妹が聖女に選ばれたが、私は巻き込まれただけ

世川 結輝

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ペネセスの話 前

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 いつものように国立図書館で魔導書を読み漁っていた時、うざったらしく水晶が光った。兄クロッセスからの連絡だった。

「私たちの希望になり得る人が異世界から来た。私は彼女を連れ家に戻る。この神殿の片付けを頼んだ」

 すごく腹立たしく勝手な物言いで無視をしてやろうかと思ったが、兄のあの嬉しそうな表情を見てその考えもどこかへ消えた。

 バルシュミード家はここ10数年立場が悪く、両親を失ってからは俺たちにこの国で居場所は無いと言ってもいい。トアセスは剣術学校の寮に閉じこもり、アルーセスは自宅で書類を片付けるだけ。僕も僕で国立図書館に引きこもっている。唯一クロッセス兄様が僕達兄弟が苦労せず生きていけるようにと、対外的な仕事を全て担ってくれている。
 そのせいか、兄様の顔に笑顔というものはその片鱗すら感じられなかった。いつも無表情で淡々としていて、たまに冷たい怒りが顔を出す。けれどそれを恐ろしいなどと感じることも無く、兄様は僕たちの前では変わらず優しい兄様だった。
 その兄様が希望になり得る人だと言うのなら、僕はそれを信じるしかない。

 読みかけの魔導書を棚に戻し、僕は神殿へ向かった。魔法を使えば10分もかからない。瞬間移動とまではいかないが、物体や生物を高速移動させる魔法を一ヶ月前に思いついた。

 神殿に着くとちょうど派手な馬車が神殿前に止まっていた。神殿から人が出てくる。皇子と宰相のメルスト、あと大嫌いな黒騎士団長ダリアン。そしてその後ろに見かけない女がでてきた。やけに能天気そうな顔で、知性の欠片も感じられない。だが、あの黒い髪と溢れ出る清らかな魔力。聖女であるのは明白だった。
 こいつらに見つかっては厄介だ。僕は藪の中に身を隠す。ついでに気配も絶った。
 能天気そうな聖女は王子にエスコートされながら馬車に乗り込む。乗り込む寸前、僅かに神殿を振り返った。その表情までは見えなかったが。

 数分もせず今度はクロッセス兄様がでてきた。その後ろにまたも見かけない女がいた。しかし、先程の間抜けな聖女と違って僕はその女性に目を引かれた。流れるチョコレート色の髪、背の高いクロッセス兄様と並んでも見劣りしないのはその仕草からか。
 それよりも目を惹かれたのは、その禍々しい魔力であった。

 僕が国立図書館に立てこもっているのにはもう1つ理由がある。
 禁術である 『死者の蘇生』について調べるためであった。今更死者を蘇生したいなどと馬鹿げたことは思わないが、その魔法の発動のために冥界の神ヘルの魔力が必要であると書いてあった。それは禍々しく泥水のようで人々を取り込んでしまうような魔力である。生まれてこのかた、そんな魔力に出会ったことは無かった。
 この魔法を調べることは両親の願いを叶えることにも繋がる。

 本で読んだだけの魔力をこの目で見た僕は、その事実にしばらく呆然とした。しかし、すぐに兄様のいう希望となり得る人があの女性だと気づく。

 なるほど、それならば僕は兄様の命令に従おう。あの女性のおかげできっとこれまでのバルシュミード家の苦労が報われる。

 そう確信した。
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