英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

文字の大きさ
24 / 262
第一章

22話 戦場を駆ける

しおりを挟む
「聞け、ファリアの兵たちよ! あの大軍が見えないのか!? 皇都から援軍がやってきたのだ! 諸君らに勝ち目はない! 今すぐ降伏せよ!」

「慈悲深いレオ様は反逆者であるお前らに逃げるチャンスをくれてやると言っているのだ! 今すぐ武器を捨てろ!」

 私たちは戦場を巡り歳三たちを探しながら、そう触れ回った。

 目の前の戦いに熱中していた敵兵たちが自分の置かれている状況にやっと気が付き、逃げ出す者や降伏する者が続々と現れた。

「レオ様! あれはゲオルグではないでしょうか!?」

 タリオの指が示す先には、返り血を浴び元から赤かった鎧を真紅に染めたゲオルグの姿があった。その鎧は所々欠けており、剣も刃こぼれしていた。

 ゲオルグは三人の敵兵に囲まれており、その敵兵は死兵と化していた。

 追い詰められた軍の兵は時に死兵と化すことがある。この死兵と言うものがかなり厄介だ。

 死兵は読んで字のごとく、「死を覚悟した兵」ということである。彼らは追い詰められ、もはや命を捨て相討ち覚悟で突撃してくるのだ。


「タリオ! あそこに突撃するぞ!」

「正気ですか!?」

 ここで彼を失う訳にはいかない。

 私は右手に持っていたウィルフリードの旗を地面に投げて突き刺した。そして剣を抜いた。

「行くぞぉ!!!」

「どうなっても知りませんよ!?」

 そう言いながらタリオは全速力で馬を駆る。

 私も剣を振り上げる。ヒュンと空を切る音がする。

「ゲオルグ避けろ!!!」

「……! まさかレオ様!?」

 馬はゲオルグと三人の敵兵の間に割って入った。



「なッ! 貴様は……!」

 敵兵と目が合った。それは一瞬のはずだったが、その時間だけがスローモーションになったかのように目に焼き付いた。

 次の瞬間、私は剣を振り下ろした。その途端、時間の流れるスピードが一気に加速する。

 バキン!という金属音の中に、鈍い感触が手に伝わった。

 剣を見ると、切っ先は欠けており、中腹には血がべっとりと付いていた。

 私は思わず振り返る。

 後ろには首を押さえ転がる敵兵の姿があった。

 他の二人の敵兵が動揺したその刹那を見逃さず、ゲオルグがその大剣で瞬く間に残りの二人も押し倒した。


「ゲオルグ! 歳三はどこにいる!? ナリスたちは無事か!?」

 私たちは駆け抜けたゲオルグの元へ戻る。

「歳三たち正規兵は街の防衛の方に向かった! ナリスたち傭兵団はどうなったか分からねぇ! だが、つまらねぇ死に方をするようなタマじゃ無いはずだ!」

「分かった! ゲオルグも無理をするなよ! 我々は十分戦った! あとは援軍に任せよう!」

「あぁ! 俺は動ける冒険者たちを集めて負傷者を回収する!」

「では頼んだ! 私は街へ向かう!」

「気をつけろ! あっちは恐らく援軍が来たことに気がついてない! 敵は逃げることなく戦い続けているはずだ!」

「情報感謝する!」

 私は剣を掲げた。ゲオルグもそれに応じて剣を掲げる。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 




「タリオ! あの崩れたところから街に入れるか!?」

「多分大丈夫です! あれだけ踏み固められていれば!」

 幸か不幸か、そこは大量の敵兵が乱入して、堀を埋める、かつて壁だった岩が踏み固められていた。

「それよりレオ様、その剣を捨ててください!」

「何を言い出すんだタリオ」

「……震えてるの、分かってますよ」

「…………」

 馬による揺れではなく、私の体は小刻みに震えていた。その振動はタリオにも伝わっていたらしい。それもそのはず、タリオと触れ合う鎧がカチカチと小刻みに音を立てている。

「これ以上レオ様が自身の手を汚すことはありませんよ……! 次は私が!」

「しかしタリオ! 私が後ろにいては……」

 通常、騎兵が剣で地上の敵を攻撃する時は、振り上げた剣を後ろから掬うように攻撃を繰り出す。そうでないと馬の上から相手に剣が届かないからだ。

 それなのに私が後ろにしがみついていては、タリオは剣を振り下ろすことが出来ない。

「その時は何とかしますから! 何度も言いますけど、レオ様は自分のことだけ考えてください!」

「く、分かったよ……」

 私は馬に当たらないように剣を遠くの方に投げ捨てた。

 その途端、ふっと体が軽くなった。勿論、鉄の塊を放ったというのもあるが、それ以上に何かが私から消えた。

 それは責任か、罪悪感か。

 剣を投げ捨てたぐらいで人を殺めた罪が消えるはずもないというのに。



「これは少しばかり揺れますよ! しっかり両手で掴まってください!」

 馬は岩の上を器用に渡る。何度か亡骸を踏んだように見えたが、私は目を逸らした。

「あの正面のじゃないですか!?」

「あれで間違いないな……」

 敵は街の一区画まで侵入していた。数軒の家は炎を上げ燃え盛っている。

 その道の少し先にある公園のような広場で未だに戦いが繰り広げられていた。

 そこからは肌を刺すような殺気が感じられた。

「歳三はあそこにいる……」

 それはいつか、父と歳三が戦った時に感じた殺気と同じものだった。

 歳三の『明鏡止水』は全身から殺気を出し敵の動きを封じる技だ。見ている側は何が起きているかわからず、まるで時間が止まったかのように感じる。


「援軍だ! 援軍が来たぞ!」

 タリオがそう叫ぶ。

「君たちは完全に包囲されている! 武器を捨てて大人しく出てきなさ、……いや、出ていきなさい!」

 私もタリオに続く。

「そんなバカな!」

「騙されるな! 援軍などあと二日三日は来ない!」

「だが、そう言えば攻城兵器の攻撃が止まっているぞ……?」

 敵の中で明らかに仲間割れが発生した。

 私たちはその隙を縫って最前線まで駆け抜けた。


「歳三!!!」

 そこには頭や腕から血を流す歳三の姿があった。髪は乱れ、刀は血糊で輝きを失っていた。

 それでも刃こぼれしていないのは、流石は名刀「和泉守兼定」と言ったところか。

 いや、感心している場合ではない。重傷を負った歳三をすぐに助けなければ!

「はァ、はァ……。レオ……、どうしてここに……!?」

「皇都から援軍が来た! 騎兵だけでここまでやって来たんだ!」

「本当か……。それは命拾いしたな……。あァクソ!」

 歳三は辛そうな表情でだらんと下がった左腕を押さえる。相当な深手のようだ。だが、その目には蒼白い闘志の炎が宿っている。

「歳三、ここは退くんだ! なにも勝ち戦で死ぬことはない!」

「だがここで敵を抑えねェと、中心部へ避難した市民が危ねェ……!」

 そう言い歳三は刀を片手で構える。

「レオ様! 敵兵は約五十、味方義勇兵は三十程動ける者がいます!」

 私と歳三が話している間にタリオが状況を報告した。

 その間にも、敵兵はジリジリと距離を縮めてくる。

「歳三、ここでお前を失う訳にはいかない!」

「だがなァ……」

 その時だった。突如タリオが馬を降りたため、私は危うくつられて転落するところだった。

「レオ様はもう馬は一人でも乗れますね?」

「自信はないがな……」

「じゃあ頼みますよ!」

 彼は手に持っていた手網を私に押し付ける。

「ほら馬に乗ってください!」

 タリオは歳三を無理やり馬に担ぎこんだ。

 歳三は抵抗することも出来ず、私の背中にもたれ掛かる。

「タリオ! お前はどうするんだ!」

「ここは私に任せて、先に行ってください!」


 馬鹿野郎、そいつは死亡フラグだろ……。

 私の頭に嫌な予感が浮かんだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

処理中です...