38 / 262
第一章
36話 違和感
しおりを挟む
私たちは無言で繁華街まで歩いた。
歳三は私からの突然の提案を測りかねているようで、その表情には多少の困惑も浮かんでいるようだった。
午後からも仕事がない訳では無い。それを私が突然呼び止めこうして街に出るのだから、警戒するのも無理はない。
「歳三の怪我はもう大丈夫なのか?」
少しでも気を紛らわそうと、私から話しかける。
「あァ。マリエッタのおかげで次の日から動けるようになってたしな。今じゃすっかり痛みもなんともねェよ」
「それは良かった。……だからと言ってマリエッタ頼みで無茶ばかりするなよ?彼女も心配してるぞ」
「そうだな」
歳三とマリエッタの仲も気になるところだ。しかし、そこに口を出すつもりは全くなかった。
生前、歳三には婚約者が居た。しかし、上洛の際に彼女を江戸において離れ離れになる。
結局、維新の結果歳三は帰らぬ人となり婚約者の女性も消息は不明だ。
歳三にも思うところはあるだろう。
そのような経緯もあり、私から歳三の恋愛エピソードなどを聞いたりはしないようにしている。
その後は再び沈黙が二人を包み、賑わう街の声が聞こえてくるまで無言で歩いた。
「レオ様こんにちは!ようこそいらっしゃいました!」
「こんにちは。今日もご苦労さまです」
「レオ様だ!レオ様~!」
「やぁ、元気かい?」
街に出ると、露店を出している気のいいオヤジさんや子供たちに声をかけられる。こうして領民と触れ合うのも領主の大切な仕事のひとつだ。
何より皆笑顔で私に接してくれるのは、こちらとしても気持ちが良い。苛烈な政治を行う領地ではこうはいかないだろう。
「レオ様、本日はどのような御用がございましたか?」
私が来訪した事を聞きつけた衛兵がすぐにやってきた。
「ちょっと街で食べたくなってね」
「まだスパイと思われる人物は捕まっておりません。すぐに警備の兵を連れてきます」
戦中、屋敷に石が投げ込まれた。あの犯人はまだ捕まっていない。
もちろん、一部の以前から不満を抱いていた民の誰かがやった可能性も大いにある。しかし、軍や冒険者ギルドではファリア側のスパイであることを前提に捜査を続けていた。
「戦いは終わったし、ファリアのスパイとやらももう何もしないとは思うがな。それに歳三もいるから大丈夫だ」
「おう。騒がせてすまねェな。任務に戻って構わないぜ」
「……分かりました。それでは失礼します」
真面目そうな彼は少し不満そうな顔で去っていった。任務に忠実なのはいい事だ。
「いらっしゃいませー。……お!レオ様じゃねぇですか!それに土方の旦那まで!お久しぶりですね!」
「おう、また来たぜ」
「いつものを頼むよ」
料理屋は昼時だからか、多くの人で賑わっていた。
「それでは奥の席へどうぞ!」
カウンターの横を進んだ先にあるVIP席。元々そんなものは無かったのだが、私たちが何度も利用するうちに店主が勝手に作ってしまった。そこまでされると申し訳なく感じ、何となく来ないといけない雰囲気になる。
店主は「レオ様行きつけとなればうちの売上も伸びるんですよ!そりゃあ特別待遇もさせていただきます!」と、得意顔で言っていた。
「お水失礼しますね!すぐに料理も持ってこさせるのでお待ちください!」
「あぁ。よろしくな」
店主はせかせかと個室から出ていった。
「……それで?話ってのはなんだ?」
「それなんだが───」
「はい!お待たせしました!」
私が本題に入る前に店主が戻ってきた。手には前菜のサラダがある。もしかすると、私が街に出てきていると既にここまで広まっていて準備をしていたのかもしれない。
「……まぁ、食べてからにしようか」
「そうだな」
初めはこの毒々しい赤とピンクの謎の葉物に手をつけられないでいたが、一度口にしてみると味はキャベツと変わらないように感じた。
「これは裏の山で取れた旬のマジック・コールです!魔素を取り込み栄養に変えるこの野菜は疲れた体を癒すと言われています」
「ほんのり甘みが感じられて美味しいよ」
戦いで疲れた私たちを気遣ってくれたのかもしれない。もしくは、ただ近場で取れた旬の野菜を出しただけかもしれない。
いずれにせよ、いつもとは少し違うメニューに季節の移ろいなどを感じていた。
「スープとメインデッシュはもう少し時間がかかります。もうしばらくお待ちください」
店主は満面の営業スマイルでカウンターの方へ去っていった。今度こそしばらく席を外してくれそうだ。
「じゃあ、早速本題を話そう」
「あァ、頼んだぜ」
歳三はモシャモシャ食べていた手を止め私と向き合った。
「結論から言わせてくれ。次の召喚する英雄はやはり諸葛亮にする」
「…………ん、……そうか」
歳三は腕を組み少し俯く。
「もし何か考えがあるなら聞かせてくれ。私としては次は私の頭脳となる軍師が必要だと思っている。そこで真っ先に浮かんだのは諸葛亮なんだ」
「そうか…………」
歳三はポツリとそう呟くだけだった。
「歯切れが悪いな。らしくないぞ。いつも歳三の意見は聞いてきたはずだ。遠慮なく言ってくれ」
歳三は腕を組み俯いたまま、目をつぶり口を開こうとしなかった。ただ、ふぅとため息を吐いて微動だにしない。
「…………」
「………………」
応えてくれない内は、私からも言葉を掛けようにも掛けようがなかった。
「──────いや、それがレオの選択なら、俺からは、何も言うことはねェぜ……」
しばらくの後に、歳三は水を一口飲み、それだけ言った。
「そうか」
私もそれだけ声に出す。それ以外の言葉が浮かばない。
「さぁお待たせしました!メインデッシュのリバリア・フィッシュのソテーと、その骨からダシを取ったスープです!お召し上がりください!」
沈黙を破る店主の素っ頓狂な声が個室に響いた。
「……食べようか」
「あァ。そうだな」
いつも美味しく楽しみにしていた川魚のソテーは、味が全く感じられなかった。スープを口にしても、その熱さが喉を焼き、ただただ不快に感じた。
歳三は私からの突然の提案を測りかねているようで、その表情には多少の困惑も浮かんでいるようだった。
午後からも仕事がない訳では無い。それを私が突然呼び止めこうして街に出るのだから、警戒するのも無理はない。
「歳三の怪我はもう大丈夫なのか?」
少しでも気を紛らわそうと、私から話しかける。
「あァ。マリエッタのおかげで次の日から動けるようになってたしな。今じゃすっかり痛みもなんともねェよ」
「それは良かった。……だからと言ってマリエッタ頼みで無茶ばかりするなよ?彼女も心配してるぞ」
「そうだな」
歳三とマリエッタの仲も気になるところだ。しかし、そこに口を出すつもりは全くなかった。
生前、歳三には婚約者が居た。しかし、上洛の際に彼女を江戸において離れ離れになる。
結局、維新の結果歳三は帰らぬ人となり婚約者の女性も消息は不明だ。
歳三にも思うところはあるだろう。
そのような経緯もあり、私から歳三の恋愛エピソードなどを聞いたりはしないようにしている。
その後は再び沈黙が二人を包み、賑わう街の声が聞こえてくるまで無言で歩いた。
「レオ様こんにちは!ようこそいらっしゃいました!」
「こんにちは。今日もご苦労さまです」
「レオ様だ!レオ様~!」
「やぁ、元気かい?」
街に出ると、露店を出している気のいいオヤジさんや子供たちに声をかけられる。こうして領民と触れ合うのも領主の大切な仕事のひとつだ。
何より皆笑顔で私に接してくれるのは、こちらとしても気持ちが良い。苛烈な政治を行う領地ではこうはいかないだろう。
「レオ様、本日はどのような御用がございましたか?」
私が来訪した事を聞きつけた衛兵がすぐにやってきた。
「ちょっと街で食べたくなってね」
「まだスパイと思われる人物は捕まっておりません。すぐに警備の兵を連れてきます」
戦中、屋敷に石が投げ込まれた。あの犯人はまだ捕まっていない。
もちろん、一部の以前から不満を抱いていた民の誰かがやった可能性も大いにある。しかし、軍や冒険者ギルドではファリア側のスパイであることを前提に捜査を続けていた。
「戦いは終わったし、ファリアのスパイとやらももう何もしないとは思うがな。それに歳三もいるから大丈夫だ」
「おう。騒がせてすまねェな。任務に戻って構わないぜ」
「……分かりました。それでは失礼します」
真面目そうな彼は少し不満そうな顔で去っていった。任務に忠実なのはいい事だ。
「いらっしゃいませー。……お!レオ様じゃねぇですか!それに土方の旦那まで!お久しぶりですね!」
「おう、また来たぜ」
「いつものを頼むよ」
料理屋は昼時だからか、多くの人で賑わっていた。
「それでは奥の席へどうぞ!」
カウンターの横を進んだ先にあるVIP席。元々そんなものは無かったのだが、私たちが何度も利用するうちに店主が勝手に作ってしまった。そこまでされると申し訳なく感じ、何となく来ないといけない雰囲気になる。
店主は「レオ様行きつけとなればうちの売上も伸びるんですよ!そりゃあ特別待遇もさせていただきます!」と、得意顔で言っていた。
「お水失礼しますね!すぐに料理も持ってこさせるのでお待ちください!」
「あぁ。よろしくな」
店主はせかせかと個室から出ていった。
「……それで?話ってのはなんだ?」
「それなんだが───」
「はい!お待たせしました!」
私が本題に入る前に店主が戻ってきた。手には前菜のサラダがある。もしかすると、私が街に出てきていると既にここまで広まっていて準備をしていたのかもしれない。
「……まぁ、食べてからにしようか」
「そうだな」
初めはこの毒々しい赤とピンクの謎の葉物に手をつけられないでいたが、一度口にしてみると味はキャベツと変わらないように感じた。
「これは裏の山で取れた旬のマジック・コールです!魔素を取り込み栄養に変えるこの野菜は疲れた体を癒すと言われています」
「ほんのり甘みが感じられて美味しいよ」
戦いで疲れた私たちを気遣ってくれたのかもしれない。もしくは、ただ近場で取れた旬の野菜を出しただけかもしれない。
いずれにせよ、いつもとは少し違うメニューに季節の移ろいなどを感じていた。
「スープとメインデッシュはもう少し時間がかかります。もうしばらくお待ちください」
店主は満面の営業スマイルでカウンターの方へ去っていった。今度こそしばらく席を外してくれそうだ。
「じゃあ、早速本題を話そう」
「あァ、頼んだぜ」
歳三はモシャモシャ食べていた手を止め私と向き合った。
「結論から言わせてくれ。次の召喚する英雄はやはり諸葛亮にする」
「…………ん、……そうか」
歳三は腕を組み少し俯く。
「もし何か考えがあるなら聞かせてくれ。私としては次は私の頭脳となる軍師が必要だと思っている。そこで真っ先に浮かんだのは諸葛亮なんだ」
「そうか…………」
歳三はポツリとそう呟くだけだった。
「歯切れが悪いな。らしくないぞ。いつも歳三の意見は聞いてきたはずだ。遠慮なく言ってくれ」
歳三は腕を組み俯いたまま、目をつぶり口を開こうとしなかった。ただ、ふぅとため息を吐いて微動だにしない。
「…………」
「………………」
応えてくれない内は、私からも言葉を掛けようにも掛けようがなかった。
「──────いや、それがレオの選択なら、俺からは、何も言うことはねェぜ……」
しばらくの後に、歳三は水を一口飲み、それだけ言った。
「そうか」
私もそれだけ声に出す。それ以外の言葉が浮かばない。
「さぁお待たせしました!メインデッシュのリバリア・フィッシュのソテーと、その骨からダシを取ったスープです!お召し上がりください!」
沈黙を破る店主の素っ頓狂な声が個室に響いた。
「……食べようか」
「あァ。そうだな」
いつも美味しく楽しみにしていた川魚のソテーは、味が全く感じられなかった。スープを口にしても、その熱さが喉を焼き、ただただ不快に感じた。
19
あなたにおすすめの小説
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
テーラーボーイ 神様からもらった裁縫ギフト
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はアレク
両親は村を守る為に死んでしまった
一人になった僕は幼馴染のシーナの家に引き取られて今に至る
シーナの両親はとてもいい人で強かったんだ。僕の両親と一緒に村を守ってくれたらしい
すくすくと育った僕とシーナは成人、15歳になり、神様からギフトをもらうこととなった。
神様、フェイブルファイア様は僕の両親のした事に感謝していて、僕にだけ特別なギフトを用意してくれたんだってさ。
そのギフトが裁縫ギフト、色々な職業の良い所を服や装飾品につけられるんだってさ。何だか楽しそう。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない
葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3)
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー)
ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。
神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。
そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。
ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。
早く穏やかに暮らしたい。
俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。
【毎日18:00更新】
※表紙画像はAIを使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる