪魔をする女。普通なら皇子たちのように邪険に扱うはず。さっき宮殿から使いが来た時もとっとと渡してしまうのが普通。いつまでもこんな穀潰しを置いておくメリットはどこにもない。
「聖女を戦いから遠ざけようとする私に、もはやこの国では客としての価値すらない。逆賊や敵として殺されたって文句は言えないだろうし、ホルフマン家がやろうとしているように、操ったりして口を閉じさせるのが普通よ。バルシュミード家は公爵家なら皇子たちの言うことに大きく反発はできないはず。どうして私にここまでしてくれるの」
この世界に来て彼らの優しさに私はかなり心を許してしまった。しかし元の世界の経験から無償の愛などないと知っている。優しさなど幻でしかないと。
「話せば長くなる。初代聖女のことや100年前の前聖女の話もしなければいけなくなるから。だから、今端的に言うなら、そうだな」
クロッセスは私と同じようにフォークとナイフを置き、こちらに向き直った。
「私たちは聖女を利用した魔物討伐に反対している」
クロッセスの言葉に息が詰まった。アルもペネもクロッセスのように真剣な表情を向けている。この言葉が嘘では無いことをこの部屋の空気が教えてくれる。
「そのせいで国王からは公爵家だけど嫌われているし、兄さんは騎士団を辞めざるを得なかったんです」
「アル、余計なことは言わなくていい」
先程とは打って変わって真剣な空気に私は固唾を飲む。
「それは、クロッセスもアルもペネも、私と同じ考えだってこと?」
震えるようなその声にクロッセスは大きく頷く。
「あの時神殿でセイナの発言を聞いた時、私たちと同じ考えを持っている人が来てくれたと少し感動した。今までの聖女はホルフマン家が説得をして有無も言わせず戦いに参加させていたみたいだから、今回セイナが彼らに楯突いてくれたことは、私たちにとっても大きな一歩だった」
アルもペネも同じように頷いている。
「だから、という訳ではありませんが、私たちにとってもセイナさんにはここにいて頂きたいんです。私たちは今聖女に頼らずとも魔物を討伐できる方法を探っています。セイナさんもそのつもりなら、ぜひ私たちに協力して頂きたい」
「僕はそんな理由でセイナのそばにいたいわけじゃないよ。セイナのそばは心地いいから」
どこか張りつめていた糸が緩んだ気がした。どれだけ明るい彼らを見ても拭えなかった不安が、胸の内から消えていく気がした。
何ひとつとして解決方法が見つかった訳では無いのに、仲間がいるという実感がようやく私の緊張の糸を解いた。
「えっ、どうして泣いてるの。セイナ」
ペネはそっと手を伸ばし私の目尻を指で拭った。
「泣かないで、どうしよう。兄さん」
ペネが慌てたように声を上げると、それに呼応するようにアルも声を上げる。
「ペネの発言がダメだったんだよ、魔力を泥水なんて言って、その泥水が心地いいからそばにいたいなんて」
「違うよ、セイナが泣いているのはアルがセイナを利用するみたいに言うから」
「私はそんなつもりじゃ」
喧嘩をする2人の声の中、左隣から白いハンカチが差し出された。そちらを見ればクロッセスがそっぽを向いていた。
「ありがとう」
ハンカチを受け取る。
「さあ、とっとと飯を食べてしまえ」
クロッセスに言われて私たちも大人しく食事を進める。羊肉のステーキにキャロットやビーンズを煮たものが添えられ、別の皿にはオムレツが美しい楕円を描いている。私はあの時食べそびれた卵をようやく口にした。
食事はもうとっくに冷めてしまっていたのだが、やけに胸の奥はポカポカとしていた。
21
あなたにおすすめの小説
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!
未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます!
会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。
一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、
ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。
このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…?
人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、
魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。
聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、
魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。
魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、
冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく…
聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です!
完結まで書き終わってます。
※他のサイトにも連載してます
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる