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第3章 サード・オブ・ザ・デッド
その1
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「…………ム…………キザ…………ザム…………」
遠くの方で自分を呼ぶ声が聞こえる。
「…………キザ…………ザム…………キザム…………」
不意に体が前後に揺れ出した。瞬間的に目がぱっちりと開いた。
「──おい、大丈夫か、キザム?」
目の前に心配げな表情を浮かべたカケルの顔があった。両手はキザムの肩に置かれている。どうやら肩を揺すられて、それで目を覚ましたみたいだ。
「えっ? う、う、うん……。だ、だ、大丈──」
そこでキザムは座っていたイスから飛び上がった。焦ったようにきょろきょろと周囲に目をやる。
廊下に向かう男子生徒たち。机の上に弁当箱を広げて、楽しいおしゃべりタイムに入っている女子生徒たち。昼食そっちのけでスマホに夢中になっている生徒の姿もある。
いつもと何も変わらないお昼休みの教室の風景である。
でも、キザムははっきりと異様な感覚を感じていた。
外の景色に対してではなく、自分の脳裏に残った記憶に対して!
「──この光景……これで見るのは三度目だ……」
「キザム、三度目って……どういう意味だよ……?」
「間違いない。あれはやっぱり悪夢なんかじゃなかったんだ……」
カケルの問い掛ける声は、しかしキザムの耳には入ってこなかった。キザムは頭に思い浮かんだ記憶に意識が囚われていたのである。
キザムは今、あの凄惨な校内の光景をはっきりと思い出していた。最初は悪夢を見たんだと思い込むようにしていた。なぜならば、校内で何人もの生徒が死んで、あろうことかその死んだ生徒が起き上がって生きている人間を襲ってくるなど、絶対に現実ではありえないからである。
でも、今のキザムならば分かる。
たくさんの生徒が死んだのも、
死んだ生徒が生き返ったのも、
生きている生徒に襲い掛かってきたのも、
全部、実際に起こったことなのだ。
しかし、そんな地獄と化した世界は、なぜか長く続かなかった。キザムが死ぬのとほぼ同時に、昼休み中の平和な世界だった時間へと逆戻りしてしまったのである。そして、そこからまた何事もなかったかのように、同じ光景が繰り返されたのである。
これって……もしかして時間が……何度もループしているってことなのか……。
キザムはまさにこの瞬間、その事実にはっきりと気が付いたのだった。
自分の記憶は決して間違っていなかった。悪夢を見ていたわけではなかった。いや、その悪夢こそが現実に起こったことだったのだ。
なぜ、自分が死ぬと時間がループするのか? なぜ、たくさんの生徒が死んだのか? なぜ、死んだはずの生徒が生き返って、生きている生徒を襲ったのか?
分からないことはまだまだたくさんあるが、ひとつだけ言えることがある。これから校内で起こるであろう『大惨事』を何としてでも防がなくてはならない。
そうだ。ぼくだけがあの『大惨事』のことを知っているんだ。他の人間は知らないんだ。だとしたら、ぼくが行動を起こさないと。ぼくが『あの大惨事』を絶対に止めないと──。
キザムは心の中でそう強く思った。
「なあ、カケ──」
決意を新たにしたキザムは、カケルに自分が経験したことを全部話そうかと思ったが、たった一人の親友をあの『大惨事』に巻き込むわけにはいかないと思いなおして、慌てて言葉を噤んだ。
カケルに話すのはダメだ……。カケルはたった一人の大事な友達なんだから……。カケル以外で頼れそうなのは……そうだ、沙世理先生がいる。沙世理先生に協力してもらおう。
キザムは学校で一番親しくしている大人である沙世理に協力を仰ぐことに決めた。
「お、お、おい……キザム、どうしたんだ? なんか、本当におかしいぞ? いつものキザムと様子がまったく違うし……」
カケルの声からはキザムのことを心底心配している響きが聞いて取れた。
「カケル、今はまだ詳しい話が出来ないんだ。ただ、これからするぼくの話をよく聞いて欲しい。──君は教室を出て行った野球部の生徒のことが気になっているだろう。でも、心配しなくてもいい。野球部は放課後、他校との練習試合が控えていて、今からエネルギー補給しておくつもりなだけだから」
「えっ、いきなり何言ってるん──」
「この後きっと君は野球部の練習試合を一緒に冷やかしに行こうとぼくのことを誘おうと思うだろうが、ごめん、ぼくは行けないんだ。行きたいのは山々なんだけど、その前に絶対に解決しないとならない問題が出来てしまったんだ。あっ、それから、ぼくの今日のお弁当だけど、母親手作りの卵焼きが入っているよ。カケルの方はいつものコンビニで買ってきた大盛りの唐揚げ弁当だよね。一緒に食べたいんだけど、ぼくはこれからすぐに保健室に行かないとならないんだ。少ししたら流玲さんがこの机に絶対に近付いてくるはずだから、今日の昼食は流玲さんとふたりで食べてくれよ」
キザムはカケルが言葉を挟み込む余地を与えずに、マシンガンのごとく続けざまに言葉を放っていった。
「えっ、キザム……」
「それじゃ、ぼくは保健室に行くから」
キザムは弁当と薬の入った通学カバンを手に取ると、廊下へと向かって歩き出した。カケルが何か言いたそうにしているのは見て分かったが、今は自分の行動を優先させるべきと判断して、あえてカケルの顔は見てみぬ振りをした。
ごめん、カケル……。
後ろ髪引かれる思いを断ち切って、教室を後にした。
遠くの方で自分を呼ぶ声が聞こえる。
「…………キザ…………ザム…………キザム…………」
不意に体が前後に揺れ出した。瞬間的に目がぱっちりと開いた。
「──おい、大丈夫か、キザム?」
目の前に心配げな表情を浮かべたカケルの顔があった。両手はキザムの肩に置かれている。どうやら肩を揺すられて、それで目を覚ましたみたいだ。
「えっ? う、う、うん……。だ、だ、大丈──」
そこでキザムは座っていたイスから飛び上がった。焦ったようにきょろきょろと周囲に目をやる。
廊下に向かう男子生徒たち。机の上に弁当箱を広げて、楽しいおしゃべりタイムに入っている女子生徒たち。昼食そっちのけでスマホに夢中になっている生徒の姿もある。
いつもと何も変わらないお昼休みの教室の風景である。
でも、キザムははっきりと異様な感覚を感じていた。
外の景色に対してではなく、自分の脳裏に残った記憶に対して!
「──この光景……これで見るのは三度目だ……」
「キザム、三度目って……どういう意味だよ……?」
「間違いない。あれはやっぱり悪夢なんかじゃなかったんだ……」
カケルの問い掛ける声は、しかしキザムの耳には入ってこなかった。キザムは頭に思い浮かんだ記憶に意識が囚われていたのである。
キザムは今、あの凄惨な校内の光景をはっきりと思い出していた。最初は悪夢を見たんだと思い込むようにしていた。なぜならば、校内で何人もの生徒が死んで、あろうことかその死んだ生徒が起き上がって生きている人間を襲ってくるなど、絶対に現実ではありえないからである。
でも、今のキザムならば分かる。
たくさんの生徒が死んだのも、
死んだ生徒が生き返ったのも、
生きている生徒に襲い掛かってきたのも、
全部、実際に起こったことなのだ。
しかし、そんな地獄と化した世界は、なぜか長く続かなかった。キザムが死ぬのとほぼ同時に、昼休み中の平和な世界だった時間へと逆戻りしてしまったのである。そして、そこからまた何事もなかったかのように、同じ光景が繰り返されたのである。
これって……もしかして時間が……何度もループしているってことなのか……。
キザムはまさにこの瞬間、その事実にはっきりと気が付いたのだった。
自分の記憶は決して間違っていなかった。悪夢を見ていたわけではなかった。いや、その悪夢こそが現実に起こったことだったのだ。
なぜ、自分が死ぬと時間がループするのか? なぜ、たくさんの生徒が死んだのか? なぜ、死んだはずの生徒が生き返って、生きている生徒を襲ったのか?
分からないことはまだまだたくさんあるが、ひとつだけ言えることがある。これから校内で起こるであろう『大惨事』を何としてでも防がなくてはならない。
そうだ。ぼくだけがあの『大惨事』のことを知っているんだ。他の人間は知らないんだ。だとしたら、ぼくが行動を起こさないと。ぼくが『あの大惨事』を絶対に止めないと──。
キザムは心の中でそう強く思った。
「なあ、カケ──」
決意を新たにしたキザムは、カケルに自分が経験したことを全部話そうかと思ったが、たった一人の親友をあの『大惨事』に巻き込むわけにはいかないと思いなおして、慌てて言葉を噤んだ。
カケルに話すのはダメだ……。カケルはたった一人の大事な友達なんだから……。カケル以外で頼れそうなのは……そうだ、沙世理先生がいる。沙世理先生に協力してもらおう。
キザムは学校で一番親しくしている大人である沙世理に協力を仰ぐことに決めた。
「お、お、おい……キザム、どうしたんだ? なんか、本当におかしいぞ? いつものキザムと様子がまったく違うし……」
カケルの声からはキザムのことを心底心配している響きが聞いて取れた。
「カケル、今はまだ詳しい話が出来ないんだ。ただ、これからするぼくの話をよく聞いて欲しい。──君は教室を出て行った野球部の生徒のことが気になっているだろう。でも、心配しなくてもいい。野球部は放課後、他校との練習試合が控えていて、今からエネルギー補給しておくつもりなだけだから」
「えっ、いきなり何言ってるん──」
「この後きっと君は野球部の練習試合を一緒に冷やかしに行こうとぼくのことを誘おうと思うだろうが、ごめん、ぼくは行けないんだ。行きたいのは山々なんだけど、その前に絶対に解決しないとならない問題が出来てしまったんだ。あっ、それから、ぼくの今日のお弁当だけど、母親手作りの卵焼きが入っているよ。カケルの方はいつものコンビニで買ってきた大盛りの唐揚げ弁当だよね。一緒に食べたいんだけど、ぼくはこれからすぐに保健室に行かないとならないんだ。少ししたら流玲さんがこの机に絶対に近付いてくるはずだから、今日の昼食は流玲さんとふたりで食べてくれよ」
キザムはカケルが言葉を挟み込む余地を与えずに、マシンガンのごとく続けざまに言葉を放っていった。
「えっ、キザム……」
「それじゃ、ぼくは保健室に行くから」
キザムは弁当と薬の入った通学カバンを手に取ると、廊下へと向かって歩き出した。カケルが何か言いたそうにしているのは見て分かったが、今は自分の行動を優先させるべきと判断して、あえてカケルの顔は見てみぬ振りをした。
ごめん、カケル……。
後ろ髪引かれる思いを断ち切って、教室を後にした。
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