完璧主義な学園の嫌われ令息が、仮面を捨てて腹黒幼馴染み様へ跪くまで

笹井凩

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25.逃げ道

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「……今度は、なに」

「ん~、最近絆せんぱいとお話しできてなかったから、お喋りしたいなぁって思って! 悠大せんせえってば、絆せんぱいが部室の鍵を借りに来た~ってわざわざ教えに来てくれたんだよぉ?」

 鏡先生が? 副顧問の癖にいつも部活へ顔を出さないあの教師が、今日ばかりは栄冠祭前日だからか練習を見に来ていた。まあ、ほとんど布顛のことばかり見ていたけど。鍵だって、借りることがあればいつもは別の先生が渡してくれていたのに、今日は嫌いなはずの俺へ直々に渡しに来たし。
 珍しいとは思っていたけど、なんのつもり? しかもそれを布顛に話す必要性も感じられない。まあ、どうでもいいか。

 暗闇の中で小さな影が揺れた。握り締められたままの手首のせいで、手のひらは血液が巡らずじりじりと痺れが走り始めている。

「……ボク、ずぅっと思ってたんですよねぇ」

 一歩、二歩、と距離を詰められ唯一の退路である扉から少しずつ離れていってしまう。
 そうしていると、すぐに背中へ硬いものが触れた。ダンボールの置かれた棚が当たったのだろう。行き止まりに息を呑むと、つ……と小さな手に首筋を撫でられて肌が粟立つ感覚を覚えた。

「一度弱みを見せただけで淘汰された人間と、みっともない姿を晒しても周囲に生かされ続ける人間の違いってぇ、なんなんでしょぉ? って」

「……」

 両足の間に片足を割り入れられて、左腕の横に着かれた手と、急所である首元に添えられた手。薄暗く、せまい場所。そのうえ鍵まで締められて。逃げ場なんてなかった。
 さっきまでの疲労に支配されて重かった体とは違い、じくじくと鈍い痛みを記憶から引っ張り出し始めた体に冷や汗が首裏にも背筋にも伝っていく。

「絆せんぱいはぁ、そんな下手っぴな演技のままぁ、明日。本番出るつもりなんですかぁ?」

「そうしないために、今、練習してるんだけど」

「えぇ~、すっごい体調悪そうだしぃ、もう今さらな気がしますぅ。ぷっ、大人しくだ、い、や、く。お願いしたらどうですかぁ?」

「……は」

 今の絆せんぱいと比べたらボクのほうが上手いと思いますよぉ、と間延びした声が嫌に耳へ残る。

『この役はね、星塚くんに任せたいんだけども、どうかな?』

『絆くんをキャスティングするつもりで作った劇なんだよ。ねっ! 今回も出てくれ!』

『この役は絆くんの演技がぴったりだと思うんだよなあ』

 今まで耳にした言葉たちが走馬灯のように駆け巡る。俺の実力に期待をかけて、作品を背負う一人として選んでくれた人たちの言葉。「俺に」任せたいと、そう肩を叩いてくれた人たちの声。

 代役。

 頭の片隅にさえ存在しなかった単語が与えられて、からりと張り付くように喉が渇いた。眩暈がして、凍えてしまいそうになる。
 俺に任せられた役を放棄するなんてあり得ない。
 あり得ない……けど。俺なら良い演技をするはずだという期待に応えられないのなら、俺が舞台に立つ理由なんかない。理想通りの動きをできない、なら。
 決して俺だけの舞台ではない場所で、無様な姿を晒さないよう、期待外れだと落胆させないよう、必死に、もがいてみたけど。

 こんな状態で、舞台に立たなくてもいいのなら。
 ふと、両足から力が抜けて踏ん張れなくなった。かくりと膝が折れて崩れ落ちた先、困惑の滲む冷たい布顛の目を捉えて、ただ、ゆっくりと頷くように俯いた。


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