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5話 嫌がらせ
しおりを挟むあれから、また不便な生活が始まった。アーリアは自分の身の回りのことは自分で出来るが、料理や洗濯をすると周りの使用人が恐縮して居心地が悪そうにしている姿が目に入った。
「すみません、お気になさらず……」
キッチンで食事の準備をしながらアーリアが呟くと、反応してはならない料理番たちは、返事をする代わりに小さく咳払いをして合図する。
ひとりでテーブルに向かい、手に持ったパンを口元に寄せると、この前怪我した痕が見えた。スザンネに掴まれて爪を立てられた部分は、ミミズ腫れのように赤く盛り上がっていたが、今は少し落ち着いてきたようだ。
「……はぁ」
スザンネのおかげで生傷は絶えない。うんざりしてため息をつくと、遠くから足音が近付いてきた。
「あら、寂しくお食事中なのね? 使用人にも嫌がられちゃって可哀想に……。」
何も返事をしないでいると、スザンネは強くテーブルを叩きつけた。衝撃で皿とスプーンが嫌な音を立てる。
「なんなのその態度は? ちょっといいこと言われたからって調子に乗らないでくれる?」
「……いいことって? 何の話?」
アーリアが不思議そうに首をかしげると、スザンネの顔はみるみるうちに赤く染まっていった。
「はぁ? ほんっと信じらんない」
「私が何かした? ネックレスのことだったら、悪いのはそちらだし、いいことなんて何も言われてないよ?」
「……偉そうに。まぁいいわ、今だけ大目に見てあげる」
妙に納得したようにうなずくと、キッチンの中にいる料理番たちに話しかけていた。どんな心境の変化があったのかはよく分からなかった。
食事を終えたアーリアは、ベルーザに呼びつけられて大広間へと向かう。
「これ、全てあなたが」
待ち構えていたベルーザは掃除用具を押しつけてくる。綺麗だとはいえ、大広間をひとりで掃除するのはとてつもない重労働だった。
「ここで婚約発表するの、……意味は分かるでしょう? 徹底的に綺麗にして。見張っているから手を抜こうだなんて考えても無駄よ。人前で恥をかかせた責任を取りなさい」
ベルーザは近くにあった椅子を引くと、腰を下ろして足を組んだ。鋭い視線で睨み付けられたアーリアは嫌々ながらも従うしかなかった。
「もっと丁寧に拭けないの?」
「掃除すらも出来ないのね」
「なんでこんな簡単なことが分からないの?」
アーリアが動くたびにキツい罵声が飛んできた。フォンに止められたときのことを相当根に持っているようだ。
昼過ぎにはじまった掃除は夜が更けるまで続いた。
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