21 / 39
20, 客
しおりを挟む
「仕事には慣れたか」
美しい所作で食事を口に運ぶクロッセスはこちらを一瞥し、そう尋ねる。普段から領地のことなど、公爵家の主としての対外的な仕事があるせいでなかなか家に居ないため、毎晩の夕食で必ず私の近況を尋ねてくれる。彼は本当に面倒見がよく優しい。
「まあまあかな、もう足を引っ張らない程度には慣れたと思うけど」
その優しさに報いるために始めたお手伝いは、最近実を結び始めたと自負している。今日に限っては長いティータイムが邪魔をしたが。
「セイナさんが手伝ってくださるようになってから随分仕事が捗っています。私の睡眠時間も確保できるようになりありがたい限りです」
アルがそう言えば、隣からペネが「僕のおかげでもある」と口を挟んだ。
「あなたはいつもセイナさんの邪魔をしているだけじゃないですか」
「そんなことない、今日も書類を3枚も片付けた」
「たった3枚でしょう、セイナさんは20枚終わらせてくださいましたよ」
「手伝ってやっただけ感謝しろ」
「本来は成人したもの皆でやる仕事なんですが!」
机を挟み喧嘩が始まった。1人上座に座ったクロッセスは素知らぬ顔で食事を進めている。私もそれに倣いお肉を口に運ぼうとした時、ナイフを握った手が大きく揺れる。右腕にペネがしがみついたのだ。
「ねえ、セイナ。僕今日も頑張ったよね」
瞳をうるませ上目遣いでこちらを見つめる姿はまるで子犬のようである。この子は自分の魅せ方をよく分かっているようだ。
「そうね。でも、もっとたくさんの書類を手伝ってくれたらペネと遊ぶ時間が増えて私は嬉しいのに」
私がそう言えば、ペネは少し俯き考えたあと大きく頷いた。
「分かった。明日からは2時間で仕事を終わらせて、その後はセイナと遊ぶ」
ペネがそういうのでアルの方に目をやれば、視線で私にありがとうと伝えていた。
「それよりも、今日も来たの?」
私が話を変えるためにそう尋ねると、3人の動きが止まった。そのうちのクロッセスがナイフとフォークを置き、ナプキンで口元を拭って話し出した。
「ああ、昼頃に。そうそうに帰ってもらったよ。また今回も同じ、セイナの引渡し命令だった。だが、今回は珍しく妹君の使いだったよ」
「そう」と私もナイフを置く。
ここ1週間毎日欠かさず王宮からの使いが来る。もちろん私の引渡しのためにである。聖女反対の聖女の姉と、聖女反対の公爵家が一緒にいるとなれば王宮も黙って見てはいないだろう。必死に私を連れ帰ろうとする。
彼らに捕まったとして、死なないとしても洗脳は免れない。それでも、
「私のことなど無視して、聖女の戦いなど始めればいいのでは? いつまでも私に構うなんて、時間の無駄でしょうに」
独り言に似たそのつぶやきにペネは頷く。
「そうだよ。いつまでもセイナに構って、宮殿は相当暇なんだろうね」
「お前ほどじゃないけどな」と、アルが小声で呟いたのをペネは聞き逃さなかった。
「アル、うるさい」
ペネがアルを睨みつけるのを横目にクロッセス口を開く。
「セイナの魔力を警戒してるんだろう。ホルフマン家の洗脳が効かなかったのなら警戒して当然だ。それに、聖女が魔力持ちならばその家族、少なくとも姉妹兄弟に同じような魔力があると考えるだろう」
「それは、私を戦に利用出来たらってこと?」
私は尋ねる。
「いや、そうではなく。第2の脅威にさせないためだろう。まあ、戦に連れて行きたいのもあるだろうが。洗脳が効かないのなら幽閉、監禁は覚悟した方がいい。最悪殺されるかもな」
クロッセスの言葉に背筋が凍る。まだ、私の考えは甘かったようだ。
美しい所作で食事を口に運ぶクロッセスはこちらを一瞥し、そう尋ねる。普段から領地のことなど、公爵家の主としての対外的な仕事があるせいでなかなか家に居ないため、毎晩の夕食で必ず私の近況を尋ねてくれる。彼は本当に面倒見がよく優しい。
「まあまあかな、もう足を引っ張らない程度には慣れたと思うけど」
その優しさに報いるために始めたお手伝いは、最近実を結び始めたと自負している。今日に限っては長いティータイムが邪魔をしたが。
「セイナさんが手伝ってくださるようになってから随分仕事が捗っています。私の睡眠時間も確保できるようになりありがたい限りです」
アルがそう言えば、隣からペネが「僕のおかげでもある」と口を挟んだ。
「あなたはいつもセイナさんの邪魔をしているだけじゃないですか」
「そんなことない、今日も書類を3枚も片付けた」
「たった3枚でしょう、セイナさんは20枚終わらせてくださいましたよ」
「手伝ってやっただけ感謝しろ」
「本来は成人したもの皆でやる仕事なんですが!」
机を挟み喧嘩が始まった。1人上座に座ったクロッセスは素知らぬ顔で食事を進めている。私もそれに倣いお肉を口に運ぼうとした時、ナイフを握った手が大きく揺れる。右腕にペネがしがみついたのだ。
「ねえ、セイナ。僕今日も頑張ったよね」
瞳をうるませ上目遣いでこちらを見つめる姿はまるで子犬のようである。この子は自分の魅せ方をよく分かっているようだ。
「そうね。でも、もっとたくさんの書類を手伝ってくれたらペネと遊ぶ時間が増えて私は嬉しいのに」
私がそう言えば、ペネは少し俯き考えたあと大きく頷いた。
「分かった。明日からは2時間で仕事を終わらせて、その後はセイナと遊ぶ」
ペネがそういうのでアルの方に目をやれば、視線で私にありがとうと伝えていた。
「それよりも、今日も来たの?」
私が話を変えるためにそう尋ねると、3人の動きが止まった。そのうちのクロッセスがナイフとフォークを置き、ナプキンで口元を拭って話し出した。
「ああ、昼頃に。そうそうに帰ってもらったよ。また今回も同じ、セイナの引渡し命令だった。だが、今回は珍しく妹君の使いだったよ」
「そう」と私もナイフを置く。
ここ1週間毎日欠かさず王宮からの使いが来る。もちろん私の引渡しのためにである。聖女反対の聖女の姉と、聖女反対の公爵家が一緒にいるとなれば王宮も黙って見てはいないだろう。必死に私を連れ帰ろうとする。
彼らに捕まったとして、死なないとしても洗脳は免れない。それでも、
「私のことなど無視して、聖女の戦いなど始めればいいのでは? いつまでも私に構うなんて、時間の無駄でしょうに」
独り言に似たそのつぶやきにペネは頷く。
「そうだよ。いつまでもセイナに構って、宮殿は相当暇なんだろうね」
「お前ほどじゃないけどな」と、アルが小声で呟いたのをペネは聞き逃さなかった。
「アル、うるさい」
ペネがアルを睨みつけるのを横目にクロッセス口を開く。
「セイナの魔力を警戒してるんだろう。ホルフマン家の洗脳が効かなかったのなら警戒して当然だ。それに、聖女が魔力持ちならばその家族、少なくとも姉妹兄弟に同じような魔力があると考えるだろう」
「それは、私を戦に利用出来たらってこと?」
私は尋ねる。
「いや、そうではなく。第2の脅威にさせないためだろう。まあ、戦に連れて行きたいのもあるだろうが。洗脳が効かないのなら幽閉、監禁は覚悟した方がいい。最悪殺されるかもな」
クロッセスの言葉に背筋が凍る。まだ、私の考えは甘かったようだ。
2
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!
未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます!
会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。
一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、
ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。
このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…?
人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、
魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。
聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、
魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。
魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、
冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく…
聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です!
完結まで書き終わってます。
※他のサイトにも連載してます
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる