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1話
しおりを挟む「はぁ、無能な穀潰しのくせに良いご身分ね。働かずに食べるご飯ってどんな味がするのかしら?」
婚約者の姉──ハンナが下卑た笑みを浮かべながら言ってきたことだ。
朝から今まで休みなく家の中を走り回って業務をこなしていたのに、それを知っていながら「穀潰し」と罵る。
婚約者のシュタール公爵にお姉様から言われたことをそのまま伝えると、笑顔で返された。
「うちの姉さんは元からそういう性格だから。……君が大目に見てやってくれよ」
初めのうちは自分が我慢すべきなのだと理解しようとした。どんなにキツいことを言われても、お姉様はそういう性格なのだと。
だが、次第に暴言だけでは済まなくなっていった。
「本当にあなたが羨ましい! シュタールに釣り合わないのに堂々としていられて! 不十分である自分にも気がつかなくて!」
怒鳴りつけるたびに手に持っていた木のヘラで殴りつけられ、青くなった痣がこぶのように盛り上がってしまう。
シュタール公爵は私の身体に出来た怪我を見せながら被害を訴えても、真剣に聞いてくれることは無かった。
笑顔でへらへらと私に我慢を強いるばかり。
「このまま私が殴られていればよいのですか?」
「えー……、いやぁ……」
面倒くさそうにシュタール公爵が頭をかきむしる姿を見て、決意が固まった。
もう我慢するのはやめる。次になにかされたら同じようにやり返してやる。
いつもと同じように屋敷の廊下ですれ違う瞬間、肩でぶつかってくるお姉様をするりと躱す。
対象を失って前につんのめっているお姉様を後ろから蹴り飛ばすと、甲高い悲鳴を上げながら地面に激突していた。
「ちょっと! なにするの!」
「一回やり返されたくらいで大げさな……。無様なことですわね」
「はあああ?! 待ちなさいっ! こら──」
お姉様は床に突っ伏しながら顔だけ振り返ってきゃんきゃんと吠えてくるが、無視して自分の部屋へと向かう。
胸につかえていたものが下りて爽快な気分で休んでいたところに、物凄いノック音が聞こえてきた。
「おい! 開けなさい!」
扉の向こうからお姉様が叫んできている。
鍵を開けると、勢いよく部屋の中に飛び込んできた。
「なによさっきのは!! よくも私のことを蹴り飛ばしてくれたわね!? 身の程知らずにもほどがあるわ! 覚悟しなさい!」
「な、なにを言うんですか……?」
「しらばっくれないでちょうだい! この犯罪者め!」
お姉様の目を見つめながら口だけで『馬鹿みたい』と呟いた。
目をぱちくりと瞬かせ、何か言おうとしているのか、口をわなわなと震えさせている。
「……婚約なんて破棄よ、破棄! こんな恐ろしい女と弟を結婚なんてさせてあげません」
「そんなぁ~! お姉様っ!」
ふざけて甘ったるい声を出すと、お姉様の既に赤い顔はみるみるうちにどす黒くなっていく。
息を荒げたお姉様は、私の目の前に一歩足を踏み出すと大きく手を振り上げた。
頬に鋭い痛みが走ると同時に、パシャッパシャッと音が聞こえた。シャッター音が鳴るたびにまばゆい閃光が走る。
「……? な、なに?」
ゴシップ専門誌のカメラマンたちが決定的な瞬間を写真に収めたのだ。私が事前に匿名で、公爵家の家庭内暴力を通報しておいた。
お姉様に矢継ぎ早に質問を繰り返す記者が詰め寄る。
「ご令嬢が暴力ですか!?」
「無抵抗な人間を殴りつけましたね?」
「このようなことはよく起こるんですか?」
次の日の紙面には大きく公爵家の醜態がさらされていた。もちろん静観するだけだったシュタール公爵についてもバッチリと載っている。
この件は全国でも大きな話題をよんで、知らない人はいないくらいだった。
当然婚約は破棄。はじめは拒否していたが、シュタール公爵たちが外交の場から弾かれるようになってからようやく慰謝料が支払われた。
そのおかげで土地を購入することが出来た私は不労所得で悠々自適な生活を始められた。
たびたび「本当に申し訳なかった、だから和解したとみんなに知らせてほしい」と手紙が届くが、以前のシュタール公爵のように無視している。
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