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Don't believe in never ⑬

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「……黒埼」
「ん?」

 黒埼が晃良の首筋に顔を埋めたまま返事をした。なぜだろう。黒埼になんの恋愛感情もないはずなのに。それどころか、好意的な感情すらも抱いていないはずなのに。疲れているとは言え、今、こうして後ろから抱き締められていて嫌悪感が全くないのは不思議だった。

 認めたくはないが。もう晃良の中には黒埼に対して、情、みたいなものが沸いているのかもしれない。

 それは晃良として不本意なことなのだ。なぜなら、情が生まれてしまったら。自分が相手を無下にはできない性分だと知っているから。自覚してしまった以上、黒埼のためにできる限り協力したい気持ちはあるけれど(体の関係は別として)。

「俺……思い出せるかな」
「…………」
「今まで、どれかけ頑張ってもダメだったし。だから、諦めてた。きっともう無理じゃないかって」
「…………」
「だから。頑張ってみるとは言ったけど、もしどうしてもダメだったらって思うんだよ」
「……アキちゃん」
「……なに」
「最初からダメだったらなんて思ったらそれこそダメだって」
「…………」
「アキちゃんは絶対大丈夫だから」
「……だけど……」
「前も言ったじゃん。アキが俺を忘れるわけがない」
「…………」

 晃良の中にいる、黒埼が知っている晃良に向かって言われた気がした。

「絶対思い出す」

 はっきりと言い切る黒埼に、晃良はふと笑った。

「凄ぇ自信だな」
「自信めちゃくちゃあるよ」
「……そうか」
「だから。アキちゃんも無理だとかできないとか、そんなの信じんな」
「……そうだな」

 ふあっ、と大きな欠伸が出る。今日はなんやかんやで本当に疲れた1日だった。休みだったのに、全く休んだ感じがしない。

「アキちゃん、明日は仕事?」
「ん。別の警護が始まる」
「そしたら、デートはお預けだな」
「……そのこと忘れてた」
「えっ!! アキちゃん、忘れてたの?? 日本来たらデートする約束じゃん!!」
「……そうだったな」
「もうっ。過去の記憶だけじゃなくて、約束まで忘れるって。最低じゃん、アキちゃんっ」

 ブリブリと怒って後ろから耳元で文句を言い続ける黒埼に、とりあえず謝る。

「ごめんごめん」
「……アキちゃん、眠いからって適当に謝って済ませようとするの止めてくれる?」
「いや、だって、ほんと眠い……」
「まあ……どっちにしろ、俺も急に来たから明日すぐ帰んなきゃならないし。デートはできないけど」

 急に来たと聞いてふと疑問が湧いた。

 この男は、どうやって晃良があの消防士の男とラブホテルに入ったことを知ったのだろう?

「…………」

 一瞬、何とも言えない恐怖に近い感情が晃良の中をかすめたが、あえてそれ以上考えるのはよそうとその感情を奥深くに押し込めた。

 黒埼が晃良を抱き締める腕に少し力を込めて、耳元で囁いた。

「甘いデートはまた今度な」

 この男は。やると決めたらやるだろうし。きっとまた近い内に晃良の前に姿を現すに違いない。

 もう、なるようになれ。

 晃良に抗えない睡魔が襲ってきた。黒埼の腕の中で段々と意識が遠のいていく。懐かしいような、心地よい感覚。

「おやすみ、アキ」

 黒埼の声が晃良の体の中にゆっくりと染み渡っていく。その耳あたりの良い音に安心しながら、晃良はゆっくりと目を閉じた。
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