英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

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第三章

196話 商売人

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「お初お目にかかります陛下。私はアキード協商連合の代表として遣わされました、ディプロマと申します。以後よろしゅうお願いします」

 南方出身者特有の訛りとド派手な赤と金の服が目を引く彼は、日焼けした顔でニッコリと私に手を差し出してきた。
 見た目で判断するのもどうかとは思うが、金の短髪に刈り込みを入れたイカつい若い男を代表として送ってきたアキードの気が知れない。

「遠路はるばるよくお越しくださったディプロマ殿」

 私と変わらないぐらいの背丈のこの男は想像よりも皮が厚く固い手をしていた。

 そして急に軽く手を引かれ、彼のどっしりとした重心が伝わってくる。私がエルシャと腕を組んでいなければよろけるところだった。
 これも何かの揺さぶりなのだろうか。

「いやそれにしても陛下は本当にお若いですなぁ。これからどんな政策を進めていくのか、こちらとしても楽しみにしてますわ」

「帝国の歴史上の最年少は十四歳です。私も十五になったばかりですが、どの歴代の皇帝にも負けない立派な国にしたいと思っていますよ。……是非アキードにも色々と世話になるでしょうが、よろしくお願いします」

「はは! 世話だなんてそんな! 陛下はアキードとの条約があるにも関わらず自領で武器を作り国をひっくり返したんじゃないですか! これからもご自身でやればよろしいかと!」

「……ははは…………」

 思ったよりもストレートにディプロマが制してきたので私は少し困惑した。ここまで敵対心を剥き出しに接するのは、私に釘を刺したいのだろうか。
 私の少し後ろに控えている孔明は何も言わない。

「私が破ったのはあくまでも帝国法。帝国としてはアキードとの条約を守っていますよ」

「ではこれからは条約に基づく法令を遵守してくださいますかな?」

「……条約の改正等について、今後外交官を派遣するでしょう。私たちには新たな関係を構築する機会が必要です」

「そんなことウチらは望んでません。帝国さんとしても武器を大量に仕入れられて良い内容だったから結んだ条約でしょう」

「武器ではなく鉱物や魔石等の輸出について考えて頂けませんか?」

「それはまた別に取り引きの取り付けをしましょう。それはそれ、これはこれで武器の輸入もやって貰えないと困りますなぁ」

 初めての外交の場で痛烈な洗礼を浴びたと言っていいだろう。ここまで条約の事について論戦を交わすことになるとは思っていなかった。

「そうですね……。細かい条約などについては担当の者を後ほど向かわせますので、今日のところはこの場をお楽しみください」

「おや、皇帝陛下ともあろう方が他の人間のいいなりでっか? いやー、帝国は恐ろしい所やでホンマ!」

 ここまで言われてやっと分かった。この男は死にに来ているのだ。いや、どちらかと言うと殺されたいが、私が本当に手を出すか試して来ているのだ。

「私は民に寄り添う治世を理想に掲げています。私が何でもかんでも好きに全て決めるのは良しとしません。……そしてできる限りそちらのご要望にもお応えしたいとは思っていますよ。ですので要望書にまとめて正式書類として提出してください」

「……分かりました。こっちとしても有耶無耶にされるよりはその方が良さそうですからねぇ。帝国のやり口は信用ならないんでね」

 戦争にまでは発展しないまでも、この男の死を理由に条約で有利な条件を引き出すぐらいの狙いはあるだろう。
 だがここまで見え透いた策略に乗ってやるつもりはない。

「国としての主義主張が違うのは仕方のないことです。ですがビジネスパートナーとしてアキードを信用していることには変わりありません。そちらの有する豊富な資源は是非私たちに買わせて頂きたい」

「それで自国で武器を作ろうってことなんやろ? それじゃあこっちは商売上がったりですわ! ……そちらさんは面白い魔導具や兵器を持っているそうじゃありませんか。作り方を教えて頂ければウチで幾らでも作りますさかい。技術者の派遣をお願いしたいですねぇ」

 今度はそう来たか。
 だが通信機や火薬を使った兵器は絶対に国外に漏らしてはいけない。敵に渡れば戦場は地獄と化す。

 魔導通信機は帝国の全ての地域に配置した。禁止していても当然コピーを目論む者もいるだろう。
 だが現状再現できる全ての周波数帯の通信はこちらで監視している。ヘクセルやドワーフですら到達できない通信帯を発見できる技術力がなければ簡単に取り締まりはできる。

 魔導手榴弾や魔導カノン砲も各貴族から配備の強い要望があったが、機密保護を理由に全て跳ね除けた。
 こんなものが使われれば爆弾テロなど、反乱を鎮めるのは不可能に近くなる。

「戦争をこれ以上巻き起こすつもりはありません。よって新型魔導具はあくまでも自衛のためにしか使いませんよ。ですので新たな兵器作成をそちらにお願いすることも決してありません」

「自分たちだけで独占しようという魂胆が見え見えやで!」

「その通りです。私は帝国の元首として、帝国民が帝国民の兵器で死ぬようなことは絶対に避けなければなりません。……これ以上ここでお話することはありませんね。それでは後日公文書を通じてお話しましょう」

 私はディプロマが口を開く前に彼の前をそそくさと後にした。

「……厄介なのが出てきたわね」

「最初に君に挨拶をしなかった時点であの男と打ち解けるつもりはなかった。逆にここまで分かりやすくて助かったよ」

「……これからきっともっと大変になるわ」

「そうだな……」

 私は奥歯をギリギリと噛み締めた。
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