妹が聖女に選ばれたが、私は巻き込まれただけ

世川 結輝

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16,バルシュミード家

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 少し和んだころ、私はナイフとフォークを置き座り直し意を決して口を開いた。
「その、ずっと気になっていたんだけど、どうしてみんなは私のことをそんなに気遣ってくれるの?」
 唐突な私の質問に3人の手がとまる。ずっと聞きたかったことだ。この国を助けてくれる聖女の邪魔をする女。普通なら皇子たちのように邪険に扱うはず。さっき宮殿から使いが来た時もとっとと渡してしまうのが普通。いつまでもこんな穀潰しを置いておくメリットはどこにもない。
「聖女を戦いから遠ざけようとする私に、もはやこの国では客としての価値すらない。逆賊や敵として殺されたって文句は言えないだろうし、ホルフマン家がやろうとしているように、操ったりして口を閉じさせるのが普通よ。バルシュミード家は公爵家なら皇子たちの言うことに大きく反発はできないはず。どうして私にここまでしてくれるの」

 この世界に来て彼らの優しさに私はかなり心を許してしまった。しかし元の世界の経験から無償の愛などないと知っている。優しさなど幻でしかないと。

「話せば長くなる。初代聖女のことや100年前の前聖女の話もしなければいけなくなるから。だから、今端的に言うなら、そうだな」
 クロッセスは私と同じようにフォークとナイフを置き、こちらに向き直った。
「私たちは聖女を利用した魔物討伐に反対している」
 クロッセスの言葉に息が詰まった。アルもペネもクロッセスのように真剣な表情を向けている。この言葉が嘘では無いことをこの部屋の空気が教えてくれる。
「そのせいで国王からは公爵家だけど嫌われているし、兄さんは騎士団を辞めざるを得なかったんです」
「アル、余計なことは言わなくていい」
 先程とは打って変わって真剣な空気に私は固唾を飲む。
「それは、クロッセスもアルもペネも、私と同じ考えだってこと?」
 震えるようなその声にクロッセスは大きく頷く。
「あの時神殿でセイナの発言を聞いた時、私たちと同じ考えを持っている人が来てくれたと少し感動した。今までの聖女はホルフマン家が説得をして有無も言わせず戦いに参加させていたみたいだから、今回セイナが彼らに楯突いてくれたことは、私たちにとっても大きな一歩だった」
 アルもペネも同じように頷いている。
「だから、という訳ではありませんが、私たちにとってもセイナさんにはここにいて頂きたいんです。私たちは今聖女に頼らずとも魔物を討伐できる方法を探っています。セイナさんもそのつもりなら、ぜひ私たちに協力して頂きたい」
「僕はそんな理由でセイナのそばにいたいわけじゃないよ。セイナのそばは心地いいから」
 どこか張りつめていた糸が緩んだ気がした。どれだけ明るい彼らを見ても拭えなかった不安が、胸の内から消えていく気がした。
 何ひとつとして解決方法が見つかった訳では無いのに、仲間がいるという実感がようやく私の緊張の糸を解いた。
「えっ、どうして泣いてるの。セイナ」
 ペネはそっと手を伸ばし私の目尻を指で拭った。
「泣かないで、どうしよう。兄さん」
 ペネが慌てたように声を上げると、それに呼応するようにアルも声を上げる。
「ペネの発言がダメだったんだよ、魔力を泥水なんて言って、その泥水が心地いいからそばにいたいなんて」
「違うよ、セイナが泣いているのはアルがセイナを利用するみたいに言うから」
「私はそんなつもりじゃ」
 喧嘩をする2人の声の中、左隣から白いハンカチが差し出された。そちらを見ればクロッセスがそっぽを向いていた。
「ありがとう」
 ハンカチを受け取る。
「さあ、とっとと飯を食べてしまえ」
 クロッセスに言われて私たちも大人しく食事を進める。羊肉のステーキにキャロットやビーンズを煮たものが添えられ、別の皿にはオムレツが美しい楕円を描いている。私はあの時食べそびれた卵をようやく口にした。
 食事はもうとっくに冷めてしまっていたのだが、やけに胸の奥はポカポカとしていた。
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