一基当千ゴーレムライダー ~十年かけても動かせないので自分で操縦します~

葵東

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第七章 激突

新兵器到着

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 翌朝、リスティア王国の王城に滞在しているルークスに、シルフが伝えた。
「港にアルティが来たよ」
 それだけだったがルークスには十分だ。
 帝国軍本隊が北上を始めていたが、王都ケファレイオまで三日はかかる。
 時間に余裕があるので、ルークスはイノリでリマーニ軍港へと向かった。
 フォルティスと傭兵サルヴァージが馬で続く。

 帝国軍から奪った物資を積み込んだパトリア艦隊は、昨日出港していた。
 埠頭には別のパトリア軍艦が横付けされている。
 船からは人間の倍もある金属筒が何本も下ろされていた。
 木枠に保護された筒には大きな矢羽根があるので、新兵器らしい。
 岸壁に据えられた腕木が甲板からさらに筒を下ろしている。
 イノリから下りたルークスに、駆け寄る人影があった。
「ルークス、持ってきたわよ!」
 久しぶりに見るアルティの顔は、いつになく溌剌としている。
「ついに完成したんだね。さっそく見せて」
「再会の挨拶も無しにそれ? まあ、ルークスらしいけど」
 不機嫌になったアルティを、主に代わってフォルティスが労をねぎらう。
 そしてルークスの求めに応じ、町の代官に試験の許可を得た。
 シルフによって人払いされた川原に、ゴーレムで機材を運ぶ。
 
 秘密兵器の試験なので、川原で見守るのは護衛の二人だけである。
 しゃがんだイノリの鎧の背中には、火炎槍を差す受け金具が付いている。
 その右端の枠に作業ゴーレムが、半筒状の雨樋のような金属部品を差し込んだ。
 かなり上に長く突き出している。
 イノリの手で雨樋は前に倒せるようになっていた。
 倒した雨樋がレールになる。
 先端は解放され、後端に金属の箱がつけられてある。
 サラマンダーのシンティラムが炭火で金属筒を加熱していた。
 その筒こそ新兵器「自ら飛ぶ太矢セルフボルト」だ。
 先端が尖り、後部に大きめの矢羽根が付くだけの、シンプルな形状である。
 弓用の矢のように細くない、弩用の太矢ボルトを大きくした形だ。
 ルークスが気になったのは、火炎槍のような穴塞ぎの金具や、投槍のような返しが無い点である。
「まさか突き刺さるだけってことはないよね?」
「まあ見てなさい」
 加熱された太矢をゴーレムがレールに乗せ、後端を金属箱に差し込んだ。
 イノリは後端の箱の上面、押しボタンに人差し指を置く。
 レールの先はノームが作った大きな土の塊に向けられていた。
「じゃあ、そのボタンを――」
 イノリに触れたままルークスが言うと、アルティが腕を引っ張った。
「ルークス、離れて! 蒸気で火傷するわ!」
 少し離れ、ルークスは手を振り下ろした。
 噴出音と共に太矢が飛びだす。
 湯気の尾を引き太矢は土に突き刺さった。
 直後に土塊は膨張、一部が吹き飛んだ。
「え!?」
 ルークスは駆けだしていた。

 水蒸気の噴出で飛ぶのは予定どおり。
 貫通力も十分。
 だが返しが無いのに抜けず、穴塞ぎの金具が無いのに蒸気抜けしなかったのは理解できない。
 アルティはノームに土塊を割らせた。
 断面にルークスは目を見張る。
 内部に空洞ができているのだ。
 太矢は途中で千切れていたが、抜けることなく穴を塞いでいる。
 矢羽根のすぐ先で千切れ、切断部が花びらみたいに八方に裂けていた。
 先端も同様で、土の中で咲いている。
「推進用とは別に、破裂用に水入りのガラス瓶を仕込んだの。刺さった衝撃で瓶が割れれば、圧力で本体に入れた切れ目が裂けて抜けなくなる仕掛け」
 ゴーレムの土を加熱して圧力を生むのではなく、圧力を内部に送り込んだのだ。
「すごいやアルティ!! 君は天才だ!!」
 ルークスは声を弾ませる。
 その様子にアルティは違和感を覚えた。
 どこが、かは分からないが様子が変である。
 不思議がる少女をよそに、少年は太矢を観察していた。
「なるほど、表面に溝を刻んであるから綺麗に裂けるのか。これは試行錯誤を繰り返したね」
 破断面をしげしげと調べてからルークスは尋ねてくる。
「これ、何本あるの?」
「今回は二十本。今、町でゴーレムスミスたちが量産しているわ。でも分かっているでしょうけど、鎧は貫けないわよ?」
「そりゃそうだ。戦槌に耐える鎧や兜は火炎槍でも貫けないからね。でもこれ、厄介な軽量型には最適だよ。動きが速いけど鎧は一部だけだから」
「え? 動く相手は考えてなかったけど」
「一本試してみよう」
 加熱し終えた二本目の太矢を、アルティのゴーレムがイノリに渡す。
 精霊たちが自分たちだけでレールに乗せ、発射機に差し込んでいるうちにルークスは言う。
「そのゴーレムを歩かせてくれるかな?」
「まさか、それを狙わせるの?」
 驚くアルティを尻目にルークスはシルフを呼んだ。
「アウルーラ、今飛ばした矢を操れる? 簡単? じゃあ次発射したら、あのゴーレムに当ててみて」
「任せろ」
 シルフはレールの先で待ち構えた。
 そして太矢が放たれた。同時にシルフも飛ぶ。
 白い尾が曲がり、太矢は横に進む等身大ゴーレムを追いかけた。
 背中に命中、胴体を貫通、突き出た先端が破裂。
 かなり大きな音がして、ゴーレムは後ろに倒された。
「的が動いても当たるね」
 満足そうに頷くルークスに、アルティは脱帽した。
「かなわないなあ、ルークスには」
「別に僕は何もしていないよ。精霊がやってくれただけで」
 いつものようなやり取りだが、どうにもアルティには手応えが感じられない。
「何かあったの?」
 ルークスは左肩を撫でながら答える。
「あったよ。上陸場所を変更して、王都攻略を先にして、新女王を味方に付けて、補給部隊とかの帝国軍を三つやっつけた」
「そうじゃなくて、あんたちょっと変なのよ」
「精霊たちは何も言っていないけど」
 また左肩を撫でる。
 いつも肩に乗っている相棒がいないので、無意識に手が行ってしまうらしい。
 だがアルティの気がかりはそこではなかった。
「――ひょっとして、誰か死んだの?」
「どうしてそう思うの?」
「だって精霊って、命の重さに鈍いから」
 半ば永遠に存在する精霊からしたら、人間の一生は極短時間なのだ。
 契約者やその身内以外の生き死にはあまり気にしない。
「そうだね。大勢死んだよ。帝国の将兵が。これからもっと死ぬことになるさ」
 アルティは目を見張った。
 口調は投げやりだが、ルークスの表情が辛そうなのだ。
「仕方ないよ。戦争なんだから。敵の死までは防げない。でも――」
 声を震わせた。
「――でも帝国軍に僕らと変わらない年の子がいたんだ。見つけた子は怪我で済んだけど……」
 かける言葉がアルティには無かった。
 恐らく精霊たちも慰めているはず。
 理屈はルークスにだって分かっているだろう。
 でも人間は理屈ではない。
 ましてやルークスなのだ。
 アルティは、この理不尽に憤った。

 全てをルークスに背負わせる、理不尽な世界が腹立たしくて仕方ない。

 ゴーレムが好きなだけの変人だったのに。
 精霊に愛されたが為に、分不相応な力を持ってしまったが為に。
 アルティの怒りは精霊にさえ向けられた。
 だがそれ以上に「ルークスの苦しみを減らせない」自分に向けられていた。
 かける言葉どころか、どんな顔をしたら良いかも分からないのだ。
 ちょっと考えれば予測できたことなのに。
 帝国軍の未成年者動員は、学園で習ったことだ。
 ルークスは覚えていなくても、アルティは覚えていた。
(だのに私は、ルークスに会えるって浮かれて――)
 怒りに自己嫌悪が混じり、ルークスに申し訳なくて仕方ない。
 ない交ぜになった感情が高まり続け、ついに限界を超える。
 アルティの目から涙があふれ出た。
 後から後から止めどなく流れ落ちる。
「ど、どうしてアルティが泣くの?」
「だって……だって……」
 アルティ本人も説明できなかった。
 感情が高ぶり過ぎて、話すどころか考えることもできない。
 ただただ、ルークスが可哀想でならなかった。
 
 幼なじみが流す涙は、言葉より多くをルークスに伝えた。
 途方に暮れていた少年に、家族の存在を思い出させたのだ。
 自分には、悲しみを共にしてくれる家族がいる。
 自分は一人ではない。
 そう思うだけで、胸の苦しみがすっと軽くなった。
「ありがとう、アルティ」
 ルークスはゴーレムよりも大切な家族を抱きしめた。
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