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第8章 フォース・オブ・ザ・デッド パートⅤ
その5
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流玲がキザムの方にゆっくりと歩み寄って来る。ようやくこれで流玲と一緒に安全な校庭に避難出来る。校内にはまだ何体ものゾンビがうろついているが、それは警察に任せればいい。キザムは自分の務めである流玲を捜すということを、しっかりと全うしたのだ。あとは大人に任せるつもりだった。もう自分が出る幕ではない。
流玲が手の届きそうな距離まで近付いてきた。手を伸ばせば触れられる距離まで近付いてきた。
キザムが流玲を迎えるように手を伸ばしかけた、まさにそのとき──。
「感動の再会シーンをぶち壊して悪いが──それはダメだ。それは受け入れることが出来ない」
思いもよらない言葉が屋上に走った。キザムと流玲の再会を否定した言葉を放ったのは、ここまで危険な道のりを一緒に助け合ってきたキザムの親友である──カケルだった。
「えっ、カケル、今なんて言ったんだ……?」
キザムはてっきり自分が聞き間違えたのかと思い、発言を確認する為にカケルの方に向き直った。
体調が悪化して屋上にしゃがみ込んでいたはずのカケルは、屋上に右膝を付いた姿勢で上半身だけ起こして、キザムたちの方に身体を向けていた。顔色は悪く、身体が左右に揺れているところを見ると、今も体内に巣食う悪しき力と戦っているのだと分かった。にも関わらず、無理をしてまでキザムたちに声を掛けたのには、何がしかの理由があるはずだった。
真っ直ぐ水平に伸ばされたカケルの右手には、黒い筒状の物体が保持されている。銃口の先は流玲に向けられていた。
それが答えだった。
「カケル……どういうことだよ? それって何かの冗談なんだろう? 拳銃なんて危ないから、早くしまえよ……」
震えそうになる声をなんとか抑えて、敢えていつも通りの口調でカケルに声を掛けた。
「悪いなキザム……。こんな状況で、冗談を言うだけの余裕は……さすがにもうないぜ……」
そう答えるカケルの顔に、明らかな異変が生じていた。真っ青な顔に脂汗がびっしりと浮いているのはさきほどまでと同じだったが、両目の白目の部分に薄く濁りが浮き出始めていた。それはゾンビ化が始まる兆候に他ならなかった。
「カケル……」
とうとうそのときがカケルの身に訪れてしまったのだ。
「なあ、カケルは今、ゾンビ化の波と必死に戦っているんだよ……。だから、おかしなことをしようとしているんだ……。とにかく、ぼくたちと一緒に避難しよう。ちゃんと身体の状態を診てもらえば──」
キザムはカケルがゾンビ化し始めたので、正常な判断が出来ない状態になってしまったのだと考えた。しかし、その判断は間違っていたみたいだった。
「安心しろ、キザム……。オレの頭はまだ正常に働いているから……。それよりも、お前の方こそ、自分が正常だと思っているのか……?」
逆にカケルが問い質してきた。
「ぼくは……もちろん正常さ。だから、カケルも──」
「だったら、なんでゾンビ化した生徒と一緒に……避難しようとしているんだ……? 校庭に避難している生徒を……危険に晒すつもりなのか……?」
キザムの言葉を制して、カケルが痛いところを突いてきた。理路整然とした物言いは、いたってカケルの精神がまだ正常であることを物語っていた。
「それは、その……だから、流玲さんは大丈夫なんだよ。半分だけゾンビ化しているだけで、あとはしっかりしているからさ。ぼくが保証するから。カケルだって、流玲さんを助けたい気持ちはあるだろう?」
カケルの言葉とは反対に、キザムの言葉は感情論だけで発せられており、はなはだ説得力に欠けていた。そのことにキザム自身も気付いていた。
「ああ、オレだって出来ることなら、流玲さんを助けたいさ……」
「それじゃ──」
「ゾンビ化していなければの話だ……。流玲さんのゾンビ化が始まっている以上、やるべきことはやらないとならない。──キザム、ここでけりをつけるしかないんだよ……」
「そんな……。うそだろう……? カケル、考え直してくれよ……」
思わずカケルの方に近寄ろうとした途端──。
「キザム、そこを動くな!」
思いもかけないカケルの力強い言葉で動きを制されてしまった。
「オレが持った拳銃の銃口は、流玲さんの額を狙っている……。キザム、お前が少しでも動いたら、オレは躊躇することなく発砲する……」
カケルの身体は相変わらず左右に揺れているが、拳銃を持った右手だけはがっちりとホールドされている。そこにカケルの強い意思が垣間見えた。下手に動くのは却って流玲を危険に晒すことになると瞬時に悟った。
動きを封じられてしまった以上、今のキザムに出来ることは限られている。残された手はひとつしかない。カケルをなんとしてでも説得するしかなかった。
「なあ、カケル、どうして流玲さんを撃たなくちゃいけないんだよ? まだ完全にゾンビ化しているわけじゃないんだぞ? 病院で診てもらってもいいだろう?」
「──そういえばキザム、お前にはオレがこの時代に来た理由をちゃんと話していなかったよな……。お前もオレの話を聞けば、きっとオレの行動に納得してくれるはずさ……」
そう言って、カケルはぽつりぽつりと言葉を漏らすようにして自分の身の上を話し始めた。
流玲が手の届きそうな距離まで近付いてきた。手を伸ばせば触れられる距離まで近付いてきた。
キザムが流玲を迎えるように手を伸ばしかけた、まさにそのとき──。
「感動の再会シーンをぶち壊して悪いが──それはダメだ。それは受け入れることが出来ない」
思いもよらない言葉が屋上に走った。キザムと流玲の再会を否定した言葉を放ったのは、ここまで危険な道のりを一緒に助け合ってきたキザムの親友である──カケルだった。
「えっ、カケル、今なんて言ったんだ……?」
キザムはてっきり自分が聞き間違えたのかと思い、発言を確認する為にカケルの方に向き直った。
体調が悪化して屋上にしゃがみ込んでいたはずのカケルは、屋上に右膝を付いた姿勢で上半身だけ起こして、キザムたちの方に身体を向けていた。顔色は悪く、身体が左右に揺れているところを見ると、今も体内に巣食う悪しき力と戦っているのだと分かった。にも関わらず、無理をしてまでキザムたちに声を掛けたのには、何がしかの理由があるはずだった。
真っ直ぐ水平に伸ばされたカケルの右手には、黒い筒状の物体が保持されている。銃口の先は流玲に向けられていた。
それが答えだった。
「カケル……どういうことだよ? それって何かの冗談なんだろう? 拳銃なんて危ないから、早くしまえよ……」
震えそうになる声をなんとか抑えて、敢えていつも通りの口調でカケルに声を掛けた。
「悪いなキザム……。こんな状況で、冗談を言うだけの余裕は……さすがにもうないぜ……」
そう答えるカケルの顔に、明らかな異変が生じていた。真っ青な顔に脂汗がびっしりと浮いているのはさきほどまでと同じだったが、両目の白目の部分に薄く濁りが浮き出始めていた。それはゾンビ化が始まる兆候に他ならなかった。
「カケル……」
とうとうそのときがカケルの身に訪れてしまったのだ。
「なあ、カケルは今、ゾンビ化の波と必死に戦っているんだよ……。だから、おかしなことをしようとしているんだ……。とにかく、ぼくたちと一緒に避難しよう。ちゃんと身体の状態を診てもらえば──」
キザムはカケルがゾンビ化し始めたので、正常な判断が出来ない状態になってしまったのだと考えた。しかし、その判断は間違っていたみたいだった。
「安心しろ、キザム……。オレの頭はまだ正常に働いているから……。それよりも、お前の方こそ、自分が正常だと思っているのか……?」
逆にカケルが問い質してきた。
「ぼくは……もちろん正常さ。だから、カケルも──」
「だったら、なんでゾンビ化した生徒と一緒に……避難しようとしているんだ……? 校庭に避難している生徒を……危険に晒すつもりなのか……?」
キザムの言葉を制して、カケルが痛いところを突いてきた。理路整然とした物言いは、いたってカケルの精神がまだ正常であることを物語っていた。
「それは、その……だから、流玲さんは大丈夫なんだよ。半分だけゾンビ化しているだけで、あとはしっかりしているからさ。ぼくが保証するから。カケルだって、流玲さんを助けたい気持ちはあるだろう?」
カケルの言葉とは反対に、キザムの言葉は感情論だけで発せられており、はなはだ説得力に欠けていた。そのことにキザム自身も気付いていた。
「ああ、オレだって出来ることなら、流玲さんを助けたいさ……」
「それじゃ──」
「ゾンビ化していなければの話だ……。流玲さんのゾンビ化が始まっている以上、やるべきことはやらないとならない。──キザム、ここでけりをつけるしかないんだよ……」
「そんな……。うそだろう……? カケル、考え直してくれよ……」
思わずカケルの方に近寄ろうとした途端──。
「キザム、そこを動くな!」
思いもかけないカケルの力強い言葉で動きを制されてしまった。
「オレが持った拳銃の銃口は、流玲さんの額を狙っている……。キザム、お前が少しでも動いたら、オレは躊躇することなく発砲する……」
カケルの身体は相変わらず左右に揺れているが、拳銃を持った右手だけはがっちりとホールドされている。そこにカケルの強い意思が垣間見えた。下手に動くのは却って流玲を危険に晒すことになると瞬時に悟った。
動きを封じられてしまった以上、今のキザムに出来ることは限られている。残された手はひとつしかない。カケルをなんとしてでも説得するしかなかった。
「なあ、カケル、どうして流玲さんを撃たなくちゃいけないんだよ? まだ完全にゾンビ化しているわけじゃないんだぞ? 病院で診てもらってもいいだろう?」
「──そういえばキザム、お前にはオレがこの時代に来た理由をちゃんと話していなかったよな……。お前もオレの話を聞けば、きっとオレの行動に納得してくれるはずさ……」
そう言って、カケルはぽつりぽつりと言葉を漏らすようにして自分の身の上を話し始めた。
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