妹が聖女に選ばれたが、私は巻き込まれただけ

世川 結輝

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19, 末っ子トアセス

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 つらつらと語られる事実に私は固唾を呑む。あまりにも多すぎる情報量を処理しきれないままペネは続けて語り出した。
「で、トアセスだけどあいつは黒騎士団に入りたがってる。そのために剣術学校も通ってるし」
「え、でもその団長とクロッセスは仲が良くないんじゃ」
 私の言葉に2人は大きく頷く。
「そ、あいつは12歳の時わけも分からず剣術学校を追い出されてる。今から3年前ね。その時は校長から授業態度や成績がどうのこうのって言われたけど、剣術だけなら兄弟一のトアセスが成績で落とされたなんて僕は信じられない。それはあいつも感じてたみたいで、そりゃこの家のせいって結論にもなると思う。僕もそう思うし」
「これも推論ですが、きっとダリアンが手を回したのだと思います。この事でトアセスと大喧嘩をし、彼は家を飛び出しました。成人前の子どもが実家を出ることは出来ないのでたまには帰ってきてますが、特にこの状況を作り出したクロッセス兄様のことは好きになれないのでしょうか、ここ最近会話をした様子さえ見たことがありません」
 アルは寂しそうに窓の外を見る。その様子が馬車の中でのクロッセスの様子に重なる。やはり彼らはよく似ている。

「それなら、今トアセスが通っているっていう剣術学校はどこなの?」
 私の空いたティーカップに新しい紅茶を注ぎながら、アルは答える。
「兄様の昔のご友人がやっているという剣術学校です。国が運営しているところに比べれば小さいですが、兄様が色々手を回して入学手続きをしてくれたみたいです。それに、黒騎士団に入団できるようにと犬猿の仲のはずのダリアン団長にも掛け合っているそうです」
「クロッセスはなんだかんだいいお兄ちゃんをしてるんだね」
 新しい紅茶に口をつけ私は笑って言った。2人の顔もほころんでいたように思う。

 それでも、お節介かもしれないが兄弟の仲が良くないことを私は少し寂しく思う。私と妹が絶賛喧嘩中だからだろうか、クロッセスにすごく同情してしまった。馬車での寂しげな様子が頭に浮かぶ。ここに置いてもらっているお礼に、トアセスと仲直りさせられたらというのは、それこそお節介なのだろうか。


 それに加えて私は涼奈を救い出すためのひとつの壁を知ることが出来た。黒騎士団長ダリアン・ワグナー。

「ダリアンの話だけど、王宮のこと、特に皇子のことに関与し始めたってことは、皇子が今主軸になって進めてる聖女の件もダリアンには大きな決定権があるってことだよね」
 真剣な面持ちの私に合わせて2人の顔も少し曇る。
「セイナさんが妹君を聖女にしたくないと言うなら、ダリアンは大きな障害になりえますね」

 長引いてしまったティータイムは、アルバートの食事の呼び出しによりお開きとなった。
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