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放浪編

105 放浪編24 決戦顛末

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 謎の専用艦の介入でプリンス艦はまんまと逃げおおせた。
亜空間側からロックしたはずの次元跳躍門ゲートを開けたハッキング能力、Gバレット装備、プリンス艦共々一瞬で消えた高速性能とパワー、どれをとっても一流の艦だった。

「まるで晶羅あきらの専用艦みたいだな」

 その神澤社長の一言が嫌な予感をもたらす。
専用艦が似ている、つまり艦の製造に使われたDNAが似ている。
ということは……。

「まさか、そんなことはないだろう……」

 僕は一瞬頭を過った可能性を即座に否定した。
それはそうであって欲しくないという願望から来たものだったのかもしれない。



『こちらステーションのミーニャミーナにゃ。
私達ステーション行政府スタッフは第6皇子アキラ殿下の下につくことを決めたにゃ。
第13皇子ケイン殿下プリンスは行方不明にゃ。
おそらく逃亡したものと思われるにゃ』

 ミーナから次元通信が入った。
久しぶりの可愛い訛りにほっこりする。
最近心がささくれ立っていたから癒しになる。 
逃げたプリンスは最大の拠点であるはずのステーションを放棄し行方不明だった。
僕はプリンスがステーションに戻り、地球人を人質に取りやしないかと心配していたのだが、あれからステーションにも戻っていないらしい。
ミーナは第13皇子ケインプリンスに嫁いだ猫族の主筋の令嬢だそうだ。
嫁をあんな小間使いのように扱って、第13皇子ケインプリンスの人となりがわかるというものだ。
当然、猫族から離縁の通知が帝都に出された。
他にも犬族の主筋の令嬢もいたので同様の措置をとったそうだ。

 ミーナはともかくステーション行政府のスタッフは、プリンスの臣下といえる立場だろうに、それを簡単に裏切ることが出来るのだろうか?
さすがに欺瞞情報の可能性も検討されたが、ミーナよりステーションの制御キーが僕に移譲されたため疑いが晴れた。
制御キーを渡すということは全面降伏と同じであり、ステーションの乗組員全員の生殺与奪権を与えられたに等しかった。
実際ステーションのシステムを弄って一方的に酸素供給を止めるなどして全員を殺すことも可能だった。
それを渡してまで罠だとは到底考えられなかった。
これにより僕はビギニ星系を掌握することになった。
つまり、地球への帰還のための超ハブ次元跳躍門ゲートを手に入れたということだった。


 第6皇子第13皇子ケインプリンスとの間であった戦いは帝国本国の知るところとなっていた。
帝国本国では、事後承認で皇子同士による決闘という扱いになった。
第13皇子が乱心して第6皇子を罠にかけ奴隷に落とそうとした。
それが明るみに出たからといって戦争を仕掛けて無かったことにしようとしただなんて発表出来るものではないからだ。
結果、決闘に敗れた第13皇子ケインプリンスは廃嫡、皇子の地位を失った。
そして第13皇子ケインプリンスの支配領全てが晶羅あきらに帰属することが公式に通達された。
その帰属処理の一環としてステーションの制御キーの譲渡を行うようにステーション行政府に命令があったのだそうだ。
そこで抵抗することも可能だが、ミーナがスタッフを僕の下につくように説得してくれたんという。
強いものが生き残る帝国の論理が適用されたともいえる。
帝国では皇子の決闘はお互いを高め合う手段と考えられ、正々堂々の決闘であれば奨励されているとか。
その思想がちょっと怖い。いつ誰が決闘を申し込んで潰しに来るかわからないということだし。
今後第13皇子ケインプリンスに近い勢力が敵に回る可能性が高く、ここで目立つのは僕は不本意だった。


 アノイ要塞に仕掛けて来た第13皇子ケインプリンスの残存艦隊は退路を断たれ降伏。
これは謎の専用艦が次元跳躍門ゲートの支配権を一時的にしか維持出来なかったため、第13皇子ケインプリンス救出後直ぐに次元跳躍門ゲートが閉じられたからだ。
僕はアノイ3軍の司令をアドバイザーとして今後の戦力割り振りや領土運営を話し合っていた。
無人艦役25000艦は制御権を書き換えられ、アノイ3軍各軍に約7000艦ずつと地球艦隊に約4000艦が配備された。
これによりアノイ3軍は10000艦×3という編成になった。
残りは有人艦250艦で、支配地域の騎士として第13皇子ケインプリンスに従わざるを得なかった者と、第13皇子ケインプリンスに心から従う譜代の臣下、利害関係で繋がった貴族とその配下に分かれていた。
有人艦の下についていた無人艦の数が多いのは、どうやらどこぞから支援を受けたということのようだ。
さすがにその関係者に繋がる人物にはいなかった。

 この有人艦の捕虜をどうするかという問題に僕は頭を抱えていた。

「僕は人を処断するのには向いてないな……」

 僕には何も出来なかった。
第13皇子ケインプリンスは討たなければ自分が殺られるという危機感で殺す気で撃てた。
だが、しがらみや打算で繋がった人達を、しかも降伏した人達をどうにかする判断は、15歳の僕には荷が重く出来なかった。

「支配地域の騎士は、支配者が変われば新しい支配者に従うだけです。
彼らはその土地に根差した騎士だからです。
上が失敗したからいちいち付き合って処分されるなんて彼らが困るだけです。
新しい支配者が来たら新しい支配者につく、それが処世術でもあるのです」

 第13皇子ケインプリンスの元配下であったグラウル領軍司令ハンターが、当事者でしか解らない気持ちを代弁する。
そこには支配地域の騎士は助けるようにという助言が暗に含まれていた。

「そうだね。彼らにはそうする以外に選択肢が無かった。
だから今は僕に従うという選択をしてもらおう」

「それがよろしいかと」

 カプリース領軍司令ノアも小領地混成軍司令ジョンもその判断に頷く。

「厄介なのは、それ以外です。
ギルバート伯爵のように逆恨みで厄介事を持ち込む可能性が高いです」

「利権に群がる協力者なら、利権さえ約束すればどうにかなりそうだけど、そんな協力者は僕を簡単に裏切るよね」

「はい」

 皆、忠誠を誓わせるのは無理っぽいな。
僕の立場が悪くなったら簡単に裏切るだろう。

「今回の戦いは皇子同士の決闘扱いなんでしょ?
彼らはその助太刀をしたとなると法的立場はどうなるんだろ」

「それは勝った皇子の一存でどうとでもなる立場ですな」

「うーん。この場合の処し方なんて僕には全くわからないぞ」

 処刑をしても良いし、助けても良い。
裏切りを恐れるなら処刑。更正を信じるなら助ける。
人となりも知らない人の言葉の真偽を、どうやって判断すれば良いというのだろう。
それなら、初めから裏切る前提で囲えばいいか。
裏切らなければ報復は発動しない。そういったいわば保険をかけておけばいい。

「彼らの専用艦を僕の支配下に入れ外部からコントロール出来るようにする。
裏切ったら専用艦ごと自爆。それで今は命を助ける」

「それは良いアイデアですが、問題は直接生身で晶羅あきら様を害する可能性です」

 たしかに。僕は格闘技も護身術も経験がない。
殺人技を持った騎士にかかればひとたまりもないだろう。

「身辺警護はラーテルが行おう。
裏切るような人材を御してみせるのも皇子の甲斐性ですぞ」

 ラーテルの白兵戦戦闘力って、想像しただけでも恐ろしいぞ。
とりあえず面接で危険性の低い人から解放して後は檻の中でもしょうがないかな。
ラーテルに任せれば捕虜も嘘はつかないだろ。

「後は僕の支配下に入った領地の運営か……。
前途多難だとしか思えない!」

「そこは領地を治める貴族か代官を呼び出せば良いのです。
第13皇子ケインプリンスに臣従しているなら解任。
従うなら猶予期間を設けて任せてみれば良いのです」

「おそらく従う気がない奴は呼び出しに応じない。
それは謀反と同義だ。また戦争だな」

 ハンターは武将というより内政に向いているようだ。
的確なアドバイスをしてくれる。
だが、ジョンはどこまでもラーテルだった。

野良宇宙艦の巣人工惑星型工場母艦は僕の個人戦力とする。
そしていつまでも野良は可哀想なので、呼び名を工場惑星とする。
所属艦は教育服従後各領軍に順次分配していくつもりだ」

「野良宇宙艦は無人艦よりも自立性が高い。
そこを活かせるような運用が必要だろう」

「僕もそう思っている。彼らは人格とアバターを持っているから、一つの生命体として扱う必要があるだろう」

「それなら、むしろ領軍に配備せずに独立した軍とされるのが良かろう」

「それもそうだな。その軍を随時各領軍に派遣すれば同じことになるね」

 ハンターの言葉に僕も頷いた。
あとは、工場惑星の生産力で戦力を増強し続ける必要がある。
そのための鉱物資源材料を工場惑星に与えなければならない。
それを新たな領地から持って来れるようにしよう。

 この世界では、DNAに記述された断片により艦を強化することが出来る。
いや、DNAに断片が隠されていると言った方がいいのかもしれない。
その秘密コードの質と量が皇帝の因子と呼ばれているのかと僕は推測している。
それを工場惑星に与えることで、工場惑星の生産物の質が上がるのだという。
工場惑星からのその申し出に僕は自らのDNAを提供した。
僕のDNAを得て工場惑星が「子を沢山産むからね♡」と言い出したのが心配だが……。
工場惑星がなぜデレたのかが謎だ。

 他に悩ましいのは地球の扱いだ。
アノイ要塞にいる地球人で帰りたい人は帰してあげたい。
ステーションにいて戦いたい人はリクルートしよう。
そして今後のステーションいやSFOはどう扱うべきなのだろう。
ビギニ星系の超ハブ次元跳躍門ゲートを閉じてロックするというのも選択肢の一つだ。
それにより地球人が危険に晒されることは無くなるだろう。
そして、誘拐された地球人の詳細を調べなければならない。
出来るなら奪還しないとならない。
そこにはどうやら姉華蓮かれんが含まれていると思われる。

「ああ、やることが多すぎる!」

 だが、これも僕の第6皇子としての責任だ。投げ出すわけにはいかない。
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