31 / 38
正直に
しおりを挟む
携帯で時間を確認した。今からなら最寄りの大きなホテルで空港行きのシャトルバスに乗れるだろう。それか少し高くつくがタクシーを使うか。どちらにしても、飛行機には十分に間に合いそうだった。とりあえず、近くの大きなホテルを目指して移動する。
道に迷わないよう、なるべく大きな道沿いを携帯で位置を確認しながら歩いた。
そうして歩き始めて5分ほどだった時。突然、ものすごい大きなエンジン音を聞かせた車が後ろから迫ってきて、高速で瑛斗を追い抜いていった。そのまま走り去っていくのかと思って目で追っていると、少し先で急停車した。
瑛斗の足が止まる。
やばい。
その車には見覚えがあった。他ではなかなかお目にかかる機会のない最高級ポルシェから、鬼のような形相をした相良が降りてきた。
こわ……。
その顔のままずんずんとこちらへ向かってくる。
「瑛斗!!」
うわぁ、すっげぇ怒ってる……。
「なにしてんだよ!!」
「いや、その……」
「やっていいことと悪いことがあるだろーが!!」
「あの……」
「乗って」
「え? いや……」
「の・っ・て!!」
「……はい」
相良はこの上なく不機嫌な様子で、瑛斗のスーツケースを奪うように掴むとずんずんと車へ戻っていった。相良の怒り様にもう逃げ出す気力もなく、大人しくあとに続いた。
瑛斗が車に乗り込むと、なにも言わずに相良が車を発進させた。
車内に気まずい沈黙が広がる。相変わらず黙ったままの相良をチラリと覗き見る。眉に皺をこれでもかと言うくらい寄せて、真っ直ぐ前を睨みながらハンドルを握っている。瑛斗は思いきって話しかけてみた。
「あの……相良……」
「…………」
「怒ってる……よな?」
「……当たり前だろーが」
「……そうっすよね」
「シャワー出たら、瑛斗がなにも言わずにとんずらしてたら、そりゃ怒るだろ」
「…………」
「大体、挨拶とか礼儀とか大事だ言ってたのは、瑛斗じゃねーの? 言った張本人が挨拶もせずにとんずらってどういうことよ?」
「そうだよな……悪かった。ごめん」
「俺にはなんもないのに、なんで他の奴らにはちゃんと挨拶してくわけ?」
「え、いや、それは、玄関にいたから、無言で出るわけには……」
「俺より大事にするなんて信じられねー!」
「は? ちょっと、論点おかしくない……?」
「おかしいことない!! なんで、俺より他の奴らが瑛斗に優しくされんだよ。 そこ、おかしいだろ!!」
「……はあ……」
やっぱり、どこか話が通じない。そう言えばこういう男だった。
瑛斗より年上でクールな印象の相良が、我を忘れて子供のようにブリブリと怒っている姿がおかしくて思わず笑った。
「なんで笑ってんの?? 怒ってんの、俺は!」
「うん、ごめん。悪かったって」
「ほんとに……」
まさか相良がこんなに腹を立てて、しかも追いかけてくるなんて思ってもみなかった。こんなことは相良にとってはなんでもないことだと思ったし。でも、やっぱり、挨拶もせずに逃げたことは卑怯だったなと反省する。
ならば、正直に話すことにしよう。説明しないと収拾もつかないし、こんな気まずい空気のまま別れるのも嫌だった。どうせ、言いたいことを言ってもその後のことを気にする必要もない。
「俺な……怖かったんだよ」
「……なにが?」
「お前とあのままいたら、帰れなくなる気がして」
「…………」
「昨日は本当に楽しかった。相良と会えて、一緒に過ごせて良かったと思ってる。だけど、俺の居場所はここじゃないから。ちゃんと、別の現実が待ってんだよ、日本に。相良といると、それを忘れそうになる。もっと、我が儘になりそうになる。今は、ただのホリデーなのに。離れたくなくなりそうで、離れられなくなりそうで、怖かった。だって、俺は……」
俺は、お前のことを好きになっちゃったから。
最後の言葉は飲み込んだ。それを言ったところでなんになるだろう。困らせるだけだ。重いと思われるだけだ。
「……そんな現実逃避して我が儘言って困らせたくなかったし、せっかくの思い出を綺麗なまま持ち帰りたかった。だから挨拶しないで逃げた。ごめん」
「……もういいよ」
道に迷わないよう、なるべく大きな道沿いを携帯で位置を確認しながら歩いた。
そうして歩き始めて5分ほどだった時。突然、ものすごい大きなエンジン音を聞かせた車が後ろから迫ってきて、高速で瑛斗を追い抜いていった。そのまま走り去っていくのかと思って目で追っていると、少し先で急停車した。
瑛斗の足が止まる。
やばい。
その車には見覚えがあった。他ではなかなかお目にかかる機会のない最高級ポルシェから、鬼のような形相をした相良が降りてきた。
こわ……。
その顔のままずんずんとこちらへ向かってくる。
「瑛斗!!」
うわぁ、すっげぇ怒ってる……。
「なにしてんだよ!!」
「いや、その……」
「やっていいことと悪いことがあるだろーが!!」
「あの……」
「乗って」
「え? いや……」
「の・っ・て!!」
「……はい」
相良はこの上なく不機嫌な様子で、瑛斗のスーツケースを奪うように掴むとずんずんと車へ戻っていった。相良の怒り様にもう逃げ出す気力もなく、大人しくあとに続いた。
瑛斗が車に乗り込むと、なにも言わずに相良が車を発進させた。
車内に気まずい沈黙が広がる。相変わらず黙ったままの相良をチラリと覗き見る。眉に皺をこれでもかと言うくらい寄せて、真っ直ぐ前を睨みながらハンドルを握っている。瑛斗は思いきって話しかけてみた。
「あの……相良……」
「…………」
「怒ってる……よな?」
「……当たり前だろーが」
「……そうっすよね」
「シャワー出たら、瑛斗がなにも言わずにとんずらしてたら、そりゃ怒るだろ」
「…………」
「大体、挨拶とか礼儀とか大事だ言ってたのは、瑛斗じゃねーの? 言った張本人が挨拶もせずにとんずらってどういうことよ?」
「そうだよな……悪かった。ごめん」
「俺にはなんもないのに、なんで他の奴らにはちゃんと挨拶してくわけ?」
「え、いや、それは、玄関にいたから、無言で出るわけには……」
「俺より大事にするなんて信じられねー!」
「は? ちょっと、論点おかしくない……?」
「おかしいことない!! なんで、俺より他の奴らが瑛斗に優しくされんだよ。 そこ、おかしいだろ!!」
「……はあ……」
やっぱり、どこか話が通じない。そう言えばこういう男だった。
瑛斗より年上でクールな印象の相良が、我を忘れて子供のようにブリブリと怒っている姿がおかしくて思わず笑った。
「なんで笑ってんの?? 怒ってんの、俺は!」
「うん、ごめん。悪かったって」
「ほんとに……」
まさか相良がこんなに腹を立てて、しかも追いかけてくるなんて思ってもみなかった。こんなことは相良にとってはなんでもないことだと思ったし。でも、やっぱり、挨拶もせずに逃げたことは卑怯だったなと反省する。
ならば、正直に話すことにしよう。説明しないと収拾もつかないし、こんな気まずい空気のまま別れるのも嫌だった。どうせ、言いたいことを言ってもその後のことを気にする必要もない。
「俺な……怖かったんだよ」
「……なにが?」
「お前とあのままいたら、帰れなくなる気がして」
「…………」
「昨日は本当に楽しかった。相良と会えて、一緒に過ごせて良かったと思ってる。だけど、俺の居場所はここじゃないから。ちゃんと、別の現実が待ってんだよ、日本に。相良といると、それを忘れそうになる。もっと、我が儘になりそうになる。今は、ただのホリデーなのに。離れたくなくなりそうで、離れられなくなりそうで、怖かった。だって、俺は……」
俺は、お前のことを好きになっちゃったから。
最後の言葉は飲み込んだ。それを言ったところでなんになるだろう。困らせるだけだ。重いと思われるだけだ。
「……そんな現実逃避して我が儘言って困らせたくなかったし、せっかくの思い出を綺麗なまま持ち帰りたかった。だから挨拶しないで逃げた。ごめん」
「……もういいよ」
1
あなたにおすすめの小説
おれより先に死んでください
星寝むぎ
BL
あらすじ:
恋人にフラれた美容師の恭生は、久しぶりに祖父の夢を見た。祖母が亡くなって見送った日の記憶だ。
『恭生、俺はばあさんが先に死んでよかったよ』
なぜそんな恐ろしいことを言ったのだろう……傷心と苦い記憶で沈む恭生に、年下の幼なじみ・大学生の朝陽がとある提案をする。
恋人(仮)になってみないか、と。
朝陽は自分を嫌っているはずなのになぜ? 恭生は訝しむが、自分と恋人(仮)になれば祖父の言葉の真意が理解できると朝陽は言う。戸惑いつつも、朝陽を弟のように可愛がってきた恭生はその提案に乗ることにする――
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
夢の続きの話をしよう
木原あざみ
BL
歯止めのきかなくなる前に離れようと思った。
隣になんていたくないと思った。
**
サッカー選手×大学生。すれ違い過多の両方向片思いなお話です。他サイトにて完結済みの作品を転載しています。本編総文字数25万字強。
表紙は同人誌にした際に木久劇美和さまに描いていただいたものを使用しています(※こちらに載せている本文は同人誌用に改稿する前のものになります)。
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
神様は僕に笑ってくれない
一片澪
BL
――高宮 恭一は手料理が食べられない。
それは、幸せだった頃の記憶と直結するからだ。
過去のトラウマから地元を切り捨て、一人で暮らしていた恭一はある日体調を崩し道端でしゃがみ込んだ所を喫茶店のオーナー李壱に助けられる。
その事をきっかけに二人は知り合い、李壱の持つ独特の空気感に恭一はゆっくりと自覚無く惹かれ優しく癒されていく。
初期愛情度は見せていないだけで攻め→→→(←?)受けです。
※元外資系エリート現喫茶店オーナーの口調だけオネェ攻め×過去のトラウマから手料理が食べられなくなったちょっと卑屈な受けの恋から愛になるお話。
※最初だけシリアスぶっていますが必ずハッピーエンドになります。
※基本的に穏やかな流れでゆっくりと進む平和なお話です。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる