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第八章 ゴーレムライダー誕生
アグルム会戦(後)
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リスティア軍の侵攻を受けたパトリア軍約四千はヴェトス元帥の指揮の下、アグルム平原で絶望的な迎撃を続けていた。
ゴーレム大隊のウルフファングは、じりじりと後退しつつ敵ゴーレムに少しずつダメージを与えてゆく。それは遅延戦術という時間稼ぎであった。
その為に国内最大の穀倉地帯はゴーレムに踏みにじられ、今年はもちろん十年は満足に収穫できなくなった。
山岳地帯に誘い込みたいが、敵の狙いが王都である以上、針路上で向かえ撃つしかない。そして町や村を破壊されないで済む場所は限られていた。
侵略は国土を荒廃させる。たとえ敵を撃退しようが、住民を避難させようが、その後に来る飢饉から国民を救う術は無い。
それでもパトリア軍の将兵は奮戦した。
併合された北部の民がどれだけ悲惨な境遇にあるかを知っているから。
少しでも有利な状況で講和を結ぶべく、少しでも将来親族が受ける苦しみを減らすべく、持てる力を振り絞って戦った。
パトリア軍のゴーレム大隊は、足下が枯れ草になると向きを変えて早足で後退し始めた。
それを見たアニポノス将軍は突撃を命じる。参謀の制止を聞かずに。
ボアヘッドの群れが枯れ草地帯に入るや、パトリア軍の精霊士が次々とサラマンダーを放った。たちまち枯れ草に火が回り、ボアヘッドの足下が燃え上がる。炎を物ともせずゴーレムは進む。
「これは不味いです」
渋面になったキニロギキ参謀をアニポノス将軍は笑い飛ばした。
「あんな炎、ゴーレムに通じるものか」
しかしその下の地面、たっぷり水を吸わせた泥濘を凍らせていた冷気を払うには十分だった。
畑地を犠牲にして作った泥濘にボアヘッド隊は填まった。膝まで沈んで足が抜けなくなる。
中央の二十基を除いて。
パトリア軍は中央部に元の地面を残していたのだ。
他が止まったので突出した二十基に、ウルフファングが突撃してきた。後退時点で中央に寄っていたので、五十基全てが襲いかかる。
数的優位は今、パトリア軍にあった。
小隊先頭の重装甲型ボアヘッドをウルフファングの一基が抑えている間に、脇を通過したウルフファングが支援型に襲いかかる。
戦槌を持たぬ支援型ボアヘッドは投槍で突くが盾に阻まれる。
ウルフファングが戦槌を振り下ろした。
左腕に付けた円盾で防げた支援型ボアヘッドは少数。その少数も左腕を盾ごとへし折られた。
防御できなかった支援型ボアヘッドは、薄い鎧を一撃で叩き割られ、胴体に深々と戦槌を打ち込まれた。多くは初撃で内部の核を砕かれ、土塊と化して崩れた。
残った支援型も二合目で次々と撃破された。
通常型ボアヘッドはウルフファングに遅れを取り、大半が初撃で盾を失い押し込まれている。
支援型を片付けたウルフファングが、味方が抑えている重装甲型ボアヘッドを背後から攻撃した。鎧は胸部が一番厚く、背中は薄い。後方からの攻撃は防ぎようがなく、重装甲型も次々破壊された。
残る通常型も複数にかかられてはひとたまりもない。ろくに抵抗もできず、土塊と化す。
戦槌が振られる度に金属音が響き、火花と土塊がまき散らされた。
突出したボアヘッド二十基はたちまち全滅した。
さらに泥濘に填まったボアヘッドに、隠れていた大型弩が正面から一斉に矢を放った。動かせぬ足を狙われ、膝を砕かれるボアヘッドが続出した。
投槍で反撃したが、足が動かない状態では正確に当てられず、残っていた二本の投槍は一本も当たらず終わった。泥濘には投げられる石も無く、ボアヘッドの手は泥しかすくえなかった。
攻勢から一転守勢となり、自軍のゴーレムが次々と破壊されるのでアニポノス将軍は動転した。
「何をやっている!? 騎兵を出して弩を破壊させろ!!」
「お待ちください! 騎兵は敵ゴーレムコマンダー急襲の切り札です!」
しかし参謀の反対は無視された。
やっと出番だと勇んで出撃した騎兵だが、泥濘は馬の足も止めてしまう。
仕方ないので大きく迂回した先には、左右に離れて配置されていたパトリア軍歩兵が槍衾を敷いて待ち構えていた。攻めあぐねて足が止まったリスティア騎兵に矢が雨のように降りかかり、あっという間に十数騎が射落とされた。
「撤退だ! 撤退しろ!!」
リスティア騎兵が馬首を巡らして逃げる間にさらに斉射を受け、二十騎あまりが脱落した。
「なぜだ!? 敵のシルフは封じているのに、どうして連携できる!?」
将軍に怒鳴られた精霊士長は、ひたすら頭を下げるだけだ。グラン・シルフを使っているのは自分らではないので、敵のシルフの動向が分からないのだ。
見かねてキニロギキ参謀が将軍をなだめる。
「予め兵を配置して、敵が来たら迎撃しろと指示をしておけばできる対応です」
暗に「敵の作戦通りにあんたは踊らされたんだ」と言っているのだが、当人は気付かなかった。
「ですので不意打ちはできても、状況の変化に柔軟に対応できないでしょう」
「で、どうやって状況を変化させるのだ? おい、どうにかしろ!」
命じられるまでもなく、部下たちは状況打開を必死で考えている。
ただ、怒鳴り散らす指揮官に意見具申するのがためらわれていた。
参謀は仕方なく、ゴーレム連隊長に耳打ちして、彼から具申させた。アニポノス将軍が知らない、ゴーレムの専門家なので話は聞くだろうから。
この狙いは当たって将軍は連隊長の意見を採用、ただちに下命した。
そしてゴーレムコマンダーたちに指示が出る。
ボアヘッドは小隊単位で動いた。先頭の重装甲型がうつ伏せになって泥濘に寝転ぶ。その上を通常型が踏み越え、その先にうつ伏せる。三番基である支援型が弩に損害を受けつつも二基を踏み越え、その先でうつ伏せる。そして起きあがった重装甲型が、前の二基を踏み越え泥濘を突破した。
それを待ち構えていたウルフファングが迎撃する。重装甲型とはいえ、複数にかかられると腕を落とされ、膝を砕かれ、倒れた所を袋だたきにされ撃破された。
だが重装甲型が次々と泥濘を抜け出すとウルフファングが包囲しきれず、撃破に時間がかかる。
そうこうしているうちに通常型ボアヘッドも泥濘を抜け出し始めた。
潮時と見たパトリア軍のヴェトス元帥は全軍後退を命じた。本陣で狼煙があがり、各所でホルンが吹き鳴らされる。
予定していた行動なのでパトリア軍の後退は迅速だった。
リスティア軍は追撃に使うべき騎兵が先程の損害からまだ立ち直っていない。さらに敵の騎兵は温存されていたので、後退を指を咥えて見ているしかなかった。
おまけにゴーレムの半数がまだ泥濘に填まっているので、その日はそれ以上前進しようがなかった。
こうしてアグルム平原で行われた戦闘は、両軍とも決定的な勝利を得る事なく夕刻前に終結した。
א
椅子に座ってワインをあおるアニポノス将軍に、キニロギキ参謀は淡々と損害報告をする。
「ゴーレムの損害ですが、撃破二十五、大破十四、中破二十、小破十九です。重装甲型の損耗が激しいですね。鎧は融通できても盾が足りません」
「大破と中破の違いはなんだ?」
とアニポノス将軍は初心者レベルの質問をして参謀を呆れさせた。
「大破は動けない状態です。修理に時間がかかります」
「あんなもの、泥を付ければすぐ直るだろ?」
「応急修理なら。しかしそれでは強度と力が不十分となり、次の戦闘で十分に力を発揮できません」
「で、どれくらいかかる?」
「ノームがやるので夜通し作業はできます。明朝なら出撃できます」
「ならさっさとやらせろ!」
「はい。ですが、この場で野営する事になりますがよろしいですか? この平地は騎兵が駆けるのに絶好です。今宵の騎士団による夜襲は熾烈かと」
ワインで赤らんでいた将軍の顔が青ざめた。昨夜の恐怖が蘇ったのだ。
「作業するノームだけを残して、他は引き上げる」
「敵のノームに妨害されたら修理ができなくなります」
「ゴーレムに守らせれば済む」
「ゴーレムは地面の下のノームには手は出せません。作業を妨げるノームは七倍級を扱える必用は無いので、民間の土精使いを動員すれば人海戦術ならぬ精霊海戦術をとれます」
「それを防ぐだけの精霊士と兵力を残せ」
「分散配置すれば各個撃破されます」
「どうしろと言うのだ!?」
怒る将軍に「それを決めるのがあんただ」と言いたい衝動を堪えて参謀は説明する。
「大破したゴーレムを修理するには、全軍この場で野営するしかありません。また、移動するなら動けないゴーレム十四基は放棄しなければなりません。そうなりますと我が軍の損失はゴーレム三十九基、およそ四分の一を失い残り百十一基となります」
全身を戦慄かせた将軍は、指揮杖でテーブルを叩き割った。
「おのれ小娘!! この恨み、我が足下に平伏させる事で晴らしてくれるわ!」
アニポノス将軍の怒りは、敵に与えた損害を無視する程激しかった。
何しろ王都一番乗りの手柄が、西から侵攻した第二軍団に奪われる事が確定したのだから。
א
パトリア軍四千は夕焼け空の下、整然と後退をしていた。
「貴様ら、良く働いたな! 敵に痛烈な打撃を与えてやったぞ!」
鼓舞するヴェトス元帥の声とは裏腹に、将兵たちの顔は暗い。
兵の損害は少なかった。それは戦闘のほとんどをゴーレムが行ったからである。
そのゴーレムの損害が大きかった事が、味方の士気を下げていた。
撃破されたウルフファングは三基に留まったものの、移動できなくなり遺棄した基が九にもなった。核を取り出せたのが救いだが、五十基中十二基を失っては大幅な戦力減は否めない。その上さらに戦力を割かねばならないのだ。
表面上は明るく振る舞うヴェトス元帥は、内心で嘆いていた。
(五十、せめて四十は削りたかった)
どれだけ大破させたところで、ゴーレムは一晩あれば復活してしまう。
泥濘があれほど早く突破されたのは誤算だった。
この先、王都までは最終防衛線となるソロス川しか阻止地点は無い。
(あとは、騎士団がどれだけ敵の精神を削れるか、か)
それでも正面の敵は、王国の主力が迎え撃てたからまだ良い。
問題は西から来る別動隊だ。
その存在はまだ将兵たちには知らせていない。知られたら士気が崩壊してしまう。
王宮精霊士室長と予備兵力の精霊士が向かったが、敵が間抜けで山岳地帯に入りこんでくれない限り戦果は期待できない。
敵の前進を阻んで稼いだこの貴重な時間を利用して、ゴーレムの一部を迎撃に向かわせるしかない。
それは「戦力の分散」という最悪の戦術である。その間に敵がソロス川を渡りだしたら、支えきれず突破されてしまう。
だが他に手段は無かった。
油断している別動隊に奇襲をかけ、短時間で撃滅、すぐさまゴーレムをソロス川に戻す。それまでに敵が渡河を始めなければ、守り切れる目はある。
最早作戦ではなく博打である。しかも奇蹟を当てにした。
それでも実行するしかない。
最悪の博打をしなければ守れないほど、パトリア王国は追い詰められているのだった。
א
アグルム平原の戦いは、両軍とも敵に十分な損害を与えられなかったうえに、自軍の損害が予想以上だったので、ともに負け戦として記憶された。
ゴーレム大隊のウルフファングは、じりじりと後退しつつ敵ゴーレムに少しずつダメージを与えてゆく。それは遅延戦術という時間稼ぎであった。
その為に国内最大の穀倉地帯はゴーレムに踏みにじられ、今年はもちろん十年は満足に収穫できなくなった。
山岳地帯に誘い込みたいが、敵の狙いが王都である以上、針路上で向かえ撃つしかない。そして町や村を破壊されないで済む場所は限られていた。
侵略は国土を荒廃させる。たとえ敵を撃退しようが、住民を避難させようが、その後に来る飢饉から国民を救う術は無い。
それでもパトリア軍の将兵は奮戦した。
併合された北部の民がどれだけ悲惨な境遇にあるかを知っているから。
少しでも有利な状況で講和を結ぶべく、少しでも将来親族が受ける苦しみを減らすべく、持てる力を振り絞って戦った。
パトリア軍のゴーレム大隊は、足下が枯れ草になると向きを変えて早足で後退し始めた。
それを見たアニポノス将軍は突撃を命じる。参謀の制止を聞かずに。
ボアヘッドの群れが枯れ草地帯に入るや、パトリア軍の精霊士が次々とサラマンダーを放った。たちまち枯れ草に火が回り、ボアヘッドの足下が燃え上がる。炎を物ともせずゴーレムは進む。
「これは不味いです」
渋面になったキニロギキ参謀をアニポノス将軍は笑い飛ばした。
「あんな炎、ゴーレムに通じるものか」
しかしその下の地面、たっぷり水を吸わせた泥濘を凍らせていた冷気を払うには十分だった。
畑地を犠牲にして作った泥濘にボアヘッド隊は填まった。膝まで沈んで足が抜けなくなる。
中央の二十基を除いて。
パトリア軍は中央部に元の地面を残していたのだ。
他が止まったので突出した二十基に、ウルフファングが突撃してきた。後退時点で中央に寄っていたので、五十基全てが襲いかかる。
数的優位は今、パトリア軍にあった。
小隊先頭の重装甲型ボアヘッドをウルフファングの一基が抑えている間に、脇を通過したウルフファングが支援型に襲いかかる。
戦槌を持たぬ支援型ボアヘッドは投槍で突くが盾に阻まれる。
ウルフファングが戦槌を振り下ろした。
左腕に付けた円盾で防げた支援型ボアヘッドは少数。その少数も左腕を盾ごとへし折られた。
防御できなかった支援型ボアヘッドは、薄い鎧を一撃で叩き割られ、胴体に深々と戦槌を打ち込まれた。多くは初撃で内部の核を砕かれ、土塊と化して崩れた。
残った支援型も二合目で次々と撃破された。
通常型ボアヘッドはウルフファングに遅れを取り、大半が初撃で盾を失い押し込まれている。
支援型を片付けたウルフファングが、味方が抑えている重装甲型ボアヘッドを背後から攻撃した。鎧は胸部が一番厚く、背中は薄い。後方からの攻撃は防ぎようがなく、重装甲型も次々破壊された。
残る通常型も複数にかかられてはひとたまりもない。ろくに抵抗もできず、土塊と化す。
戦槌が振られる度に金属音が響き、火花と土塊がまき散らされた。
突出したボアヘッド二十基はたちまち全滅した。
さらに泥濘に填まったボアヘッドに、隠れていた大型弩が正面から一斉に矢を放った。動かせぬ足を狙われ、膝を砕かれるボアヘッドが続出した。
投槍で反撃したが、足が動かない状態では正確に当てられず、残っていた二本の投槍は一本も当たらず終わった。泥濘には投げられる石も無く、ボアヘッドの手は泥しかすくえなかった。
攻勢から一転守勢となり、自軍のゴーレムが次々と破壊されるのでアニポノス将軍は動転した。
「何をやっている!? 騎兵を出して弩を破壊させろ!!」
「お待ちください! 騎兵は敵ゴーレムコマンダー急襲の切り札です!」
しかし参謀の反対は無視された。
やっと出番だと勇んで出撃した騎兵だが、泥濘は馬の足も止めてしまう。
仕方ないので大きく迂回した先には、左右に離れて配置されていたパトリア軍歩兵が槍衾を敷いて待ち構えていた。攻めあぐねて足が止まったリスティア騎兵に矢が雨のように降りかかり、あっという間に十数騎が射落とされた。
「撤退だ! 撤退しろ!!」
リスティア騎兵が馬首を巡らして逃げる間にさらに斉射を受け、二十騎あまりが脱落した。
「なぜだ!? 敵のシルフは封じているのに、どうして連携できる!?」
将軍に怒鳴られた精霊士長は、ひたすら頭を下げるだけだ。グラン・シルフを使っているのは自分らではないので、敵のシルフの動向が分からないのだ。
見かねてキニロギキ参謀が将軍をなだめる。
「予め兵を配置して、敵が来たら迎撃しろと指示をしておけばできる対応です」
暗に「敵の作戦通りにあんたは踊らされたんだ」と言っているのだが、当人は気付かなかった。
「ですので不意打ちはできても、状況の変化に柔軟に対応できないでしょう」
「で、どうやって状況を変化させるのだ? おい、どうにかしろ!」
命じられるまでもなく、部下たちは状況打開を必死で考えている。
ただ、怒鳴り散らす指揮官に意見具申するのがためらわれていた。
参謀は仕方なく、ゴーレム連隊長に耳打ちして、彼から具申させた。アニポノス将軍が知らない、ゴーレムの専門家なので話は聞くだろうから。
この狙いは当たって将軍は連隊長の意見を採用、ただちに下命した。
そしてゴーレムコマンダーたちに指示が出る。
ボアヘッドは小隊単位で動いた。先頭の重装甲型がうつ伏せになって泥濘に寝転ぶ。その上を通常型が踏み越え、その先にうつ伏せる。三番基である支援型が弩に損害を受けつつも二基を踏み越え、その先でうつ伏せる。そして起きあがった重装甲型が、前の二基を踏み越え泥濘を突破した。
それを待ち構えていたウルフファングが迎撃する。重装甲型とはいえ、複数にかかられると腕を落とされ、膝を砕かれ、倒れた所を袋だたきにされ撃破された。
だが重装甲型が次々と泥濘を抜け出すとウルフファングが包囲しきれず、撃破に時間がかかる。
そうこうしているうちに通常型ボアヘッドも泥濘を抜け出し始めた。
潮時と見たパトリア軍のヴェトス元帥は全軍後退を命じた。本陣で狼煙があがり、各所でホルンが吹き鳴らされる。
予定していた行動なのでパトリア軍の後退は迅速だった。
リスティア軍は追撃に使うべき騎兵が先程の損害からまだ立ち直っていない。さらに敵の騎兵は温存されていたので、後退を指を咥えて見ているしかなかった。
おまけにゴーレムの半数がまだ泥濘に填まっているので、その日はそれ以上前進しようがなかった。
こうしてアグルム平原で行われた戦闘は、両軍とも決定的な勝利を得る事なく夕刻前に終結した。
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椅子に座ってワインをあおるアニポノス将軍に、キニロギキ参謀は淡々と損害報告をする。
「ゴーレムの損害ですが、撃破二十五、大破十四、中破二十、小破十九です。重装甲型の損耗が激しいですね。鎧は融通できても盾が足りません」
「大破と中破の違いはなんだ?」
とアニポノス将軍は初心者レベルの質問をして参謀を呆れさせた。
「大破は動けない状態です。修理に時間がかかります」
「あんなもの、泥を付ければすぐ直るだろ?」
「応急修理なら。しかしそれでは強度と力が不十分となり、次の戦闘で十分に力を発揮できません」
「で、どれくらいかかる?」
「ノームがやるので夜通し作業はできます。明朝なら出撃できます」
「ならさっさとやらせろ!」
「はい。ですが、この場で野営する事になりますがよろしいですか? この平地は騎兵が駆けるのに絶好です。今宵の騎士団による夜襲は熾烈かと」
ワインで赤らんでいた将軍の顔が青ざめた。昨夜の恐怖が蘇ったのだ。
「作業するノームだけを残して、他は引き上げる」
「敵のノームに妨害されたら修理ができなくなります」
「ゴーレムに守らせれば済む」
「ゴーレムは地面の下のノームには手は出せません。作業を妨げるノームは七倍級を扱える必用は無いので、民間の土精使いを動員すれば人海戦術ならぬ精霊海戦術をとれます」
「それを防ぐだけの精霊士と兵力を残せ」
「分散配置すれば各個撃破されます」
「どうしろと言うのだ!?」
怒る将軍に「それを決めるのがあんただ」と言いたい衝動を堪えて参謀は説明する。
「大破したゴーレムを修理するには、全軍この場で野営するしかありません。また、移動するなら動けないゴーレム十四基は放棄しなければなりません。そうなりますと我が軍の損失はゴーレム三十九基、およそ四分の一を失い残り百十一基となります」
全身を戦慄かせた将軍は、指揮杖でテーブルを叩き割った。
「おのれ小娘!! この恨み、我が足下に平伏させる事で晴らしてくれるわ!」
アニポノス将軍の怒りは、敵に与えた損害を無視する程激しかった。
何しろ王都一番乗りの手柄が、西から侵攻した第二軍団に奪われる事が確定したのだから。
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パトリア軍四千は夕焼け空の下、整然と後退をしていた。
「貴様ら、良く働いたな! 敵に痛烈な打撃を与えてやったぞ!」
鼓舞するヴェトス元帥の声とは裏腹に、将兵たちの顔は暗い。
兵の損害は少なかった。それは戦闘のほとんどをゴーレムが行ったからである。
そのゴーレムの損害が大きかった事が、味方の士気を下げていた。
撃破されたウルフファングは三基に留まったものの、移動できなくなり遺棄した基が九にもなった。核を取り出せたのが救いだが、五十基中十二基を失っては大幅な戦力減は否めない。その上さらに戦力を割かねばならないのだ。
表面上は明るく振る舞うヴェトス元帥は、内心で嘆いていた。
(五十、せめて四十は削りたかった)
どれだけ大破させたところで、ゴーレムは一晩あれば復活してしまう。
泥濘があれほど早く突破されたのは誤算だった。
この先、王都までは最終防衛線となるソロス川しか阻止地点は無い。
(あとは、騎士団がどれだけ敵の精神を削れるか、か)
それでも正面の敵は、王国の主力が迎え撃てたからまだ良い。
問題は西から来る別動隊だ。
その存在はまだ将兵たちには知らせていない。知られたら士気が崩壊してしまう。
王宮精霊士室長と予備兵力の精霊士が向かったが、敵が間抜けで山岳地帯に入りこんでくれない限り戦果は期待できない。
敵の前進を阻んで稼いだこの貴重な時間を利用して、ゴーレムの一部を迎撃に向かわせるしかない。
それは「戦力の分散」という最悪の戦術である。その間に敵がソロス川を渡りだしたら、支えきれず突破されてしまう。
だが他に手段は無かった。
油断している別動隊に奇襲をかけ、短時間で撃滅、すぐさまゴーレムをソロス川に戻す。それまでに敵が渡河を始めなければ、守り切れる目はある。
最早作戦ではなく博打である。しかも奇蹟を当てにした。
それでも実行するしかない。
最悪の博打をしなければ守れないほど、パトリア王国は追い詰められているのだった。
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アグルム平原の戦いは、両軍とも敵に十分な損害を与えられなかったうえに、自軍の損害が予想以上だったので、ともに負け戦として記憶された。
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