15 / 25
⑭
しおりを挟む
栗原に送ってもらい辿り着いたのは、今時珍しい2階建ての古びた木造アパートだった。そこの1階の一番奥の部屋。そこが、例の最低野郎の部屋だった。一緒に付いて行くという栗原の申し出を断って1人でそのアパートへと近付いていく。
栗原から今夜そいつは夜勤だと聞いているので不在なはずだったが、もちろん部屋には鍵がかかっているだろうし、陸が素直に開けるとも限らなかった。
とりあえず玄関の前まで来てみると、部屋から灯りが漏れているのが分かった。陸がいる。それだけで、哲也の気持ちは落ち着かなくなった。
そっとノックしてみる。
しばらく待ったが、何の反応もなかった。そりゃ、こんな真夜中の訪問者を、陸じゃなくとも誰だって快く受け入れてはくれないだろう。
でも、哲也には分かる。部屋の中で息を殺してこちらを伺っている陸の気配がする。
どうしようかかなり迷った。もし、陸が哲也を思い出していなければ、陸をここから連れ出すのは難しいかもしれない。いつぞやの他のやらしいおっさんたちと一緒に扱われたように、ここに住む最低野郎と同類だと思われる可能性が高いのではないか。
でも。
『陸くん? そっか……いい名前だね』
そう哲也が言った時の、陸の初めての笑顔を思い出す。
そうだ。もし、陸が覚えていなかったら。また一から、辛抱強く、陸と向き合えばいい。時間は朝までたっぷりあるのだから。
哲也は覚悟を決めた。
今度は少し強めにドアをノックする。
「……陸?」
部屋の中に聞こえるように、ドアに顔を近づけて陸の名前を呼んだ。
数秒の沈黙の後。
「……哲也さん?」
か細い声で、自分の名前を呼ぶ声が確かに聞こえた。哲也の胸がぐっと鷲掴みされたかのように苦しくなる。
思い出していた。
「陸……開けてくれ」
「……できない」
「……なんで?」
「縛られてて……。玄関まで行けない」
縛られている?哲也は思いっきり眉を潜めた。
あの野郎(会ったことないけど)……殺すっ!!
顔も知らない相手に思いつく限りの悪態を心の中で吐きながら考える。
さて、どうしようか。
無理やりドアを壊してもいいけれども。真夜中だし、そんな音でも立てようなら自分が警察に先にお世話になるかもしれない。
「ん?」
ふと玄関下にある変な猫の置物に目がいった。そこでふとある考えに至る。もの凄くベタだけれど……。
まさかな。
そう思いながら。その猫の置物を持ち上げて下を覗くと。
まじかよ。
置物の裏にテープで鍵が貼り付けられていた。何かあったときのためのスペアーキーだとは思うが、素人の哲也にこうもあっさり見つかるようなところに隠しておいて意味があるのだろうか。とりあえず、今の状況には好都合だった。
哲也は、鍵を置物から剥がして、置物を床にそっと置いた。少し緊張しながら鍵穴に鍵を差し込んだ。ゆっくりと右に回すと、かちり、と小さな音がして解錠された感覚があった。
ノブを掴んで、回す。そっと奥へと押すと、扉が開いた。
開いた途端。
「陸……」
リビングにあるベッドの上で、長袖のTシャツと下着だけを身にまとった陸と目が合った。
栗原から今夜そいつは夜勤だと聞いているので不在なはずだったが、もちろん部屋には鍵がかかっているだろうし、陸が素直に開けるとも限らなかった。
とりあえず玄関の前まで来てみると、部屋から灯りが漏れているのが分かった。陸がいる。それだけで、哲也の気持ちは落ち着かなくなった。
そっとノックしてみる。
しばらく待ったが、何の反応もなかった。そりゃ、こんな真夜中の訪問者を、陸じゃなくとも誰だって快く受け入れてはくれないだろう。
でも、哲也には分かる。部屋の中で息を殺してこちらを伺っている陸の気配がする。
どうしようかかなり迷った。もし、陸が哲也を思い出していなければ、陸をここから連れ出すのは難しいかもしれない。いつぞやの他のやらしいおっさんたちと一緒に扱われたように、ここに住む最低野郎と同類だと思われる可能性が高いのではないか。
でも。
『陸くん? そっか……いい名前だね』
そう哲也が言った時の、陸の初めての笑顔を思い出す。
そうだ。もし、陸が覚えていなかったら。また一から、辛抱強く、陸と向き合えばいい。時間は朝までたっぷりあるのだから。
哲也は覚悟を決めた。
今度は少し強めにドアをノックする。
「……陸?」
部屋の中に聞こえるように、ドアに顔を近づけて陸の名前を呼んだ。
数秒の沈黙の後。
「……哲也さん?」
か細い声で、自分の名前を呼ぶ声が確かに聞こえた。哲也の胸がぐっと鷲掴みされたかのように苦しくなる。
思い出していた。
「陸……開けてくれ」
「……できない」
「……なんで?」
「縛られてて……。玄関まで行けない」
縛られている?哲也は思いっきり眉を潜めた。
あの野郎(会ったことないけど)……殺すっ!!
顔も知らない相手に思いつく限りの悪態を心の中で吐きながら考える。
さて、どうしようか。
無理やりドアを壊してもいいけれども。真夜中だし、そんな音でも立てようなら自分が警察に先にお世話になるかもしれない。
「ん?」
ふと玄関下にある変な猫の置物に目がいった。そこでふとある考えに至る。もの凄くベタだけれど……。
まさかな。
そう思いながら。その猫の置物を持ち上げて下を覗くと。
まじかよ。
置物の裏にテープで鍵が貼り付けられていた。何かあったときのためのスペアーキーだとは思うが、素人の哲也にこうもあっさり見つかるようなところに隠しておいて意味があるのだろうか。とりあえず、今の状況には好都合だった。
哲也は、鍵を置物から剥がして、置物を床にそっと置いた。少し緊張しながら鍵穴に鍵を差し込んだ。ゆっくりと右に回すと、かちり、と小さな音がして解錠された感覚があった。
ノブを掴んで、回す。そっと奥へと押すと、扉が開いた。
開いた途端。
「陸……」
リビングにあるベッドの上で、長袖のTシャツと下着だけを身にまとった陸と目が合った。
0
あなたにおすすめの小説
君が僕を好きなことを知ってる
大天使ミコエル
BL
【完結】
ある日、亮太が友人から聞かされたのは、話したこともないクラスメイトの礼央が亮太を嫌っているという話だった。
けど、話してみると違和感がある。
これは、嫌っているっていうより……。
どうやら、れおくんは、俺のことが好きらしい。
ほのぼの青春BLです。
◇◇◇◇◇
全100話+あとがき
◇◇◇◇◇
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!
孤毒の解毒薬
紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。
中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。
不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。
【登場人物】
西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。
白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる