荒野と私と私たちの日々

NAGISA

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前が見えない荒野行動

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走る。いや走ってた。ただひたすら、がむしゃらに。
北へ。

『どーしよ?どーする?どこへ?』
自問しつつ、走る。

北東に建物が見える。

『あそこへー』

『ダダダ!』『ガガガ!』

2種類の銃声が建物から響いてくる。

『ダメ!じ、じゃあ、北北西の丘へー』

思うと同時に車音が西から北北西の丘方面に…ドーン
銃声と跳弾音、そして爆破音

『あそこもダメ!ど、どーしよ?どーする?』

答えは出ず、北へ走るのみ。

東から西から嫌ほど銃声が轟く。

人数は…70人69人…61人

みるみる数が減っていく。

「どーしたらいいの?どこへ行けばいいの?痛っ!」

どこからか撃たれている。

マップを目の端で見ると、先に舗装路があるようだ。

『乗り物があれば!逃げ…あった!!』
祈り通じたか、バイクが見える。
後、20m~

『間に合った?よし!乗れ…』

突如視界の端、樹木の脇に黒い物体が目に飛び込んできた!
『キャー!』
自分の悲鳴と数十発の銃声がこだまする。その瞬間私は倒れた。

撃破0人
59位

画面にはリザルト順位が表示されている。


「はぁー…」

深いため息が漏れてしまう。
手にしたタブレットモニターを数度タップしホーム画面に。

中央に銃を携え凛と立つ女性キャラ。

「貴方はどうしてそんなに弱いの?」

つい、声に出してしまう。
画面のキャラは憂う様もなく毅然として見える

「…私が弱すぎなんだよね。知ってる…」

ログアウトし、タブレットを置き眼鏡を外し天井を見上げる。
「…向いてないのかなぁー」

私は、松田沙耶香27歳独身。短大卒、事務員(休業中)
彼氏…ナシ
趣味はゲーム

そんな私は幼馴染みアキの薦めから始めたのが
[荒野行動]
開始から約1か月、なんとなく慣れ始めたかなってくらいのビギナー。

戦績は…AINPC通称botのおかげでなんとか1キルレベル。対プレイヤーには全くお手上げ。


「だからーサヤはあがり症?ての?土壇場で失敗するんだよ。準備して落ち着いて挑めば勝てるって」

「準備してるよ。最初は誰も来ないよーなところに降りて、装備拾って」

「で、武器何持ってたの?」

「確かMP5とM88ってやつ」

「なんで、両方近接なのよ」

呆れ声が荒野vc(ボイスチャット)から漏れてくる。

「そもそもなんで、ソロなの?野良でスクワッド(4人プレイ)とかすればいいじゃない?あんた、人見知りでもないでしょ?」

「それは…そーだけど…」

これは初心者のあるある悩みだろう。見ず知らずの人に迷惑かけるのでは、という気後れ。それから、装備の準備では、ろくに使いこなせない私が持つよりとか、いろいろ考えて…
結局ソロプレイを選んでしまう。

「サヤさぁー。たかだかゲームの顔も知らない人に遠慮してどーすんの?」

アキの言い分も然りだけど、どうしても考えてしまう。

「とりあえず、一度行こう」

「う、うん…」

………開始5分でやられて観戦、10分程度で全滅。ホームに戻る。
数回同じことを繰り返し…

「アキ…ごめん…つまんないよね?」

「…う、ううん。そ、そんな事ないよ!ほら、分かり始めた頃って、スタイルが決まらず、ほらいろいろ試してさぁ…もぅすこし慣れたら大丈夫だって!ね。」

フォローコメントが痛い…

「まぁ、私だって全然だし。ちょっと始めたのが早かっただけだからさ」

アキは彼氏の影響でやり始め3~4か月経ち、彼氏という先生がいる。

劣等感、申し訳なさ、罪悪感…負の感情ばかりが積もってくる

『なんで、こんな思いをして、ゲームやってるんだろ…』

「あ、アキ…その…もぅ…」
「あっ!サヤ!ちょっと待ってね!」

諦めの言葉が遮られた。

「やった!サヤ!ちょっとフレ入るねっ!」

「え?う、うん…」
…知らない人が来るのは、結構キツイ…

私の心中を察する様子もなく、画面にかわいい衣装の女性キャラが増えた。

「こんばんはー!ナギサさん!」
アキの挨拶にvcからの返事はなく
[チワワー]
[こんばんワン]

チャット欄に犬のチワワの写メアイコンと文字が表示された。

私とナギサさんの出会いでした。



「ナギサさん!この子が前言ってたリアフレのサヤカです!」

『!?私の事、どう話したんだろ…』
「あ、は、はじめまして…サヤカです…」

[はじめましてー。よろしくねー( ^∀^)]

「あ、サヤ。ナギサさんvc付けない人だからチャット見ててね」

[ごめんねー。諸事情で付けれなくて]
[(>人<;)]

素早く、チャットに顔文字入りでログが流れる。

『なんだか、ホッとする』

[始めたばかりなんだってね。私なんかが何を教えれるかわかんないけど、楽しく遊ぼーw
\(*´∀`*)ノ]

『顔文字って…すごいなぁ…』
人の良さが伝わってくる気がする。

「サヤー。ナギサさんってマジ凄いから、教えてもらいなー」

「すごい?」
『ガチ勢ってやつなのかな?…気乗りしないなぁ…』

[いやいや、唯のエンジョイ勢ですよw期待しないでねw(^_^;)]

思った事が伝わってしまったのかドキッとした。

「あ、あの…私、すごく下手で、迷惑…かけると…」

[ん?なんで?迷惑?]
[一緒に遊んでもらうのに?]
[相手してもらうんだからお互い様じゃんw]
[始めたばかりで下手もないよw]
[楽しくやろー( ̄∀ ̄)b]

スラスラと流れるチャット。考えて打った言葉より、より本心、思ったことを言ってる。そんな気がする。

「とりあえず、ナギサさん。一回いきましょう」
[( ̄^ ̄)ゞ]

アキのvcに即座に顔文字が流れる

マッチング開始
そして、私は新しい荒野行動を知ることになった。



嵐の半島、待機場。

『よろしくお願いします』
ナギサさんからsc(定形vc)

「お願いしまーす」
「よ、よろしくお願いします」
アキに続いて返事を返した。

[ねね!アキちゃん!サヤちゃん!]
[見て見てー!]

ナギサさんを探すと地面に下半身が埋まっている状態で左右にリーン(上半身を傾ける動作)をしていた。
[ヽ( ̄д ̄;)ノ]
[たーすーけーてーw]

「ぷ、あははー」
「どーやったんですか?」

素でアキと一緒に笑ってしまった。

と、画面が嵐の半島上空にかわった。

「どこ行きます?」
アキの声に目的地が最北端に…
「ナギサさん。そこ待機場じゃ…」
[ニシシ( ̄▽ ̄)]
チャットに顔文字が表示され
[どこでもいいよーw]

飛行経路から最も遠い名もなき集落へ降下

[ここの部屋半分くらいbotだから気楽にいこーw]

着地。急いで建物に入り、武器と包帯、リュックを入手。
一軒見終わり、外へ出るとナギサさんが目の前でエモーション投げキッスをしている。
手ぶらで…

途端に均等な間隔の銃声が響く。
と同時にナギサさんは銃声の方へ駆け出した。
…手ぶらで

[botちゃーんすw]
チャットと同時にbotの回りをぐるぐる走り回っている。撃たれているがダメージがない。

[サヤちゃん!やっちゃってー]

「は、はい!」

持っていたM4をフルオート。
リロードを挟んでなんとか倒した。

『ナイス』
ナギサさんからsc。
…ちょっと嬉しいかも

集落を一通り回り終わると

[二人とも装備どう?漁れた?]

「あ、私は大丈夫です。サヤわ?」
「大丈夫だと思う?」

[じゃあ、次はここー]

目的地を指してもらい、ついていく。

行く先々でナギサさんがエモーションだったりピョンピョンと跳ねたり、壁に半身埋めたりと、いろいろと小ネタを披露してくれる。

開始8分、廃駅に向かっていると銃声が複数聞こえてきた。

『敵発見』
scと同時にナギサさんが発砲。
一発の銃声でログが流れた。
『え?どこ?』
更にもう一発、違う名前のログが流れる。
『援護して下さい』
scに合わせて、アキも私もナギサさんが撃った方へとりあえずデタラメに発砲。

『やりましたね』
scが入って倒した事にやっと気づいた。

[ないすぅーw]
「や、やった?」
「ナイスです!ナギサさん!」
アキの声が高揚している。

遠くも近くもない場所から別の銃声が聞こえる。
[次、いくよー]


~20分経過~


3人生存。残敵18人。

[さーて、お姉さんがんばちゃうぞぉーw]

アンチ(安全地帯)もかなり狭くなってきた。

「アキ。私、ここまで生き残るの、はじめてかも」

「ナギサさんの足引っ張らないように。だね」

[( ̄∀ ̄)イヤイヤ、私最後でやらかす人だからーw]
[荒野はね、生き残れば勝ちだから、倒さなくてもいいよ]
[生き残ろう!]

~開始27分~
 
残敵3人 生存3人

小高い丘の2階建、通称"6角"
ギリギリ中が見えない傾斜にしゃがみ、様子を見ていた。

[3枚だねーアンチ縮小合わせていくね]
[私が動いたら、2階窓に向かって撃ってね]

縮小5秒前、ナギサさんが動いた。ポシュと軽い音が鳴り六角の中が爆発。
2人分のキルログが流れた。

「え?今のって?」

ただ固まって見ている画面に、爆発先の六角の階段をナギサさんが走り登っている。

銃声が響き画面が止まる。

画面中央に1位の表示が浮かんだ。



1位
アキ4撃破
サヤカ3撃破
ナギサ9撃破

「やったー!!」
アキの歓声がvcから聞こえる。

「…え?勝った…の?」
「そう!私たち勝ったんだよ!サヤ!」

アキの興奮気味の声に実感が徐々に湧いてきた。

『勝った?勝った。勝ったんだ!」

ホームに戻ると、

チャット欄には
[やったねー!ナイスドン勝!!]
[(⌒▽⌒)v]

なんだか、アツイ…

今までのモヤモヤが、、、

[どうだった?w]

「スッキリです」
アキに同意。
そう。一言でいって、

気持ち良い!!



[さて、どーする?]

時計はまもなく21時になるところ

「あー!妹迎えに行かなくちゃ!ごめん!サヤ、ナギサさん!またー!」

返事を返す間もなく、画面からアキのキャラが消えた。

[あらら…残念(・ω・:]
[どーする?サヤちゃん。私は全然大丈夫だよ]

『時間は大丈夫だけど、ちょっと疲れたかも、でも…』

[もし、試合はちょっとっていうなら、お話しだけでもいいよw]

「いいんですか?その、戦い行かなくても?」

[いいよw( ^∀^)慣れてこないと連戦きついよね]
[このまま終わりも、寂しいもんね]
 
「~ナギサさんて、なんでそんなに私のことわかるんですか?」
思ったことを口にしてしまった。

チャットに間があった気がした。
「あ、その、つい思ったから…えーと…」

[わかるよー。私も最初の頃そーだったから]
[それに、サヤちゃんかわいいから、もっと仲良くなりたいしw]

「!」

「あ、あはは…か、かわいいって…その…そんなことないですよね?あはは…」
や、ヤバい!ドキッとした。なんか顔があつい

[んー。なんかー初々しい感じが、お姉さんの母性本能うずくーみたいなw]

「あ、あの…えーと…ナギサさんてそっちの…」
[レズではないよwごめんねーw引いた?]
「で、ですよねー。ちょっとびっくりしただけです。引いてないです。あはは…あ、あのナギサさん。聞いていいのかあれだけど、いくつ何ですか?あっ!私は27歳で…」

~~~

もっと知りたい。仲良くなりたい。知って欲しい。矢継ぎ早に質問してしまう。
…この時、私はこの気持ち、アレだと理解してしまった。納得してない、認めたくないけど…

"一目惚れ…恋だと"

ゲームの、多分女性に…


「で、ナギサさんに日付けかわって1時まで、4時間も、前カレの破局からニート生活と個人情報を延々と語った訳だ。そりゃ、ヒクわー、ナイわー、ドンビクわー。あんた、中高生乙女か?」
「ぅぅ~…き、嫌われたかなぁ~?やっぱり~」
昼過ぎに電話で起こされたアキに報告しながら状況を思い出して、頭を抱えた。
「ほんとサヤって土壇場でやらかすよねー」
「どーしよーアキー」
「まぁ、ナギサさんすごい人だから大丈夫でしょ」
心配を軽く流しながら言うアキの(すごい)の意味を私は今はまだ知らなかった。



私の前も見えない、荒野行動は続く?みたいです。
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