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第6章 フォース・オブ・ザ・デッド パートⅢ
その7
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「おーい、誰かこっちに来て、手を貸してくれないか?」
カケルの様子を見て、村咲がすぐに近くの教室に向かって呼びかけてくれた。男子生徒がさっそく一人やってきて、カケルの身体を支えるのを手伝ってくれる。体付きがしっかりしているところを見ると、体育会系の部活に所属しているのかもしれない
「とりあえず、いったん三組の教室に運んでくれるか? 怪我人はその教室に集めているから」
「分かりました」
生徒会長の言葉は絶対らしく、男子生徒はカケルの身体を一人で支えて廊下を進んでいく。一方、カケルの方はぐったりとしており、なすがままになっている。
当然キザムも付いて行こうとしたのだが、なぜか村咲に引き止められた。
「もう少しだけ話を聞きたいんだけど、いいかな?」
「えっ? まだ何かあるんですか?」
前へ出しかけていた足を止めて、村咲の方に向き直った。
「──彼のことだよ」
村咲がちらっと遠ざかっていくカケルの背中に意味ありげな視線を向けた。
「カケルがどうかしたんですか?」
キザムは慎重に言葉を選んで尋ねた。カケルの症状について、村咲はまだ真相に気が付いていない可能性がある。ここは出来る限り穏便に話を済ませたかった。
「さっき君は『噛まれた』と言っていたよね?」
村咲の声は追求するような口調に近かった。キザムとカケルの会話を聞いた村咲は、敏感に危険を察知したのだろう。
「…………」
キザムは黙ったまま村咲の目を見返した。村咲も生徒会長らしい誠実で揺るぎない意思の力がこもった瞳で見つめ返してきた。
この人は『知っている』……。校内で何が起きたかを、おそらく『知っている』んだ……。
村咲の瞳を見て、キザムはそう確信した。それでも口に出して確認せずにはいられなかった。
「あなたは何か事情を知っているんですか?」
「その質問を僕にするということは、どうやら僕の想像は当たっているということだね。しかも悪いほうの想像がね……」
村咲の方が役者が一枚上手だったみたいだ。キザムの質問を聞いただけで、すべてを見抜いたらしい。
「さっきのドラッグの話は生徒を騙すためのウソなんだろう? いったい一階では何が起きたんだい? 感染症みたいなものなのかい? まさか映画やゲームでよくあるような、ゾンビが本当に現われたとかいうんじゃないよな?」
さすがに生徒会長を任されるだけの人間だった。頭の回転が恐ろしく速い。そして、自分の目で見ていないにも関わらず、とても的確に状況を捉えていた。
ここまでくると、さすがにダマし通すわけにはいかない。
「──ええ、それに近いことが起きています」
それでもまだゾンビという単語は使わずに遠回しに答えるのに留めた。
「まいったな……。この学校で、そんな恐ろしいことが起きているなんて……」
「そうか! それであなたは日立野さんのことを、あれほどまでに心配していたんですね!」
先ほど見せた慧子を心配する村咲の様子に、ようやく合点がいった。村咲は一階で起きている異変をある程度予想していたからこそ、あれほど慧子のことが心配になったのだろう。
そして、キザムにそのことを尋ねたということは、つまりカケルの状態に懸念を示しているということの現われでもあった。
「村咲さん、カケルは大丈夫ですよ!」
それだけははっきり伝えないとならない。
「カケルは本当に大丈夫なんです! だから、ここで見捨てるようなことは──」
「君の気持ちはよく分かっている。それに慧子を助けてくれたことも感謝しているからね」
村咲はもう日立野ではなく慧子と名前で言った。
「だから、ここで彼を見捨てることはしないよ。ただ、暴れださないように拘束だけはさせてもらう。生徒会長として他の生徒に危険が及ぶのを避けないとならないからね。その点だけは分かってもらえないだろうか?」
今のカケルを屋上まで連れて行くことはたしかに難しい。それはキザムも理解している。だとしたら、ここは村咲に任せるしかないのかもしれない。キザムとしても断腸の思いではあるが、ゾンビ化を防ぐ術がない現状では、それもいたし方のないことだと決断を下すしかない。
「──分かりました。カケルのことは村咲さんにお願いします。ぼくは一人で屋上に行って、流玲さんを捜して来ます」
「ありがとう。辛い決断をさせてしまってすまなかった。彼のことは僕らが全力で見守ることにするから」
「それじゃ、カケルに話だけしてこないと」
そう言ってキザムは連れて行かれたカケルを追いかけた。三組の教室のドアをくぐる寸前のところでカケルに追いついた。
「カケル、大丈夫か? 気分はどんな感じだ?」
「ああ……見ての通り……絶好調だよ……」
先ほどと比べてカケルの語気に力が戻っていたが、それでも声を出すのも辛そうな感じであった。
「今、村咲さんと相談して、カケルにはこの教室で休んでもらうことにしたよ。屋上にはぼくだけで行ってくるからさ。──それでいいだろう?」
「ああ、その方がいい。オレはこの状態だからな。キザム、あとのことは頼んだぞ──」
そこで唐突にカケルはくいっと唇を上げると、いつもの人懐っこい笑みを浮かべて、言葉を続けた。
「──なんて、オレが大人しく言うとでも思ったのか?」
「カケル……」
カケルの返事を聞いて、泣き笑いしてしまいそうになった。カケルの気持ちが嬉しくもあり、頼もしくもあり、だから、キザムは数十秒前に決断したことを自ら覆すことにした。
「それじゃカケル、ぼくと一緒に来てくれるのかい?」
「ああ……もちろんだ……。最後まで付き合うって……言ったはずだろう……?」
カケルの気持ちが変わらないと分かった。そうと決まったら、こんなところで時間を潰している暇はない。屋上に行って流玲を捜さないとならない。
「悪いけど、カケルのことはぼくが面倒をみるよ。ここまでありがとうございました」
キザムは当惑顔をしている男子生徒からカケルの介助を代わった。
「おい、どうしたんだ? この教室で休ませておくっていう話だったろう?」
心変わりしたキザムの行動に気が付いたのか、村咲が声を掛けてきた。
「村咲さん、カケルはぼくが連れて行くことにしました。カケルを一人にはしたくないんです。ましてや、身体を拘束するなんて……」」
「おい! 身体を拘束って……オレにそんなことをしようと考えていたのか……?」
自分が拘束されていたのかもしれないと聞いてカケルも驚いている。
「悪いが君の怪我のことを考えれば当然だろう。ここにいる生徒に危険を及ぼすことは出来ない。だから、そう判断したんだ」
村咲は自分の正当性を主張して一歩も引かない。
「さすが生徒会長をやる人間は考えることが違うな……。誰かを守る為には……誰かを犠牲にするのは当然だということか……。本当にご立派な考えだよ……」
「なんとでも言えばいいさ」
「カケル、さっき先生のことをゾンビの囮に使ったのは、どこの誰だよ?」
キザムは身体を支えているカケルの耳元で早口で囁いた。
「あれはあれだよ……。だいたい、あいつはこの混乱を利用して……悪さをしようとしていたんだから……自業自得っていうやつさ……」
「随分と都合がいい解釈だな」
「この生徒会長は自分が正義だと思って行動しているから……余計に面倒なんだよ……」
「──二人の考えはよく分かったよ。どうやら、今さら何を言っても君たちの気持ちは変わらないみたいだな」
村咲も再度説得するのは早々に諦めたみたいである。
「ぼくらはここから移動します。ここを移動すれば、あなた方にはもう迷惑を掛けないで済むはずでしょ?」
キザムはカケルを肩に寄り掛からせたままの状態で、村咲と対峙した。
「ああ、我々には迷惑は掛からない。でも、君はどうなんだ? 友達の症状が悪化する可能性もあるんだぞ?」
この場合、悪化するとは、ゾンビ化すると同義である。
「これ以上悪化しない可能性も残されていますから。それにもう二人で行くと決めましたから」
「僕は君の友人が噛まれているのを知ってしまった。ということは、次にここに助けを求めてきても、もう防火シャッターを開けることは絶対にないということなんだぞ?」
「はい、それも分かっています」
キザムは頑なに態度を崩さなかった。
「分かった。そういうことならば生徒会長として、君たちが防火シャッターから出て行くところをしっかりと確認させてもらうことにする。そこから先は君たちの自由にすればいい」
村咲はこれでこの話は終わりだといわんばかりに廊下を先へと歩いていく。
「偉そうなことを言っているけど……最初オレたちが助けを求めたときには……防火シャッターを全然開けようとしなかったくせにな……」
カケルが小声で愚痴っていた。
「まあまあ、そう愚痴らない。せっかく僕たちが屋上に行くのを許してくれたんだからさ」
キザムはカケルの左肩に自分の手を回して、カケルの身体を支えるようにして歩き出した。
カケルの様子を見て、村咲がすぐに近くの教室に向かって呼びかけてくれた。男子生徒がさっそく一人やってきて、カケルの身体を支えるのを手伝ってくれる。体付きがしっかりしているところを見ると、体育会系の部活に所属しているのかもしれない
「とりあえず、いったん三組の教室に運んでくれるか? 怪我人はその教室に集めているから」
「分かりました」
生徒会長の言葉は絶対らしく、男子生徒はカケルの身体を一人で支えて廊下を進んでいく。一方、カケルの方はぐったりとしており、なすがままになっている。
当然キザムも付いて行こうとしたのだが、なぜか村咲に引き止められた。
「もう少しだけ話を聞きたいんだけど、いいかな?」
「えっ? まだ何かあるんですか?」
前へ出しかけていた足を止めて、村咲の方に向き直った。
「──彼のことだよ」
村咲がちらっと遠ざかっていくカケルの背中に意味ありげな視線を向けた。
「カケルがどうかしたんですか?」
キザムは慎重に言葉を選んで尋ねた。カケルの症状について、村咲はまだ真相に気が付いていない可能性がある。ここは出来る限り穏便に話を済ませたかった。
「さっき君は『噛まれた』と言っていたよね?」
村咲の声は追求するような口調に近かった。キザムとカケルの会話を聞いた村咲は、敏感に危険を察知したのだろう。
「…………」
キザムは黙ったまま村咲の目を見返した。村咲も生徒会長らしい誠実で揺るぎない意思の力がこもった瞳で見つめ返してきた。
この人は『知っている』……。校内で何が起きたかを、おそらく『知っている』んだ……。
村咲の瞳を見て、キザムはそう確信した。それでも口に出して確認せずにはいられなかった。
「あなたは何か事情を知っているんですか?」
「その質問を僕にするということは、どうやら僕の想像は当たっているということだね。しかも悪いほうの想像がね……」
村咲の方が役者が一枚上手だったみたいだ。キザムの質問を聞いただけで、すべてを見抜いたらしい。
「さっきのドラッグの話は生徒を騙すためのウソなんだろう? いったい一階では何が起きたんだい? 感染症みたいなものなのかい? まさか映画やゲームでよくあるような、ゾンビが本当に現われたとかいうんじゃないよな?」
さすがに生徒会長を任されるだけの人間だった。頭の回転が恐ろしく速い。そして、自分の目で見ていないにも関わらず、とても的確に状況を捉えていた。
ここまでくると、さすがにダマし通すわけにはいかない。
「──ええ、それに近いことが起きています」
それでもまだゾンビという単語は使わずに遠回しに答えるのに留めた。
「まいったな……。この学校で、そんな恐ろしいことが起きているなんて……」
「そうか! それであなたは日立野さんのことを、あれほどまでに心配していたんですね!」
先ほど見せた慧子を心配する村咲の様子に、ようやく合点がいった。村咲は一階で起きている異変をある程度予想していたからこそ、あれほど慧子のことが心配になったのだろう。
そして、キザムにそのことを尋ねたということは、つまりカケルの状態に懸念を示しているということの現われでもあった。
「村咲さん、カケルは大丈夫ですよ!」
それだけははっきり伝えないとならない。
「カケルは本当に大丈夫なんです! だから、ここで見捨てるようなことは──」
「君の気持ちはよく分かっている。それに慧子を助けてくれたことも感謝しているからね」
村咲はもう日立野ではなく慧子と名前で言った。
「だから、ここで彼を見捨てることはしないよ。ただ、暴れださないように拘束だけはさせてもらう。生徒会長として他の生徒に危険が及ぶのを避けないとならないからね。その点だけは分かってもらえないだろうか?」
今のカケルを屋上まで連れて行くことはたしかに難しい。それはキザムも理解している。だとしたら、ここは村咲に任せるしかないのかもしれない。キザムとしても断腸の思いではあるが、ゾンビ化を防ぐ術がない現状では、それもいたし方のないことだと決断を下すしかない。
「──分かりました。カケルのことは村咲さんにお願いします。ぼくは一人で屋上に行って、流玲さんを捜して来ます」
「ありがとう。辛い決断をさせてしまってすまなかった。彼のことは僕らが全力で見守ることにするから」
「それじゃ、カケルに話だけしてこないと」
そう言ってキザムは連れて行かれたカケルを追いかけた。三組の教室のドアをくぐる寸前のところでカケルに追いついた。
「カケル、大丈夫か? 気分はどんな感じだ?」
「ああ……見ての通り……絶好調だよ……」
先ほどと比べてカケルの語気に力が戻っていたが、それでも声を出すのも辛そうな感じであった。
「今、村咲さんと相談して、カケルにはこの教室で休んでもらうことにしたよ。屋上にはぼくだけで行ってくるからさ。──それでいいだろう?」
「ああ、その方がいい。オレはこの状態だからな。キザム、あとのことは頼んだぞ──」
そこで唐突にカケルはくいっと唇を上げると、いつもの人懐っこい笑みを浮かべて、言葉を続けた。
「──なんて、オレが大人しく言うとでも思ったのか?」
「カケル……」
カケルの返事を聞いて、泣き笑いしてしまいそうになった。カケルの気持ちが嬉しくもあり、頼もしくもあり、だから、キザムは数十秒前に決断したことを自ら覆すことにした。
「それじゃカケル、ぼくと一緒に来てくれるのかい?」
「ああ……もちろんだ……。最後まで付き合うって……言ったはずだろう……?」
カケルの気持ちが変わらないと分かった。そうと決まったら、こんなところで時間を潰している暇はない。屋上に行って流玲を捜さないとならない。
「悪いけど、カケルのことはぼくが面倒をみるよ。ここまでありがとうございました」
キザムは当惑顔をしている男子生徒からカケルの介助を代わった。
「おい、どうしたんだ? この教室で休ませておくっていう話だったろう?」
心変わりしたキザムの行動に気が付いたのか、村咲が声を掛けてきた。
「村咲さん、カケルはぼくが連れて行くことにしました。カケルを一人にはしたくないんです。ましてや、身体を拘束するなんて……」」
「おい! 身体を拘束って……オレにそんなことをしようと考えていたのか……?」
自分が拘束されていたのかもしれないと聞いてカケルも驚いている。
「悪いが君の怪我のことを考えれば当然だろう。ここにいる生徒に危険を及ぼすことは出来ない。だから、そう判断したんだ」
村咲は自分の正当性を主張して一歩も引かない。
「さすが生徒会長をやる人間は考えることが違うな……。誰かを守る為には……誰かを犠牲にするのは当然だということか……。本当にご立派な考えだよ……」
「なんとでも言えばいいさ」
「カケル、さっき先生のことをゾンビの囮に使ったのは、どこの誰だよ?」
キザムは身体を支えているカケルの耳元で早口で囁いた。
「あれはあれだよ……。だいたい、あいつはこの混乱を利用して……悪さをしようとしていたんだから……自業自得っていうやつさ……」
「随分と都合がいい解釈だな」
「この生徒会長は自分が正義だと思って行動しているから……余計に面倒なんだよ……」
「──二人の考えはよく分かったよ。どうやら、今さら何を言っても君たちの気持ちは変わらないみたいだな」
村咲も再度説得するのは早々に諦めたみたいである。
「ぼくらはここから移動します。ここを移動すれば、あなた方にはもう迷惑を掛けないで済むはずでしょ?」
キザムはカケルを肩に寄り掛からせたままの状態で、村咲と対峙した。
「ああ、我々には迷惑は掛からない。でも、君はどうなんだ? 友達の症状が悪化する可能性もあるんだぞ?」
この場合、悪化するとは、ゾンビ化すると同義である。
「これ以上悪化しない可能性も残されていますから。それにもう二人で行くと決めましたから」
「僕は君の友人が噛まれているのを知ってしまった。ということは、次にここに助けを求めてきても、もう防火シャッターを開けることは絶対にないということなんだぞ?」
「はい、それも分かっています」
キザムは頑なに態度を崩さなかった。
「分かった。そういうことならば生徒会長として、君たちが防火シャッターから出て行くところをしっかりと確認させてもらうことにする。そこから先は君たちの自由にすればいい」
村咲はこれでこの話は終わりだといわんばかりに廊下を先へと歩いていく。
「偉そうなことを言っているけど……最初オレたちが助けを求めたときには……防火シャッターを全然開けようとしなかったくせにな……」
カケルが小声で愚痴っていた。
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