“Z”ループ ~タイム・オブ・ザ・デッド~

鷹司

文字の大きさ
54 / 70
第9章 フォース・オブ・ザ・デッド パートⅥ

その4

しおりを挟む
「どうやら私が説明するのが一番良さそうな感じみたいね」

 その場の重たい雰囲気に似つかわしくない軽い口調とともに屋上に姿を見せたのは、果たして──。

「沙世理先生……どうしてここに……?」

 キザムは思いもよらない闖入者の姿を見て、しかし、極限にあった緊張感が少しだけ緩むのを感じた。沙世理がいてくれれば、この膠着状態がなんとか出来るかもしれないと考えたのである。

「校庭に避難してきた村咲くんから話を聞いて、ここに駆けつけて来たのよ」

 沙世理の回答は単純明快だった。

「村咲さんか……」

 村咲が別れ際に、キザムたちのことを先生に伝えると言っていたことをキザムは思い出した。

「でも沙世理先生、わざわざ危険を冒してまで屋上に来るなんて──」

「──キザム、早合点はしない方がいいぞ」

 沙世理の登場にほっとしかけていたキザムの気持ちにまるで水を差すように、カケルが厳しい声で警告してきた。

「カケル、どういうことだよ? 沙世理先生はぼくたちのことを心配して、こうして来てくれたんじゃ──」

「もしかしたら、ここに来るんじゃないかと思っていましたよ」

 カケルがキザムの質問を無視して、沙世理に疑心に満ちた視線を振り向けた。生徒が教師を見つめる目ではなかった。

 思い返してみると、カケルは沙世理に対して、常に一定の距離を置いていた。キザムはてっきり二人は馬が合わないだけだと思っていたのだが、どうやらそれは思い違いだったみたいだ。二人の様子を見る限り、何か二人にしか分からない秘密がありそうだと感じられた。

「あら、ミステリーでは最後に関係者がひとつの場所に集まるのが定石でしょう。私もそれに倣っただけのことよ」

 沙世理の口調は相変わらず軽い。

「えっ、沙世理先生は関係者っていうことなの……?」

 沙世理は今はっきりと関係者という単語を発した。しかしキザムの知る限り、この大惨事において沙世理はただの養護教諭という役割でしかなかったはずだ。キザムの体調を常に案じてくれる優しい養護教諭。だからこそ、キザムは自分の身に起きたタイムループ現象について、真っ先に沙世理に相談したのである。

「もしかして、ぼくがタイムループのことを相談したから、沙世理先生は関係者になったわけなの……?」

 それはありえることだと思った。だが、カケルの見解はまるで違った。

「いや、キザム、そうじゃないんだよ。先生は初めからこの一件の関係者だったんだよ。もしかしたら、おまえが先生に相談したのも、そういう運命めいた流れがあったのかもしれないな」

 カケルは随分と持って回った言い方をしたが、意味はなんとなく理解出来た。キザムが沙世理にタイムループのことを相談しなくとも、沙世理が関係者だったことに変わりはないということなのだ。


 では、なぜ沙世理は関係者という立ち位置にいるのか?


 そこがまだ分からなかった。

「私のことは何から何までお見通しということみたいね」

 沙世理の言葉の端々には、皮肉めいた響きが見え隠れしていた。どうもいつもの沙世理の様子と違っていた。キザムの知らない沙世理の顔がそこにあった。

「あなたたち三人の会話は全部、屋上のドアの裏で隠れて聞かせてもらったわ。風上くん、あなたがなぜ私のことをそこまで警戒していたのかも、ようやく理由が分かったわ。あなたは未来から来ていて、私のことを初めから知っていたというわけね」

「──この学校のデータは全部調べましたから。先生のこともしっかりチェックさせてもらいました」

「おいカケル、その言い方だと、まるで沙世理先生のことを疑っているみたいに聞こえるぞ」

 キザムは蚊帳の外に置かれないように、慌てて口を挟んだ。

「キザム、オレは実際に先生のことをずっと疑っていたんだよ。なぜならば、先生の正体は──」

 カケルはそこで一回言葉を区切った。沙世理の顔色をちらっと見て、この先を本当に言ってもいいのかと窺う素振りを見せた。

「ここまできたら、もう土岐野くんには包み隠さずに話した方がいいんじゃないかしら」

「──沙世理先生、なんで急にぼくの名前が出てくるんですか?」

 不意に自分の名前を出されて、キザムは狼狽した。てっきりカケルと沙世理だけの話だと思っていたのだ。

「土岐野くん、これから風上くんが話そうとしている事柄には、あなたのことも含まれているのよ。そのことを風上くんは初めから知っていながら、あなたにはずっと隠していたのよ」

 話が自分の知らない未知の方に向かっていく。カケルは秘密にしていたことはすべて話してくれたと思っていたが、どうやらまだキザムに隠し事があるらしい。


 カケルはぼくに何を隠しているんだ? 自分の身に起きた惨劇の事を教えてくれたカケルがそこまでして隠し通そうとするものは、いったい何なんだ?


 キザムは頭に思い浮かんだ疑問の回答を必死に探す。しかし、まるっきり答えを見出せなかった。

「そういうことならば、ここではっきり言わせてもらうよ」

 カケルがゆっくりと口を開いた。

「キザム、先生が言う通り、これからオレが話すことには、おまえについての話も含まれているから、しっかりと聞いていてくれよ」

 そう前置きをした上で、カケルは本題に入っていった。

「いいか、キザム。沙世理先生はな──馳蔵医師の婚約者なんだよ」

 カケルの口から出てきた思いもよらない人物の名前。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。 王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。 風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...