妹が聖女に選ばれたが、私は巻き込まれただけ

世川 結輝

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トアセスの話 後

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「は?」
 思わぬ不快な発言に思わず不機嫌な声が漏れた。
「あいつと俺が、一緒だって? バカ言うなよ」
「私は少なくともお前より賢いが?」
「論点そらすなよ、あいつと同じだなんで冗談でも虫唾が走る。あんな自分のことしか考えてないやつ」
「自分のことしか考えてないのはお前もだろ」
「はっ? 俺はお前たちのためにっ」
 アルーセスの言葉に思わず食ってかかってしまった。言わなくてもいいことまで言ってしまい、思わず口を閉ざせば、アルーセスは嬉しそうに笑っていた。
「でしょ、セイナさんも妹君のために頑張ってるんだ。それに、お前はそんなセイナさんの気持ちを考えれていないだろ?」
 口論ではアルーセスに勝てそうにない。
「争いごとでは、他者の思考を考えることを忘れる。特に正当性に関して、人は自分を疑うことをしない。しかしそれをしてしまえば、争いごとではすごく不利になることを忘れてはいけない。セイナさんのことをよく見て。果たして本当にお前が考えているような人かな」
 それだけ言うとアルーセスは部屋から出た。俺の頭にその言葉が渦をまく。
よく見る、とはどういうことか。

 謹慎が終わり鬱憤を晴らすため、山に行く。魔獣と手合わせしたり、剣を振ったり、走り回ったりしながらも、頭の中はごちゃ混ぜになっている。
 出会った瞬間あの女は、剣を避けることも無く、俺から逃げることも無く、ただ謝った。迷うことの無いそのスムーズな動作は、良く考えればあの女が俺と出会った時最初からそうするつもりだったのだとわかった。
 謝ったって仕方がない。謝って、それで俺たちの立場が良くなるのなら苦労しない。あの女が何を考えていようと、どういうやつであろうと、バルシュミード家にとって邪魔者なのは変わりない。

 「来るなら来なさい」
 ふと女の声が聞こえた。声の方へ走ると、あの女がいた。傍には魔獣グランドウルフの子供がいる。それを撫でながら、女は涙を流していた。
「申し訳ないことをしたな。ごめんね、トアセス」
 その姿にドクンと心臓が鳴った。
 今まで邪魔な人間としてしか認識していなかった女が涙を流す姿を見て、俺はこの女が普通の人であることに気づいた。自分でも何を言っているのか分からない。しかし、俺は今まで自分の敵である人達が涙を流したり胸を痛めたりする様を想像したことがなかった。考えても見なかったのだ。いつも俺の邪魔をする敵は365日24時間ずっと怖い顔で俺を憎んでいるのだと思っていたのだ。
 俺はこの時初めて、敵であろうと誰もが感情を持つ人であることに気づいた。こんな単純なことに今更気づいた。

「くそっ」
 混乱する頭を冷やすため、その場を急いで離れる。アルーセスの言っていたことはこういうことだったのだろう。俺は相手を人として見ていなかったのだ。
 だからといって、今更考えを変える気にもなれない。この家を守れるのは俺だけなのだ。

ドーンと、背後から大きな音がした。
「まさかっ」
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