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ガチャ屋開業編
057 カナタ、うっかりする
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お知らせ
56話でウッドランド子爵の一人称を「俺」と書いていましたが「私」の間違いでした。
訂正しました。内容的には読み返す必要は全くありません。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「婚約なんて、父様に伺ってみないと判断できません」
ウッドランド子爵の提案にカナタは大慌てした。
貴族家同士の子息による婚姻は、家と家の縁を結ぶという政治的なことでもあり、カナタの一存では決められない事だったからだ。
「うむ。そこは私からファーランド伯爵に連絡を入れるつもりだ」
「あ、その手があったか……」
そこでカナタは気付いた。自分が無事な事を手紙で実家に連絡すれば良かったと。
カナタの常識では、連絡手段といえば貴族家が早馬で手紙を送るというものか、冒険者ギルドで依頼して商人や冒険者が手紙を運ぶかぐらいだった。
冒険者ギルドに依頼する場合、確実性という面で不安があった。
都市間の手紙のやり取りは商人か冒険者が運ぶしかなく、元々ついでの仕事であって必ず届く保証がなかった。
一方早馬は貴族家のみの管轄であり、他人は利用することが不可能だった。
つまり、ウッドランド子爵に頼めば、ほぼ確実に実家と連絡が出来たかもしれなかったが、カナタは手紙を送るということすら頭に浮かんでいなかったのだ。
カナタはなんとか家に帰ろうとお金を稼ぐことに必死になり、そのうち家出状態でも良いかと思ってしまっていた。
「カナタさま、わたくしでは嫌なのですか?」
サーナリアが目をウルウルさせてカナタに懇願する。
その目を見てしまうと、もうカナタは駄目だった。
他人に迷惑をかけられないというカナタのスイッチが入ってしまうのだ。
「わかりました。父様が認めるなら、この婚約お受けします」
こうしてカナタは仮にでも婚約に同意してしまうのだった。
ウッドランド子爵もサーナリアも言質をとったと小さくガッツポーズしていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
店に戻った時には夕暮れ時となっていた。
カナタ、ニク、ララが不在の間、ユキノを中心にサキとレナがアイテム販売を手伝ってくれていた。
ヨーコも手伝おうとしたのだが、壊滅的に売り子が向いていないかった。
夕方、依頼から帰って来た冒険者がハズレオーブを持ち込み、そのお金でアイテムを買うという流れが今日は成立していた。
どうやらエクストラポーション奪取のためのクエストの片寄りは、オークション終了と共に正常化したようだ。
「ご主人さま、ハズレオーブの買取が今日は400まで行きました」
ルルが自分の担当部署が好評だったことを笑顔で報告して来た。
彼女が長文を話すのはかなり珍しく、興奮している様子が伺える。
「アイテムの売り上げも10万DGまで行きましたよ」
ユキノも嬉しそうに報告した。
アイテムの販売は、買い物後あれこれ屋敷で整理をした後から始めたそうで、販売時間的には短かったものの思った以上に売れたようだ。
「ハイポーションの引き合いがかなりあって、もしかするとここでの販売価格は安すぎるのかもしれません」
この店では、ハズレオーブ300DGから出るポーションを、1UPでハイポーションにして売っているため、利益率が滅茶苦茶良かった。
だが、安すぎると他店とのバランスであまり良くないかもしれない。
今は冒険者ギルドの買取価格3000DGに少し色をつけて3300DGで売っている。
それでも安すぎたのかもしれない。
「せっかく客がついているのに値上げするのは心苦しいが、他店から恨みを買うのも良くないね。
ユキノ、明日あたりにこっそり他店の売値を見てきてくれないか?
今までの情報が甘かったかもしれない」
カナタはユキノに【隠密】のスキルがあることを思い出して、ユキノに見てきてもらうことにした。
ハイポーションも時期によって価格が変動しているかもしれない。
特にオークション前後は諸々の事情で怪しく思えた。
「それじゃあ、今日はもう店を閉めようか」
「「「はい」」」
店を閉め廊下を通って屋敷に入ると、カリナが食事の用意をしてくれていた。
ここも総勢10人と1匹の大所帯だ。
カナタは貴族も奴隷も関係なく全員で食事をするようにしているので、全員が同じテーブルにつく。
1日10万DGの売り上げがあれば、全員が食べていくには充分だろう。
全員で楽しく食事をし、1日の幕が下りる。この繰り返しも悪くないとカナタは思っていた。
食後の紅茶を飲んでおちつくと徐にカナタが明日の予定を話出した。
「明日からはヨーコ、サキ、レナの3人にグリーンバレーまで往復してもらうつもりだ。
準備は出来てるかな? 向こうでは3日ほど宿泊してハズレオーブを、特にゴレーム系のオーブを手に入れて来て欲しい」
カナタが3人の遠征の話をすると、サキが恐る恐る手を挙げて質問してきた。
「ご主人さま、そのハズレオーブですが、背嚢では、3人でも持ち運べる量が限られてしまいます」
「!」
カナタはうっかり失念していた。
自分には【ロッカー】という便利スキルがあるため、荷物の心配をしなくても良いが、彼女たちにはそんなものは無い。
つまり、物理的に持てる量しか運ぶ事が出来ない。
「大量輸送をするには、馬車や騎獣に獣車を引かせるか、マジックバッグを持たないとなりません」
マジックバッグは高額すぎて買えるわけもなく、そこそこする獣車を買うお金も今は無かった。
つまり、今現在大量の荷物を運ぶならカナタ自身が行く必要があった。
カナタは自分基準で物事を考えすぎており、他人は自分とは違うということをうっかりしていたのだった。
「そうだね。馬車や獣車を買うにもお金がいるね。
マジックバッグは……ガチャドロップで手に入らないか?」
「転移蛙という魔物のドロップ品にマジックバッグが出ると聞いたことがある」
レナが調べていたのかマジックバッグの入手情報を披露する。
「その魔物が出る場所は?」
ヨーコが今にも狩りに行こうと前のめりになる。
「アトラスダンジョン……」
レナのその一言でヨーコががっくりと項垂れる。
アトラスダンジョンは難関ダンジョンで、ヨーコたち3人では挑戦は無理だったのだ。
アトラスダンジョンで狩りが出来るぐらいの腕があれば、グリーンバレーまで行ってチマチマ稼ぐ必要がないぐらいの大金を稼げる。
本末転倒だった。
「となると馬車か獣車ね。
騎獣はいるけど、まだ獣車を引かせるのは可愛そうだわ」
ヨーコはシフォンのことをちらりと見て溜め息をついた。
「わかった。最初の買取は僕とニクで行ってくる。
それを売れば1000万DGぐらい稼ぐことが出来る。
そうすれば馬車ぐらいなら簡単に買えるはずだ」
「え? 私も行くわよ?」
「え?」
「え? だめなの?」
「いいえ……」
こうして最初のグリーンバレー出張はカナタとニク、そしてヨーコも行くことになった。
56話でウッドランド子爵の一人称を「俺」と書いていましたが「私」の間違いでした。
訂正しました。内容的には読み返す必要は全くありません。
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「婚約なんて、父様に伺ってみないと判断できません」
ウッドランド子爵の提案にカナタは大慌てした。
貴族家同士の子息による婚姻は、家と家の縁を結ぶという政治的なことでもあり、カナタの一存では決められない事だったからだ。
「うむ。そこは私からファーランド伯爵に連絡を入れるつもりだ」
「あ、その手があったか……」
そこでカナタは気付いた。自分が無事な事を手紙で実家に連絡すれば良かったと。
カナタの常識では、連絡手段といえば貴族家が早馬で手紙を送るというものか、冒険者ギルドで依頼して商人や冒険者が手紙を運ぶかぐらいだった。
冒険者ギルドに依頼する場合、確実性という面で不安があった。
都市間の手紙のやり取りは商人か冒険者が運ぶしかなく、元々ついでの仕事であって必ず届く保証がなかった。
一方早馬は貴族家のみの管轄であり、他人は利用することが不可能だった。
つまり、ウッドランド子爵に頼めば、ほぼ確実に実家と連絡が出来たかもしれなかったが、カナタは手紙を送るということすら頭に浮かんでいなかったのだ。
カナタはなんとか家に帰ろうとお金を稼ぐことに必死になり、そのうち家出状態でも良いかと思ってしまっていた。
「カナタさま、わたくしでは嫌なのですか?」
サーナリアが目をウルウルさせてカナタに懇願する。
その目を見てしまうと、もうカナタは駄目だった。
他人に迷惑をかけられないというカナタのスイッチが入ってしまうのだ。
「わかりました。父様が認めるなら、この婚約お受けします」
こうしてカナタは仮にでも婚約に同意してしまうのだった。
ウッドランド子爵もサーナリアも言質をとったと小さくガッツポーズしていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
店に戻った時には夕暮れ時となっていた。
カナタ、ニク、ララが不在の間、ユキノを中心にサキとレナがアイテム販売を手伝ってくれていた。
ヨーコも手伝おうとしたのだが、壊滅的に売り子が向いていないかった。
夕方、依頼から帰って来た冒険者がハズレオーブを持ち込み、そのお金でアイテムを買うという流れが今日は成立していた。
どうやらエクストラポーション奪取のためのクエストの片寄りは、オークション終了と共に正常化したようだ。
「ご主人さま、ハズレオーブの買取が今日は400まで行きました」
ルルが自分の担当部署が好評だったことを笑顔で報告して来た。
彼女が長文を話すのはかなり珍しく、興奮している様子が伺える。
「アイテムの売り上げも10万DGまで行きましたよ」
ユキノも嬉しそうに報告した。
アイテムの販売は、買い物後あれこれ屋敷で整理をした後から始めたそうで、販売時間的には短かったものの思った以上に売れたようだ。
「ハイポーションの引き合いがかなりあって、もしかするとここでの販売価格は安すぎるのかもしれません」
この店では、ハズレオーブ300DGから出るポーションを、1UPでハイポーションにして売っているため、利益率が滅茶苦茶良かった。
だが、安すぎると他店とのバランスであまり良くないかもしれない。
今は冒険者ギルドの買取価格3000DGに少し色をつけて3300DGで売っている。
それでも安すぎたのかもしれない。
「せっかく客がついているのに値上げするのは心苦しいが、他店から恨みを買うのも良くないね。
ユキノ、明日あたりにこっそり他店の売値を見てきてくれないか?
今までの情報が甘かったかもしれない」
カナタはユキノに【隠密】のスキルがあることを思い出して、ユキノに見てきてもらうことにした。
ハイポーションも時期によって価格が変動しているかもしれない。
特にオークション前後は諸々の事情で怪しく思えた。
「それじゃあ、今日はもう店を閉めようか」
「「「はい」」」
店を閉め廊下を通って屋敷に入ると、カリナが食事の用意をしてくれていた。
ここも総勢10人と1匹の大所帯だ。
カナタは貴族も奴隷も関係なく全員で食事をするようにしているので、全員が同じテーブルにつく。
1日10万DGの売り上げがあれば、全員が食べていくには充分だろう。
全員で楽しく食事をし、1日の幕が下りる。この繰り返しも悪くないとカナタは思っていた。
食後の紅茶を飲んでおちつくと徐にカナタが明日の予定を話出した。
「明日からはヨーコ、サキ、レナの3人にグリーンバレーまで往復してもらうつもりだ。
準備は出来てるかな? 向こうでは3日ほど宿泊してハズレオーブを、特にゴレーム系のオーブを手に入れて来て欲しい」
カナタが3人の遠征の話をすると、サキが恐る恐る手を挙げて質問してきた。
「ご主人さま、そのハズレオーブですが、背嚢では、3人でも持ち運べる量が限られてしまいます」
「!」
カナタはうっかり失念していた。
自分には【ロッカー】という便利スキルがあるため、荷物の心配をしなくても良いが、彼女たちにはそんなものは無い。
つまり、物理的に持てる量しか運ぶ事が出来ない。
「大量輸送をするには、馬車や騎獣に獣車を引かせるか、マジックバッグを持たないとなりません」
マジックバッグは高額すぎて買えるわけもなく、そこそこする獣車を買うお金も今は無かった。
つまり、今現在大量の荷物を運ぶならカナタ自身が行く必要があった。
カナタは自分基準で物事を考えすぎており、他人は自分とは違うということをうっかりしていたのだった。
「そうだね。馬車や獣車を買うにもお金がいるね。
マジックバッグは……ガチャドロップで手に入らないか?」
「転移蛙という魔物のドロップ品にマジックバッグが出ると聞いたことがある」
レナが調べていたのかマジックバッグの入手情報を披露する。
「その魔物が出る場所は?」
ヨーコが今にも狩りに行こうと前のめりになる。
「アトラスダンジョン……」
レナのその一言でヨーコががっくりと項垂れる。
アトラスダンジョンは難関ダンジョンで、ヨーコたち3人では挑戦は無理だったのだ。
アトラスダンジョンで狩りが出来るぐらいの腕があれば、グリーンバレーまで行ってチマチマ稼ぐ必要がないぐらいの大金を稼げる。
本末転倒だった。
「となると馬車か獣車ね。
騎獣はいるけど、まだ獣車を引かせるのは可愛そうだわ」
ヨーコはシフォンのことをちらりと見て溜め息をついた。
「わかった。最初の買取は僕とニクで行ってくる。
それを売れば1000万DGぐらい稼ぐことが出来る。
そうすれば馬車ぐらいなら簡単に買えるはずだ」
「え? 私も行くわよ?」
「え?」
「え? だめなの?」
「いいえ……」
こうして最初のグリーンバレー出張はカナタとニク、そしてヨーコも行くことになった。
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