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第一章
37話 我儘
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「───美味しかったな」
「……そうだな」
嘘だ。
きっと歳三も旨みなど何も感じてない。
料理の決め手は食材でもなく、誰と、どう食べるかだ。こんな食事会がいいはずない。
「帰ろうか」
「…………いや、ちょっと待ってくれ」
歳三が顔を上げ、じっと私を見つめた。その目はどこか哀しそうな憂いを秘めていた。
「……すまねェ。隠し事はナシだな」
「話してくれると嬉しいよ」
歳三はゆっくりと、その重い口を開いて私に思いを語ってくれた。
「…………近藤さんや総司にまた会えるのかもなんてな、そう思ってたんだ」
あぁ、そういう事か。
「レオの能力は、死んじまった人を呼び出すことができるとんでもねェ能力だ。だから、またアイツらに会える日が来るんだっていつの間にか勝手に期待しちまってた」
「歳三……」
「それが、名前も聞いたことがないようなヤツが突然出てきて、俺はどうしていいか分からなくてよ。だから止めたんだ。……それがレオの決断ならそれに口を挟む権利なんて俺にはねェよ」
死んだあの人にもう一度だけ会えたら。
そう思わない人間はきっといない。そうして宗教や医学が発展していった。それ自体は必然的な人間が誰しも持つ思いに違いない。
「すまない。歳三の願いを叶えてやることはできない。だがきっといつか───」
「おいレオ、隠し事はナシだと言ったはずだぜ?守れねェ約束はするもんじゃない。お前にその気がないのは分かってる」
胸にその言葉が突き刺さり、私は酷く狼狽した。
「なァ、レオ。そいつは近藤さんや総司や新八や───、アイツらよりもずっとスゲェヤツなんだろうな?」
歳三はこちらを覗き込む。私はその目に吸い込まれそうになりながら、ハッキリ答えた。
「あぁ!一人で天下を作り替えるぐらいの奴だ!きっと私たちの力になってくれる!」
歳三はその言葉を聞き遂げると、ふっと息を吐いて笑ってみせた。
「レオがそこまで言うなら間違いねェだろうな!案外気が合うかもしれねェ。…………会うのが楽しみだ」
「ありがとう歳三。そう言って貰えて嬉しいよ」
私も笑ってそう答える。
「よし!それじゃァ帰ろうか!」
「あぁ!」
私は二人分のコースとチップを込めて銀貨を一枚テーブルの上に置いて、個室から出た。
店主は忙しく厨房とホールを行き来していたので、声をかけても迷惑だろうと思い、ウェイトレスに帰る旨だけ伝えて料理屋を後にした。
「子供に奢られるのは何度経験しても情けなく、後ろめたく感じるな」
歳三は帰り道、そうおどけてみせた。
「給料はウィルフリードから出てるんだ、同じことさ」
兵士たちには食事と住むところが与えられる。それに加えて給料もちゃんと出る。もちろん、歳三にも。
「給料で思い出したが、今度レオに刀を一振プレゼントしてやりたいと思ってたんだ。あの戦いでレオの剣はどっかにいっちまったらしいじゃねェか」
「嬉しい事を言ってくれるな」
実の所、私は指揮をする以外で剣を抜く場面などそうそうないので、腰には飾りをぶら下げるようなものだ。
だが、誰かから貰ったものを戦場に持っていくというのもいいかもしれない。それもあの英雄、土方歳三からの贈り物なら、武運も上がると言うものだ。
「この辺には刀を打てる鍛治はいねェようだが、……皇都にはそんなヤツもいるのか?」
「どうだろう、私も聞いたことはないな。だが、皇都ではドワーフという種族が武器や防具を作るよう、帝国から直々に雇われているらしい。彼らならもしかすると……」
「ほう、そんな面白ェヤツもいるのか。……この世界はまだまだ知らない事ばっかりだ!」
ドワーフの作るミスリルの剣と防具。エルフの作る風を裂く弓矢。リザードマンの作るドラゴンの牙の槍。この辺りが有名な名作となる。
歳三の持つ刀である和泉守兼定も、会津藩の刀工、十一代和泉守兼定の名作だ。似たようにこの世界にもお抱えの鍛冶屋がいるのだ。
「刀の話をしてたらまだ振り足りなく感じてきたな。……じゃあ俺はまた訓練に顔を出してくるぜ」
「ではこの辺で解散としようか。午後からも頑張ってくれ」
兵舎の近くまで差し掛かり、私たちはそこで別れた。
私は一人で屋敷まで戻った。屋敷を囲うように植えられた生垣も葉を落としつつある。
「お帰りなさいませ」
「ただいまマリエッタ。……あ、返しておくよ」
そう言い、私はポケットから財布を取り出しマリエッタに手渡した。結局ほとんど重さを変えなかったそれはまた仕舞われて、いつかの日まで棚の中だ。
「かしこまりました。それと、シズネ様がレオ様のお部屋に書類を置いていかれました。明日までにサインをとの事です」
「ん、分かったよ」
生前は一日中座っているだけの中間管理職を羨ましく思っていたが、これはこれでやり甲斐もなくつまらないものだ。
他にやることも無いので、さっさと仕事を終わらせてしまって早目に寝ることにした。
電気がないこの世界では日の入りとともに寝て、日の出とともに目を覚ます。それが人間本来の生き方でもある。健康的でいい。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
今日はそれだけで一日が終わった。
夜、寝る前にベットの上で考えた。
もし、父や母が死んだらどうするのだろう。彼らはこの世界では英雄と呼ばれる存在だ。この『英雄召喚』のスキルで甦らせることもできるかもしれない。
本当にそれが正しいことなのか、またそれを父と母が望むかは全くの別問題だが。
歳三の願いを断った上で、私だけがこの力を自由に使って肉親を召喚したとして、歳三は私を許してくれるだろうか。
それは答えなどない、くだらない自問自答だった。
「……そうだな」
嘘だ。
きっと歳三も旨みなど何も感じてない。
料理の決め手は食材でもなく、誰と、どう食べるかだ。こんな食事会がいいはずない。
「帰ろうか」
「…………いや、ちょっと待ってくれ」
歳三が顔を上げ、じっと私を見つめた。その目はどこか哀しそうな憂いを秘めていた。
「……すまねェ。隠し事はナシだな」
「話してくれると嬉しいよ」
歳三はゆっくりと、その重い口を開いて私に思いを語ってくれた。
「…………近藤さんや総司にまた会えるのかもなんてな、そう思ってたんだ」
あぁ、そういう事か。
「レオの能力は、死んじまった人を呼び出すことができるとんでもねェ能力だ。だから、またアイツらに会える日が来るんだっていつの間にか勝手に期待しちまってた」
「歳三……」
「それが、名前も聞いたことがないようなヤツが突然出てきて、俺はどうしていいか分からなくてよ。だから止めたんだ。……それがレオの決断ならそれに口を挟む権利なんて俺にはねェよ」
死んだあの人にもう一度だけ会えたら。
そう思わない人間はきっといない。そうして宗教や医学が発展していった。それ自体は必然的な人間が誰しも持つ思いに違いない。
「すまない。歳三の願いを叶えてやることはできない。だがきっといつか───」
「おいレオ、隠し事はナシだと言ったはずだぜ?守れねェ約束はするもんじゃない。お前にその気がないのは分かってる」
胸にその言葉が突き刺さり、私は酷く狼狽した。
「なァ、レオ。そいつは近藤さんや総司や新八や───、アイツらよりもずっとスゲェヤツなんだろうな?」
歳三はこちらを覗き込む。私はその目に吸い込まれそうになりながら、ハッキリ答えた。
「あぁ!一人で天下を作り替えるぐらいの奴だ!きっと私たちの力になってくれる!」
歳三はその言葉を聞き遂げると、ふっと息を吐いて笑ってみせた。
「レオがそこまで言うなら間違いねェだろうな!案外気が合うかもしれねェ。…………会うのが楽しみだ」
「ありがとう歳三。そう言って貰えて嬉しいよ」
私も笑ってそう答える。
「よし!それじゃァ帰ろうか!」
「あぁ!」
私は二人分のコースとチップを込めて銀貨を一枚テーブルの上に置いて、個室から出た。
店主は忙しく厨房とホールを行き来していたので、声をかけても迷惑だろうと思い、ウェイトレスに帰る旨だけ伝えて料理屋を後にした。
「子供に奢られるのは何度経験しても情けなく、後ろめたく感じるな」
歳三は帰り道、そうおどけてみせた。
「給料はウィルフリードから出てるんだ、同じことさ」
兵士たちには食事と住むところが与えられる。それに加えて給料もちゃんと出る。もちろん、歳三にも。
「給料で思い出したが、今度レオに刀を一振プレゼントしてやりたいと思ってたんだ。あの戦いでレオの剣はどっかにいっちまったらしいじゃねェか」
「嬉しい事を言ってくれるな」
実の所、私は指揮をする以外で剣を抜く場面などそうそうないので、腰には飾りをぶら下げるようなものだ。
だが、誰かから貰ったものを戦場に持っていくというのもいいかもしれない。それもあの英雄、土方歳三からの贈り物なら、武運も上がると言うものだ。
「この辺には刀を打てる鍛治はいねェようだが、……皇都にはそんなヤツもいるのか?」
「どうだろう、私も聞いたことはないな。だが、皇都ではドワーフという種族が武器や防具を作るよう、帝国から直々に雇われているらしい。彼らならもしかすると……」
「ほう、そんな面白ェヤツもいるのか。……この世界はまだまだ知らない事ばっかりだ!」
ドワーフの作るミスリルの剣と防具。エルフの作る風を裂く弓矢。リザードマンの作るドラゴンの牙の槍。この辺りが有名な名作となる。
歳三の持つ刀である和泉守兼定も、会津藩の刀工、十一代和泉守兼定の名作だ。似たようにこの世界にもお抱えの鍛冶屋がいるのだ。
「刀の話をしてたらまだ振り足りなく感じてきたな。……じゃあ俺はまた訓練に顔を出してくるぜ」
「ではこの辺で解散としようか。午後からも頑張ってくれ」
兵舎の近くまで差し掛かり、私たちはそこで別れた。
私は一人で屋敷まで戻った。屋敷を囲うように植えられた生垣も葉を落としつつある。
「お帰りなさいませ」
「ただいまマリエッタ。……あ、返しておくよ」
そう言い、私はポケットから財布を取り出しマリエッタに手渡した。結局ほとんど重さを変えなかったそれはまた仕舞われて、いつかの日まで棚の中だ。
「かしこまりました。それと、シズネ様がレオ様のお部屋に書類を置いていかれました。明日までにサインをとの事です」
「ん、分かったよ」
生前は一日中座っているだけの中間管理職を羨ましく思っていたが、これはこれでやり甲斐もなくつまらないものだ。
他にやることも無いので、さっさと仕事を終わらせてしまって早目に寝ることにした。
電気がないこの世界では日の入りとともに寝て、日の出とともに目を覚ます。それが人間本来の生き方でもある。健康的でいい。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
今日はそれだけで一日が終わった。
夜、寝る前にベットの上で考えた。
もし、父や母が死んだらどうするのだろう。彼らはこの世界では英雄と呼ばれる存在だ。この『英雄召喚』のスキルで甦らせることもできるかもしれない。
本当にそれが正しいことなのか、またそれを父と母が望むかは全くの別問題だが。
歳三の願いを断った上で、私だけがこの力を自由に使って肉親を召喚したとして、歳三は私を許してくれるだろうか。
それは答えなどない、くだらない自問自答だった。
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