フェイク

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臆病者

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「で、そんなに落ち込んでんの?」
「ん……」

 その夜。帰宅した明石を七尾人形が笑顔で迎えてくれた。

 しかし、大量の卵焼きでもてなされても、一緒に風呂に入っても、日課のキスをしても、リアル七尾のことが頭から離れずにいじけていた。

 明石のいつもと違う様子に気づいた七尾人形に優しく促され、今日起きた出来事を話した。七尾そっくりの七尾人形に話しているのも妙な気分だったけど、七尾人形は『俺に優しくする』という項目に従って親身になって聞いてくれた。

「それで、どうしたいの?」
「……分からない……」
「分からないってどういうこと?」
「最初は、向こうも好きでいてくれたんだから、自分の気持ちを言えばいいじゃん、って思ったんだけど。だけど、七尾は……なんていうか、もう終わった、みたいな態度だったから。それを見たら、俺がまたほじくり返すよりは、今のままでもいいのかもって……」
「今のまま?」
「ん。もちろん、仕事で迷惑かけないようにはする。だけどその……俺は……このままの生活でもいいかなって……ほら、お前もいるし」
「…………」

『でも、もう遅かったよな』

 七尾から出たあの言葉。完全に諦めたような、終わったような響きが含まれていて。

 無理やり作った笑顔でそれを口にした七尾を目の当たりにすることは、明石にとって七尾に振られるよりもショックが大きかった。

 いや、振られたようなものか。七尾に気持ちの整理がついているのなら。誤解されたままでも終わったことにして、仲の良い同期でいた方がいいのではないか。タイミングがずれてしまった時点で、七尾とは上手くいかない運命だったのかもしれないし。

 違う。

 それはただの言い訳だ。ただ単に自分は臆病者で。すでに諦めている七尾に訴えてまで関係を変える勇気がないのだ。

 どちにせよ、今の明石には七尾人形がいる。それで十分じゃないか。臆病者のままでも。七尾人形が代わりにいてくれたら。

「これ以上……七尾と気まずくなるのもさ、あいつに悪いし」

 歯切れの悪い受け答えを続ける明石を、七尾人形はしばらく見つめていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

「本当にそれでいいのか?」
「え?」
「俺を『ナナオユウダイ』の代わりにできればいいってことだろ?」
「……そう……なるのかな」
「ふーん」

 間延びした口調で返事をした後、七尾人形が視線を宙に向けた。何か考えているようだった。それからふと、明石に視線を移した。

「なら、ヤってもいいよな?」
「へ? え?」

 わけの分からない内に、七尾人形が強引に覆い被さってきた。そのまま床に押し倒される。
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