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第八章 大精霊契約者vs.大精霊の親友

身を横たえて

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 グラン・ノームを送り出したシノシュは、穴蔵の暗がりで深く息をついた。
「最後まで付き合ってくれてありがとう、オブスタンティア」
 家族以外で信じられたのは、精霊だけだった。
 とても安らいだ気分になれたが、少し息苦しさを感じる。
(空気が残り少ないのだな)
 穴蔵に空気穴は無い。
 オブスタンティアには「敵シルフに見つからないように」と説明したが、本当の理由は「窒息により確実に死ぬため」だ。
 やるべきことは全てやり終えた。
 きっと名誉の戦死と認めてくれるだろう。
 あとは、最後の時を静かに迎えるだけだ。
 まだ立っているチェスの駒は全て倒し、ランプに手を伸ばす。
「いや、点けておくか」
 火がある方が空気の減りも早かろう。
 身を横たえて手を組み、目を閉じた。
「神様、どうか家族を連座させることなく、御許へ行かせてください。それだけが望みです」

                  א

 両手を広げながらバーサーカーがイノリに近づいてくる。
 その中では言い争いが繰り広げられていた。
「ルークスちゃん治療させて! イノリを解体――」
「ダメだ!! あいつを片付けてからだ!」
 興奮し続けているため、ルークスの出血はさらにひどくなっている。
 精霊たちは狼狽していた。
「主様、グラン・ノームは私が必ずとどめます。ですので治療を受けてください」
「あれを片付けてからだって言ったろ!?」
「あのグラン・ノームは別格です」
「速攻でやっつければ済む!」
「ルールー、血がいっぱいです! 怖いです!」
「うるさい黙れ!」
「「!?」」
 ルークスがノンノンに怒鳴るなど、今まで一度も無かったことだ。
 あまりの驚きで精霊たちは声を失った。
 ルークスが立てる荒い息づかいだけが水繭内で聞こえる。
 自分がしでかしたことに、少年は戦慄せんりつしていた。
 十を数えるほど時が過ぎたとき、大音声が水繭全体を震撼させた。

「精霊の声に耳を傾けよ、ルークス・レークタ!!」

 インスピラティオーネがルークスに怒ったのも、初めてのことだった。
 それでも決定権は委ねたままでいる。
「主様、イノリを解体します。よろしいですね?」
「わ……分かった……」
 ルークスは身を震わせながら首肯うなずく。
 感情に飲み込まれたことを激しく後悔して。
「ノンノン……ごめん……」
「ノンノンは、へっちゃらです」
 まるで気遣いをさせたみたいで自分が情けなく、少年は死にたくなるほど自己嫌悪した。

 身を細くして鎧を落としてから、イノリは水繭を地面に置いた。
 そのまま本体が溶け、水繭が割れてルークスは外気に解放された。
 途端に目眩を起こす。
 視野が狭くなり、辺りが暗くなる。
 かなりの出血に加え興奮が鎮まり、気圧変動による血管拡張も加わったため血圧が急低下したのだ。
 いくら高圧力の本体内部から隔離されていても、水繭が圧縮されるので内圧は上昇してしまう。
 倒れ込むルークスをリートレが受け止め、その身を横たわらせる。
 頭を水で冷やす一方でルークスの体内水分に同化し、損傷した細胞を修復する。
 ノンノンは水筒を両手で掲げてルークスの口に当て、少しずつ水を飲ませる。
 その頭上でインスピラティオーネが警戒し、カリディータが敵の前に立ちはだかる。

 そこにオブスタンティアが操るバーサーカーが迫った。
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