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第二章
129話 帰路
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明朝、私たちは多種にわたる亜人・獣人らに見送られながらエルフの森を後にした。
実際に彼らが私たちの元に来るのは、この国の皇帝が私たちが結んだ条約にサインをした後のことだ。
正直ここまで具体的に話が進められていて今更白紙撤回はないだろうが、帝国は皇帝が全てを統べる王として君臨しているため、彼の承諾なしで他国や他国民との関係を勝手に変えることはできない。
これがお隣ファルンホスト王国ならその庇護下にある諸国の外交にまで口を出さないだろうから、圧力こそあれど自由に動けるだろう。
そんなことも考えながら、一抹の不安と達成感を胸に私は予備の馬の上で揺られていた。
帰路は負傷者を多く抱えているため行軍速度こそ落ちるが一刻も早く領地に戻るべく、皇都には寄らずに最短距離で戻ることになる。
「レオ、やっぱり乗りなれてない予備の馬より馬車に乗った方がいいんじゃねェか?もう食料もなくなって空の荷馬車もあるんだし、むしろ乗った方が有効活用できていいと思うぜ」
歳三が私の方へ馬を寄せて来てそう言う。
「それでは格好が付かないだろ。それに空いた馬車には負傷者をできるだけ乗せた方がいい」
「……まるで分かってないようだからこの際ハッキリ言うぜ。生身で馬の上乗ってるより馬車の中の方が安全だし俺らも守りやすいからそうしてくれ」
「…………了解だ。どうせならなら孔明と同じ馬車に乗せてもらうことにしよう」
「はァ……」
歳三の発言の真意は、その言葉のままではないことは明らかだった。
どうしても歳三は私を休ませたいようだが、どの道夜は会議三昧である。昼から孔明と話し合っておけば夜は早く寝れるだろう。
私は行軍の列から外れ、後方を行く孔明の乗る馬車が到着するのを待った。
しばらくすると、私が横に突っ立っているのを見つけた御者が馬車を停めた。
不審がり馬車の窓から孔明が顔を覗かす。
「──悪いな孔明、仕事の時間だ」
「……ふむ」
孔明は私を一瞥すると、あまり歓迎しないような顔を羽扇で覆い隠した。
「何故ここに?」
「いや、歳三に追い出されてな。仕方なく馬車に乗せられることになったが、何もしないのもな。戦場で戦いが終わったのなら次は政治の場で戦わなければならない。それなら一分一秒とも無駄にはしたくない」
私がそう言おうとも、孔明は表情を変えようとしなかった。
「常在戦場の心持ちは感服致します。ですが時には羽を広げ、流れる景色と子鳥の囀りを楽しみ心を豊かにするのもまた、良き君主となるべく進む道ですよ」
「しかし──」
「そうして見た景色、感じた思い。それを民たちに広げることがあなたの務めなのですから」
私の言葉を遮るように孔明は言葉を続けた。
これは私が何を言っても駄目そうだ。
「……わかったよ」
私が渋々そう言うと、孔明は黙って笑いながらうんうんと二回頷き、馬車を出すよう御者に指示した。
私は再び列を外れ、ほとんど最後方の荷馬車の一つに乗せてもらおうと兵士に声をかけた。
「これの荷馬車は空のようだな。すまないが私を乗せてもらえないだろうか」
「れ、レオ様!?なぜこのようなところにいらっしゃるのですか!──それにレオ様であればこんな荷馬車ではなく、客車のついたちゃんとした馬車にお乗りになれば……」
「まぁ色々あるのだ。私としてはこれで一向に構わないので、問題がなければ乗せて欲しい」
兵士らは戸惑いを隠せない様子で互いに顔を見合わせる。
しかし自分の一番トップの上司からそう直々に言われれば、断ることはできないだろう。
「そこまで仰られるのであれば……。ですが乗り心地は決していいものではありませんよ……」
「大丈夫だ。たまにはそんな気分の時もあるのだ」
部下に気を使われ追い出されたなどとは口が裂けても言えない私は、支離滅裂な言い訳をしながら荷馬車の冷たい板の上に乗り込んだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
来る時は戦場へ向かう緊張感と、何度も行った綿密な打ち合わせにピリついていたため気が付かなかった景色が見れた。
エルフの森やそれに続く亜人・獣人の国々は自然豊かで、帝国とはまた植生も住む生物たちも全然様相が違っていた。
晴れた穏やかな天気の日は荷馬車を覆う布を捲し上げて、流れる景色を楽しんだ。
雨の日は特にすることなくガタガタと揺れる床に布を広げ、頭を打ち付けながら無心で時間が過ぎていくのを待った。
普段領地では自室に籠りきりで仕事中毒であると兵士の間でも話題だったらしい。
惚けた私の様子を見て戦争で気でも触れたのかと心配したか、無言で上司と過ごす日々に気まずくなったのか、御者の兵士は入れ替わりで私に話しかけてくるようになった。
歳三率いる私専門の護衛の兵士や屋敷の警備兵などとは言葉を交わすこともあるが、こうした末端の一般兵と話をするなどというのはある意味貴重な体験となった。
武器を持って前線で戦う兵士は職業軍人であるのに対し、こうした後方勤務の御者などは普段は農民として生計を立てている徴兵された人々であることが多い。
そんな彼らとの会話では民たちがどのような生活をしているのかといった話から、生活が豊かになったと私に感謝する者もいて、励まされた気持ちになった。
もっとも、ただ気を遣われているだけかもしれないが。
ただこんな後方に押し込まれたものだから、毎晩開かれているであろう会議に参加すらできなかった。
先頭にいる兵士が野営地を築き、中央にいる孔明らが会議を始める頃、私はまだ荷馬車で揺られている。
着いた頃には既に先頭から出発していて会議などとっくに終わっているのだ。
そんなこんなで、孔明の巧妙な策により約半月もの休暇を強制的に取らされながら、私たちは無事に生きてウィルフリードまで帰ってこれたのだった。
実際に彼らが私たちの元に来るのは、この国の皇帝が私たちが結んだ条約にサインをした後のことだ。
正直ここまで具体的に話が進められていて今更白紙撤回はないだろうが、帝国は皇帝が全てを統べる王として君臨しているため、彼の承諾なしで他国や他国民との関係を勝手に変えることはできない。
これがお隣ファルンホスト王国ならその庇護下にある諸国の外交にまで口を出さないだろうから、圧力こそあれど自由に動けるだろう。
そんなことも考えながら、一抹の不安と達成感を胸に私は予備の馬の上で揺られていた。
帰路は負傷者を多く抱えているため行軍速度こそ落ちるが一刻も早く領地に戻るべく、皇都には寄らずに最短距離で戻ることになる。
「レオ、やっぱり乗りなれてない予備の馬より馬車に乗った方がいいんじゃねェか?もう食料もなくなって空の荷馬車もあるんだし、むしろ乗った方が有効活用できていいと思うぜ」
歳三が私の方へ馬を寄せて来てそう言う。
「それでは格好が付かないだろ。それに空いた馬車には負傷者をできるだけ乗せた方がいい」
「……まるで分かってないようだからこの際ハッキリ言うぜ。生身で馬の上乗ってるより馬車の中の方が安全だし俺らも守りやすいからそうしてくれ」
「…………了解だ。どうせならなら孔明と同じ馬車に乗せてもらうことにしよう」
「はァ……」
歳三の発言の真意は、その言葉のままではないことは明らかだった。
どうしても歳三は私を休ませたいようだが、どの道夜は会議三昧である。昼から孔明と話し合っておけば夜は早く寝れるだろう。
私は行軍の列から外れ、後方を行く孔明の乗る馬車が到着するのを待った。
しばらくすると、私が横に突っ立っているのを見つけた御者が馬車を停めた。
不審がり馬車の窓から孔明が顔を覗かす。
「──悪いな孔明、仕事の時間だ」
「……ふむ」
孔明は私を一瞥すると、あまり歓迎しないような顔を羽扇で覆い隠した。
「何故ここに?」
「いや、歳三に追い出されてな。仕方なく馬車に乗せられることになったが、何もしないのもな。戦場で戦いが終わったのなら次は政治の場で戦わなければならない。それなら一分一秒とも無駄にはしたくない」
私がそう言おうとも、孔明は表情を変えようとしなかった。
「常在戦場の心持ちは感服致します。ですが時には羽を広げ、流れる景色と子鳥の囀りを楽しみ心を豊かにするのもまた、良き君主となるべく進む道ですよ」
「しかし──」
「そうして見た景色、感じた思い。それを民たちに広げることがあなたの務めなのですから」
私の言葉を遮るように孔明は言葉を続けた。
これは私が何を言っても駄目そうだ。
「……わかったよ」
私が渋々そう言うと、孔明は黙って笑いながらうんうんと二回頷き、馬車を出すよう御者に指示した。
私は再び列を外れ、ほとんど最後方の荷馬車の一つに乗せてもらおうと兵士に声をかけた。
「これの荷馬車は空のようだな。すまないが私を乗せてもらえないだろうか」
「れ、レオ様!?なぜこのようなところにいらっしゃるのですか!──それにレオ様であればこんな荷馬車ではなく、客車のついたちゃんとした馬車にお乗りになれば……」
「まぁ色々あるのだ。私としてはこれで一向に構わないので、問題がなければ乗せて欲しい」
兵士らは戸惑いを隠せない様子で互いに顔を見合わせる。
しかし自分の一番トップの上司からそう直々に言われれば、断ることはできないだろう。
「そこまで仰られるのであれば……。ですが乗り心地は決していいものではありませんよ……」
「大丈夫だ。たまにはそんな気分の時もあるのだ」
部下に気を使われ追い出されたなどとは口が裂けても言えない私は、支離滅裂な言い訳をしながら荷馬車の冷たい板の上に乗り込んだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
来る時は戦場へ向かう緊張感と、何度も行った綿密な打ち合わせにピリついていたため気が付かなかった景色が見れた。
エルフの森やそれに続く亜人・獣人の国々は自然豊かで、帝国とはまた植生も住む生物たちも全然様相が違っていた。
晴れた穏やかな天気の日は荷馬車を覆う布を捲し上げて、流れる景色を楽しんだ。
雨の日は特にすることなくガタガタと揺れる床に布を広げ、頭を打ち付けながら無心で時間が過ぎていくのを待った。
普段領地では自室に籠りきりで仕事中毒であると兵士の間でも話題だったらしい。
惚けた私の様子を見て戦争で気でも触れたのかと心配したか、無言で上司と過ごす日々に気まずくなったのか、御者の兵士は入れ替わりで私に話しかけてくるようになった。
歳三率いる私専門の護衛の兵士や屋敷の警備兵などとは言葉を交わすこともあるが、こうした末端の一般兵と話をするなどというのはある意味貴重な体験となった。
武器を持って前線で戦う兵士は職業軍人であるのに対し、こうした後方勤務の御者などは普段は農民として生計を立てている徴兵された人々であることが多い。
そんな彼らとの会話では民たちがどのような生活をしているのかといった話から、生活が豊かになったと私に感謝する者もいて、励まされた気持ちになった。
もっとも、ただ気を遣われているだけかもしれないが。
ただこんな後方に押し込まれたものだから、毎晩開かれているであろう会議に参加すらできなかった。
先頭にいる兵士が野営地を築き、中央にいる孔明らが会議を始める頃、私はまだ荷馬車で揺られている。
着いた頃には既に先頭から出発していて会議などとっくに終わっているのだ。
そんなこんなで、孔明の巧妙な策により約半月もの休暇を強制的に取らされながら、私たちは無事に生きてウィルフリードまで帰ってこれたのだった。
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