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自由浮遊惑星編
187 自由浮遊惑星編8 欺瞞
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side:帝都外縁 自由浮遊惑星近郊宙域 専用艦CIC アキラ視点
さて、ニビル側に知られること無くカイルに話を通す方法は無いものか。
どうやらニビル側はオープン回線で駄々洩れになっている現帝国の通信を傍受出来ていないようだ。
僕の予測としては、あまりに高度な通信プロトコルを持っているがために、単純なオープン回線で平文という方法に対応出来ないという本末転倒なのかと思っている。
現代地球的に言うとデジタル化圧縮通信の機械にアナログ音声信号を受信させるようなイメージだろうか?
これはニビルの民は、高度な技術はそのまま受け継がれて持っているが、世代を重ねたことで必要とされない基本的な技術は失ったということになるのかな。
おそらくオープン回線で垂れ流してしまっても、僕がニビルに嘘を付いていることはバレないだろう。
しかし、万が一ニビル側が知らないふりをしているだけで、こちらの出方を探っているのだとしたら拙い。
ここは大事をとって秘匿回線を使うべきだろう。
となると内緒話なら電脳空間の極秘会議室が妥当かな。
あれなら例え皇帝であっても内部の会話は秘匿される。
『カイル、極秘会議室で待つ』
僕は帝国に欺瞞報告をする覚悟を決めカイルを呼び出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
side:電脳空間極秘会議室 アキラ視点
電脳空間の会議室で待っていると、現在暫定的に皇帝代理の任に就いているカイルのアバターがやって来た。
現時点で帝国側の最高意思決定権を持っているのはカイルだ。
国を揺るがす一大事となれば、療養中の皇帝にまで判断を仰がなければならないところだが、そうならないように話を持って行ってしまえばこっちのものだ。
カイルを騙すことになるのは心苦しいけど、その結果として現帝国も真・帝国も被害が最小限に抑えられるなら、これは救うための嘘だ。
嘘には二種類あると中学時代の恩師に教えてもらった。
嘘には人を騙す嘘と人を救う嘘がある。嘘によって誰も傷つかず人の助けになるなら嘘をつくのは悪いことではないという話だった。
カイルごめん。これは人を救うための嘘なんだ。許して欲しい。
「カイル。彼らの正体がわかった」
「本当か! いやいったいどうやって?」
カイルは自由浮遊惑星の正体も気になっているようだが、彼らへの接触手段にも興味を示した。
「ああ、彼らはニ……迷い人だ。星の間を旅してたまたまこの星系に立ち寄っただけだ。
接触手段は、僕の専用艦にしか無い旗艦設備がたまたま使えたというだけだ。
おそらく今現在、彼らとコンタクト出来るのは僕の専用艦だけだろう。
彼らはこの方法以外で接触する気はないようだが、こちらの通信は傍受してるようだ。
その上で無視してるみたいなんだが、あまりこちらの手の内も見せない方が良いと思う。
今は友好的だけど、何を切っ掛けに敵対するかわからない」
迂闊だった。僕は危うくニビルと言いそうになってその名前を飲み込んだ。
もしニビルという名前が帝国のデータバンクに残っていたら、真・帝国つまり敵対勢力であると認識されてしまったかもしれないのだ。
「そうか。ならこちらの通信はネットの秘匿回線のみにするべきだな。
そして彼らとの折衝はアキラに一任しよう。
それで彼らの要求は? 補給か?」
さすがカイル。頭の回転が早い。
直ぐにも補給が必要なことを少ない材料から推測している。
星の海を長く旅をしてわざわざ星系に立ち寄るとなると補給が目的と考えるのが妥当だからね。
「そうだ。だが彼らはトラブルをかかえていて、このままだと今日中に1億人分の食糧が必要になる」
「1億人だと! そんなに切羽詰まっているのか」
カイルは自由浮遊惑星の民が飢えに苦しんでいて緊急で補給に寄ったと思ったようだ。
そしてカイルの頭の中には直ぐに用意出来る物資の量が浮かんでいるのだろう。
帝国中から持ってくればどうにかなるとしても、いきなり1億人分を融通しては帝都の民の生活にも影響する。
そのため慌ててしまったのだろう。
「いや、目的地についたため、彼らのコールドスリープが自動で解けてしまうんだよ。
このままでは毎日1億人増え、10日後には10億人分必要になる。
彼らも必死だ。滅びるぐらいなら……わかるよね?」
「つまりコールドスリープが解けるのを阻止すれば危機を乗り越えられるのか?」
カイルが対策を悟り多少落ち着く。
さすがカイル。話が早くて有難い。
「そうなんだ。だが彼らにはコールドスリープの解凍を止めることが出来ないらしい。
僕が彼らの施設に乗り込んで阻止しようと思う。許可して欲しい」
「わかった。迷い人の対応はアキラに一任する。その間こちらはなるべく食糧を集めるとしよう」
「任された。最終的には彼らは僕の主星系に連れて行く。
そこになら充分な物資が手付かずである。
彼らもいつまでも眠ったままは嫌だろうしね」
これでニビル側も現帝国側もお互いの正体を知らぬまますれ違うことが出来るだろう。
さて一先ずコールドスリープの解凍を止めなければ。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
side:帝都外縁 自由浮遊惑星近郊宙域 専用艦CIC アキラ視点
『お待たせしました。遷都先の帝都での補給の算段が付きました。
コールドスリープの解凍を止めて、そちらに向かうことをお願いします。
こちら側の古の契約の専門家も遷都先の帝都に招集しました。
では、コールドスリープの解凍を止めましょう』
『ご案内します。ニビル表面の宇宙港より進入してください。
しかし困りました。我々星の守り人はニビルのコースを変更出来ないのです』
『え?』
『我らはただの管理人で、コースを変更するには星を導く者を起こす必要があります。
彼は1200年前のオリジナルなので、よっぽどのことが無い限り起こしてはならない決まりになっているのです』
オリジナルの旧帝国人だって?
拙い。彼が起きたらいろいろバレてしまう可能性が高い。
だが起こさなければニビルを僕の主星系に向けられない。
どうする? どうする?
まあ、とりあえず解凍阻止だ。このままでは無駄に死人が出る。
『それは後で考えましょう。
少なくとも10億人の民を餓死させないためにコールドスリープの解凍を阻止します』
そもそもこれが出来なければ大惨事なんだよね。
しかし訪問先が無事とも限らないのに、なんで自動解凍なんて設定してるんだよ。
よっぽど旧帝国の繁栄を疑ってなかったのかな?
ああ、今の星の守り人達に自動解凍阻止の技術が失伝してるのか。
本来なら止めなければいけないのに、それが出来なくなるぐらい代を重ねてしまったのか。
となるとコールドスリープに入っている人々はいったい何年前から眠っているんだろうか?
まともな整備もされてないっぽいし、それってもう……。
嫌な予感しかしない。
さて、ニビル側に知られること無くカイルに話を通す方法は無いものか。
どうやらニビル側はオープン回線で駄々洩れになっている現帝国の通信を傍受出来ていないようだ。
僕の予測としては、あまりに高度な通信プロトコルを持っているがために、単純なオープン回線で平文という方法に対応出来ないという本末転倒なのかと思っている。
現代地球的に言うとデジタル化圧縮通信の機械にアナログ音声信号を受信させるようなイメージだろうか?
これはニビルの民は、高度な技術はそのまま受け継がれて持っているが、世代を重ねたことで必要とされない基本的な技術は失ったということになるのかな。
おそらくオープン回線で垂れ流してしまっても、僕がニビルに嘘を付いていることはバレないだろう。
しかし、万が一ニビル側が知らないふりをしているだけで、こちらの出方を探っているのだとしたら拙い。
ここは大事をとって秘匿回線を使うべきだろう。
となると内緒話なら電脳空間の極秘会議室が妥当かな。
あれなら例え皇帝であっても内部の会話は秘匿される。
『カイル、極秘会議室で待つ』
僕は帝国に欺瞞報告をする覚悟を決めカイルを呼び出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
side:電脳空間極秘会議室 アキラ視点
電脳空間の会議室で待っていると、現在暫定的に皇帝代理の任に就いているカイルのアバターがやって来た。
現時点で帝国側の最高意思決定権を持っているのはカイルだ。
国を揺るがす一大事となれば、療養中の皇帝にまで判断を仰がなければならないところだが、そうならないように話を持って行ってしまえばこっちのものだ。
カイルを騙すことになるのは心苦しいけど、その結果として現帝国も真・帝国も被害が最小限に抑えられるなら、これは救うための嘘だ。
嘘には二種類あると中学時代の恩師に教えてもらった。
嘘には人を騙す嘘と人を救う嘘がある。嘘によって誰も傷つかず人の助けになるなら嘘をつくのは悪いことではないという話だった。
カイルごめん。これは人を救うための嘘なんだ。許して欲しい。
「カイル。彼らの正体がわかった」
「本当か! いやいったいどうやって?」
カイルは自由浮遊惑星の正体も気になっているようだが、彼らへの接触手段にも興味を示した。
「ああ、彼らはニ……迷い人だ。星の間を旅してたまたまこの星系に立ち寄っただけだ。
接触手段は、僕の専用艦にしか無い旗艦設備がたまたま使えたというだけだ。
おそらく今現在、彼らとコンタクト出来るのは僕の専用艦だけだろう。
彼らはこの方法以外で接触する気はないようだが、こちらの通信は傍受してるようだ。
その上で無視してるみたいなんだが、あまりこちらの手の内も見せない方が良いと思う。
今は友好的だけど、何を切っ掛けに敵対するかわからない」
迂闊だった。僕は危うくニビルと言いそうになってその名前を飲み込んだ。
もしニビルという名前が帝国のデータバンクに残っていたら、真・帝国つまり敵対勢力であると認識されてしまったかもしれないのだ。
「そうか。ならこちらの通信はネットの秘匿回線のみにするべきだな。
そして彼らとの折衝はアキラに一任しよう。
それで彼らの要求は? 補給か?」
さすがカイル。頭の回転が早い。
直ぐにも補給が必要なことを少ない材料から推測している。
星の海を長く旅をしてわざわざ星系に立ち寄るとなると補給が目的と考えるのが妥当だからね。
「そうだ。だが彼らはトラブルをかかえていて、このままだと今日中に1億人分の食糧が必要になる」
「1億人だと! そんなに切羽詰まっているのか」
カイルは自由浮遊惑星の民が飢えに苦しんでいて緊急で補給に寄ったと思ったようだ。
そしてカイルの頭の中には直ぐに用意出来る物資の量が浮かんでいるのだろう。
帝国中から持ってくればどうにかなるとしても、いきなり1億人分を融通しては帝都の民の生活にも影響する。
そのため慌ててしまったのだろう。
「いや、目的地についたため、彼らのコールドスリープが自動で解けてしまうんだよ。
このままでは毎日1億人増え、10日後には10億人分必要になる。
彼らも必死だ。滅びるぐらいなら……わかるよね?」
「つまりコールドスリープが解けるのを阻止すれば危機を乗り越えられるのか?」
カイルが対策を悟り多少落ち着く。
さすがカイル。話が早くて有難い。
「そうなんだ。だが彼らにはコールドスリープの解凍を止めることが出来ないらしい。
僕が彼らの施設に乗り込んで阻止しようと思う。許可して欲しい」
「わかった。迷い人の対応はアキラに一任する。その間こちらはなるべく食糧を集めるとしよう」
「任された。最終的には彼らは僕の主星系に連れて行く。
そこになら充分な物資が手付かずである。
彼らもいつまでも眠ったままは嫌だろうしね」
これでニビル側も現帝国側もお互いの正体を知らぬまますれ違うことが出来るだろう。
さて一先ずコールドスリープの解凍を止めなければ。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
side:帝都外縁 自由浮遊惑星近郊宙域 専用艦CIC アキラ視点
『お待たせしました。遷都先の帝都での補給の算段が付きました。
コールドスリープの解凍を止めて、そちらに向かうことをお願いします。
こちら側の古の契約の専門家も遷都先の帝都に招集しました。
では、コールドスリープの解凍を止めましょう』
『ご案内します。ニビル表面の宇宙港より進入してください。
しかし困りました。我々星の守り人はニビルのコースを変更出来ないのです』
『え?』
『我らはただの管理人で、コースを変更するには星を導く者を起こす必要があります。
彼は1200年前のオリジナルなので、よっぽどのことが無い限り起こしてはならない決まりになっているのです』
オリジナルの旧帝国人だって?
拙い。彼が起きたらいろいろバレてしまう可能性が高い。
だが起こさなければニビルを僕の主星系に向けられない。
どうする? どうする?
まあ、とりあえず解凍阻止だ。このままでは無駄に死人が出る。
『それは後で考えましょう。
少なくとも10億人の民を餓死させないためにコールドスリープの解凍を阻止します』
そもそもこれが出来なければ大惨事なんだよね。
しかし訪問先が無事とも限らないのに、なんで自動解凍なんて設定してるんだよ。
よっぽど旧帝国の繁栄を疑ってなかったのかな?
ああ、今の星の守り人達に自動解凍阻止の技術が失伝してるのか。
本来なら止めなければいけないのに、それが出来なくなるぐらい代を重ねてしまったのか。
となるとコールドスリープに入っている人々はいったい何年前から眠っているんだろうか?
まともな整備もされてないっぽいし、それってもう……。
嫌な予感しかしない。
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