一基当千ゴーレムライダー ~十年かけても動かせないので自分で操縦します~

葵東

文字の大きさ
57 / 187
第九章 次なる戦場へ

アルティの戦い

しおりを挟む
 足がふらつくルークスの肩をアルティが支えた。
 二人連れだって歩くところに、話を聞こうと学園の生徒たちが群がる。
「待ちたまえ、君たち。今は彼を休めるのが、我々後方にいる者の務めだ」
 級長のフォルティスが集団から二人を連れだした。ついでとばかりルークスにささやく。
「あのゴーレムは色々違うようだが、あまり喋らない方が良いだろう。敵に伝わると弱点を狙われる」
 うなずいたルークスは、彼に問いかけた。
「力が無い者が自分より力も体重もある敵に勝つにはどうしたらいい? 剣でも戦槌でも何でもいいから」
「喩えるなら、君がワーレンスに勝つ方法かな?」
「そんな感じ。ルール抜きで」
「弱点を狙う。人間なら目や股間、だがゴーレムは表面に弱点が無い」
「弱点の核は体の一番奥。しかも場所が決まっていないから、一点集中攻撃だと当たりにくい」
「難しいな。力任せに鎧を割って核を破壊するのがゴーレム戦だ。その力が弱いとなると、鎧を貫くか、隙間を狙うしかない。いずれにせよ刺突攻撃となり、攻撃範囲は狭くなる。それで核を破壊するとなると、刺突とは別の何かの力が必用となるな」
「刺すだけじゃ、小さな穴が空くだけだからねえ」
「あっ!?」
 大声をあげた弾みでアルティが手を離したので、ルークスは尻餅をついた。尾てい骨からの衝撃に彼はうめく。
「い、痛いじゃないか」
「ごめん! フォルティス、ルークスを家に運んで」
 アルティは脇目も振らずに工房へと駆け戻った。
「どうしたんだ、いったい?」
 訳が分からないルークスにフォルティスが言う。
「君に影響されたのではないか? 衝動的に行動する人物ではなかったはずだ」
 ルークスはフォルティスに助けられ帰宅した。
 作り置かれたシチューを冷めたままでパンと食べ、ベッドに倒れ込んだ途端に寝入った。

                   א

 工房に戻ったアルティは、炉を開けてサラマンダーを呼び出した。
「シンティラム、あなたの炎は鉄が赤くなるくらい加熱できる?」
 出てきたサラマンダーは炉を指した。
「可燃物さえあれば。それに風もあると熱を高めやすい」
「風なら大丈夫。あとは可燃物ね」
 炉の薪は火元から離れた工房の隅にまとめられている。そこに松明もあったので、アルティはそれを手にした。
「これを、あれに付けたらどうだろう?」
 目を向けた先には、投槍の穂先があった。
 投槍は投げて使う武器で、鋼鉄の穂先は工房で作り、木製の柄は大工が作る。
 穂先は等身大ゴーレム一基では重すぎたので、二基で持たせた。三基めに松明を多めに持たせ粘土山へ向かう。
 ゴーレムの型取りをしている場所を避け、隅に陣取る。
 松明を運んできたゴーレムからノームを出し、身の丈ほどの粘土塊を作らせた。
 地面に刺した松明をサラマンダーに燃やさせ、穂先の先端をあぶる。先端が赤くなったところでアルティは言った。
「それで粘土塊を、勢いよく突いてみて」
 二基のゴーレムが穂先を粘土塊に突き刺すと、穴から猛烈に蒸気が噴きだす。
「あれ? 鉄棒を泥溜に落としたときと違うな」
 あのときは泥が弾けて飛び散った。あれを利用すれば、ゴーレムを中から弾けさせられるのでは、とアルティは思いついたのだ。
 穂先には銛のように「返し」が三枚付けられている。抜けにくくすると同時に、抜くときに穴を広げる効果がある。その返しが抵抗になって、等身大ゴーレムの力ではあまり深く刺さらない。
 アルティは穂先を諦め、炉の温度測定に使った鉄棒にした。
 松明で赤くなるまであぶり、ゴーレムで粘土塊に突き刺す。刺した穴から蒸気が噴きだした。昨日の様に弾けない。
「何が違うのかな?」
 泥溜くらいに水が溜まっている地面の泥に突き刺させた。大きな気泡が何度も弾け、アルティに泥水の飛沫をかける。
「もう、最悪」
 だが昨日の再現はできた。
「そうか。水が穴を塞いだからか」
 しかしゴーレムにはそれほど水分は無い。
「水じゃなくても、穴を塞げば良いのかな?」
 加熱する部分の後ろに板を付けたらどうか考える。
 熱した鉄棒の先を木の板に押しつけ、焼いて穴を空けて突き通した。
 再度加熱し、粘土塊に板まで押し込んだ。穴と板の隙間から粘土混じりの蒸気が噴きだし、板が割れた。
 アルティは泥を被ったが、棒の太さより大きな穴が粘土に空いたので不機嫌は吹き飛んだ。
「塞ぎ型が不十分だったか。でも方向性は正しいわ」
 地面に絵を描いて色々考える。
(そうか。これが父さんやルークスがやっている事なんだ)
 自分の考えを試し、問題点を改良して前に進むのは、やってみると面白い。
 今、アルティは泥を被った事も気にならなくなっていた。しょっちゅうルークスが服を汚しているのも、それを気にしない理由もなんとなく分かった。
 穴を塞ぐ部品は鋼鉄にしても、板では簡単に曲がってしまうだろう。ゴーレムとの戦闘で使う武器なのだ。
 穂先を見て思いついた。返しに布を巻いて円錐状にしてみる。
 熱した先端を粘土塊に突き刺す。
 手前への噴きだしを抑えられた、と思ったら、凄い音がして周辺がごっそり吹き飛んだ。
 なんとゴーレム二基が押し返された。アルティも盛大に泥を被る。
 相当泥は飛んで、型取りしていた職人にアルティは叱られた。
 穴は大きいが浅かった。
(もっと奥まで差し込めたら、どれだけになるだろう?)
 アルティは地面に絵を描く。穂先の先端を伸ばし、松明の固定具を付け、返しに当たる部分に円錐の金物を付け穴塞ぎにする。
 持ち手は――戦槌の握りを流用すれば良さげだ。

 武器の絵を石板に描き写して父親に見せた。昨日、熱した鉄棒を落とした泥溜が弾けた事などを説明する。
 武器の原理は良く分からなかったが、アルタスは製作を引き受けた。
 自分でも行き詰まっていた事だし、何より汗さえ嫌った娘が泥まみれになって考えだしたのだ。それに応えてやるのが親の務めである。
 強化方針が決まった鎧は同輩たちに任せ、自分は武器に取りかかった。

 アルティがゴーレムを工房に戻してノームを解放したときは、もう正午を回っていた。
 昼飯にこれから取りかからねばならないが、他に自分が何かできないか考えた。
 炉にサラマンダーを戻す時に思いついた。
「ねえシンティラム、ルークスの契約サラマンダーを呼べない?」
「声はかけるが、来るか分からないぞ。あいつ最近、燻っているから」
「ノンノンの件を引きずっているの?」
「まあな。炉が壊れたんで他の奴から怒られたし。それに、最近無視されているしな」
「無視って、ルークスが?」
「他にいるか?」
「だよね」
 何かに夢中になると他に目が行かなくなるのは、ルークスの悪癖である。
 今はゴーレムしか頭に無いのは明らかで、そのゴーレムではグラン・シルフ、ウンディーネにオムが活躍しているが、サラマンダーの出番は無かった。
「ちょっと呼んで来て。お願い」
 サラマンダーは炉に飛び込むと、すぐもう一人連れて戻った。
「何か用か?」
 サラマンダーの娘カリディータは暗い色で、見るからに不機嫌だった。ふて腐れた態度でそっぽを向いている。
「今、ルークスはゴーレムの事で頭が一杯なの。他に目が行かないのは昔からの悪い癖なのよね」
「ゴーレムなんてこの世から消えて無くなりやがれ」
「それはちょっと――」
 言いかけて、思いとどまった。彼女の感情を否定してはいけない。
「そのゴーレムを、ぶっ壊してみたくない?」
「泥の塊なんか、いくらあぶったところで焼き固まるだけじゃねえか」
「それができるんだなあ。大穴が空くの」
 カリディータがこちらに顔を向けた。
「へえ、そりゃ面白そうじゃねえか」
「ルークスは今、ゴーレムの攻撃力と防御力が足りなくて困っているわ。防御力の方は父さんたちが鎧を工夫しているから何とかなりそうだけど、攻撃力についてはグラン・シルフやウンディーネではどうにもならないの。ルークスに敵を倒す力を与えられるのは、サラマンダーだけよ」
「そりゃ本当だろうな?」
「精霊に嘘をつくのは精霊使いの御法度でしょ。この、泥まみれの姿が証拠。ゴーレムに見立てた粘土の塊に大穴が空いたわ」
「おいシンティラム、お前がやったのか?」
「俺は武器の元をあぶっただけだ」
「その武器は今父さんが作っているわ。完成すれば大穴どころか、ゴーレムを一発で壊せるかもよ。でもそれにはあなたの力が必用なの。ルークスを助けてあげて」
「そいつは楽しみだぜ」
 燻っていたサラマンダーは、熱気を上げて明るく燃え上がっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

魔法が使えない落ちこぼれ貴族の三男は、天才錬金術師のたまごでした

茜カナコ
ファンタジー
魔法使いよりも錬金術士の方が少ない世界。 貴族は生まれつき魔力を持っていることが多いが錬金術を使えるものは、ほとんどいない。 母も魔力が弱く、父から「できそこないの妻」と馬鹿にされ、こき使われている。 バレット男爵家の三男として生まれた僕は、魔力がなく、家でおちこぼれとしてぞんざいに扱われている。 しかし、僕には錬金術の才能があることに気づき、この家を出ると決めた。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...