父親が呪われているので家出してガチャ屋をすることにしました

北京犬(英)

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家出編

032 カナタ、冒険者ランクが上がる

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 奴隷商を後にすると、その目の前の大通りの先に冒険者ギルドがあった。
レグザスが冒険者ギルドの前に荷馬車を停めると、ギルド職員の男性が慌てて飛び出して来た。
先に街へとやって来たサーナリアとカリストの栄光の3人が、盗賊のことを報告済みだったのだ。
サーナリアの生家であるウッドランド子爵家は、グラスヒルを含むウッドランド領の領主だった。
その領主令嬢が、冒険者登録をしている盗賊に襲われたのだから、冒険者ギルドも大慌てだった。

「ご無事で何よりです。さあ、こちらへ」

 ギルド職員はレグザスを認めると、カナタたち一行をそのままギルドの応接室に案内した。
ギルド内にたまたま居た冒険者たちは、ギルド職員の慌てた様子と連れられているのがレグザスに子供と美少女だということで何かあったと理解した。

「しばらくお待ちください。今ギルドマスターを呼んで来ます」

 カナタたち一行を応接室に案内したギルド職員は、慌てた様子のままギルドマスターを呼びに退出した。
レグザスとカナタがソファーに座ると奴隷のルルとララがカナタを左右に挟むようにソファー座った。
そのソファーは3人掛けだが、カナタが小さいので4人座れなくもないサイズだった。
その際に、レグザスとカナタの間にララが割り込むように体を入れて来たので、レグザスは顔を顰めていた。
空いているソファーが対面にある1人掛け2つしか残っていないから仕方がないことではある。
ルルとララはカナタにべったりくっついていた。
ニクはカナタの後ろを護るようにソファーの背越しに立った。
そうこうすると、ドアがノックされギルドの美人職員が紅茶と茶菓子を持って来た。
カナタたちの様子に美人職員は戸惑ったが、そのまま気にせず紅茶はテーブルに置かれた。

「どうぞ」

「ああ、すまんな」

 レグザスは慣れた態度で紅茶を啜った。
カナタは先日の衛兵詰め所での取り調べを思い出して緊張した。
美人職員が退室してから、そんなに間を置かずにドアがノックされ、1人の壮年の男が入室して来た。

「足止めして申し訳ない。
俺はグラスヒル冒険者ギルドのギルドマスターをしているライナーだ。
盗賊団に襲われた件はサーナリア嬢から伺っている」

 ギルドマスターのライナーとレグザスは顔見知りだったが、ライナーはカナタのために自己紹介をした。
サーナリアから、カナタたちの実力――といっても実力を見せたのはニクだが――とカナタが貴族の子息であることを聞いていたので、失礼がないようにと対応したのだ。

「ライナー、その盗賊団だが、この街とグリーンバレーに斥候を置いていて襲っていたようだぞ」

「なんと! してその正体は把握したのか?」

 ライナーはカリストの栄光メンバーから盗賊襲撃に関するある程度の報告を受けていたが、レグザスが尋問して聞き出した情報まではメンバーは知らず、ギルドには伝わっていなかった。

「ああ、盗賊を拷問して吐かせたから後で伝えるよ。
それにしても、盗賊のやつらはここの冒険者ギルドの登録冒険者だったぞ。
どうなってるんだ?」

 この世界、不良冒険者が犯罪に加担することは多々あったが、領主の令嬢がそれと知って襲われるのは滅多にあることではなかった。
カリストの栄光も実力で名の知れたBランクパーティーだ。
そのカリストの栄光が護衛に付いていてあえて襲われるなど由々しき事態だった。

「それは申し訳ない。
ガイル(カリストの栄光のメンバー)から盗賊どもの冒険者ギルドカードを受け取った。
紛れもない我がギルドの登録者だった。
レグザスならわかるだろうが、強盗野盗などの盗賊を兼業している冒険者が少なからず存在する。
それを見分ける仕組みも制度も無いのが現状だ。
我らもなんとかしたいのだが、ギルドカードが街へのフリーパスとなるので盗賊に悪用されているのだろう。
本来ならギルド登録時に排除出来ればいいのだが、冒険者ギルドは所謂救済装置だ。
冒険者になりたいという者を目だった理由もなく排除することはなかなか出来ない。
今は不良冒険者を発見次第除名するしかないのだ」

 ライナーも不良冒険者には苦慮しているようだ。
この世界では、冒険者の犯罪歴が自動でギルドカードに記入されるなどという便利機能は残念ながら無かった。
王都では鑑定の魔導具により犯罪歴を調べられるようだが、このような田舎のギルドではそんな魔導具は設置出来るわけもなかった。
それ故に盗賊に付け込まれるわけだが、それはまた別の問題だった。

「まあ今回は、グリーンバレーの斥候からサーナリア嬢の情報が漏れたようだが……。
俺らが見知った冒険者もいて驚いたぞ」

 カリストの栄光はBランクの有力パーティーだ。
それと知って襲うというのは、よっぽど腕に自信があったのか、人数で押せばなんとかなると思ったのか、そのリスクを考えるとただの盗賊被害とも思えなかった。

「それだよレグザス、盗賊を20人も相手にして良く無事だったな」

「そこは、このカナタ様と護衛の者に助けられてな。
凄かったぞ、魔法で一瞬のうちに20人全員の右腕が消し飛んだ。
俺たちはのた打ち回る盗賊に止めを刺すだけだったよ」

 ここでやっとライナーはカナタたちと目を合わすのだった。
ライナーはサーナリア嬢から、カナタが貴族の子息だと聞いていた。
ファーランド伯爵家といえば、当主は勇者パーティーのメンバーとして魔王討伐に参加した英雄だ。
その子息であるカナタの護衛ならば、相当な実力者であっても不思議ではないと判断した。
しかし、気になるのはカナタにべったりくっついている美女奴隷2人。

「カナタ様、その奴隷は……」

「彼女たちは、盗賊のアジトを殲滅した時に助けた奴隷なんだ。
売るのも解放するのも可哀想なので、僕が保護することにした」

 ライナーは7歳児にしか見えないカナタがしっかりと話すことと、何故こんなところに居るのか疑問に思いつつも、盗賊のアジト殲滅という言葉に引っかかり、それについて尋ねることにした。

「そうですか……。
ところで、盗賊のアジトを殲滅なさったのですか?」

「うん。レグザスとニクとで殲滅したよ」

「ニク?」

 ライナーは戸惑った。
ニクと呼ばれたのが、カナタの後ろに立つ護衛のことだと気付いたからだ。
カナタにべったりとくっつく美女奴隷2人、そして護衛と思われる肉奴隷。
ここにもう1人、カナタを変態さんと認識する存在が生まれた。
ライナーはお前いくつなんだよというジト目を向けてしまった。

「ああ、ニクって悪い意味があったんだってね。
知らなくて付けちゃっただけだから気にしないで。
それと僕はこう見えても11歳だからね?」

 カナタが外観にコンプレックスを持っているだろうことは容易に想像ができた。
ライナーは態度に出てしまったかと慌てて取り繕った。

「な、なるほど、そうでしたか。
盗賊のアジトを殲滅したとなると、その盗賊団の正体も判明したわけですな」

「ああ、そうだ。
盗賊団の頭目は肉塊のダリルだったぞ。
つまりこの盗賊はダリル盗賊団だということだ」

 慌てるライナーの質問にレグザスが言い忘れていたという調子で答えた。

「え、あの賞金首の?
なんでダリル盗賊団がこんな田舎に?」

 ダリル盗賊団は、王都周辺も荒らしまわった有名盗賊団だ。
その犯歴の数々で王都周辺を恐怖で震え上がらせた存在だった。
その盗賊団がわざわざ田舎に来て偽名で冒険者登録をして潜伏していたなどライナーは想像もしていなかった。

「そこはサーナリア様誘拐絡みかもしれん。
すまないな、まさかそんな大物が出るとは思っていなかったので、盗賊は皆殺しにしてしまった」

「それは仕方ない。
それより肉塊のダリルだという証拠はあるんですよね?」

 背後関係がありそうなのに、盗賊を皆殺しにしてしまったことにレグザスは後悔していた。
まさに後悔先に立たずという良い例なのだが……。
せっかくニクが生きて捉えたのに、殺す決断をしてしまったのはレグザスだった。
そして、肉塊のダリルはあの死ぬか生きるかの状況で生かすという選択肢は無かった。
ライナーの質問にはレグザスではなくカナタが答えた。

「僕には【ロッカー】のスキルがあるから死体はそのまま持って来たよ」

 カナタはレグザスから報奨金が出ると聞いて、アジトに残っていた盗賊の死体はそのまま【ロッカー】に入れて持って来ていた。
【ロッカー】のスキルもレベルが3になったおかげで容量も増えて時間停止の機能もついた。
この世界の者達は【ロッカー】をハズレスキルだと思っているので、ここまでレベルを上げた者が稀だった。
【ロッカー】は、異次元収納庫の一種でありレベルが上がれば【時空間庫アイテムボックス】となんら変わらないことに誰もが気付いていなかった。

 カナタが【ロッカー】のスキルを持っていることを自慢げに話すことに、ライナーは憐みの目を向けてしまった。
しかし、その機能の優秀さに目を見張ることになった。
そこには死んで間もない状態を維持した肉塊のダリルの頭が飛び出ていた。
カナタが【ロッカー】から引っ張り出したのだ。

「え? まさか【ロッカー】なのに時間停止機能があるのですか?」

「容量があるなと思っていたが、おいおい、マジかよ!」

 ライナーもレグザスも驚いていた。

「うん。僕の【ロッカー】はレベル3だからね。
アイテム個々を任意で時間停止に出来るよ?」

「とりあえず、ここには出さないで下さい。
そうですね。地下の死体安置所でお願いします」

 ライナーは思わずカナタに敬語で話すほど狼狽えてしまった。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 地下の死体安置所に移動すると、カナタは死体を置くための台に10体の死体を次々と出していった。
そこにはレグザスが切り倒した盗賊3体と、ニクが魔法荷電粒子砲で倒した胸に穴の開いた盗賊が7体あった。
1人は当然、肉塊のダリルだ。

「手配書通りの横幅に、顔の傷。間違いなく肉塊のダリルだ。
それに、向こうは副頭目のデニス。あっちはAランク冒険者崩れの双剣のダンだな……」

 そこにはダリル盗賊団の幹部が何人もいた。
総勢34人は盗賊団としては少ない方だが、その個々の戦闘力はとんでもないレベルだった。
あの簡単に殲滅された20人も調べれば名のある盗賊だったのかもしれない。
もし、カナタたちが助けに入らなかったら、レグザスたちカリストの栄光は全滅しサーナリア嬢は誘拐されていたのかもしれなかった。

「俺が斬ったのは、まだ弱い方だったんだな……」

 たった3人(うち1人のカナタは戦力にならない)で殲滅しに行こうなんて無謀だったのだと、レグザスは今になって気付いた。
それが簡単に思えてしまったニクの魔法荷電粒子砲の威力に、レグザスは恐怖を覚えた。

「ダリル盗賊団討伐には褒賞金が出る。
肉塊のダリルもデニスもダンも個人で賞金首だ。
20人の盗賊はギルドカードだけだが、後で埋めた場所を掘り返して個人特定させよう。
もしダリル盗賊団を壊滅したのなら、とんでもない金額になるぞ!」

 ライナーはギルド職員を呼ぶとテキパキと指示を与えた。
レグザスも盗賊の斥候の名前を伝えて捕縛を要請している。

「すまんな。
報奨金の算定には時間がかかる。まあ、間違いなく大金が出るぞ。
しばらくこの街に滞在してもらうことになるが良いな?」

「俺はお嬢の命令に従わなければならないが、お嬢も暫くこの街に滞在するだろうから問題ない」

「僕らも暫く滞在して、もしお金が足りれば家を借りて商売を始めるつもりです」

 ライナーは商売という単語に引っかかったが、暫くこの街に滞在すると確約が取れたのでスルーすることにした。
レグザスはサーナリア次第だが、まあ大丈夫だろう。
カナタは報奨金でお店が借りられたらいいなと漠然と思うだけだった。

「ああ、それとレグザスは冒険者ランクがAに昇格だ。
カナタ様とニクさんは、今何ランクですか?」

 カナタとニクが最低ランクのGランクのギルドカードを見せると、ライナーは顔を引きつらせていた。

「Gですか……。
異例ですがギルドマスター権限でDランクに昇格させましょう」

 カナタとニクは冒険者になって8日目で、あの迷惑害虫Gとも揶揄される底辺冒険者から脱した。
3ランク昇格はギルドマスター権限で出来る最大の昇格幅であり異例中の異例だった。


「それじゃあ、俺たちはウッドランド子爵家別邸に向かおうか」

 新しくなったAランクのギルドカードを手に入れてホクホク顔のレグザスがカナタたちに向かって宣言する。

「え?」

「いや、お嬢からもお礼が出るぞ。カナタも俺に同行してくれ」

 確かに、貴族令嬢が助けられてお礼もしなければ貴族として恥となってしまう。
ここは大人しく同行するべきだと、カナタの少ない常識が囁いていた。

「わかった。行くよ」

 カナタのガチャ屋開業はまた遅れることになった。
カナタは呪いが弱まったので早くガチャを引きたかったのだが、散々事件に巻き込まれて手が回っていなかった。
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