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クロッセスの話
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私は昔からこの国が憎かった。
両親は研究者で、魔物出現のメカニズムと、国宝『魔剣ティルフィング』の捜索と研究に尽力していた。両親の祖父から受け継いだその研究は、国の政策の根幹を否定するものだった。
本来魔物の討伐への犠牲は聖女1人でいい。しかもその聖女は大抵異世界におり、この国の国民ですらない。毎度の魔物襲来の度にホルフマンが操り、国を救わせる。我々バルシュミードもそれを黙認してきた。しかしそれに意を唱えたのが、私の祖父に当たる人だった。
彼から伝えられた魔剣の秘密や聖女の力についての本を読んだ時、私はこの国に嫌悪感を覚えた。
異世界の他人を聖女と崇めておきながら、本音では使い捨ての駒くらいにしか思っていない。その腐った性根の国に仕えることに耐えられなくなり、騎士団を抜けた。自主的に抜けなくても、国を貶める発言を繰り返す私は、多かれ少なかれ黒の騎士団長に追い出されていただろう。それは両親の死もあったからかもしれない。
両親の研究がいよいよという時に、研究所が原因不明の爆発で吹き飛んだ。両親はもちろん生きてはおらず、今までの研究も全てゼロになった。
ここまで汚いこの国は、その後すぐに聖女召喚の儀式の準備にかかった。
私は今すぐにでもこの国を抜けたかった。兄弟をみな連れて国から出ていきたかった。しかし、母親が語る聖女があまりにも可哀想だったのが胸に引っかかっていた。
「この聖女をすくってから」
そんな曖昧な誓いを胸に、私はこの国に残った。
立場が悪いままのバルシュミード家は、最近は雑務ばかりを押し付けられる。団の入団や学校の入学もどこかからの圧力がかかっていて一筋縄では行かないらしい。そのせいでアルーセスは学校を追い出されたし、トアセスは剣の腕を未だに認めて貰えず騎士団入団を見送られている。それに真っ先に気づいたペネセスは自分の魔法が利用されないようにと、魔道士団入団を蹴った。
自身の兄弟に不幸がのしかかっていくのを見て、私はもう国に屈してしまおうかと思ってしまった。
「この戦いは、あなたたちの国のものでしょう。私には、ましてや妹には一切関係ないわ。それにさっき仰りましたよね、聖女召喚が命懸けの術だって。さっき召喚された時神官らしき人はみなピンピンしていた。その代わり、部屋の隅の方に、みすぼらしい格好の人達が10数人倒れていた。あなた方は神官の代わりにあの方々の命を使い召喚したのでしょう。そんな命の使い方をされる方が、妹を救うだなんて信用に値しません。」
真っ直ぐな言葉だった。
優しさと思いやりを孕んだ言葉で、私が今まで言えなかったことだった。この国では力のないものが犠牲になる。そのことを黙認してきた私なんかとは違い、ここに来たばかりのこの女は魔力で脅されているにもかかわらず、啖呵を切ってみせた。
素直にかっこいいと思った。
直ぐに水晶でペネセスに連絡をとった。
「私たちの希望になり得る人が異世界から来た。私は彼女を連れ家に戻る。この神殿の片付けを頼んだ」
ペネセスがなにか文句を言っていた気がするが、気にせず通信を切る。
目の前の部屋から皇子たちが出ていく。そこに彼女の姿は無い。まだ部屋の中にいるのだ。できるだけ自然に、私は部屋に入った。
先程強気な発言をしていた女が目を腫らしていたのにはすこし驚いたが、その目にはまだ闘志と使命感が宿っていた。
「よければ私の屋敷にいらっしゃってください」
そう口にすることに迷いはなかった。
両親は研究者で、魔物出現のメカニズムと、国宝『魔剣ティルフィング』の捜索と研究に尽力していた。両親の祖父から受け継いだその研究は、国の政策の根幹を否定するものだった。
本来魔物の討伐への犠牲は聖女1人でいい。しかもその聖女は大抵異世界におり、この国の国民ですらない。毎度の魔物襲来の度にホルフマンが操り、国を救わせる。我々バルシュミードもそれを黙認してきた。しかしそれに意を唱えたのが、私の祖父に当たる人だった。
彼から伝えられた魔剣の秘密や聖女の力についての本を読んだ時、私はこの国に嫌悪感を覚えた。
異世界の他人を聖女と崇めておきながら、本音では使い捨ての駒くらいにしか思っていない。その腐った性根の国に仕えることに耐えられなくなり、騎士団を抜けた。自主的に抜けなくても、国を貶める発言を繰り返す私は、多かれ少なかれ黒の騎士団長に追い出されていただろう。それは両親の死もあったからかもしれない。
両親の研究がいよいよという時に、研究所が原因不明の爆発で吹き飛んだ。両親はもちろん生きてはおらず、今までの研究も全てゼロになった。
ここまで汚いこの国は、その後すぐに聖女召喚の儀式の準備にかかった。
私は今すぐにでもこの国を抜けたかった。兄弟をみな連れて国から出ていきたかった。しかし、母親が語る聖女があまりにも可哀想だったのが胸に引っかかっていた。
「この聖女をすくってから」
そんな曖昧な誓いを胸に、私はこの国に残った。
立場が悪いままのバルシュミード家は、最近は雑務ばかりを押し付けられる。団の入団や学校の入学もどこかからの圧力がかかっていて一筋縄では行かないらしい。そのせいでアルーセスは学校を追い出されたし、トアセスは剣の腕を未だに認めて貰えず騎士団入団を見送られている。それに真っ先に気づいたペネセスは自分の魔法が利用されないようにと、魔道士団入団を蹴った。
自身の兄弟に不幸がのしかかっていくのを見て、私はもう国に屈してしまおうかと思ってしまった。
「この戦いは、あなたたちの国のものでしょう。私には、ましてや妹には一切関係ないわ。それにさっき仰りましたよね、聖女召喚が命懸けの術だって。さっき召喚された時神官らしき人はみなピンピンしていた。その代わり、部屋の隅の方に、みすぼらしい格好の人達が10数人倒れていた。あなた方は神官の代わりにあの方々の命を使い召喚したのでしょう。そんな命の使い方をされる方が、妹を救うだなんて信用に値しません。」
真っ直ぐな言葉だった。
優しさと思いやりを孕んだ言葉で、私が今まで言えなかったことだった。この国では力のないものが犠牲になる。そのことを黙認してきた私なんかとは違い、ここに来たばかりのこの女は魔力で脅されているにもかかわらず、啖呵を切ってみせた。
素直にかっこいいと思った。
直ぐに水晶でペネセスに連絡をとった。
「私たちの希望になり得る人が異世界から来た。私は彼女を連れ家に戻る。この神殿の片付けを頼んだ」
ペネセスがなにか文句を言っていた気がするが、気にせず通信を切る。
目の前の部屋から皇子たちが出ていく。そこに彼女の姿は無い。まだ部屋の中にいるのだ。できるだけ自然に、私は部屋に入った。
先程強気な発言をしていた女が目を腫らしていたのにはすこし驚いたが、その目にはまだ闘志と使命感が宿っていた。
「よければ私の屋敷にいらっしゃってください」
そう口にすることに迷いはなかった。
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