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3話 スザンネの嘘
アーリアに気付いてもらえたフォンは嬉しそうにとんでもない、と首を振った。
「スザンネ様、早く返した方がいいのでは?」
「……これは私のものです。嘘をついているのはあっち! どうして信じて下さらないんですか!?」
汚いものを見たかのようにフォンは一瞬だけ顔をしかめたが、そのあとすぐに微笑を浮かべてスザンネに言った。
「人から盗んだもので着飾るなど、穢らわしいにもほどがありますよ。さぁ、早く返しなさい」
怒鳴りつけたわけでもないのに、フォンの言葉には怒りが滲んでいた。スザンネの小細工など、もう通用しないだろう。
観念したのかスザンネはネックレスを外してアーリアに返そうと手を伸ばした。
「それだけですか?」
「……え?」
「盗んだなら謝った方がいいと思いますよ」
「……ッ! ……ごめ、んなさい」
素直に従ったスザンネだったが、本心からの謝罪でないことは明白だった。嫌々ながらであってもスザンネが謝るのは初めてのことだったので、アーリアは驚いた。
スザンネからネックレスを受け取ると、持ってきていたジュエリーケースの中に大切にしまい込んだ。二度とスザンネの手に渡って欲しくない。
フォンは立ったまま襟元を正すと、精悍な顔つきになった。
「今日は大切なお話をしに参りました。こんな大変な状況で申し上げるのは忍びないのですが……」
一度大きく呼吸したフォンは続けて言った。
「僕が婚約を申し込みたいのは、アーリア様なのです。いつの間にか書類にかいてあったお名前が改竄されていたそうで……。スザンネ様と婚約したことは先ほど聞かされました」
「……え? どういうことなの……?」
血の気が引いて真っ青になったスザンネは、弱々しい声を上げた。さきほどまでの威勢は消え失せていた。
「ですから、アーリア様と婚約したいのです。受けていただけないでしょうか?」
フォンは、ずっとアーリアだけを真っ直ぐに見つめている。憔悴しきったスザンネには一瞥もくれなかった。
「あまりにも突然のことで、状況が飲み込めていないんです。……少し、考える時間をください」
いきなり妹の婚約者に、実はあなたに申し込みたかったと言われてすんなり受け入れる人間がいるのだろうか。
フォンは好印象だったが婚約するとなると話は別だった。
「ええ、もちろんです。お待ちしております」
爽やかに微笑んで頭を下げたフォンは、ひとり退室していった。すると、ベルーザは再びアーリアに対して怒り始めた。
「なに? 今のはどういうことなの?!」
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