一基当千ゴーレムライダー ~十年かけても動かせないので自分で操縦します~

葵東

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第八章 ゴーレムライダー誕生

アグルム会戦(前)

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 パトリア王国への侵略も、リスティア大王国の論法では正義の征伐である。
 先鋒の第一軍団はゴーレム連隊百五十基、騎兵歩兵など随伴兵五千弱を擁する。率いるアニポノス将軍は五十三歳、ガッシリした体格で四角い頭に黒い短髪、四角い顎に黒い髭、装備も黒を基調に赤と金で飾り、見た目は猛将風である。
 彼は勝利を確信して会戦の場に臨んだ。
 場所はパトリア王国北部の畑作地帯、地図ではアグルム平原とある。一面の平地に木立が点在するだけなので、一目で見渡せる。伏兵の心配はない。
 パトリア軍は平地の南方中央付近に陣を敷いていた。ゴーレムは大隊規模五十基。情報によれば、これがこの国が保有する戦闘ゴーレムの全てだ。
 パトリア軍のゴーレムは口を開けたオオカミのデザインの兜で、公称ウルフファング。他国もそう呼んでいるのがアニポノス将軍には不満だ。自軍のオーガヘッドは他国からはボアヘッドと蔑まれているのに。
「敵は、騎兵が少なく、中央はゴーレム、その後ろが本陣です。歩兵が左右に離れている点が気になります」
 将軍の隣でキニロギキ参謀が聞こえよがしに言う。痩せた中年男で、眼鏡などをかけている。
「雑魚に構う必用はない。ゴーレムによって中央を突破すれば勝てる」
「昨夜の夜襲は猛烈でしたな。騎士団をあんな形で使ってくるとは予想外でした」
「何の話だ?」
「敵将はヴェトス元帥でしょう。敵は旗印を立てませんので、確証はありませんが」
 痩せた参謀は頭上を見上げた。アニポノス将軍の旗印が風にたなびいている。
「将たる者、名乗りを上げんでどうする」
「正攻法で勝てぬと分かっているので、奇策を用いてきています。くれぐれも油断はなされないよう」
「分かっておるわ」
 口うるさい参謀に将軍は苛立った。

 正午前、アニポノス将軍が指揮杖を振った。
 リスティア軍のゴーレムボアヘッド百五十基が、地響きを立てて一斉に前進を始めた。
 戦闘開始である。
 呼応してパトリア軍のゴーレムウルフファング五十基も土煙を巻き起こして前進する。
 リスティア軍ボアヘッド三基一個小隊を、パトリア軍は一基のウルフファングが迎撃する形で散開させている。
 リスティア軍小隊は重装甲型を一番基として先頭に立て、後方の右翼二番基を通常型、左翼三番基を支援型に割り振っている。
 一方パトリア軍のウルフファングは全て同じ装備である。見た目も防御力も重装甲型だが、鋼の鍛造技術によって鎧は軽く作られており、ボアヘッド通常型と同程度の機動力を有していた。
 互い接近するに連れ、互いの地鳴りが重なり合う。
 両者が激突する寸前、リスティアの支援型ボアヘッドが足を止めた。他と違って武器は投槍だ。盾は持たず、小さな円盾を左前腕に付けている。
 槍を持つ右手を後ろに引き、上手うわてで投げつけた。これが最初の攻撃である。
 鋼鉄の穂先を付けた投槍五十が投擲された。多くは外れ、一部は盾に阻まれ、本体に命中したのは三本だけだった。いずれも肩当てや鎧に弾かれ、損害は与えられない。
 しかしそれで良い。激突前に敵に防御姿勢を取らせる事こそが、投槍攻撃の目的なのだから。
 ウルフファングが盾を翳し投槍を防いだところに、ボアヘッドが戦槌を振りかざして攻め入った。
 ウルフファングは足を止め、遅れて戦槌を振りあげた。
 ボアヘッド一番基とウルフファングが激突する。
 戦槌と盾とが打ち合わされ、激しく火花を散らす。激突音は大気と大地を震わせた。
 その威力は、ただでさえ地面にめり込んでいるゴーレムの足を、さらに深く押し込む程である。
 ボアヘッド一番基は前進を阻まれ足を止めた。再度戦槌を振り上げ、二合目。ウルフファングも遅れず攻撃する。
 両軍ほぼ同時に攻撃したので、初撃を上回る衝撃が平野を震撼させた。その音は遠く離れた王都アクセムでも聞こえたと言う。
 ボアヘッドの盾がいくつか破損した。ウルフファングの盾はどれも無事である。
 ボアヘッドの盾は四角い厚板を十字と枠とで補強しただけだが、ウルフファングの凧型盾は鍛造鋼板に同様の補強をしたうえに、全体に湾曲していて受けた力を逃がせる。盾の防御力に差があるのだ。
 ボアヘッドの三撃目は、申し合わせたように空ぶった。
 ウルフファングが一斉に後退したせいだ。
 小隊の左右両翼のボアヘッドが追いつく前に下がって、包囲を避ける。
 左右両翼のボアヘッドは一番基を追い越さぬよう足を止め、一番基がまた前進した所を、ウルフファングが攻め入った。
 二合打ち合い、ボアヘッド一番基が足を止めたところでウルフファングが後退する。
 この応酬が繰り返されるうちに、ボアヘッドの盾が割れたり、持ち手から脱落する物が続出した。盾を失った基は胴体を庇った左腕を砕かれ、次々と肘から先を失う。重装甲型をもってしても、手足の部分は戦槌の直撃には耐えられない。
 戦況を見ていたアニポノス将軍は歯がみした。
「ええい、遅滞戦術とは小賢しい!」
 さらに、枯れ草を被せて隠していた大型弩が、各所で投槍より太い丸太の矢を放ってきた。この不意打ちで三基の重装甲ボアヘッドが足を破壊され、前進を止めた。その小隊はそこで止まってしまう。
「止まるな! 前進しろ!!」
 停止した小隊に、なおも前進を命じた将軍は参謀に止められた。
「止まった小隊には投石させ、弩から敵兵を追い払いましょう。その間に損傷基は足の応急修理をさせます。多少遅れても、小隊単位で動いているなら挽回できます」
「だがこのままでは時間を食われる。小隊三基を並列にして、三対一で一気に敵を撃破しろ」
「それこそ敵の狙いです。支援型は一撃で戦闘力を奪われます。数的優位が減れば攻勢そのものが止まってしまいます」
「その間にこちらは敵を撃破できる」
「盾を叩いても敵は倒せません。包囲しなければ撃破は困難なのです。敵は通常型と同程度に動けます。一撃で支援型を倒したあと、下がられたら重装甲型は追いつけません」
「なら、通常型と二体を前にしてはどうか?」
「足が速い通常型が突出しやすくなります。そうでなくても敵は通常型に攻撃を集中させるでしょう。ですので時間がかかっても、今のまま押し切るのが最善かと」
 アニポノス将軍はゴーレムを良く知らないので、参謀の意見に反論できない。
 遅々として進まぬ戦況に腹を立て、愚痴をこぼす。
「このままでは第二軍団に首都攻略の手柄を奪われてしまうではないか」
 新参将軍が率いる別動隊「第二軍団」は今頃、無人の野を行くがごとく前進しているはずだ。
 先鋒の誉に指名されて喜んだのはつかの間、その後で第二軍団の進撃ルートを知らされアニポノス将軍は内心激怒した。
 自分が「囮にされた」と分かって。
 敵の全ゴーレムが第一軍団を迎撃しに来ており、第二軍団を阻む障害は無い。このまま手柄が取られてしまうかと思うと気が気ではない。
 それを避ける方法はたった一つ。自分たちが先に王都を陥落させるのだ。
「速く進め! 第二軍団に遅れを取るな!」
「将軍、そのような発言は部下の士気を下げるのでお控えください」
 キニロギキ参謀は聞こえるかどうかという小さな声で、一応は苦言をした。
 どこの世界に指揮官の手柄争いに我が身を投げ出す兵がいる?
 もし自分が傭兵なら、迷わずパトリア軍に雇われていたとキニロギキ参謀は嘆息した。
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