フェイク

文字の大きさ
26 / 32

幸せに

しおりを挟む
 気づかれていたのか。

 違和感はあった。七尾人形に満足しながらも、どこか違うと感じていた。けれど、その理由までは辿り着けなかった。今の今まで。

 でも、はっきりした。

 目の前の七尾人形は。優しくて、明石を甘やかしてくれる。向こうから求めてキスもしてくれる。明石が求めれば何でも応えてくれる。それはそれで嬉しかったし、七尾人形とこのまま一緒にいられればと思ったのも本当だ。

 だけど。

『死ぬほど妬いたわ』

 嫉妬に満ちた目で見つめる七尾。

『……言うつもりなかったんだよ』

 照れた顔して下を向く七尾。

『馬鹿だよな、俺。今更こんなの言ってどうすんだよって話だよな』

 悲しそうな表情で無理に笑う七尾も。

 そんな彼に動揺して、悩まされてばかりいるのに。目を逸らされる度に、苦しいほど悲しくなるのに。

 思い出しては、愛しい、と感じる自分がいること。

 七尾人形では七尾の代わりにはなれないこと。

 自分は。自分の都合良いように動く相手ではなくて。思い通りにならなくても、自分が辛い思いをしても。

 拗ねて、ムキになって、照れて、はっきりと気持ちをぶつけてくる、七年間ずっと見つめてきた、あの七尾雄大が好きなんだ。

「な?」

 得意顔で七尾人形が確認してきた。

「……七尾」
「ん?」
「ありがとう」
「別にいいよ。てか、Tシャツ破ってごめん」
「それはいいけど……」

 七尾そっくりな七尾人形の顔を真正面から見つめる。もしかして、七尾人形は明石が本物の七尾を求めていることに最初から気づいていたのではないだろうか。ふとそんな気がした。七尾本人に興味がないくせに七尾のことを調べて真似していたのも、明石のために七尾に近づける努力をしてくれていたのかもしれない。

 もしそうなら。なおさら、このままでは終われない。

「七尾、俺……」
「……行ってきたら? まだ間に合うんじゃない?」

 時刻を確認すると真夜中過ぎだった。こんな時間に急に行って会ってくれるかどうかも分からないけど。

「行ってくる」

 立ち上がって、そう七尾人形に告げる。

 七尾人形が笑顔で応えた。

「うん」

 急いで寝室に駆け込むと、外出着に着替えた。リビングへ戻り、携帯と財布、車の鍵を手に取る。

「そしたらな」
「ん。気をつけて」

 玄関へと早足で向かう途中で、ふと立ち止まった。くるりと方向転換すると、リビングにいる七尾人形へと突進する。

「うわっ。なになにっ」
「七尾」

 勢いのまま七尾人形に飛び付いて、ぎゅっと抱き締めた。感謝を込めて。強く強く。

 やがて、そっと明石の背中に腕が回ってきた。明石とは対象に、優しく抱き締めてくる。

「本当にありがとう」
「……うん」

 ゆっくりと体を起こした。七尾人形と見つめ合う。七尾人形は優しく微笑んでいた。

「じゃあ、また後でな」
「ん……」

 立ち上がると再び玄関へと急いだ。慌ただしく靴を履いて外へと飛び出す。

 七尾人形は一人、部屋に残された。

「……幸せに」

 七尾人形がどこか寂しそうに呟いたその言葉は、走り出した明石のところまでは届かなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君と僕の関係は罰ゲーム

くすのき
BL
小学生の時、幼馴染の発した自分との関係性を聞いてしまった十都棗(とそなつめ)は、彼に頼らない人間になる事を決意して生きてきた。でも大学生となったら、まさかその幼馴染と再会し、しかもお隣さんになっていた。 彼は僕の事を親友と呼ぶが、僕はそのつもりはなくて……。 陽キャ✕陰キャ

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

今日でさようなら

須藤慎弥
BL
勝ち気で素行の悪い陽斗(はると)は、品行方正・文武両道な大地(だいち)の事が好きだった。 住む世界が違う、見ているだけで良い、と実はピュアで控え目な陽斗だったが、同じ高校に入学したのを機に話しかけ、二人は仲良くなることができた。 だが陽斗は、大地が実はモテている事を知り勝手に打ちのめされ、とんでもない要求をしてしまう──。 ※程度はともかく五割そういうシーンです。ご注意ください。 ※BLove様で行われましたコンテスト参加作です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...