“Z”ループ ~タイム・オブ・ザ・デッド~

鷹司

文字の大きさ
36 / 70
第6章 フォース・オブ・ザ・デッド パートⅢ

その7

しおりを挟む
「おーい、誰かこっちに来て、手を貸してくれないか?」

 カケルの様子を見て、村咲がすぐに近くの教室に向かって呼びかけてくれた。男子生徒がさっそく一人やってきて、カケルの身体を支えるのを手伝ってくれる。体付きがしっかりしているところを見ると、体育会系の部活に所属しているのかもしれない

「とりあえず、いったん三組の教室に運んでくれるか? 怪我人はその教室に集めているから」

「分かりました」

 生徒会長の言葉は絶対らしく、男子生徒はカケルの身体を一人で支えて廊下を進んでいく。一方、カケルの方はぐったりとしており、なすがままになっている。

 当然キザムも付いて行こうとしたのだが、なぜか村咲に引き止められた。

「もう少しだけ話を聞きたいんだけど、いいかな?」

「えっ? まだ何かあるんですか?」

 前へ出しかけていた足を止めて、村咲の方に向き直った。

「──彼のことだよ」

 村咲がちらっと遠ざかっていくカケルの背中に意味ありげな視線を向けた。

「カケルがどうかしたんですか?」

 キザムは慎重に言葉を選んで尋ねた。カケルの症状について、村咲はまだ真相に気が付いていない可能性がある。ここは出来る限り穏便に話を済ませたかった。

「さっき君は『噛まれた』と言っていたよね?」

 村咲の声は追求するような口調に近かった。キザムとカケルの会話を聞いた村咲は、敏感に危険を察知したのだろう。

「…………」

 キザムは黙ったまま村咲の目を見返した。村咲も生徒会長らしい誠実で揺るぎない意思の力がこもった瞳で見つめ返してきた。


 この人は『知っている』……。校内で何が起きたかを、おそらく『知っている』んだ……。


 村咲の瞳を見て、キザムはそう確信した。それでも口に出して確認せずにはいられなかった。

「あなたは何か事情を知っているんですか?」

「その質問を僕にするということは、どうやら僕の想像は当たっているということだね。しかも悪いほうの想像がね……」

 村咲の方が役者が一枚上手だったみたいだ。キザムの質問を聞いただけで、すべてを見抜いたらしい。

「さっきのドラッグの話は生徒を騙すためのウソなんだろう? いったい一階では何が起きたんだい? 感染症みたいなものなのかい? まさか映画やゲームでよくあるような、ゾンビが本当に現われたとかいうんじゃないよな?」

 さすがに生徒会長を任されるだけの人間だった。頭の回転が恐ろしく速い。そして、自分の目で見ていないにも関わらず、とても的確に状況を捉えていた。

 ここまでくると、さすがにダマし通すわけにはいかない。

「──ええ、それに近いことが起きています」

 それでもまだゾンビという単語は使わずに遠回しに答えるのに留めた。

「まいったな……。この学校で、そんな恐ろしいことが起きているなんて……」

「そうか! それであなたは日立野さんのことを、あれほどまでに心配していたんですね!」

 先ほど見せた慧子を心配する村咲の様子に、ようやく合点がいった。村咲は一階で起きている異変をある程度予想していたからこそ、あれほど慧子のことが心配になったのだろう。

 そして、キザムにそのことを尋ねたということは、つまりカケルの状態に懸念を示しているということの現われでもあった。

「村咲さん、カケルは大丈夫ですよ!」

 それだけははっきり伝えないとならない。

「カケルは本当に大丈夫なんです! だから、ここで見捨てるようなことは──」

「君の気持ちはよく分かっている。それに慧子を助けてくれたことも感謝しているからね」

 村咲はもう日立野ではなく慧子と名前で言った。

「だから、ここで彼を見捨てることはしないよ。ただ、暴れださないように拘束だけはさせてもらう。生徒会長として他の生徒に危険が及ぶのを避けないとならないからね。その点だけは分かってもらえないだろうか?」

 今のカケルを屋上まで連れて行くことはたしかに難しい。それはキザムも理解している。だとしたら、ここは村咲に任せるしかないのかもしれない。キザムとしても断腸の思いではあるが、ゾンビ化を防ぐ術がない現状では、それもいたし方のないことだと決断を下すしかない。

「──分かりました。カケルのことは村咲さんにお願いします。ぼくは一人で屋上に行って、流玲さんを捜して来ます」

「ありがとう。辛い決断をさせてしまってすまなかった。彼のことは僕らが全力で見守ることにするから」

「それじゃ、カケルに話だけしてこないと」

 そう言ってキザムは連れて行かれたカケルを追いかけた。三組の教室のドアをくぐる寸前のところでカケルに追いついた。

「カケル、大丈夫か? 気分はどんな感じだ?」

「ああ……見ての通り……絶好調だよ……」

 先ほどと比べてカケルの語気に力が戻っていたが、それでも声を出すのも辛そうな感じであった。

「今、村咲さんと相談して、カケルにはこの教室で休んでもらうことにしたよ。屋上にはぼくだけで行ってくるからさ。──それでいいだろう?」

「ああ、その方がいい。オレはこの状態だからな。キザム、あとのことは頼んだぞ──」

 そこで唐突にカケルはくいっと唇を上げると、いつもの人懐っこい笑みを浮かべて、言葉を続けた。

「──なんて、オレが大人しく言うとでも思ったのか?」

「カケル……」

 カケルの返事を聞いて、泣き笑いしてしまいそうになった。カケルの気持ちが嬉しくもあり、頼もしくもあり、だから、キザムは数十秒前に決断したことを自ら覆すことにした。

「それじゃカケル、ぼくと一緒に来てくれるのかい?」

「ああ……もちろんだ……。最後まで付き合うって……言ったはずだろう……?」

 カケルの気持ちが変わらないと分かった。そうと決まったら、こんなところで時間を潰している暇はない。屋上に行って流玲を捜さないとならない。

「悪いけど、カケルのことはぼくが面倒をみるよ。ここまでありがとうございました」

 キザムは当惑顔をしている男子生徒からカケルの介助を代わった。

「おい、どうしたんだ? この教室で休ませておくっていう話だったろう?」

 心変わりしたキザムの行動に気が付いたのか、村咲が声を掛けてきた。

「村咲さん、カケルはぼくが連れて行くことにしました。カケルを一人にはしたくないんです。ましてや、身体を拘束するなんて……」」

「おい! 身体を拘束って……オレにそんなことをしようと考えていたのか……?」

 自分が拘束されていたのかもしれないと聞いてカケルも驚いている。

「悪いが君の怪我のことを考えれば当然だろう。ここにいる生徒に危険を及ぼすことは出来ない。だから、そう判断したんだ」

 村咲は自分の正当性を主張して一歩も引かない。

「さすが生徒会長をやる人間は考えることが違うな……。誰かを守る為には……誰かを犠牲にするのは当然だということか……。本当にご立派な考えだよ……」

「なんとでも言えばいいさ」

「カケル、さっき先生のことをゾンビの囮に使ったのは、どこの誰だよ?」

 キザムは身体を支えているカケルの耳元で早口で囁いた。

「あれはあれだよ……。だいたい、あいつはこの混乱を利用して……悪さをしようとしていたんだから……自業自得っていうやつさ……」

「随分と都合がいい解釈だな」

「この生徒会長は自分が正義だと思って行動しているから……余計に面倒なんだよ……」

「──二人の考えはよく分かったよ。どうやら、今さら何を言っても君たちの気持ちは変わらないみたいだな」

 村咲も再度説得するのは早々に諦めたみたいである。

「ぼくらはここから移動します。ここを移動すれば、あなた方にはもう迷惑を掛けないで済むはずでしょ?」

 キザムはカケルを肩に寄り掛からせたままの状態で、村咲と対峙した。

「ああ、我々には迷惑は掛からない。でも、君はどうなんだ? 友達の症状が悪化する可能性もあるんだぞ?」

 この場合、悪化するとは、ゾンビ化すると同義である。

「これ以上悪化しない可能性も残されていますから。それにもう二人で行くと決めましたから」

「僕は君の友人が噛まれているのを知ってしまった。ということは、次にここに助けを求めてきても、もう防火シャッターを開けることは絶対にないということなんだぞ?」

「はい、それも分かっています」

 キザムは頑なに態度を崩さなかった。

「分かった。そういうことならば生徒会長として、君たちが防火シャッターから出て行くところをしっかりと確認させてもらうことにする。そこから先は君たちの自由にすればいい」

 村咲はこれでこの話は終わりだといわんばかりに廊下を先へと歩いていく。

「偉そうなことを言っているけど……最初オレたちが助けを求めたときには……防火シャッターを全然開けようとしなかったくせにな……」

 カケルが小声で愚痴っていた。

「まあまあ、そう愚痴らない。せっかく僕たちが屋上に行くのを許してくれたんだからさ」

 キザムはカケルの左肩に自分の手を回して、カケルの身体を支えるようにして歩き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。 王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。 風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...