一基当千ゴーレムライダー ~十年かけても動かせないので自分で操縦します~

葵東

文字の大きさ
112 / 187
第四章 内なる敵

支える者たち

しおりを挟む
 フェクス家をルークスの侍従長が訪れた。
 パッセルを伴った彼は、テネルに重大事を伝える。
 驚いたテネルはすぐ工房のアルタスを呼び、学園にも連絡してアルティを早退させた。
 そして台所で四人、緊急家族会議を開く。
「なんでルークスを引き渡さなきゃならないの!?」
 アルティは納得できない。
 そんな長女にテネルが言う。
「もちろん家族は全員反対よ。話し合うまでもなく結論は出ているわ。問題はルークスがショックを受けていることよ。自分が戦争の原因になってしまったなんて、どれだけ苦しんでいることか」
「ルークス兄ちゃんかわいそう。何も悪くないのに」
 妹のパッセルがこぼしたのに、アルティは大きく首肯する。
「そうよ。ルークスは何も悪くない。帝国が勝手に怯えて戦争を始めただけ。どうしてルークスがそこで苦しまなきゃならないの?」
「それがルークス兄ちゃんだから。アルティも心配でしょ?」
「誰が。帝国が攻めてくるってときに、落ち込んでいる場合じゃないって話よね」
 口では否定しておきながら、アルティは「素直になれない自分」に苛ついた。
 パッセルのように正直に言えれば良いのに、照れが先に立つ自分が嫌になる。
「今考えることは、どうしたらルークスを元気付けられるかよ」
 迷走する娘たちに母親が道を示した。
 パッセルの「手紙を書く」が一番現実的だった。
「手紙はいいけど、その内容がね」
 アルティはため息をつく。
「理屈を言っても意味ないよ。自分に責任が無いくらい、ルークスだって理解しているはず――理屈としては。ただ『帝国が自分を狙って戦争を起こした』って事実が重すぎるのよ」
「じゃあどうするの?」
「私たちは味方だって、伝えるのはどうかしら?」
 次女の疑問にテネルが答える。
「ルークスが家族を疑うなんてないけど、改めて伝えれば力になるわ」
 アルタスもパッセルも賛成する。
 確かに意味あることだ、とアルティも思う。ルークスを下支えできるはずだ。

 でも、それだけでは足りない。

 ルークスを奮起させなくては。
 彼は後ろから押されて動く人間ではない。
 目標に向かって真っ直ぐ突き進むのが、ルークス・レークタという人間なのだ。
 そんな少年を動かす方法、アルティは薄々感じていた。
 だがそれを認めたくない。
 自分を含め家族ができないことが、他人にはできると認めたくなかった。
(いいや、違う。もっと別な理由でしょ!)
 自分の、嫌な部分に目を向けたくない気持ちが思考を妨げる。
「アルティ、何かないかしら?」
 テネルに問いかけられ、アルティは息を飲んだ。
(これだから母親って嫌なのよ)
 子供の心など全て見透かしているようで。
「あるにはあるんだけど……」
「したくないの?」
「そうじゃない。まるでルークスを追い込むようだから」
 違う、と心のどこかで否定している。「別の理由でしたくないのだ」と。
「えー、そんなの反対」
 パッセルの反対をテネルはやんわりと遮った。
「でも、ルークスの為には必要なんでしょ?」
「そりゃ、嫌々戦うより、自分の意志で戦わせてあげたいよ」
「その為には誰からどう言えばいいか、アルティには分かっているんじゃないの?」
 これだから母親は嫌なのだ。

                  א

 昼近くになってもフローレンティーナ女王の御前会議は、武官と文官とが論争を続けていた。
「陛下、これは陛下に私心無きを国民に示す為の、必要な犠牲ですぞ!」
「陛下、これは帝国の離間策です。功臣を切り捨てては、国民は国を見限ります」
 宰相と参謀長とが正反対の意見を述べる。
 少女は完全に窮していた。
 心情的にも理屈でも参謀長が正しいとは分かっている。
 だが、今ここで文官たちが反抗を始めたら、戦争どころではなくなってしまう。
 ただでさえ心が乱れているのに。
 先ほど「姿を消したシルフ」に衝撃的なことを耳打ちされたのだ。
「フォルティスからだ。家族にルークスを元気づけさせる。反対なら首を振れ」
 情報漏洩の打診である。
 必要なことだ、とフローレンティーナは強く思った。
 自分ではルークスを元気づけられない。
 だが彼女なら、アルティ・フェクスならできるだろう。
 ならば止める理由など、どこにも無いではないか。
 
 だのに、止めたい自分がいた。

 十五才の女王は自己嫌悪のあまり吐き気さえ覚えた。
 ルークス一人の為ではない。
 祖国を守るために必要なことなのに。
 つまらない嫉妬心で躊躇ためらうだなんて。
「いいな、なら行くぞ」
 フローレンティーナは他人に分からぬよう、微かに頷いた。

 さあさいは投げられた。

 露見したらルークスも自分も窮地に追いやられ、祖国は戦わずして負ける。
 だが、希望はルークスにしかない。
 彼しか、この国難を乗り切れる人間はいないのだ。
 不安を心に秘した女王の前で、知謀の参謀が文官たちと舌戦を続けていた。

 そんな執務室の扉が勝手に開けられた。
 そのような無礼を働く者など――
「この国の男どもは全員金玉を抜かれたのか!?」
 暴言と共に乱入してきた女性に、全員が度肝を抜かれた。
 染みだらけの白衣をまとった長身女性に、フローレンティーナは見覚えがある。
 だが記憶にある彼女とは別人のように、汚らしかった。
 髪はぼさぼさ、顔色も悪く化粧の痕跡さえない。
 だが、その長身と声は間違えようがなかった。
「まさか、エチェントリチ?」
「ああ、陛下。お久しぶり」
 信じがたいが、小汚いその女性はデリカータ女伯爵だった。
 フローレンティーナが知る彼女は夜会で見る優美な姿である。
 王宮工房の要職にあるとは聞いていたが――こんな小汚い格好でいるとは。
 しかも自分以外の誰もが、彼女の登場にこそ驚いているが、その身なりをとがめていない。
 どうやらあの格好、かなり周知されているようだ。
(まさか、王宮関連の変人って――)
 その変人女伯爵はテーブルを強く叩いた。
「ルークス卿は次代の王宮工房をにな稀有けうな人材だ! 帝国に引き渡すなど、バカも休み休み言え!!」
 宰相に罵声を浴びせる。
「しかし女伯爵、要求を撥ね付けたら我が国は侵略されてしまいますぞ」
「で、新型ゴーレムを帝国にくれてやる、と? 明白な利敵行為だ。対帝国同盟を裏切る気か?」
「しかし――」
「ならば外相、直ちに全加盟国にシルフを飛ばせ! 『我が国は一基当千の最強兵器を帝国に引き渡す。近い将来に新型ゴーレムが帰国を蹂躙するが、我が国の安寧の為に許して欲しい』とな!」
 とばっちりを受けたアリエーナ外相が蒼白になる。
「デ、デリカータ女伯爵。貴殿は軍議のメンバーではありませんぞ」
「同盟を裏切るのだから、根回しくらいできているんだろうな。聞かせてもらおう」
「それは――」
 外務大臣はネゴティース宰相に救いの目を向けた。宰相は汗をハンカチで拭いつつ、小さく言う。
「今後、検討すると言うことで」

 文官の結束が乱れた! 

 王宮工房は軍に関する研究が主要な仕事ではあるが、構成員は文官である。
 その文官の中の最高位、伯爵階級から反対者が出たのだ。
 フローレンティーナは決した。
「では同盟各国の了承を得るまで、新型ゴーレムとルークス卿を帝国に引き渡す議論は保留にします」
「――!?」
 事実上の却下である。
 ネゴティース宰相は歯がみし、デリカータ女伯爵を睨みつける。
 同格の伯爵位、女性にしては長身のエチェントリチは上から見下す。
「他国のご機嫌取りは得意だろ?」
「このツケ、高く付きますぞ」
「おお怖い怖い。殿方の脅しには、か弱い女性は震えあがってしまいますわん」
 大げさに震えて我が身を抱く女伯爵。
「やれやれ、うかうかしているとルークス卿を王宮工房に取られてしまいますな」
 プルデンス参謀長の惚けた声が、険悪な空気をやわらげた。
「取られるも何も、彼は既にうちの特別研究員だぞ」
 勝ち誇るデリカータ女伯爵に、参謀長は直ぐさま反論する。
「それをおっしゃるなら、彼は軍の予備役扱いとなっております。先の戦いで、パトリアの紋章を付けるに当たって既に」
「な、卑怯だぞ! 早い者勝ちじゃないはずだ!」
「同感です。最終的には本人の意思でしょう。彼の才知とゴーレムへの熱意、工房が欲するのは理解しますが、それは貴女が引退した後でもよろしいのでは?」
「それはダメだ! あんな面白いのは渡せない!」
 思わぬ援兵にフローレンティーナは手を打って喜び、武官らは苦笑する。
 文官たちは、苦虫を噛み潰したように顔を歪ませていた。

                   א

 太陽が傾き西日が王城を照らしている。
 昼食も食べずにルークスはベッドに寝転んだままでいた。
 答えが出ない思考を繰り返して。

 圧倒的多数の敵を一掃する新兵器が無ければ、パトリア王国は敗北していた。
 しかしそんな兵器があれば帝国は奪いに来る。

(どうすれば良かったんだ?)
 いくら考えても思考は堂々巡りだ。
 枕に座ったノンノンが、休む事なく頭を撫でてくれるのがルークスの救いだった。

 扉が叩かれ、フォルティスが入ってきた。
 油紙に包まれた手紙の束を持っている。
「フェクス家からの手紙です。残念なことに、門を通す際に封を切られてしまいました。異物確認と、内通防止のためです。私は文面を見ていません」
 身を起こして受け取ったとき、ふとルークスの心に疑問が浮かんだ。
「これ、郵便で届いたんじゃないよね?」
「はい。ルークス卿には家族の助けが必要と判断し、屋敷に連絡して早馬で届けさせました」
「まさか皆に戦争の原因を!?」
「はい。勝手ながら教えました」
「どうし――」
 立ち上がったルークスは、フォルティスの固い表情に愕然となった。
 皆を巻き込んでしまったという悔恨、心配をかけてしまう自分の不甲斐なさ、そしてそれに思いが至らない未熟さに打ちのめされた。
(自分のことばかりで)
 ルークスはベッドに座り込む。
 今までずっと、夢を追いかけることしか頭に無かった。
 それがどんな影響を与えるか、などは考えもしなかった。
(僕は子供のままだ)
 第一に考えるべきことは、家族の安全ではないか。
 フォルティスが退出すると言うので、ルークスは呼び止める。
「アルティや、アルタスおじさんたちは?」
「今日中に屋敷に移る準備をしています。警護小隊には連絡済み、フェクス家から屋敷にかけて重点的に見守らせています。明日からは屋敷から学園と工房に通っていただく予定です」
「さすがだね」
「クビクリ侍従長の采配です。屋敷に戻られましたら、お言葉をかけてください」
「そうだね」
 フォルティスが扉を開けたとき、またルークスは呼び止める。
 そして告げた。
「ありがとう、フォルティス」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

処理中です...