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トアセスの話 前
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いちばん古い記憶は、燃え盛る研究所。幼いながらに、親が誰かから命を狙われていることを感じていたため、この事故は事件なのだと分かっていた。
「反省したか?」
アルーセスが独房に入ってきた。この独房は尋問用の部屋でもあり、身内に罰を与えるための部屋でもある。クロッセスが俺に与えた罰はこの部屋での48時間の謹慎。もちろん食事が運ばれてくることも無く、何も無い真っ暗な四角い部屋の中でただ座って過ごす。時間感覚すらおかしくなるこの部屋で、一般人が正気を保っていられるのはせいぜい一日。しかし訓練を積んだ俺には大した罰にはなりはしない。
アルーセスが入ってきたのはだいたい30時間たったあたりだった。手には水の入ったコップを持っていた。冷徹で容赦のないクロッセスやペネ兄と違って、アルーセスは他人に甘い。それはまともな訓練を受けていない自身の才能のなさを基準に物事を見ているためで、きっと今頃俺が独房で苦しんでいるとでも思っていたのだろう。
両親が死んだあとも、いちばん面倒を見てくれたのはアルーセスだった。それでも戦うことをやめた弱虫なこいつを、俺はクロッセス同様、兄だと思えない。
「お前の気持ちもわかるが、突然斬りかかるのはどうかと思う。一応セイナさんは客人なんだ。」
そう言って目の前にコップを置いた。
「いらねぇよ、んなもの」
「そうか」
アルーセスは少し寂しげに顔を歪めるが、コップを下げるつもりは無いらしい。
「......クロッセスにおこられるぞ」
俺の言葉に「別にいい」と呟き、隣に腰を下ろす。
「学校はどうだった?」
「別に、普通」
「そうか」
沈黙が流れる。
「あと1年ほどで卒業していいって。騎士団に入れるかは分からないけど」
「大丈夫だよ。きっと入れる」
アルーセスはそう言って微笑む。
「トアは俺たちの中でいちばん才能があるんだ」
「ペネ兄には負けるけど」
「あいつは違うよ。才能より変人ぶりが勝る。それに比べてトアは優秀だ。勉強だけの私とは違う」
「当たり前だ」
俺が言うとアルーセスは悲しそうに笑う。自分で言って自分で傷ついてりゃ世話ない。
「俺が騎士団に入って活躍すれば、この家の事をバカにするやつはいなくなる。団長にでもなれば、王だってこの家に手出し出来なくなる。俺が強くなれば、......もうあんなこと起きない」
幼かった俺はあの事件が起きた時、ただ泣きじゃくるだけしかできなかった。失っていくのを見ているだけしかできなかった。
抗わなければ、奪われるのはこちらだ。戦わなければ、何も取り返せない。
俺はあの時奪われたものを取り返す。そして今度こそ守ると決めた。
アルーセスは「そうか」と小さく漏らし、俺に向き直る。
「お前のその気持ちと同じだと思うよ、セイナさんは」
「は?」
「反省したか?」
アルーセスが独房に入ってきた。この独房は尋問用の部屋でもあり、身内に罰を与えるための部屋でもある。クロッセスが俺に与えた罰はこの部屋での48時間の謹慎。もちろん食事が運ばれてくることも無く、何も無い真っ暗な四角い部屋の中でただ座って過ごす。時間感覚すらおかしくなるこの部屋で、一般人が正気を保っていられるのはせいぜい一日。しかし訓練を積んだ俺には大した罰にはなりはしない。
アルーセスが入ってきたのはだいたい30時間たったあたりだった。手には水の入ったコップを持っていた。冷徹で容赦のないクロッセスやペネ兄と違って、アルーセスは他人に甘い。それはまともな訓練を受けていない自身の才能のなさを基準に物事を見ているためで、きっと今頃俺が独房で苦しんでいるとでも思っていたのだろう。
両親が死んだあとも、いちばん面倒を見てくれたのはアルーセスだった。それでも戦うことをやめた弱虫なこいつを、俺はクロッセス同様、兄だと思えない。
「お前の気持ちもわかるが、突然斬りかかるのはどうかと思う。一応セイナさんは客人なんだ。」
そう言って目の前にコップを置いた。
「いらねぇよ、んなもの」
「そうか」
アルーセスは少し寂しげに顔を歪めるが、コップを下げるつもりは無いらしい。
「......クロッセスにおこられるぞ」
俺の言葉に「別にいい」と呟き、隣に腰を下ろす。
「学校はどうだった?」
「別に、普通」
「そうか」
沈黙が流れる。
「あと1年ほどで卒業していいって。騎士団に入れるかは分からないけど」
「大丈夫だよ。きっと入れる」
アルーセスはそう言って微笑む。
「トアは俺たちの中でいちばん才能があるんだ」
「ペネ兄には負けるけど」
「あいつは違うよ。才能より変人ぶりが勝る。それに比べてトアは優秀だ。勉強だけの私とは違う」
「当たり前だ」
俺が言うとアルーセスは悲しそうに笑う。自分で言って自分で傷ついてりゃ世話ない。
「俺が騎士団に入って活躍すれば、この家の事をバカにするやつはいなくなる。団長にでもなれば、王だってこの家に手出し出来なくなる。俺が強くなれば、......もうあんなこと起きない」
幼かった俺はあの事件が起きた時、ただ泣きじゃくるだけしかできなかった。失っていくのを見ているだけしかできなかった。
抗わなければ、奪われるのはこちらだ。戦わなければ、何も取り返せない。
俺はあの時奪われたものを取り返す。そして今度こそ守ると決めた。
アルーセスは「そうか」と小さく漏らし、俺に向き直る。
「お前のその気持ちと同じだと思うよ、セイナさんは」
「は?」
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