20 / 26
Q3.謎解きの街の大事件
敵である前に
しおりを挟む「ちょっと、赤崎家のあなたたちがどうしてここにいるのよ。関係ないでしょう」
龍沢家の玄関前で鷹くんと合流して、大きな部屋にわたしたちが入った瞬間、青海さんにそう言われた。
使用人っぽい人とずっと話していたのに、すぐさま表情が変わる。
「俺が連れてきたんです。赤崎家の人が嫌なら、なんで俺は入れたんですか」
青海さんは鷹くんの言葉には答えず、わたしに視線を向ける。
「ねえあなた、昨日蒼衣を負かしたっていう子よね」
「はい、赤崎 すずめです」
精一杯声を上げたつもりだったけど、わたしの声は部屋に響かない。
「龍沢家当主の、龍沢 青海です。あなた、どうして来たの? あなたにとって我々龍沢家は敵でしょう」
「敵なのにどうして心配しているんだ、ってことですか?」
「そうね。少なくとも、朝から駆けつける理由はないんじゃないかしら。ましてや自分が勝った相手のために、なんて」
蒼衣ちゃんのお母さん――青海さんはじろりとわたしを見つめる。
「蒼衣ちゃんがいなくなったのは……わたしと勝負したから」
「いやいや、すずめはそんなこと言うなって」
「もしも、何かあったら……」
わたしは言葉が続かなくなる。
――鷹くんによると、蒼衣ちゃんはゆうべの17時頃に家を出ていったという。
「17時頃? なんか習い事でもしてるのか、蒼衣は?」
「そういうわけじゃないけど、たまにあるんだ。近所の公園に行って、1時間ぐらいぼんやりするって。だから、龍沢家の人たちも少ししたら帰ってくるだろってあまり気にしてなかったらしい」
で、そのまま行方不明になってしまった。
もしかしたら、蒼衣ちゃんが家を出ていったのは、青海さんに怒られたからかもしれない。
そうだったら、その原因を作ったわたしにも責任はある。
それに、赤崎家と龍沢家が敵同士だったとしても。
わたしと楽しい謎解き勝負をしてくれた蒼衣ちゃんを心配する気持ちは、わたしの中でごく自然に起こっていた。
ああ、そうだ。わたしは昨日、楽しかったんだ……
「とにかく、俺とすずめも、鷹と一緒に蒼衣探しを手伝います。少しでも人手は多い方がいいでしょう」
「だけど、あなたたち変なことはしないでしょうね?」
「奥様、ここは赤崎家の皆さんの言葉も一理あります。今は緊急事態です、素直に協力は受け入れたほうが」
「わかったわよ。その代わり、常に私の目の届くところにいなさい」
使用人っぽい人に言われ、青海さんは不満そうな顔をしながらもようやく、わたしたちが蒼衣ちゃんを探すことを認めてくれた。
「そうね。ではわたしもそこに甘えさせてもらおうかしら」
と、またも聞き覚えのある声。
「白井 虎子! なぜここに!」
「あ、俺がメッセージしたんです。蒼衣が行方不明だって」
顔を真っ赤にする青海さんに、隼くんがしれっと返事する。
「あなた、また勝手に龍沢家の門をくぐって! 全く、白井家の人間はしつけがなってないわね」
押し殺したような声から、逆に青海さんの怒りが感じられる。
わたしたちが入ってきたときよりも明らかに怒ってる。龍沢家と白井家の対立関係は、やっぱり深いんだ。
でも、だからこそ、どうして虎子ちゃんは、ここに?
「では、今日もわたしはすずめさんの付き添いということで」
虎子ちゃんはわたしの隣にそそくさとやってくる。
「ねえ、なんで来たの? 蒼衣ちゃんは敵、でしょ?」
「対立する家の次期当主である前に、蒼衣はわたしの同級生です。それに敵と言っても殺し合いをするわけじゃない」
「でも」
昨日、事あるごとに口げんかしていた2人を思い出す。
そして、龍沢家と白井家は海老川の街の東西の端同士にあって、歩くと結構時間がかかる、と鷹くん隼くんから教えてもらったのも思い出す。
いや。
昨日蒼衣ちゃんが青海さんに連れて行かれたとき、虎子ちゃんは同情すると言っていた。
ついでにわたしのことも、『敵だけどいなくなれとは思ってない』らしいし。
虎子ちゃんなりに、蒼衣ちゃんのことを気にかけてる……?
「そうだとしても、白井家が何か目的があって蒼衣をどうにかした可能性だってあるのよ!」
「そ、そこまで言わなくても」
こちらに歩み寄る青海さんと虎子ちゃんの間に隼くんが割って入ろうとする。
「あの、奥様、警察の方が」
新たな使用人っぽい人が来なかったら、そのまま本格的なけんかになりそうな勢いだった。
***
部屋に入ってきた警官の人に青海さんが話した内容は、鷹くんがわたしたちに話してくれたものとほぼ一緒。
蒼衣ちゃんはゆうべ家を出ていってから連絡が全くつかず、心当たりのある場所を全部探しても見つからない。スマホに電話しても繋がらない、メッセージの既読もつかない。
「言っておきますが、白井家には蒼衣は来ていません。怪しいと思うのなら家に電話してみてください」
「赤崎家にも来てないです」
「じゃあ他に、蒼衣ちゃんが行きそうな場所とか、友達の家とかは」
「全部探しました。でも、どこにも」
メモを取りながら、難しい顔で聞く警官の人。
対して、指をトントンと素早く動かす青海さん。心配してるというより、焦ってるような、イライラしてるような感じだ。
プルルル プルルル
「はい、龍沢です。えっ……えっ!?」
その時、部屋備え付けの電話を取ったのはさっきの使用人の人、なんだけど。
その人の受話器を持つ手は震え、呼吸は荒くなっている。
どう見ても普通の状況じゃない。
「奥様、大変なことになりました…………」
そしてその声とともに、電話のスピーカーボタンが押される。
「――お宅のお嬢さんは、こちらで預かっています。ご心配ならば、いくつかこちらの要求を飲んでいただきたい」
「蒼衣!? 蒼衣がそこにいるの!?」
青海さんが、文字通り受話器に飛びつく。
けど、両足は震え、ふらつきながらで、壁にもたれかかりながら、なんとか受話器を手に取る。
「はい。ご心配なく、怪我などはさせていません。でも、申し訳ないがタダでそちらにお返しすることはできません」
電話から聞こえてくるのは、低い男の声。だけど、そのままの人間の声じゃない。絶対に何かで声を変えている、そんな声。
「まず条件として、このことを他に連絡しないようにお願いします。と言っても、もう警察とかに通報してるんですかね。なら仕方ありませんが、今後一切、今お嬢さんを我々が預かっていることは言わないでもらいたい」
警察という言葉が出てきて、部屋の中の警官や、龍沢家の使用人たちがざわめく。
「大変なことになったわね」
虎子ちゃんの顔が厳しくなる。
鷹くんはもう顔から血の気が引いてるし、隼くんはどうしていいかわからないって感じでぐるぐる回りだした。
わたしも自分が今巻き込まれていることが信じられなくなり、なんとか息を整える。
――蒼衣ちゃんは、誘拐されたのだ。
10
あなたにおすすめの小説
村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
この町ってなんなんだ!
朝山みどり
児童書・童話
山本航平は両親が仕事で海外へ行ってしまったので、義父の実家に預けられた。山間の古風な町、時代劇のセットのような家は航平はワクワクさせたが、航平はこの町の違和感の原因を探そうと調べ始める。
アドミラル・アリス ー勇気を出して空を飛んだ、小さな小さな仔猫の物語ー
二式大型七面鳥
児童書・童話
お腹をすかせた、初めて冬を迎える仔猫のアリスは、とっても大きな鳥を見かけます。
あの鳥をつかまえられたなら、きっとお腹がすく事はもうないだろう、アリスはそう思って追いかけます……
たまに、こういうのが書きたくなります。
ガラにもないですが。
場所とかは、一応モデルはありますが、無国籍の体です。
「大きな鳥」のモデルは、タウベ、というWW I 初期のヤツを想定してます。
なので、まあ、時代的、世界観的にそんな感じの、でも戦争はない世界を想定してます。
あと、勿論アリスは猫なんですが、普通の猫でもいいですが、イメージ的に「綿の国星」的なビジュアルで脳内補完していただけると色々捗ります、筆者的に。
楽しんでいただければ、幸いです。
※カクヨムさんと重複投稿です。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる