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エピローグ
死者の後始末
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一人しかいない会社の研究室にスマホの着信音が鳴り響いた。井下はやりかけ中の作業の手をいったん止めて、スマホの液晶画面に目をやった。
「あれ? なんだろう? 久しぶりにこの名前を見たけど、何か急な連絡でもあるのかな?」
液晶画面にはよく知る人物の名前が表示されていた。少し前までは頻繁にやり取りをしていたが、先輩である馳蔵が亡くなってからは、連絡はほぼしなくなっていた。
馳蔵は研究に没頭してしまうと、時間が過ぎるのも忘れて、ひたすらに研究に明け暮れてしまうのだった。だから、馳蔵の婚約者は決まって井下のスマホに確認の連絡をしてくるのが常だったのだ。
もっとも、それも馳蔵が亡くなるまでだったが──。
「先輩の一周忌にはまだ早いし、なんだろうなあ?」
井下は手袋を着けたままの手で、スマホを手に取った。
「もしもし、井下ですが──」
「あっ、井下くん。久しぶりね。急に電話しちゃって悪かったわね。今、話せる時間はある?」
ハキハキとした口調で話す女性の声。久しぶりに聞く声だが、前と変わりはない。
「今は作った細胞の簡単なチェックをしているだけなので、話す時間ぐらいならありますよ」
「良かった。それじゃ、私がこれからする話をしっかりと聞いてくれる。とても重要な話だから、絶対に聞き逃さないでね。分かった? ねえ、分かった?」
何度も確認してくる電話の声。それだけ大切な話ということなのだろう。
「はい、分かりました。しっかり聞きますから、話して下さい」
とにかく、話を聞いてみないことには何とも言えないので、話の先を促すことにした。
「分かったわ。それじゃ、話すわね──」
そう言って電話の主──馳蔵の婚約者である白鳥河沙世理は、驚くべき内容の話をし始めた。
五分後──。
「──ということなの、理解してもらえたかしら?」
最後に沙世理は井下に確認してきた。
「は、は、はい……一応は、分かりました……。ただ、ぼくひとりでは判断出来ないので、研究室の室長に確認をとってみないことには、なんとも言えないのですが……」
すぐには答えることが出来そうにない話だったので、一度保留の態度を示してみた。
「お金と名声ばかり気にしている連中に話してもしょうがないわ。井下くん、これはあなたが決めることなのよ! 馳蔵の右腕として研究を支えていたあなたにも、責任の一端はあるんだからね!」
沙世理が語気を強めた。
「ええ、それはそうですが……」
「とにかく、何でもいいから理由をこじつけて、『ステップ細胞』と『スキップ細胞』に関するすべての資料を破棄して。──いい、分かったわね?」
「は、はい……やるだけやってみます……」
「それじゃ、井下くん、任せたわよ」
そこで電話は唐突に切れてしまった。聞きたいことが山ほどあったのだが、はじめからこちらの質問に答える気はなかったみたいだ。
「まいったな……」
思わずぼやきが漏れる。
沙世理とは馳蔵を通してたしかに顔見知りであったが、果たして、今沙世理が話したことをすべて真実として受け取っていいものだろうかと考え込んでしまった。
沙世理が言うには、『ステップ細胞』と『スキップ細胞』の存在は、やがて人類に大いなる災いを引き起こすというのだ。そうなる前にすべて破棄しないとならないとのことだった。
もしかしたら馳蔵を亡くしたことで心が傷付いて、あらぬ妄想でも引き起こしているのかも?
つい、そんな風に考えてしまわなくもなかった。
なんだか、とんでもない難問を持ち込まれたなあ……。
室長に相談したところで、きっと無視しろと言われるのは目に見えている。沙世理が言う通り、室長をはじめとした上司たちは皆、研究の中身よりも、その研究成果の結果、どれだけの利益が会社にもたらされるかしか興味がないのだ。
仕方がないな。ぼくが自分で解決するしかないか。まったく、これも先輩のせいですからね。
井下は研究室に飾ってある馳蔵と一緒に撮った写真に向かってグチをこぼした。
「えーと、沙世理さんの話では、『ステップ細胞』の効果を抑える薬と、『スキップ細胞』を混ぜるのが危険だということだったな。とりあえず、どんな現象が起きるのか試してみて、それが悪い結果ならば、室長に報告するということでいいかな」
井下はこれからの方針を固めると、さっそく実験に移った。
ケージの中からモルモットを一匹取ってくる。次に、保存してあった『スキップ細胞』をモルモットに注入する。さらに『ステップ細胞』の効果を抑える薬を水に溶かすと、それを注射器で吸い上げて、モルモットに注射した。
「これで準備はOKだ。あとは様子を見ることにしよう」
井下はモルモットを観察用のガラスケースに入れて、机の上に置いた。自分はイスに座り込む。
新天地に移ったモルモットは最初こそあたりの様子を伺うように俊敏に動き回っていたが、急に身体を止めると、その場で全身をぴくぴくと痙攣させ始めた。
「おい、なんだ、どうしたっていうんだ?」
ガラスケースにおでこがくっつかんばかりに顔を近付けて観察していた井下の視界の中で、モルモットは数十秒後にはうんともすんとも言わずに硬直してしまった。ピクリともしない。
「こういう結果が出たということは、沙世理さんの話は全部ウソだったということなのかな? やっぱり、馳蔵先輩を亡くした心の傷がまだ癒えていないのかもしれないな……」
井下はぶつぶつつぶやきながら、仕方なく観察をここで取りやめることにした。
「さあ、片付けるとしようか。こんな実験でモルモットを一匹殺したなんてことが動物愛護団体にでも知られたら、研究室に抗議が殺到するだろうな」
相変わらずぼやきながら、ガラスケースの中に手を入れて、モルモットを取り出そうとした瞬間──。
「痛っ!」
完全に硬直して死んでしまったと思っていたモルモットが、突然、井下の指に噛み付いてきた。
「な、な、何なんだよ、いったい……。とりあえずバンドエイドでも貼って、いや、その前に一応、消毒をしておいた方がいいか」
井下は消毒液を探すべく、座っていたイスから立ち上がった。そこで不意に頭がふら付いて、そのまま床に倒れこんでしまった。
自分の身体の中で何かが起きていると悟った。それも『良くない何かが』が起きていると──。
だが、井下の意思はすぐに別の事柄に取って代わってしまった。
なんだろう……急に、お腹が空いてきたぞ……。お腹が空いて空いて……堪らない……。どうしたんだろう? おかしいぞ……いや、おかしくないか……。ただ、お腹が空いているだけなんだから……。何かを食べれば……この飢えは満たされるかも……。そうだ……さっきのモルモットでも……喰ってやろうか……。モルモットは立派な喰い物だからな……。これだけお腹が空いているんだから……モルモットぐらい喰っても……動物愛護団体は文句を言ってこないさ……。ああ、もう喰うしかない……喰うしかない……喰いたい…………喰いたい…………喰いたい…………何でもいいから………………今すぐ口の中に入れて……………………………………………喰いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃたあいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ…………………………………………………………………………………………………………!
『井下であったもの』は床からがばっと立ち上がると、ガラスケースの中で不気味な呻き声をあげているモルモットを右手でむんずと掴んで、そのまま自らの口の中に放り込んだ。
そして、研究室には生々しい咀嚼音だけが響き渡る──。
終わり
「あれ? なんだろう? 久しぶりにこの名前を見たけど、何か急な連絡でもあるのかな?」
液晶画面にはよく知る人物の名前が表示されていた。少し前までは頻繁にやり取りをしていたが、先輩である馳蔵が亡くなってからは、連絡はほぼしなくなっていた。
馳蔵は研究に没頭してしまうと、時間が過ぎるのも忘れて、ひたすらに研究に明け暮れてしまうのだった。だから、馳蔵の婚約者は決まって井下のスマホに確認の連絡をしてくるのが常だったのだ。
もっとも、それも馳蔵が亡くなるまでだったが──。
「先輩の一周忌にはまだ早いし、なんだろうなあ?」
井下は手袋を着けたままの手で、スマホを手に取った。
「もしもし、井下ですが──」
「あっ、井下くん。久しぶりね。急に電話しちゃって悪かったわね。今、話せる時間はある?」
ハキハキとした口調で話す女性の声。久しぶりに聞く声だが、前と変わりはない。
「今は作った細胞の簡単なチェックをしているだけなので、話す時間ぐらいならありますよ」
「良かった。それじゃ、私がこれからする話をしっかりと聞いてくれる。とても重要な話だから、絶対に聞き逃さないでね。分かった? ねえ、分かった?」
何度も確認してくる電話の声。それだけ大切な話ということなのだろう。
「はい、分かりました。しっかり聞きますから、話して下さい」
とにかく、話を聞いてみないことには何とも言えないので、話の先を促すことにした。
「分かったわ。それじゃ、話すわね──」
そう言って電話の主──馳蔵の婚約者である白鳥河沙世理は、驚くべき内容の話をし始めた。
五分後──。
「──ということなの、理解してもらえたかしら?」
最後に沙世理は井下に確認してきた。
「は、は、はい……一応は、分かりました……。ただ、ぼくひとりでは判断出来ないので、研究室の室長に確認をとってみないことには、なんとも言えないのですが……」
すぐには答えることが出来そうにない話だったので、一度保留の態度を示してみた。
「お金と名声ばかり気にしている連中に話してもしょうがないわ。井下くん、これはあなたが決めることなのよ! 馳蔵の右腕として研究を支えていたあなたにも、責任の一端はあるんだからね!」
沙世理が語気を強めた。
「ええ、それはそうですが……」
「とにかく、何でもいいから理由をこじつけて、『ステップ細胞』と『スキップ細胞』に関するすべての資料を破棄して。──いい、分かったわね?」
「は、はい……やるだけやってみます……」
「それじゃ、井下くん、任せたわよ」
そこで電話は唐突に切れてしまった。聞きたいことが山ほどあったのだが、はじめからこちらの質問に答える気はなかったみたいだ。
「まいったな……」
思わずぼやきが漏れる。
沙世理とは馳蔵を通してたしかに顔見知りであったが、果たして、今沙世理が話したことをすべて真実として受け取っていいものだろうかと考え込んでしまった。
沙世理が言うには、『ステップ細胞』と『スキップ細胞』の存在は、やがて人類に大いなる災いを引き起こすというのだ。そうなる前にすべて破棄しないとならないとのことだった。
もしかしたら馳蔵を亡くしたことで心が傷付いて、あらぬ妄想でも引き起こしているのかも?
つい、そんな風に考えてしまわなくもなかった。
なんだか、とんでもない難問を持ち込まれたなあ……。
室長に相談したところで、きっと無視しろと言われるのは目に見えている。沙世理が言う通り、室長をはじめとした上司たちは皆、研究の中身よりも、その研究成果の結果、どれだけの利益が会社にもたらされるかしか興味がないのだ。
仕方がないな。ぼくが自分で解決するしかないか。まったく、これも先輩のせいですからね。
井下は研究室に飾ってある馳蔵と一緒に撮った写真に向かってグチをこぼした。
「えーと、沙世理さんの話では、『ステップ細胞』の効果を抑える薬と、『スキップ細胞』を混ぜるのが危険だということだったな。とりあえず、どんな現象が起きるのか試してみて、それが悪い結果ならば、室長に報告するということでいいかな」
井下はこれからの方針を固めると、さっそく実験に移った。
ケージの中からモルモットを一匹取ってくる。次に、保存してあった『スキップ細胞』をモルモットに注入する。さらに『ステップ細胞』の効果を抑える薬を水に溶かすと、それを注射器で吸い上げて、モルモットに注射した。
「これで準備はOKだ。あとは様子を見ることにしよう」
井下はモルモットを観察用のガラスケースに入れて、机の上に置いた。自分はイスに座り込む。
新天地に移ったモルモットは最初こそあたりの様子を伺うように俊敏に動き回っていたが、急に身体を止めると、その場で全身をぴくぴくと痙攣させ始めた。
「おい、なんだ、どうしたっていうんだ?」
ガラスケースにおでこがくっつかんばかりに顔を近付けて観察していた井下の視界の中で、モルモットは数十秒後にはうんともすんとも言わずに硬直してしまった。ピクリともしない。
「こういう結果が出たということは、沙世理さんの話は全部ウソだったということなのかな? やっぱり、馳蔵先輩を亡くした心の傷がまだ癒えていないのかもしれないな……」
井下はぶつぶつつぶやきながら、仕方なく観察をここで取りやめることにした。
「さあ、片付けるとしようか。こんな実験でモルモットを一匹殺したなんてことが動物愛護団体にでも知られたら、研究室に抗議が殺到するだろうな」
相変わらずぼやきながら、ガラスケースの中に手を入れて、モルモットを取り出そうとした瞬間──。
「痛っ!」
完全に硬直して死んでしまったと思っていたモルモットが、突然、井下の指に噛み付いてきた。
「な、な、何なんだよ、いったい……。とりあえずバンドエイドでも貼って、いや、その前に一応、消毒をしておいた方がいいか」
井下は消毒液を探すべく、座っていたイスから立ち上がった。そこで不意に頭がふら付いて、そのまま床に倒れこんでしまった。
自分の身体の中で何かが起きていると悟った。それも『良くない何かが』が起きていると──。
だが、井下の意思はすぐに別の事柄に取って代わってしまった。
なんだろう……急に、お腹が空いてきたぞ……。お腹が空いて空いて……堪らない……。どうしたんだろう? おかしいぞ……いや、おかしくないか……。ただ、お腹が空いているだけなんだから……。何かを食べれば……この飢えは満たされるかも……。そうだ……さっきのモルモットでも……喰ってやろうか……。モルモットは立派な喰い物だからな……。これだけお腹が空いているんだから……モルモットぐらい喰っても……動物愛護団体は文句を言ってこないさ……。ああ、もう喰うしかない……喰うしかない……喰いたい…………喰いたい…………喰いたい…………何でもいいから………………今すぐ口の中に入れて……………………………………………喰いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃたあいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ…………………………………………………………………………………………………………!
『井下であったもの』は床からがばっと立ち上がると、ガラスケースの中で不気味な呻き声をあげているモルモットを右手でむんずと掴んで、そのまま自らの口の中に放り込んだ。
そして、研究室には生々しい咀嚼音だけが響き渡る──。
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