黒髪黒目は魔王ですか?いいえ、むしろ世界を救う希望の星です!

kei

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強くなると誓った日

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あれから三年が経ち、私はすっかり大きくなった。ちゃんと足で歩けるし、ある程度の言葉も喋れるようになった。もう勉強も始めていて、この国の歴史くらいは全部覚えた。三歳になって気づいてけど、私の見た目は前と変わっていなかった。黒髪黒目にこれから顔面偏差値七十を超えるであろう顔。髪と目の両方が漆黒なのはこの世界ではとても珍しいことだ。一部の人は私を魔王の子と呼び疎んだ。それでも、マーヤはずっと私の乳母としてそばにいてくれたし、父が私に預けたアシルとレイトという護衛二人も私のそばにいてくれている。母は私が生まれてすぐに亡くなったから私は母のことを何も知らない。
今日は私が生まれてから三年間、一度も家に帰ってこなかった父親と初めて顔を合わせる。可愛らしいワンピースを着せられて、私は玄関に立っていた。と言ってもすぐにレイトに抱っこされたけど。
私は父親がどんな人なのか気になって、レイトとアシルに聞いた。

「レイト、アシル、あたちのおとうしゃんってどんな人?」
「素晴らしい人ですよ。僕はあの人の弟子であることが一番の誇りです」
「また出た。レイトの師匠自慢」

紺色の髪に濃い黄色の瞳で鼻で笑っているのはアシル、十四歳。
十一歳という若さで魔法使いの資格を取り、ルーク(私の父親)と並ぶ最年少記録を叩き出した人物。私達の家系、『ライロント』というらしいけど、ライロント家の人間は元々生まれ持った能力が常人の倍ほど優れているから、それに並ぶ記録を出したということはもはやアシルが一番だと言うことだ。アシルは、その才能を見込んだルークが自ら弟子にしたという。私もアシルのことを尊敬しているし、一番好きだ。みんなが私にへりくだった態度で接するこの家の中で唯一、私に普通に接してくれる。悪いことしたらちゃんと怒ってくれるし、冗談だって言ったりしてくれる。魔法も、時々だけど見せてくれる。アシルの魔法は華やかではないけれど、静かで幻想的な雰囲気で、私は大好きだ。
そんなことを考えていると急に周囲の空気が変わった。ピンと張った空気の中で一人の男の人が現れる。それも、魔法で。

「ルーク様、おかえりなさい!」

レイトは私を降ろすと男の人に向かって走っていった。置いていかれた私はどうしようかと迷っていると、アシルが抱き上げて教えてくれた。

「あれが君の父親のルーク様だ。この世界で最強と言われている。君のことを見るのは初めてだから、多少は挙動不審になるかもしれないけど、とてもいい人だから、心配しなくて大丈夫」

そう言って、私を抱えたままルークの所へ連れて行ってくれた。
ルークは近くで見るととても綺麗な人だった。太陽の光を受けてキラキラと光る金髪に、不思議な光を放つ青い、例えるなら宝石のアクアマリンみたいな瞳をしていて、でも眉間に刻まれた皺がその人の印象を『気難しい人』にさせた。
アシルは私を降ろすと、私の紹介をした。

「師匠、この子はアイナ。師匠も知っての通り、師匠の娘さんです。この歳でもう国の歴史を制覇した天才ですよ」
「……」

ルークは私をじっと見ていた。穴が空くくらい、ずっと、じっと。数十秒の時間が何時間にも思えた。そして、しゃがんで私と視線を合わせてくれる。

「初めまして、アイナ。君の父親のルークだ。これまでずっと会えなくてすまなかった。今日からはずっと家にいる予定なので、君とも沢山触れ合えたらいいと思っている」
「おとうしゃん?」

そうだ、と頷きながら私の頭をクシャッとなでるルークは、アシルが言っていた通り、たしかにいい人なんだろう。そして、ルークはどこかから箱を取り出す。私の体と同じくらいの大きさの、大きな箱。ルークはそれを私に手渡した。訳がわからず受け取ると、ずしりとした重さに体重が前にぐらついた。

「おっと……少し重すぎたようだな」

魔法。
私の体をふわりと風が包み込み、私は倒れずに済んだ。でも、アシルとレイトは私が持っている箱を見て目を見開いている。

「師匠、その箱の中身はもしや……」
「ああ、魔剣だ」

レイトは勘弁してくれとでも言うように額をおさえた。
はて、魔剣とはなんだろう。アシルに視線を送ると、アシルはルークに視線を送った。それを受け取ったルークはアシルの考えを読んだように魔剣の説明をする。簡単に言うと、魔剣とは持ち主と共に成長し、持ち主の適性にあった剣へとなる。そんなスペシャルな剣だから、まぁ高い。豪邸が二軒建つくらい高い。それを、剣に適性があるかもどうかも分からない、初めて会う娘に与えるのだ。そりゃあまあ、驚いて当然だろう。「開けてみなさい」と言われて箱を開けると、中には普通の、ただの剣が入っていた。

「触ってみなさい。君に合うならばそれは輝くし、そうでないなら弾かれるだろう」

え、なにそれ怖い。弾かれるの?
おそるおそる剣に触れると、剣は眩いほどの光を発した。光が収まると、我先にと剣と、剣を持つ私を取り囲む。
その剣は、漆黒で、持ち手の裏と表に、それぞれ赤と青の石が嵌っていた。

「これは……」

ルークは難しい顔をして剣に触ろうとした。
バチッ!
すると剣はルークの手を弾いた。黒い静電気みたいな光が発生し、ルークの手は焼けただれたように形が崩れていた。

「え……?」
「師匠!」
「ルーク様!」
「おい、誰か!ヒーラーを呼べ!」

周りにいた全員がルークの周りに集まり治療をしようとする。みんなが私を見る目は、『怯え』だった。理解できないものを見るような、怯えきった目。マーヤも、よく遊びにいったらおやつをくれていた料理長も、私を可愛がってくれたメイドも、私を褒めてくれた先生も、レイトも。みんなが、私からルーク様を守るように囲んだ。

「あ……なんで、」
「っアイナ!大丈夫だ、怖がるな。これはわざとじゃないってことくらい、みんな分かってるから」

その中で唯一、私を庇ってくれる人がいた。
アシルは私からルークが見えない位置に立ち、私を落ち着かせようと言葉を尽くしてくれた。それでも、私の気持ちはなかなか落ち着かなくて、アシルもそれを悟ったのか、私を抱えて私の部屋へ戻った。

「アシル、ちがうの、わざとじゃない……」
「分かってる。大丈夫だ。それに、あの程度の傷ならすぐに治る。きっと次に会った時には綺麗に治っているはずだ。だから落ち着こう。な?」

アシルは私をあやす様に頭を撫でた。そして、こう提案した。

「気分転換に、森に行くのはどう?ちょうど今はルクリアの花が綺麗に咲いている時期なんだ。見た目も綺麗だし、いい匂いもするんだ。行ってみない?」
「ルクリア……」

それは日本にもある桜のような見た目の花だ。前世でも、私が好きな花だった。
私が頷くと、アシルは私を抱き上げて言った。

「それではアシル急行、西の森行き、出発しまーす」

それが、私を元気づけるためにあえて明るい調子の声で言っていると分かって、その心遣いが嬉しくて、私は私をだっこしているアシルの腕に抱きついた。

「ヴァンデル・ムーヴ」

アシルが移動魔法の呪文を唱えると、一瞬の浮遊感と眩しい光があって、次の瞬間にはもう目の前は森だった。森には紅葉が沢山落ちていたけど、ルクリアの花は見当たらなかった。

「あれ?ルクリアがない。おかしいな~たしかこの辺りに咲いてたはずなんですけど……」
アシルはしゃがんでルクリアの花を探している。
「キエェェェェ!」

突然、モンスターの泣き声がした。それも、すぐ近くで。後ろを振り返ると、目に前にサルを凶暴化したみたいなモンスターがいた。もうダメだ、と思って目をつぶると、横から何かが飛んできて、それがサルもどきの頭に当たり、サルもどきは醜い呻き声をあげながら倒れた。アシルは私が襲われそうになったことに気づくとこちらへ駆け寄ってきた。

「アイナ!大丈夫?!ごめん、俺が目を離した隙に……」
「童、この者をしばし借りる」

男の人が、私を抱えてぴょんぴょんと木の枝を伝ってどこかへ行く。私はアシルのところに戻ろうと必死に抵抗したが、いかんせん、私は三歳児だ。大の大人に力で敵うわけがなかった。それでも抵抗しようとする私を、男の人は人差し指を唇に当てる。それだけで、息がしにくいような、重い空気が私にのしかかるような感覚がした。

「あの者に気づかれては、其方は其方の知りたい情報を得られぬぞ。なぜ自分がこのような状況にあるのか知りたくはないか?日本で高校生として生きていたのに、急にこんな世界に生きていることを、疑問に思ったことはないのか?」
「?!」

私が日本で生きていたことはこの世界では誰も知らないはず。なのにこの人がそれを知っている理由はただ一つ。この人が私の転生に関わっているから。しかも、この口ぶりだと私がなぜこんなことになっているのか知っているようだ。私は抵抗をやめて大人しく男の人に抱えられることにした。
しばらくすると大きな池があって、男の人はそこに躊躇いなく飛び込んだ。激しい衝撃と息ができないことにパニックになって、慌てて水から出ようとした。そんな私の足を男の人がつかんだ。

「私を殺す気?!」
「この水は見せかけのものだ。息はできる。その証拠に、喋れているだろう」
「あ、たしかに……」

そしてもうひとつ気がついた。

「うそ、私、成長してる……」

というよりは、元の姿に戻っていた。
私の姿は、高校生の葵凪のときの姿で、高校の制服を着ていた。見ると、男の人もさっきまでは二十代くらいの緑髪に青い目の男の人だったのに、今は金髪に輝く青い目をしていて、ルークと血縁関係にあることがひと目でわかるような色で貫禄のあるおじいちゃんみたいな姿をしている。

「ここでは皆、真の姿へ戻る。……さて、少し、話をしようか」
「え、いきなりなんですか?」
「いいから聞きなさい」



昔、プリグネイシェンのドゥンケルブラオという国にという世界に平民の女の子と王族の男の子がいた。
女の子はエウリカ、男の子はアーリーといい、小さい頃から一緒に育った二人はそのうち恋に落ち、結婚の約束をする。でも、アーリーは王族。平民との結婚が許されるわけが無い。アーリーは親が用意した貴族の女と結婚した。それでもエウリカを諦めきれなかったアーリーはこっそりと城を抜け出しエウリカと逢引をするようになる。いつしかそれは王妃の耳にも入り、アーリーは城を追放されてしまう。これでエウリカと結婚できる、と喜んだアーリーは急いでエウリカの家へ向かった。しかし、エウリカは既に別の男と結婚させられ、妊娠までしていた。エウリカは、もう自分は別の人の妻なのだと、アーリーとは結婚できないのだと、アーリーを説得する。アーリーはエウリカを諦め、平民として生きていくことにした。三年ほど後の春、アーリーの立ち上げた事業が軌道に乗ってきた頃、エウリカが死んだという知らせが届いた。旦那の暴力で死んだのだと、彼女の兄は言っていた。そして、手紙を渡された。

『愛するアーリー
この手紙があなたへ届いたということは、私はもう死んでしまったのね。あなたにこれを書いたのは、謝りたかったから。あなたが結婚する前日、私と逃げようって誘ってくれたのに断ってしまったこと。何度も何度も誘ってくれたのに、断り続けたこと。あの日、私を追いかけてくれたあなたを突き放してしまったこと。死ぬほど嬉しかった。でも、怖かった。もしあなたと結婚して、子供ができたとして、私達は上手くやって行けるのかって。あなたは王族、私は平民。きっとどこかで亀裂が入る。当時の私はそう思っていた。でも、今、とても後悔している。あの時、迷わずにあなたの手を取ればよかった。そうすれば、もっと幸せなに生きられたかもしれないって。今更こんなこと言っても何ににもならないけど、言わせて。愛してる、アーリー。愛してくれて、ありがとう。』

誰からの手紙かはすぐにわかった。アーリーは泣き叫んだ。声も涙も何もかもが枯れるまで、泣いて、叫んで、気付けば彼女の夫を殺していた。彼女を失った怒りを、悲しみを、そいつにぶつけるように、嬲り殺した。いつしかそれだけでは満足できなくなったアーリーはエウリカの旦那の家族も、その親戚も、みんな殺した。そして、何もかもどうでも良くなったアーリーは無差別に殺人をするようになり、自分の手足のように動くモンスターも作り出した。モンスターは人々を虐殺し、それを止める勇者ができた。そのうち勇者は数を増やしていき、いつしか、モンスターと勇者がバランスをとる世界が完成した。



「それが、このプリグネイシェンってことですか?」
「そうだ。私がその最初の勇者であり、エウリカの兄だ。そして、まだこの話には続きがある」



アーリーはその後数千年生き、いつしか人々に『魔王』と呼ばれるようになっていた。
魔王になり、他にすることを見つけられなくなったアーリーは、エウリカの代わりを探し始めた。エウリカとそっくりな女の子は、数百年に一度、ドゥンケルブラオにに生まれてくる。その子をさらってきては朽ちるまで自分の傍に置き、死ねば丁寧に弔う。それを繰り返してアーリーは心に空いた大きな穴をどうにかして埋めようとした。人々はその少女たちのことを『聖なる犠牲サン・サクリフィス』と呼んだ。でも、どんなにそれを繰り返してもアーリーは満足しなかった。そして五人目のエウリカの代わりが死んだ後、千年、エウリカにそっくりな女の子は生まれなかった。そんな時、エウリカの兄はなにかの手違いでエウリカにそっくりな女の子が地球に生まれていることを知った。そして、ライロントの血を引くその子をこちらの世界、プリグネイシェンに転生させた。

「その女の子が、私……」
「そうだ」
「は、」

乾いた笑いが零れた。

「私の整った容姿も、異常な身体能力も頭脳も、何もかも、『ライロント家』の血を引いていたから。なにかの手違いで地球に生まれただけで、私の努力とかそんなんの関係なく、私はそうあるべきだったんだ。だから、私はなんでもできた」
「其方には本当にすまないと思っている。地球では、其方の持つ全てが異常で、其方は疎まれたことだろう。其方にはなんの罪もない。できればこのまま安らかに過ごして欲しいと思っている」

私だってそうしたい。

だが、と男の人は私の肩に触れた。瞬間、チリッとした痛みと共に右腕の布が弾け飛んだ。そこには、複雑な模様が肩から手の甲にかけて刻まれていた。

「其方の腕に印を刻んだ。これで、其方は魔王から逃げることはできないだろう」

淡く光るそれはどうやら魔王だけに公開されるGPSのようなもので、自分で消すことはできないらしい。
私はぞっとした。

魔王に攫われれば、もう逃げられない。死ぬまで魔王の傍にいなくてはいけない。

「いや……嫌だ!こんなの!」
「すまぬ」
「返して!私の幸せな日々を返してよ!!」

その時、空気が振動するような、重くなるような、不思議な感覚がした。さっきこの男が私にしたのよりも、もっと重苦しい、張り詰めた空気。男の人は肩を竦め、私へ近づいてくる。私はとっさに肩の印を庇った。

「そう警戒するな。これを、其方へ」

そう言って差し出されたのは透明なガラスの破片のついたペンダントだった。

「それは其方以外には見えない。私に会いたくなったらそれを握って私の名を呼べ。私の名は、ハイリヒ。ハイリヒ・ライロント・ディ・フェリクスラット」

次の瞬間、私は森の中にいて、耳の奥で「次はもっとゆっくり話そう」という声が響いていた。すぐそばの茂みがガサガサと音をたてる。私は身構えたけど、三歳の姿に戻ってしまったこの体では、ちょっと立ち姿を変えることしか出来なかった。そして、茂みから何かが出てきた。

「アイナ!」

そこにいたのはルークとレイトで、頭に葉っぱだったり泥だったりをたくさんつけていて、思わず笑ってしまった。二人は私を見て顔色を変えた。

「お嬢様、その腕の傷は……?」
「魔王の、印……!」

痛いほどの沈黙の中で、ルークの歯を食いしばる音が響いた。沈黙を破ったのは、遅れて到着したアシルだった。

「アイナ、よかった、無事だったんだ……」

安心したのかその場に座り込んだアシルをレイトが怒鳴りつけた。

「アシル!どこへ行っていた!お前にはお嬢様の護衛を任せていただろう!なのに、なんてザマだ!お前がしっかりしていれば、お嬢様は━━━」
「レイト、いい」

ルークの静かな声がアシルを止める。

「しかし━━」
「聞こえなかったか?私は『いい』と言ったのだ」

ズン、と空気が重くなって、息苦しくなった。私の体はその圧に耐えられなくなり、「ぐぅ」という声が漏れた。

「!お嬢様」
「師匠、もうやめてください!アイナが!」

ふっ、と空気が軽くなる。
私はその場に座り込んでしまった。アシルは私に駆け寄ってきてくれる。ルークは私を見ずに静かに尋ねた。

「ハイリヒにあったのだな?」
「はい」
「奴はなんと言っていた」

ルークはこちらを見ようとしない。

「あたちの腕に印を刻んだ。これであたちはまおうからにえることはできないって」

ルークは私の腕を掴むと模様が全部見えるように袖をめくる、印に手をかざした。そこが淡く光ったけど、特になんの変化も起きなかった。チッと静かに舌打ちして立ち上がると、私を抱き上げた。

「わっ」
「一旦屋敷に戻ろう。アイナ、君にはその時詳しく説明する」
「「はい」」

ルークは呪文を唱えずに移動魔法を使い、あっという間に屋敷へ着いていた。ルークは私を抱き上げたままスタスタとどこかへ歩いていく。レイトとアシルはお辞儀をして私たちとは逆方向に行ってしまった。しばらくルークに抱っこされたまま長い廊下を進んでいくと、ルークの書斎についた。部屋に入り、私は椅子に下ろされ、ルークは執務机をはさんだ椅子に腰掛ける。

「さて、君の、本当の姿を見せてもらおうか」

そう言ってルークは指を鳴らす。すると、白い光が私を包み、光が消えた頃には、さっきまでハイリヒと対峙していたときの姿、つまり高校生の葵凪の姿になっていた。

「え、なんで?」
「簡単だ。さっきまで奴が使っていた魔法を逆算してもう一度発動させた……しかし、君はそのような姿だったのだな」
「どういうことですか?なんで私が三歳児じゃないって知ってたんですか?」

どうやらルークは私が生まれる少し前、ハイリヒとあっていたらしい。と言っても私と同じように半分拉致られた形でだが。そこで私がなにかの手違いで別の世界へ生まれてしまったこと。今から私をこの世界に戻すこと。そして私が『聖なる犠牲サン・サクリフィス』であること。

「私は絶望したよ。愛する女性との間にできた子が『サン・サクリフィス聖なる犠牲』となる運命だなんて」

そう話をするルークはどこか遠くを見ていて、そのままどこかへ行ってしまいそうな雰囲気だった。でも、次に私を見た時のルークの目は、強い意志を宿していた。

「だから、私は決めた。この子を、誰よりも強くする。魔王に引けを取らないレベルの、強い子にすると」
「でも……」
「頼む。私から妻だけでなく、娘までも奪わせないでくれ。もう、アリアのときとと同じ思いはしたくない」

痛そうに顔を歪めるルークを見て、私の顔も歪んだ気がした。アリア。おそらくそれが私の母の名前だろう。今まで誰も母のことを話題に出さなかったから、名前も知らない、見た目も分からない、性格の分からないの三重苦だ。そして私は、気付けばこう口にしていた。

「お母さんってどんな人だったんですか?」
「アリアは、君によく似ていた。グレーの髪に青磁色の瞳が綺麗で、強くて、明るく、笑顔を絶やさない人。そして、剣術を得意としていて、その腕前は女剣士の中では群を抜いていた」
「……ちなみに聞きますけど、『これ』何か知ってますか?」

私は右腕に刻まれた模様を見せた。ルークは僅かに眉を寄せて、印から目を逸らした。

「知っているさ。魔王の印。この世界でそれを知らない者はいないだろう。そして、それを持つものを人々はまるで虫けらのように扱う」
「そんなの、」
「エウリカもそれを持っていた。肩だけに薄く見えるだけで、君のように完全なものではなかったが。彼女は言った。『これは私の誇り。小さいとき、私の腕には完全な印がついていた。でもこれを見て。今はこんなに薄いし小さい。これは、私が不条理な運命に自らの力で抗った証なの』そう言ったエウリカの表情を、今でも鮮明に覚えてる。彼女は、自分の呪いを自分で解いた。だが、その反発が酷く、結局君を産んだあとすぐに……」

不条理な運命。たしかにその通りだ。それなりに幸せだった世界とは全く違う世界へ移され、こんな印を刻まれるなんて。
でも、と私は思った。今、ルークはたしかに言った彼女は自分の呪いを自分で解いた、と。ならば、何かしらの方法で呪いが解けるのは間違いない。

「私はその方法を知っている。そしてそれは君自身が強くなければできない。だから、私に君の訓練をさせてくれ。君を歴代最強のライロントとすることを約束する」

この不条理な運命から逃れるために。
私は強くなると誓った。

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