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その頃、彼らは01

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 私が心を操る魔法と出会ったのは、市場の一角だった。おばあさんが訳の分からない物を売っていて、その中に魔導書があったのだ。裕福でもない平民だった私は、買えないのは分かっていながら市場を見て回っていた。その時、ふと一冊の本に目が止まった。私はすぐにその本を手に取り、開いてみた。
 中には文字がびっしりと書かれていた。でもその意味をすぐに理解できた。その時、高い魔力とこの魔導書に書かれた魔法への適性が恐ろしく高い事も。
「読めるらしいね」
 しわがれた声で店主のおばあさんが言う。
「他の人はそれを見ても何も書かれていないと言うんだよ」
「そう」
 私はそこに書いてある魔法、一番簡単で今すぐにもできそうな基本の物を使った。
「ねぇ、おばあさん、この本貰っていい? もちろん無料で」
「いいよ」
 ほとんど、ためらいもなくおばあさんはそう返す。満足げな笑顔をしたような気がしたけど、私は気にせず、本を持ってその場を離れた。

 それからはとても順調だった。手に入れた魔導書の魔法を勉強して、理解して、実践する。そうすれば誰もが、私の言う事を聞いてくれる。そうやって魔法使いに家庭教師をお願いして、魔法を学ぶこともした。そのおかげで、貴族が通う魔法学校にも入学できた。
 私は常に学年トップ。これは自分の実力で勝ち取った。わざわざ、試験官の心を操るほどでもないぐらい簡単だったから。そうしていると、いつも二位にいるナナというご令嬢の嫉妬心に気付いた。しかも彼女は次期国王であるマージルの婚約者。これは使えると直感した。
 ナナの嫉妬心を操って、少し背中を押してやる。それだけで、思い通り私をイジメるようになった。同時にマージルにも近づいて、魅惑を使った。王子という重責に抱える物も多いらしく、簡単に操る事ができた。
 そして、頃合いを見て、ナナにやりすぎてもらう。マージルにそれを目撃させて。上手くいきすぎて吹き出しそうになってしまった。つい私はナナに耳打ちをしてしまったけど、国外追放の手筈はマージルに整えさせていたから問題ない。すべてが思い通り、私とマージルは婚約した。



「ねぇマージル様」
 薄暗い部屋で、私はマージルにまとわりつく。
「何だい? エリィ」
 甘ったるい声で、マージルが返してくる。私は一度、マージルと唇を重ねてから、耳元で囁く。
「邪魔なお義父様を消して、あなたが一番になりましょう」
 私の体が仄かに光り、一瞬だけ、部屋が照らされる。おかげで、マージルの表情が強張っているのが見えたけど、すぐに微笑みに変わるのも見えた。
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