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第三章
215話 決意
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会合から一ヶ月後、王国と協商連合から連名で書簡が届いた。それは帝国との国交断絶を告げるものであった。
これから帝国と、王国・協商連合に所属する各地域との間のありとあらゆるヒトとモノの移動が禁ぜられる。
「孔明は読んだか? 何でもイサカの主張では、私が会合の場を爆破しプリスタら代表団を拉致した大犯罪者らしいぞ!」
誰かと話していなければ潰れてしまいそうな、そんなやるせなさを感じ、私は用もないのに孔明にだる絡みしに来ていた。
「暫労永逸、ここで苦労しておけば必ず後から報われますよ」
「ああ、私は別に怒っている訳ではない。アキードから輸入したかった鉱石類もドワーフの国から融通して貰えそうだしな。別に禁輸されたって大した問題にもならないさ」
「そうですね。ですが彼らとも上手くやれれば一番手っ取り早くこの世界に平和が訪れたものまた事実……。それを取り逃したというのは残念です」
「仕方がないさ、ハナから向こうにその気がなかったのだから。……しかしな孔明、私は思ったのだ。この世界に主義主張が異なる、利害が衝突する他国が存在する限り争いは消えないのだろうとな。……だからこそ全ての国を私が手に入れるべきなのだ。違うか?」
「それは……、その道程に戦乱があったとしてもですか?」
「ああ。むしろ好都合だ。古い頭の厄介な連中は、降伏させてから殺せば粛清になるが戦時に殺すのは戦略的になんら問題なくなる」
「意趣返しがしたいと?」
孔明の目には私が怒りでおかしくなったように写っているのだろうか。
「違う。効率的に平和を手に入れるためだ。今まで私は十年かけてゆっくり平和を紡げればそれでいいと思っていた。だがそれは間違いだった。一年で全てを手に入れ平和を成し、残りの九年で国を建て直した方が結果的に犠牲は少なくなると思う」
「……レオが選んだ答えがそれなら、私からは言うことはありませんよ」
孔明は書類仕事をしながら、私の事を一瞥もせずにそう淡々と言い放った。
「……まあ、私が道を誤った時は容赦なく殺してくれ。ただそれだけの覚悟があるということだ」
私はそう言い残し孔明の部屋を後にする。
私は誰かにこの決意を聞いてもらうことで、後から引き返せないように自分自身を縛りたかったのかもしれない。
私は少々英雄に憧れすぎていたのだろう。例え悪役になろうとも手段を選ばずひたすら戦わなければ、平和など作れない。
だがダークヒーローぐらいにはして欲しいものだ。
永遠の平和など存在しないなら、私が生きているうちになるべく早く仮初の平和を手にし、余生を楽しんでもいいじゃないか。
それが本音だった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから数ヶ月は緊張の走る日々が続いた。
しかし私の元に寄せられる報せは国境警備隊からだけではない。嬉しい報せも届く。
「──ご覧下さい陛下!」
「ほう、これが……」
「はい! 世界初の蒸気機関車です!」
製造産業局の裏庭に敷かれたレールの上を走る、黒鉄の機関車。それは煙突から黒い煙を、シリンダーからは白い蒸気を噴きながらシュッシュッシュッと健気に走り回っていた。
「ははは……! はははははは!」
「ど、どうかされましたか陛下……?」
「いや何、想像よりも小さかったものでな」
高さは1mと聞いていた。報告書ではそんなもんかと思っていたが、実際目の当たりにしてみるとそれはテーマパークにあるような可愛いものだった。
「も、申し訳ありません! 現在の蒸気機関のパワーではこれが限界で……」
技術者の男は申し訳なさそうに俯く。
「ふふふ、笑ってすまなかった。……これこそ進歩なのだ。誇っていいさ。これを、後ろに客車をつけ人を乗せたり荷物を乗せて貨物列車にしたり、今後が楽しみだ」
「は、はい! 必ずや陛下のご期待に添えるよう、尽力させて頂きます!」
「──で、こっちは新武器か」
「はい。陸軍大臣の要望で」
「歳三のか。なるほどな」
私は台に置かれた銃を手に取る。それはスピンコック式のショットガンだった。
「散弾は比較的簡単に作れるので、ショットガンという武器を製作することになったのです」
「ショットガンは結構だが、薬莢の開発はどうなっている?」
いつまでも前装式の銃など使っていられない。それに薬莢が完成すれば連射武器の開発も夢ではない。
「それが、雷管と呼ばれる部品の開発が難航しておりまして……」
「雷酸水銀なんてものはないからな。ヘクセルの魔石粉配合割合の研究結果に期待しようか」
「ら、らいさんすい……?」
「気にするな。で、私とルーデルから要望書を出したものは?」
「はい、それも完成しております!」
そう言い男は手のひらサイズの長方形の箱を手に取った。
「不発率が若干高いのですが、威力などは概ね良好です」
「うむ」
私が出したのは地雷の要望書だ。
地雷の主な目的は敵を殺すことではない。地雷があると認識させることで進軍を遅らせることだ。
どんな訓練された軍人でも地雷原を走り抜ければ脚の一本や二本は吹き飛ぶ。それが嫌なら莫大な時間とコストを掛けて地雷を一つひとつ除去しなければならない。
「結構良さそうな感じだな。──おい、これをアキードとの国境に敷設しておけ。街道付近は避けてな。……そして必ずどこに埋めたのか記録するように」
「は! 了解しました!」
これから帝国と、王国・協商連合に所属する各地域との間のありとあらゆるヒトとモノの移動が禁ぜられる。
「孔明は読んだか? 何でもイサカの主張では、私が会合の場を爆破しプリスタら代表団を拉致した大犯罪者らしいぞ!」
誰かと話していなければ潰れてしまいそうな、そんなやるせなさを感じ、私は用もないのに孔明にだる絡みしに来ていた。
「暫労永逸、ここで苦労しておけば必ず後から報われますよ」
「ああ、私は別に怒っている訳ではない。アキードから輸入したかった鉱石類もドワーフの国から融通して貰えそうだしな。別に禁輸されたって大した問題にもならないさ」
「そうですね。ですが彼らとも上手くやれれば一番手っ取り早くこの世界に平和が訪れたものまた事実……。それを取り逃したというのは残念です」
「仕方がないさ、ハナから向こうにその気がなかったのだから。……しかしな孔明、私は思ったのだ。この世界に主義主張が異なる、利害が衝突する他国が存在する限り争いは消えないのだろうとな。……だからこそ全ての国を私が手に入れるべきなのだ。違うか?」
「それは……、その道程に戦乱があったとしてもですか?」
「ああ。むしろ好都合だ。古い頭の厄介な連中は、降伏させてから殺せば粛清になるが戦時に殺すのは戦略的になんら問題なくなる」
「意趣返しがしたいと?」
孔明の目には私が怒りでおかしくなったように写っているのだろうか。
「違う。効率的に平和を手に入れるためだ。今まで私は十年かけてゆっくり平和を紡げればそれでいいと思っていた。だがそれは間違いだった。一年で全てを手に入れ平和を成し、残りの九年で国を建て直した方が結果的に犠牲は少なくなると思う」
「……レオが選んだ答えがそれなら、私からは言うことはありませんよ」
孔明は書類仕事をしながら、私の事を一瞥もせずにそう淡々と言い放った。
「……まあ、私が道を誤った時は容赦なく殺してくれ。ただそれだけの覚悟があるということだ」
私はそう言い残し孔明の部屋を後にする。
私は誰かにこの決意を聞いてもらうことで、後から引き返せないように自分自身を縛りたかったのかもしれない。
私は少々英雄に憧れすぎていたのだろう。例え悪役になろうとも手段を選ばずひたすら戦わなければ、平和など作れない。
だがダークヒーローぐらいにはして欲しいものだ。
永遠の平和など存在しないなら、私が生きているうちになるべく早く仮初の平和を手にし、余生を楽しんでもいいじゃないか。
それが本音だった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから数ヶ月は緊張の走る日々が続いた。
しかし私の元に寄せられる報せは国境警備隊からだけではない。嬉しい報せも届く。
「──ご覧下さい陛下!」
「ほう、これが……」
「はい! 世界初の蒸気機関車です!」
製造産業局の裏庭に敷かれたレールの上を走る、黒鉄の機関車。それは煙突から黒い煙を、シリンダーからは白い蒸気を噴きながらシュッシュッシュッと健気に走り回っていた。
「ははは……! はははははは!」
「ど、どうかされましたか陛下……?」
「いや何、想像よりも小さかったものでな」
高さは1mと聞いていた。報告書ではそんなもんかと思っていたが、実際目の当たりにしてみるとそれはテーマパークにあるような可愛いものだった。
「も、申し訳ありません! 現在の蒸気機関のパワーではこれが限界で……」
技術者の男は申し訳なさそうに俯く。
「ふふふ、笑ってすまなかった。……これこそ進歩なのだ。誇っていいさ。これを、後ろに客車をつけ人を乗せたり荷物を乗せて貨物列車にしたり、今後が楽しみだ」
「は、はい! 必ずや陛下のご期待に添えるよう、尽力させて頂きます!」
「──で、こっちは新武器か」
「はい。陸軍大臣の要望で」
「歳三のか。なるほどな」
私は台に置かれた銃を手に取る。それはスピンコック式のショットガンだった。
「散弾は比較的簡単に作れるので、ショットガンという武器を製作することになったのです」
「ショットガンは結構だが、薬莢の開発はどうなっている?」
いつまでも前装式の銃など使っていられない。それに薬莢が完成すれば連射武器の開発も夢ではない。
「それが、雷管と呼ばれる部品の開発が難航しておりまして……」
「雷酸水銀なんてものはないからな。ヘクセルの魔石粉配合割合の研究結果に期待しようか」
「ら、らいさんすい……?」
「気にするな。で、私とルーデルから要望書を出したものは?」
「はい、それも完成しております!」
そう言い男は手のひらサイズの長方形の箱を手に取った。
「不発率が若干高いのですが、威力などは概ね良好です」
「うむ」
私が出したのは地雷の要望書だ。
地雷の主な目的は敵を殺すことではない。地雷があると認識させることで進軍を遅らせることだ。
どんな訓練された軍人でも地雷原を走り抜ければ脚の一本や二本は吹き飛ぶ。それが嫌なら莫大な時間とコストを掛けて地雷を一つひとつ除去しなければならない。
「結構良さそうな感じだな。──おい、これをアキードとの国境に敷設しておけ。街道付近は避けてな。……そして必ずどこに埋めたのか記録するように」
「は! 了解しました!」
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本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
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